【フェラーリ プロサングエ 海外試乗】これはSUVではなく、新種のスポーツカーだ…渡辺敏史

  • フェラーリ プロサングエ
『プロサングエ』。イタリア語でサラブレッドの意をもつその車名に込められたのは、情熱的なスポーティネスと絶対的なパフォーマンスの融合だ。ゆえにフェラーリはこのクルマをSUVという括りにはあてはめていない。新種の、そして純然たるスポーツカーというスタンスでそのコンセプトを表現している。

◆観音開きドア、FAST、そしてTASV
フェラーリのプロダクションモデルとしては初となる4ドアのシャシーアーキテクチャーは『360モデナ』以降、彼らが得意としてきたアルミスペースフレーム構造ながら、完全にゼロベースで開発されている。一部構造材やBピラー、サイドインパクトバーなどにハイテン鋼を用いるハイブリッド構造で、直近の2ドア・4シーターモデルとなる『GTC4ルッソ』系に対しては捻じれで30%の剛性向上を果たしているという。また、ボディパネルはアルミ、ルーフパネルはカーボンが用いられ軽量化に寄与している。

プロサングエの最も特徴的なディテールといえば観音開きのリアドアだ。79度の開放角を持つシングルヒンジの電動開閉式で、ホイールベースの短縮と後席乗降性の向上という二律相反を解消している。また、アルミ製のテールゲートも電動開閉式で、ヒンジ形状をグースネック式とすることでルーフラインに余計な凹凸がないすっきりとしたアピアランスを生み出した。併せて、優れたエアフローを実現したことでリアワイパーは必要としなくなったという。

シャシーダイナミクスにおいて特徴的なのは、プロサングエに合わせて開発されたFAST=フェラーリ・アクティブサスペンション・テクノロジー。その鍵を握るのがTASV=トゥルー・アクティブ・スプール・バルブだ。これは48Vの電動モーターによってダンパーロッドを回しながらネジ式に伸縮させることでストロークの調整を行いながら、2つのスプールバルブによって圧縮と伸縮を調整する技術で、これを車両側の統合制御ユニットと連動させることで、悪路からワインディングまで常に最適な姿勢と減衰を実現する。

ちなみにTASVを開発したイギリスのマルチマティック社は、F1やGT500などにダンパーを供給するほか、『フォードGT』の委託生産や市販車の開発委託なども引き受けるレーシングテクノロジー由来のエンジニアリングカンパニーだ。スクーデリア・フェラーリとの縁からこのサスシステムが構成されていることは間違いない。

◆4シーターフェラーリとして完璧なダイナミクスを実現した
プロサングエの搭載するエンジンはエンツォの初搭載から20年余に渡ってフェラーリの12気筒ファミリーを支えてきたF140系の最新フェーズとなるF140IA型。内部も効率向上を狙って部品や加工技術に最新の知見を採り入れるほか、車両の特性に合わせて2100rpmという低回転域から最大トルクの80%が発せられるようにチューニングされている。最大出力は725psを7750rpmで発揮。8250rpmがレッドゾーンとなる。これに組み合わせられる8速DCTはリアアクスル側に置かれるが、荷室はフラットに構築されており、パーティションパネルを外すことでキャビン側と繋がり、長尺物も搭載が可能となっている。

駆動方式はGTC4ルッソからの流れとなる4RM-Sを更に進化させた4RM-S evoを採用。対応速度域を大幅に高めたほか、『812コンペティツィオーネ』由来の4WSや『SF90』由来の四駆制御技術を組み合わせて旋回能力を高めているという。空車時重量配分は49:51。これらをもって4シーターフェラーリとして完璧なダイナミクスを実現したというのがフェラーリの主張だ。

ADASの充実ぶりやブルメスターの3Dサラウンドシステムの採用、素材の68%をリサイクル材に置き換えたというアルカンタラ内装材の採用など、フェラーリらしからぬトピックも満載のプロサングエだが、その走り始めから伝わってくるのは快適性への並ならぬこだわりだ。そのレベルは直近の4シーターモデルだったGTC4ルッソと比べても乗り心地、遮音ともに完全に一枚上手のところにある。

エンジンは低回転時の粘りや滑らかさにおいて今までのF140系とは一線を画するところにあり、1000rpmそこそこの回転域でもしっかりと実用巡航に用いることができる。その域でのドライブフィールはラグジュアリーブランドのSUVと比べても遜色のない洗練度だ。

走らせるという明確な意思をこちらがクルマに伝えない限り、プロサングエは呆気にとられるほど従順だ。サイズをネックとしない限りは誰にも優しく歩を合わせてくれる。そこからアクセルを踏み込んでいくと、高らかに鳴り響く12気筒サウンドと共に、じわじわとその本性を表していく。

◆SUVではなく、新種のスポーツカーだ
310km/hの最高速、3.3秒の0-100km/h加速はいずれもSUVカテゴリーであれば最強クラスだが、プロサングエはSUVではなく、新種のスポーツカーだ。それを最も端的に示すのはハンドリングだろう。FASTの要となるTASVの効果はあらかたで、大小様々な曲率の続くワインディングを、小さくはない車体を水を得た魚のようにスラスラと泳いでいくサマには驚くしかない。

しかもそこに様々なアクティブデバイスの強烈な介入感はなく、努めて自然に応答していることが伝わってくる。そして驚きなのはその旋回感だ。プロサングエのハンドリングに豊かな操縦実感と共に絶対的な信頼感を加える上で、TASVが生み出すダイアゴナル的な姿勢制御がいかに貢献しているかがしっかりと伝わってくる。

クローズドの環境で雪上でのパフォーマンスも試すことが出来たが、ここでも驚かされたのは足回りの豊かな情報量やリアに偏らずフロント側もしっかり路面を捉えるトラクション能力の高さだった。このクルマを雪路でも臆することなく使う人がどれだけいるのかという疑問は残るも、そういうニーズにもしっかり応えるものになっている。

何より、そういう環境下でもフェラーリの12気筒を思い切り唱わせながら走ることができるという異経験こそが、プロサングエが与えてくれる最も贅沢なひと時ということになるのだろう。

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)

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