【日産 ルークス 3700km試乗】軽スーパーハイトの王『N-BOX』にも勝る3つの要素とは[前編]
日産自動車の軽スーパーハイトワゴン『ルークス ハイウェイスター』で3700kmほどツーリングを行う機会があったのでインプレッションをお届けする。
2020年に登場したルークスの現行モデルは前年発売のトールワゴン、第2世代『デイズ』に続く、日産設計による軽自動車第2弾である。日産は2010年以来、軽自動車について三菱自動車と全面的な協業関係にあるが、2012年発売の第1世代デイズ、翌年の『デイズルークス』は設計そのものについては三菱自主導。基盤技術も全面的に三菱自のものだった。
現行ルークスは第2世代デイズと共に一転、日産主導に。プラットフォームはルノー=日産連合の新興国向け小型車用「CMF-A」、エンジンもルノー=日産連合の3気筒「BR」シリーズのボア縮小版と、技術面はほぼルノー=日産アライアンスのものでまとめ上げられた。生産は依然として三菱自の水島製作所である。
テストドライブ車両は上級グレード「ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション」のFWD(前輪駆動)。先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビーム、ADAS(先進安全システム)「プロパイロット」などを装備する豪華ハイテク仕様である。オプションとしてカーナビが追加装備されていた。ドライブルートは東京~鹿児島周遊で、西日本は往路、復路とも山陰道経由。大まかな道路比率は市街地2、郊外路7、高速1。エアコン常時AUTO。
論評に入る前にデイズハイウェイスターGターボ プロパイロットエディションの長所と短所を5つずつ列記してみよう。
■長所
1. スーパーハイトワゴンとは思えない素晴らしい操縦感覚とステアフィール。
2. 後ドアの開口長が軽スーパーハイトワゴンの中で最も長く、乗降性が優秀。
3. 低中速域では望外に素晴らしい燃費。
4. 良路での滑走感の良さと剛性感の高さ。
5. 内装のハイクオリティぶりは文句なしに軽トップ。
■短所
1. 高速域では路面の荒れに対して足がバタつく傾向あり。
2. 高速域では燃費の落ち込みが大きめ。
3. スーパーハイトワゴンの中では斜め前方の死角が大きい。
4. 高速域では風切り音がやや大。
5. 価格が高い。
◆王者『N-BOX』にも勝る3つの要素
では、レビューに入っていこう。第2世代『デイズ』がリリースされた当時、日産の開発陣は「普通車に乗り慣れた人が違和感を覚えないドライブフィールと質感を目指しました。そのドライブフィールの根幹とは云々」と熱弁を振るっていた。軽自動車は自動車マーケットにおいては最低のポジショニングだが、日産にとっては初モノ。実験チームに『GT-R』『フェアレディZ』などを手がけたトップクラスの人材をアサインしたりと、開発陣の張り切りようはすごいものがあった。
ルークスはそんな日産開発軽の第2弾だが、実際にドライブしてみると先行するデイズから1年後れという時間的余裕と2モデル目という経験値の蓄積のなせるワザか、とりわけ動的質感、ハンドリングの作り込みの2点について格段の深化をみていた。全幅148cmに対して全高178cmとロールセンターの高いクルマであるが、カーブでのドライバーが予測する走行ラインと実際のクルマの動きのズレの小ささは感嘆するほど。それでいて乗り心地や静粛性も全般的に優れており、体感的に行程の8割で満足できるラインをクリアしていた。
その動的質感と並んで出色だったのは空間設計や乗降性。軽普通車からのダウンサイザー狙いを公言しているだけあり、単にシートアレンジが便利、広いといったことだけで終わらせていない。室内の装飾性やタッチは軽自動車離れしており、要素によってはBセグメントの『ノート』、CセグメントBEV(バッテリー式電気自動車)の『リーフ』などを超える部分も多々見られた。また後席の開口長65cmは現行のスーパーハイトワゴン中最長で、スライドドア式軽自動車の弱点である間口の狭さからくる乗降時のストレスを軽減していた。
そんなルークスハイウェイスターにも弱点はある。素晴らしい動的質感が中速域までに限定されることだ。高速域でも路面が良いところでは問題はないのだが、たとえば舗装面の荒れがきつい九州自動車道のような区間では途端に足がバタつく。また進行方向に対してある程度角度のついた横風を受けるような状況下での風切り音も中低速域では気にならないが高速域ではいささか過剰に高まる。日産は空力設計に関しては元来非凡なものを持つメーカーだが、このあたりは軽自動車の性能限界や使われ方を考えて見切ったのではないかという感があった。
プラスとマイナスが拮抗していたのは燃費である。ストップ&ゴーの多い都市部やそれほど速度の上がらない都市の近郊区間ではパラレルハイブリッドの効果か、スーパーハイトワゴンとしては望外の好燃費をいくらでも叩き出せるという感じであった。速度域が上がる郊外路や新直轄道路でもクラス平均は十分行けた。弱かったのは高速巡航で、燃費値を急激に落とすという挙動だった。ドライブ序盤にさっそく市街地燃費の良さと高速燃費の悪さの両方を目の当たりにし、落差にびびっていつものロングドライブ試乗以上に高速を忌避したくらいだった。
これらの特質から、ルークスハイウェイスターは基本的に日常ユースにおいて普通車的なパフォーマンスや質の高さを求めるユーザーをメインターゲットにした、都市型上級軽スーパーハイトワゴンと言える。超高速域を含めた高速安定性、悪路を含めたロードホールディング、視界、静粛性、室内の広さ等々、各パラメーターがバランス良く高いという点で軽スーパーハイトワゴンのトップに立つのは不動の販売首位モデル、ホンダ『N-BOX』だが、良路における4座均等の乗り心地の良さ、ハンドリングのナチュラルさ、そして内装のクオリティの高さではそのN-BOXに勝っている。ファクターを絞って強者に対抗するというのは戦術として悪くない。
誤解なきよう但し書きをつけておきたいのは、ルークスハイウェイスターが全面的にロングドライブに向いていないというわけではないということ。日産が「ゼログラビティ」と呼ぶ新理論で作られたシートはドライブ時間の壁を感じさせない出来であったし、スピードを上げなければ快適性も非常に高い。ハンドリングがナチュラルに良いので山越えルートも怯む必要はない。要するに制限速度100km/h、120km/hの高速をリミット前後で走ったり路面状況の悪い道を長距離走ったりといった苦手分野がハッキリしているというだけで、長旅の道具にも使える。先に快適性について全行程の8割で満足と述べたのは苦手な走行状況をひっくるめた数値であり、そういう使い方を避ければ9割、ないしそれ以上に持って行くことも可能だろう。
◆ナチュラルな走りは「さすがGT-Rチューナーの作品」
要素別にもう少し深堀りしてみよう。まずはロングツーリングの走り、快適性を支えるボディ、シャシーについてだが、基本的には非常に良くできていた。ルノー=日産アライアンスの新興国向けミニカー、すなわち普通車用の「CMF-A」プラットフォームをベースとしながら全幅1480mmまでという軽自動車枠に適合させるのに必要なものについては部品を再設計するという手法で作られている。
サスペンションのトップの位置は軽自動車としては高く、ボンネットの低いモデルを作らないことを前提にしているホンダと同様、サスペンションストロークについてはスズキ、ダイハツより有利というディメンションを有している。大きなクラスのプラットフォームをベースにしているぶんウェイト面では不利で、ロードテスト車の車検証重量1000kgは同等仕様のライバルの中で最も重い。
実際に走ってみると、重い分フィールは強固。プラットフォームはトールワゴンのデイズと同じなのだが、剛性感は本来がらんどう部分が大きいぶん不利であるはずにも関わらずルークスのほうが断然上。同一プラットフォーム、同一エンジン、同一駆動方式のトールワゴンモデルとの重量差120kgはライバル中最大であることから、ボディに何らかの補強が施されているものと推察された。
その強固さは走りと快適性の両方でおおむねプラスに作用していた。カーブに差しかかってステアリングを切ると前輪がわずかに切れた段階からクルマがしっかり、しかし過敏でなく反応し、同時に反力がステアリングにしっかり伝わってくる。そこからステアリングを切り増していくとそれにぴったり比例するようにロール量が増え、反力も強まる。結果、自分で決めた走行ラインにクルマを乗せる運転スタイル、道の線形に合わせて成り行きでステアリングを切る運転スタイルのどちらでもドライバーの意図と実際のクルマの動きのズレが非常に小さい。デイズがロール剛性を高めようとするあまり前サスペンションの突っ張りが強かったのに比べると、走りも操舵感も質感がひと味違う。このナチュラルフィールに関しては軽自動車随一の出来栄えと言うべきで、さすがGT-Rチューナーの作品という印象だった。
ルークスのようなスーパーハイトワゴンにこんなリニアなハンドリングを持たせるのは一見ムダのようだが、単にロールさせないというのではなく足まわり全体のチューニング作り上げたこの横G耐性の高さは普通に運転するときのフィールの向上に間違いなく役立っている。この性能が平凡なクルマだとクルーズ時に走行ラインがズレた時にドライバーが意図的に針路を元に戻し、ちょっと戻しすぎたときにはさらにそれを修正…という微妙な操作のくり返しをドライブ中延々とやることになる。が、ハンドル操作とクルマの動きの一致性が高いと前を見て走っているだけで無意識のうちに体が勝手に修正するような感じになる。
あくまでモノの例えで実際にはそこまで大きな違いはないが、ぐらつく床に直立するのは神経を使い、強固な床なら直立するのは無意識でもできるようなものだ。ロングドライブになるとそれが意外なくらいの疲労蓄積の差になって表出する。作り込みの手間はかかるが、いいクルマ作りとしてはまさに正攻法である。
◆快適性と乗り心地は?
ボディの剛性感の高さは快適性の向上にも寄与しているように感じられた。路面からの入力に対する車体の抵抗性は非常に高く、走行中のフロアの振動や左右Aピラー感のブルつくような振動はそれこそ普通車ばりに小さかった。路面のザラザラを拾った時のボディシェルの共振もよく抑えられており、クルマ全体が低バイブレーションという感じだった。素性を磨くことで静粛性を高めたという印象で、これが空間の質感を高めることに大いに寄与してた。
これで乗り心地が良ければルークスの商品力は先行するライバル3社をおびやかすくらいのものになったのだろうが、この乗り心地は路面や速度域によって結構大きく左右されるようなところがあった。まず低速レンジではほとんど問題はない。ロードテスト車のタイヤサイズは165/55R15。この薄いエアクッション厚のタイヤは軽自動車の短いサスペンションストロークと相性が悪く、上手く作らないと揺すられ感やゴトゴト感が出てしまうのだが、ルークスハイウェイスターの足は不整をよく抑え込んでいた。路面電車の軌条と直交する時などの鋭い入力をもう少しヌルリと吸収できれば完璧だったが、そうでなくとも十分にトップランナー級の乗り心地の平滑性だった。
中高速域でも路面が良かったりアンジュレーション(路面のうねり)があっても浅かったりうねりの周期が長かったりという状況では十分に静かで滑らかなクルーズが約束される。が、その荒れが大きくなってくると突然平穏が乱される。足まわりのバタつき、ドタつきが急激に増え、揺すられ感も強まる。それが顕著だったのは九州自動車道鹿児島区間、山陰道の老朽化区間など。
もちろんフィーリングだけで何が原因かを特定することはできないが、印象論としてはクルマの作りのショボさによるものではなく、逆にボディシェルの強固さが悪いほうに作用しているように思われた。ボディへの力の分散が小さく、どうしても容量が限定される軽自動車のサスペンションにストレスが集中することでホイールの上下動を止めきれなくなるような感じである。
この雑味をある程度取ることができればさらに面白い存在になるのにと思ったが、そこを良くすると山岳路でのハンドリングの質の高さとバーターになるというような話ならこのままでもいいかと思ったのも確かである。
◆日産車の中でも光るプロパイロットの的確さ
ロードテスト車にはステアリング介入型のADAS「プロパイロット」が装備されていた。前車追従クルーズコントロール、車線維持アシスト、渋滞時前車追従機能などがワンパッケージとなっている。このプロパイロットは2019年あたりから急に性能が上がってきた感があるが、中でも軽自動車のデイズとルークスはアシストが非常に的確。日産のエンジニアによれば、車幅が狭いほうがプロパイロットの検知、制御ともより高精度にしやすいとのことだったが、オンロードでもそれを裏付けるような挙動であった。
とくに具合がいいのはクルーズコントロールをONにしている時の車線維持アシスト。高速道路や山陰道をはじめとする新直轄道路のようなハイスピードクルージングで緩いカーブに差しかかってもステアリングに手を添えているだけだと外に膨らむんじゃないかと不安になるような動きではなく、わりと早い段階でコーナーのイン側に向かうようにコントロールしてくれる。
この種の装置はシステムが車線をちゃんと見てくれているのかどうかが不安になるポイントのひとつだが、普段の制御が強固なのでクルマがそういう動きをしない時は車線が見えていないと即時に判断できる。人間の操作を陰働きでアシストするだけでなく、機械のほうが「こういう動きをしようと思いますが」という意思を人間に示すことも人間と機械の相互信頼を築くうえで重要。その点についてはよく作り込まれていると思った。このシステムには先行車のさらに1台前のクルマの挙動も監視して前方警戒アラートを出す機能が組み込まれているとのことだったが、人間の目では見越せないのでその恩恵を直接実感することはできなかった。
ルークスハイウェイスターのプロパイロットエディションでこれはいいなと思ったのは先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビームが装備されていたこと。ヘッドランプの明るさ自体はそれほどでもないが照射範囲が十分に広いこととこのアクティブハイビームの合わせ技で、ナイトセッションの安心感については非常に高いものがあった。動作の精度だが、少なくとも対向車についてはドライブ中、ほぼ100%ハイビーム照射を回避できていた。この種のシステムが苦手とする大型車の先行車の検知についても、きちんとしたデザインの車両であれば的確に検出できていた。
どうしてもダメなのはテールランプが劣化して極度に光量が落ちていたり、それだと車検が通らないだろうというような改造を施している場合。そういうときは仕方がないので手動でロービームにしてやるほかないが、あってよかったと思える装備だったことに変わりはない。
後編では動力性能、燃費、居住性、ユーティリティなどについて述べる。
2020年に登場したルークスの現行モデルは前年発売のトールワゴン、第2世代『デイズ』に続く、日産設計による軽自動車第2弾である。日産は2010年以来、軽自動車について三菱自動車と全面的な協業関係にあるが、2012年発売の第1世代デイズ、翌年の『デイズルークス』は設計そのものについては三菱自主導。基盤技術も全面的に三菱自のものだった。
現行ルークスは第2世代デイズと共に一転、日産主導に。プラットフォームはルノー=日産連合の新興国向け小型車用「CMF-A」、エンジンもルノー=日産連合の3気筒「BR」シリーズのボア縮小版と、技術面はほぼルノー=日産アライアンスのものでまとめ上げられた。生産は依然として三菱自の水島製作所である。
テストドライブ車両は上級グレード「ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション」のFWD(前輪駆動)。先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビーム、ADAS(先進安全システム)「プロパイロット」などを装備する豪華ハイテク仕様である。オプションとしてカーナビが追加装備されていた。ドライブルートは東京~鹿児島周遊で、西日本は往路、復路とも山陰道経由。大まかな道路比率は市街地2、郊外路7、高速1。エアコン常時AUTO。
論評に入る前にデイズハイウェイスターGターボ プロパイロットエディションの長所と短所を5つずつ列記してみよう。
■長所
1. スーパーハイトワゴンとは思えない素晴らしい操縦感覚とステアフィール。
2. 後ドアの開口長が軽スーパーハイトワゴンの中で最も長く、乗降性が優秀。
3. 低中速域では望外に素晴らしい燃費。
4. 良路での滑走感の良さと剛性感の高さ。
5. 内装のハイクオリティぶりは文句なしに軽トップ。
■短所
1. 高速域では路面の荒れに対して足がバタつく傾向あり。
2. 高速域では燃費の落ち込みが大きめ。
3. スーパーハイトワゴンの中では斜め前方の死角が大きい。
4. 高速域では風切り音がやや大。
5. 価格が高い。
◆王者『N-BOX』にも勝る3つの要素
では、レビューに入っていこう。第2世代『デイズ』がリリースされた当時、日産の開発陣は「普通車に乗り慣れた人が違和感を覚えないドライブフィールと質感を目指しました。そのドライブフィールの根幹とは云々」と熱弁を振るっていた。軽自動車は自動車マーケットにおいては最低のポジショニングだが、日産にとっては初モノ。実験チームに『GT-R』『フェアレディZ』などを手がけたトップクラスの人材をアサインしたりと、開発陣の張り切りようはすごいものがあった。
ルークスはそんな日産開発軽の第2弾だが、実際にドライブしてみると先行するデイズから1年後れという時間的余裕と2モデル目という経験値の蓄積のなせるワザか、とりわけ動的質感、ハンドリングの作り込みの2点について格段の深化をみていた。全幅148cmに対して全高178cmとロールセンターの高いクルマであるが、カーブでのドライバーが予測する走行ラインと実際のクルマの動きのズレの小ささは感嘆するほど。それでいて乗り心地や静粛性も全般的に優れており、体感的に行程の8割で満足できるラインをクリアしていた。
その動的質感と並んで出色だったのは空間設計や乗降性。軽普通車からのダウンサイザー狙いを公言しているだけあり、単にシートアレンジが便利、広いといったことだけで終わらせていない。室内の装飾性やタッチは軽自動車離れしており、要素によってはBセグメントの『ノート』、CセグメントBEV(バッテリー式電気自動車)の『リーフ』などを超える部分も多々見られた。また後席の開口長65cmは現行のスーパーハイトワゴン中最長で、スライドドア式軽自動車の弱点である間口の狭さからくる乗降時のストレスを軽減していた。
そんなルークスハイウェイスターにも弱点はある。素晴らしい動的質感が中速域までに限定されることだ。高速域でも路面が良いところでは問題はないのだが、たとえば舗装面の荒れがきつい九州自動車道のような区間では途端に足がバタつく。また進行方向に対してある程度角度のついた横風を受けるような状況下での風切り音も中低速域では気にならないが高速域ではいささか過剰に高まる。日産は空力設計に関しては元来非凡なものを持つメーカーだが、このあたりは軽自動車の性能限界や使われ方を考えて見切ったのではないかという感があった。
プラスとマイナスが拮抗していたのは燃費である。ストップ&ゴーの多い都市部やそれほど速度の上がらない都市の近郊区間ではパラレルハイブリッドの効果か、スーパーハイトワゴンとしては望外の好燃費をいくらでも叩き出せるという感じであった。速度域が上がる郊外路や新直轄道路でもクラス平均は十分行けた。弱かったのは高速巡航で、燃費値を急激に落とすという挙動だった。ドライブ序盤にさっそく市街地燃費の良さと高速燃費の悪さの両方を目の当たりにし、落差にびびっていつものロングドライブ試乗以上に高速を忌避したくらいだった。
これらの特質から、ルークスハイウェイスターは基本的に日常ユースにおいて普通車的なパフォーマンスや質の高さを求めるユーザーをメインターゲットにした、都市型上級軽スーパーハイトワゴンと言える。超高速域を含めた高速安定性、悪路を含めたロードホールディング、視界、静粛性、室内の広さ等々、各パラメーターがバランス良く高いという点で軽スーパーハイトワゴンのトップに立つのは不動の販売首位モデル、ホンダ『N-BOX』だが、良路における4座均等の乗り心地の良さ、ハンドリングのナチュラルさ、そして内装のクオリティの高さではそのN-BOXに勝っている。ファクターを絞って強者に対抗するというのは戦術として悪くない。
誤解なきよう但し書きをつけておきたいのは、ルークスハイウェイスターが全面的にロングドライブに向いていないというわけではないということ。日産が「ゼログラビティ」と呼ぶ新理論で作られたシートはドライブ時間の壁を感じさせない出来であったし、スピードを上げなければ快適性も非常に高い。ハンドリングがナチュラルに良いので山越えルートも怯む必要はない。要するに制限速度100km/h、120km/hの高速をリミット前後で走ったり路面状況の悪い道を長距離走ったりといった苦手分野がハッキリしているというだけで、長旅の道具にも使える。先に快適性について全行程の8割で満足と述べたのは苦手な走行状況をひっくるめた数値であり、そういう使い方を避ければ9割、ないしそれ以上に持って行くことも可能だろう。
◆ナチュラルな走りは「さすがGT-Rチューナーの作品」
要素別にもう少し深堀りしてみよう。まずはロングツーリングの走り、快適性を支えるボディ、シャシーについてだが、基本的には非常に良くできていた。ルノー=日産アライアンスの新興国向けミニカー、すなわち普通車用の「CMF-A」プラットフォームをベースとしながら全幅1480mmまでという軽自動車枠に適合させるのに必要なものについては部品を再設計するという手法で作られている。
サスペンションのトップの位置は軽自動車としては高く、ボンネットの低いモデルを作らないことを前提にしているホンダと同様、サスペンションストロークについてはスズキ、ダイハツより有利というディメンションを有している。大きなクラスのプラットフォームをベースにしているぶんウェイト面では不利で、ロードテスト車の車検証重量1000kgは同等仕様のライバルの中で最も重い。
実際に走ってみると、重い分フィールは強固。プラットフォームはトールワゴンのデイズと同じなのだが、剛性感は本来がらんどう部分が大きいぶん不利であるはずにも関わらずルークスのほうが断然上。同一プラットフォーム、同一エンジン、同一駆動方式のトールワゴンモデルとの重量差120kgはライバル中最大であることから、ボディに何らかの補強が施されているものと推察された。
その強固さは走りと快適性の両方でおおむねプラスに作用していた。カーブに差しかかってステアリングを切ると前輪がわずかに切れた段階からクルマがしっかり、しかし過敏でなく反応し、同時に反力がステアリングにしっかり伝わってくる。そこからステアリングを切り増していくとそれにぴったり比例するようにロール量が増え、反力も強まる。結果、自分で決めた走行ラインにクルマを乗せる運転スタイル、道の線形に合わせて成り行きでステアリングを切る運転スタイルのどちらでもドライバーの意図と実際のクルマの動きのズレが非常に小さい。デイズがロール剛性を高めようとするあまり前サスペンションの突っ張りが強かったのに比べると、走りも操舵感も質感がひと味違う。このナチュラルフィールに関しては軽自動車随一の出来栄えと言うべきで、さすがGT-Rチューナーの作品という印象だった。
ルークスのようなスーパーハイトワゴンにこんなリニアなハンドリングを持たせるのは一見ムダのようだが、単にロールさせないというのではなく足まわり全体のチューニング作り上げたこの横G耐性の高さは普通に運転するときのフィールの向上に間違いなく役立っている。この性能が平凡なクルマだとクルーズ時に走行ラインがズレた時にドライバーが意図的に針路を元に戻し、ちょっと戻しすぎたときにはさらにそれを修正…という微妙な操作のくり返しをドライブ中延々とやることになる。が、ハンドル操作とクルマの動きの一致性が高いと前を見て走っているだけで無意識のうちに体が勝手に修正するような感じになる。
あくまでモノの例えで実際にはそこまで大きな違いはないが、ぐらつく床に直立するのは神経を使い、強固な床なら直立するのは無意識でもできるようなものだ。ロングドライブになるとそれが意外なくらいの疲労蓄積の差になって表出する。作り込みの手間はかかるが、いいクルマ作りとしてはまさに正攻法である。
◆快適性と乗り心地は?
ボディの剛性感の高さは快適性の向上にも寄与しているように感じられた。路面からの入力に対する車体の抵抗性は非常に高く、走行中のフロアの振動や左右Aピラー感のブルつくような振動はそれこそ普通車ばりに小さかった。路面のザラザラを拾った時のボディシェルの共振もよく抑えられており、クルマ全体が低バイブレーションという感じだった。素性を磨くことで静粛性を高めたという印象で、これが空間の質感を高めることに大いに寄与してた。
これで乗り心地が良ければルークスの商品力は先行するライバル3社をおびやかすくらいのものになったのだろうが、この乗り心地は路面や速度域によって結構大きく左右されるようなところがあった。まず低速レンジではほとんど問題はない。ロードテスト車のタイヤサイズは165/55R15。この薄いエアクッション厚のタイヤは軽自動車の短いサスペンションストロークと相性が悪く、上手く作らないと揺すられ感やゴトゴト感が出てしまうのだが、ルークスハイウェイスターの足は不整をよく抑え込んでいた。路面電車の軌条と直交する時などの鋭い入力をもう少しヌルリと吸収できれば完璧だったが、そうでなくとも十分にトップランナー級の乗り心地の平滑性だった。
中高速域でも路面が良かったりアンジュレーション(路面のうねり)があっても浅かったりうねりの周期が長かったりという状況では十分に静かで滑らかなクルーズが約束される。が、その荒れが大きくなってくると突然平穏が乱される。足まわりのバタつき、ドタつきが急激に増え、揺すられ感も強まる。それが顕著だったのは九州自動車道鹿児島区間、山陰道の老朽化区間など。
もちろんフィーリングだけで何が原因かを特定することはできないが、印象論としてはクルマの作りのショボさによるものではなく、逆にボディシェルの強固さが悪いほうに作用しているように思われた。ボディへの力の分散が小さく、どうしても容量が限定される軽自動車のサスペンションにストレスが集中することでホイールの上下動を止めきれなくなるような感じである。
この雑味をある程度取ることができればさらに面白い存在になるのにと思ったが、そこを良くすると山岳路でのハンドリングの質の高さとバーターになるというような話ならこのままでもいいかと思ったのも確かである。
◆日産車の中でも光るプロパイロットの的確さ
ロードテスト車にはステアリング介入型のADAS「プロパイロット」が装備されていた。前車追従クルーズコントロール、車線維持アシスト、渋滞時前車追従機能などがワンパッケージとなっている。このプロパイロットは2019年あたりから急に性能が上がってきた感があるが、中でも軽自動車のデイズとルークスはアシストが非常に的確。日産のエンジニアによれば、車幅が狭いほうがプロパイロットの検知、制御ともより高精度にしやすいとのことだったが、オンロードでもそれを裏付けるような挙動であった。
とくに具合がいいのはクルーズコントロールをONにしている時の車線維持アシスト。高速道路や山陰道をはじめとする新直轄道路のようなハイスピードクルージングで緩いカーブに差しかかってもステアリングに手を添えているだけだと外に膨らむんじゃないかと不安になるような動きではなく、わりと早い段階でコーナーのイン側に向かうようにコントロールしてくれる。
この種の装置はシステムが車線をちゃんと見てくれているのかどうかが不安になるポイントのひとつだが、普段の制御が強固なのでクルマがそういう動きをしない時は車線が見えていないと即時に判断できる。人間の操作を陰働きでアシストするだけでなく、機械のほうが「こういう動きをしようと思いますが」という意思を人間に示すことも人間と機械の相互信頼を築くうえで重要。その点についてはよく作り込まれていると思った。このシステムには先行車のさらに1台前のクルマの挙動も監視して前方警戒アラートを出す機能が組み込まれているとのことだったが、人間の目では見越せないのでその恩恵を直接実感することはできなかった。
ルークスハイウェイスターのプロパイロットエディションでこれはいいなと思ったのは先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビームが装備されていたこと。ヘッドランプの明るさ自体はそれほどでもないが照射範囲が十分に広いこととこのアクティブハイビームの合わせ技で、ナイトセッションの安心感については非常に高いものがあった。動作の精度だが、少なくとも対向車についてはドライブ中、ほぼ100%ハイビーム照射を回避できていた。この種のシステムが苦手とする大型車の先行車の検知についても、きちんとしたデザインの車両であれば的確に検出できていた。
どうしてもダメなのはテールランプが劣化して極度に光量が落ちていたり、それだと車検が通らないだろうというような改造を施している場合。そういうときは仕方がないので手動でロービームにしてやるほかないが、あってよかったと思える装備だったことに変わりはない。
後編では動力性能、燃費、居住性、ユーティリティなどについて述べる。
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