【日産 フェアレディZ 新型試乗】昭和のスポーツカー的モデルとして世に送り出してくれた日産に大感謝…中村孝仁

  • 日産 フェアレディZ ST 6MT
日産の広報に「Zを貸してください」と電話をかけると「マニュアルならご希望の日程で貸し出せます」と。勿論即座にOK。昭和のオジさんにとってスポーツカーをATで乗るなんてもってのほか…という変な刷り込みがあるせいか、ATのスポーツカーには多少の抵抗がある。そんなわけですぐさまそのマニュアルの『フェアレディZ』を借り出して、日の燦燦と輝く近場の海を目指して走らせてみた。

◆敢えてS30風に味付けをしたのではないかと思わせる
車両本体価格646万2500円にメーカーオプション17万6000円と、ディーラーオプション14万6535円が載った678万5035円が試乗車の価格。今どきのスポーツカーとしてはこれじゃ安いくらい適正な価格だと思う。

しかもメーカーオプションは外装の「セイランブルー」という鮮やかなブルーの塗装だし、ディーラーオプションにしてもドラレコとウィンドウ撥水、それにフロアカーペットの値段だ。まあ、カーペットは欲しいとしてもドラレコは後からでも付けられるし、撥水加工もまあ有り難いけど無くても良し。つまり車両本体価格だけでも不便を感じないレベルのものということである。

ざっと自分のレビューも兼ねて書き留めておくと、エンジンは新たに3リットルV6ターボに変更。シャシーは基本先代からのキャリーオーバーだが、足周りにはかなり手が加えられている…と言ったところである。確かに先代に乗った時はもっと荒々しくてゴツゴツした印象であったのだが、今回はそれがだいぶマイルドになった印象も受けた。

それにしても外から見ても中を見ても、初代S30を印象付けるモチーフがそこかしらに見られるし、何よりも乗った印象としてはこれ、敢えてS30風に味付けをしたのではないかと思わせるほど、かつての名車と呼んで差し支えない初代フェアレディZを彷彿させる。

具体的にどこかというと、まずエンジン。恐らく高回転域では間違いなくドラマチックな速さを感じさせるであろうことは想像に難くないのだが、精々40km/hほどしか出せない街中の一般道では、あのL20的な鈍重さとゴロゴロ感を出している。だから、この領域では実に重さを感じさせる印象を持たせている。そして低速での乗り心地は滅茶苦茶にしっかり感は出しているのだが、どこかに緩さを感じさせる不思議な乗り心地。これもS30風と感じてしまった。

◆設計はAT車が前提?
次にシフト。6速のマニュアルはそれ自体ストロークがあった。何より当時ポルシェタイプと呼ばれたシンクロメッシュを使っていた日産のシフトフィールは、一体どこに入っているのやらさっぱりわからないようなグニャグニャとして印象が強かった。それにストロークもたっぷり。流石にそんな印象ではないのだが、ストロークは十分にあって手首のコッキングだけではとても次のギアに届かせることはできない。

もう一つトランスミッションに難癖をつけると、3速と4速がデフォルトの位置にあって、1速、2速はそこから左に倒してシフトし、逆に5速、6速は右に倒してシフトする。ところがリバースがその6速のさらに外側、つまり右の下に位置している。リバースの上にポジションはないから、要するに右に倒し過ぎると5速ではなく、存在しないポジションへと勝手にシフトレバーを誘ってしまうことになる。きっちり正確なシフトを心がければそんなことにはならないのだが、ちょいとワインディングを楽しんでいるときなどは頻繁にこのシフトミスを犯した。さらに6速から5速へのダウンシフト時はデフォルトの3速側に戻ろうとして、これもかなり頻繁にシフトミスを犯した。まあ、慣れれば使いこなすことは容易かもしれないが、ちょいと困ったものだ。

実はもっと困ったこともある。センターコンソール上のちょうどシフトレバーを握って肘が来るあたりに何とカップホルダーがある。ここにペットボトルを置いてシフトするのは不便極まりない。ドア側にもカップホルダーは有り、さらにセンターコンソールには件の邪魔なカップホルダーの後ろにもう一つ隠れカップホルダーがあるのだが、位置的にはどう考えてもATが前提になった設計としか思えなかった。

◆確信犯的懐古趣味
とまあ、細かい不都合や欠点はあるものの、率直にこのクルマが好きである。今どき昔のように公道をぶっ飛ばすことなど滅多に出来ないから、美味しいところを味わう機会は少ないが、それを補ってくれるのが懐かしさをもろに感じさせてくれる乗り味だった。これは日産のエンジニアが恐らく意図して確信犯的にやったことだと勝手に解釈している。

そして何よりもZをICEだけの昭和のスポーツカー的モデルとして世に送り出してくれた日産に大感謝である。近頃旧車の人気がとても高く、古いZはその典型で値段も非常に高価だが、壊れる心配なく昔風乗り味を存分に楽しめるクルマという印象を新しいZは持っている。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。


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