【メルセデスマイバッハ GLS 新型試乗】「運転手」になったつもりで巨体を走らせてみた…中村孝仁

  • メルセデスマイバッハ GLS600
◆3000万円のマイバッハを買う人は
最近頓に思うこと。それは日本(には限らないと思うが)の社会が大きく貧困増と富裕層に2極化されてきているのではないかということである。

億の大台に乗ったモデルがざらに出てくるようになった今では、3000万円のクルマ(正確には車両本体価格2915万円)など富裕層にとってはもしかすると大した額のクルマではないのかもしれない。何と言ってよいやらわからないが、私にはその富裕層の知人が複数名いる。そのうちの一人が先日面白い話をしてくれた。

曰く、たまたま銀座に出かけて買う気もなかったのに奥様のバッグを物色に行ったのだそうだ。誰もが知る超高級ブランドの前を通ると、何故かドアマンがドアを開けてくれたという。そこから先は購入に至るまで3段階ほどのステップがあり、最後は普通の人は通さない個室に案内されて商談となり、結局160万円也のバッグを買って帰ったとか。「敵もさるもの引っ掻くもの」ではないが、ちゃんとお金の匂いをかぎ分けるのか、実に言葉巧みに秘密の小部屋までおびき寄せたそうだ。

そんな人々がきっとこの『マイバッハ GLS600』を買うのであろう。当然ながらオーナーは“後席の人”であり、試乗と称してステアリングを前にして運転するのはいわゆるショーファー。つまりは運転手である。だからこの手のクルマを試乗するときは本来後ろに座るべきなのだが、残念なことに一人でお借りしてもそれは叶わない。それに富裕層ではないので富裕層の心情まで察することはできない。

◆ノーマルGLSとの違いは広さと「マイバッハモード」
メルセデスベンツの「GLSクラス」がベースとはいえ大きく異なるのは、あちらは3列シートを装備しているのに対し、こちらは2列シート。言うまでもなく後席を大きく後方にずらして設置してオットマンを出しても大丈夫なほどの空間を確保している点にある。また、エンジンこそ基本的には同じ4リットルV8のMHEV仕様ながら、設定できる走行モードには「マイバッハ」なるモードが存在することが大きな違い。

他にはインディビデュアル、コンフォート、スポーツ、さらにカーブとオフロードというモードがチョイスできる。たとえばコンフォートの場合エンジンやサスペンションなどすべてがコンフォートモードになり、スポーツの場合はすべてがスポーツモードになる。ではマイバッハモードは?というと、エンジンとサスペンションがマイバッハモードになり、それ以外はコンフォートと一緒である。要するにマイバッハモードをチョイスすると、とりわけ後席パッセンジャーの快適性を最優先したセッティングになるということなわけだが、残念なことにそれを後席で味わうことは叶わなかった。

まあ止まった状態では後席の快適性を味わってみたが、これだけデカいサイズを持つ(全長5210×全幅2030×全高1840mm)にもかかわらず乗車定員は4名なのだからそこからしても実に贅沢である。それにセパレートされたリアシートの気持ち良いというか和める感覚は『レンジローバー』でも味わえるものではなかった。ロールスロイス『カリナン』は知らないが、およそ快適とかリラックスできるシートだという点では最上級と言って間違いない。

◆レンジローバーは動くリゾート、こちらは動くリビングルームか
運転手になったつもりでこの巨体を走らせてみた。意外と狭いところも苦にならない。まあそんなことはどうでもよいのかもしれないが、遠くで聞こえるエンジンのかすかな音が「運転手」にも届くけれど、それ以外に音として認識できるのは風がボディを撫でる音と、タイヤが道路を蹴散らす音の二つぐらい。

正直、「まあスポーツモードは要らないな、それにカーブもいいかな。オフロードは最高速度を110km/hに制限しているけれど、これはことと次第によっちゃ使うモードかも…」と言ったところでとにかく恐ろしくゴージャスな感覚を味わえるモデルだった。

レンジローバーの電動ステップボードはオプションで60万円ほどするのだが、勿論こちらも電動ステップボードが付いていてしかも後席部分は幅が広いモノが「標準装備」となる。一応オプション品もあるようだがもっぱら外装のペイントだったり、レザーシートの色だったりというものばかりで、装備品としてのオプションはほぼない。すべてが標準装備である。

因みに後席にはいわゆる車載冷蔵庫が装備されたりシャンパングラスホルダーが装備されていたりするがこれも標準装備。カップホルダーには前後とも保温保冷の機能が備わっている。レンジローバーは動くリゾートと評したが、こちらは動くリビングルームだろうか。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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