【BMW 740i Mスポーツ 新型試乗】大きい故の不都合を除けば、ほぼ死角がない…中村孝仁

  • BMW 7シリーズ(740i Mスポーツ)
◆『i7』と同じボディ、同じ骨格、同じ作りなのに別物
イヤー、驚いた!電気自動車の『i7』からICE(内燃機関)の『740i』に乗り換えての素直な感想である。確かに電気自動車と従然たるICE搭載のクルマという顕著な違いはあるものの、まさかここまで奇麗に住み分けできていると、買う方も悩ましい。

のっけからお値段の話で恐縮だが、いわゆる車両本体価格だけでいうとi7の1670万円に対して、740iは1490万円である。しかし、i7の場合はEVの補助金(65万円)やエコカー減税、さらには地方自治体によっては個別の補助金も用意されて、東京都の場合は最大で60万円の補助も受けられる。こうした優遇措置を積み重ねると、実はICEの740iとi7の価格はそれほど変わらないというか、ほとんど同じになる。

だから、もし比較をするとすればほぼ価格を考慮に入れない横並びで比較ができるわけだ。それで冒頭の驚きになるのだが、この2台、動力源の違いはあるものの、その基本骨格や用いているボディなどは同じである。勿論サイズも一緒。さすがに重さはバッテリーを積むi7の方がだいぶ重いが、それでも重さだけで走りの感触にこれほどの差は生まれない。

具体的にいうと、i7がどこまで行っても豪華で快適そしてスムーズな乗り味を追求するクルマであったのに対し、740iはBMWお得意のスポーツセダンのキャラクターそのものであった。

◆『3シリーズ』並みの軽快感を持っている印象すらある
勿論740iにもエアサスが奢られていて、快適性はモードによって十分に担保されているのだが、クィックさの度合いはi7とはまるで異なる。変な話、i7ではそのサイズに対するドライバーの慎重さが顔を出して、どこに行くにも前後左右を注意しながら慎重に走った。ところが何故か740iに乗り換えてものの1時間もたたないうちに、攻めの走りをしている自分がいたのに驚かされた。とにかく前にも述べたようにサイズは同じである。しかも全長は5.4mの迫り、全幅だって2m弱、1950mmもある。
 
何より問題だったのはそのトレッドで、本国のスペックを見る限り740iのトレッドは前1713:後1736mmである。要するにトレッドだけで昔風に言う5ナンバーサイズを超えている。だから踏み台を乗り越えて止めるようなパーキングスペースはほぼ無理であった。一度頑張って入れてみようとトライしたものの、ドアが開きそうにないし、そもそも例の踏み台を擦りそうでホイールを傷つけるのが嫌で諦めた。というわけだから、物理的に止められないスペースがあることを重々考慮しなくてはならない。

そんなデカいモデルにもかかわらず、一度走り出して軽快なハンドリングを楽しむと、そのサイズ感を忘れてしまう。正直『3シリーズ』並みの軽快感を持っている印象すらある。i7ではMy Modeでスポーツをチョイスしたら、いきなりアクセルを戻さなくてはならないほどの加速を示し、ゼロスタートで全開を試みようものなら、相当に手に汗握ることになるのだが、740iでスポーツをチョイスしても、それほどの驚きや圧倒的な加速感は感じなかった。つまり元々十分にスポーツ性があり、それなりに速く走れるということだ。

因みに乗り出した時のモードはパーソナルであり、そこからスポーツにモードを切り替えてもさほど、速くなるという印象はない。ただ、i7同様スポーツモードにすると、サイドサポートがぐっと体にフィットするようにタイトになって、拘束力は高まる。

◆大きい故の不都合を除けば、ほぼ死角がない
搭載エンジンは3リットル直6ターボと48Vマイルドハイブリッドシステムの組み合わせである。冷間時こそエンジンがブルンとかかる感触があるものの、通常はそのような横揺れは一切関知されず、極めてスムーズ。そしてたとえスポーツをチョイスしていても、快適性を損なわず、且つ直進安定性や果てはロール時のコンフォート性能まで高めるデバイスを今回のモデルから初採用しているという。まあ言われなければわからないことだが、とにかく揺れない。つまりピッチングだのローリングだのというクルマにつきものの揺れを最小限に抑え込んでいる。これは乗ればわかる。

外観の顔つきもMスポーツになると少し精悍さが加わり、ライトから下のバンパー部分の造形が直線基調のものに変わっている。現状ICE搭載の7シリーズはこれしか試乗できないため、他がどうなっているか不明だが、ひとつ面白いアイテムがある。それは「スポーツブースト」と呼ばれるもの。

走行モードを切り替えるMy Modeで、スポーツ以外をチョイスしている場合、ちょっと先を急ごうという時などに便利な機能で、パドルシフトのマイナス側を長押しならぬ、長引をする。するとスポーツブーストという文字がディスプレイに浮かび、シートをタイトにすると同時にスポーツモードの走行が始まるという具合。パドルにもBoostの文字が見て取れる。

大きい故の不都合を除けば、このクルマはほぼ死角がないと言えるほど快適性とスポーツ性を両立させたモデルだった。ただ、スポーツセダンを選ぶなら個人的にはよりコンパクトなものでいいかな…。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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