【メルセデスベンツ EQE SUV 海外試乗】セダンより90mm短いホイールベースで実現したかったものとは…渡辺慎太郎
“EVA2”と呼ばれるBEV専用のプラットフォームを開発したメルセデスは、それを使って『EQS』、『EQS SUV』、『EQE』と次々にBEVのモデルラインナップを拡充、今回の『EQE SUV』をもってとりあえずEVA2共有モデルは打ち止めとなる。当初からメルセデスは「EVA2を使うのは4モデルのみ」と公表していたので予定通りなのだけれど、実は上海モーターショーで「メルセデスマイバッハEQS SUV」がお披露目されるらしく、実質的には5モデルとなりそうだ。
内燃機用のプラットフォームは、メルセデスならエンジンが横置きのMFA2や縦置きのMRA2などがあって、MFA2は『Aクラス』や『Bクラス』や『GLA』や『GLB』、MRA2は『Cクラス』や『Sクラス』というように、セダンやワゴンやSUVを問わず幅広く共有されている。
いっぽうEVA2は、開発のスタート時点でセダンが2種類、SUVが2種類の計4モデルしか想定されていないことからも、BEV専用プラットフォームというのは内燃機のそれほどあれやこれやと使い回しの効くものではないというのが分かる。加えて、プラットフォームの新設には億単位の費用がかかるとも言われており、だから多くのメーカーは内燃機で使用しているプラットフォームをBEVにコンバートする方法を採っているわけだ。
◆「EQEはセダンとSUVで乗り味に差を出したかった」
EQSとEQS SUVはホイールベースをいじることなくセダンとSUVを作り分けた。ところがEQEに対するEQE SUVはホイールベースを90mm短くしている。この判断にメルセデスは「EQEはセダンとSUVで乗り味に差を出したかった。特にEQE SUVは、SUVらしからぬアジリティを表現したかった」と説明している。EQSとEQS SUVは電気で走るSクラスの『GLS』みたいなもので、ショーファードリブンとしての用途も想定されるのでスポーティな方向へ振ることは避けたようだ。でも本当のところは航続距離の確保にあると思う。BEVの場合、ホイールベース=電池搭載量=航続距離だからである。
では、EQE SUVはホイールベースを縮めてしまったので、セダンよりもバッテリー容量が減ってしまったのか? スペックを確認したところ90.6kWhの数値はセダンもSUVも同値だった。このトリックの種明かしはこうである。そもそもEQEはホイールベースいっぱいいっぱいまでバッテリーを搭載しておらず、スペースに余裕があった。EQE SUVではこの余裕分を詰めたのでバッテリー容量に変化はないとのことだった。
EQE SUVのボディサイズは全長4863mm、全幅1940mm、全高1686mm、ホイールベース3030mm。『GLC』よりは大きいけれど『GLE』よりは若干小さい辺りに収まっている。エクステリアデザインは、ルーフ後端をわずかに下げることでスポーティな印象を作り出しているが、インテリアはMBUXハイパースクリーンがオプションで、標準仕様はCクラスなどと似たふたつ液晶パネルを配した意匠となっている。
あらたに追加導入された室内装備は4つあって、ドルビーサラウンドシステムと専用の動画配信アプリの採用、そしてMBUXハイパースクリーンを選ぶと助手席前のモニターに例えばスマホに入っている画像などを映し出すことができる。また、高効率のヒートポンプを投入し、バッテリーやモーターが発する熱を冬場のヒーターとして積極的に利用するという。電気を使わず室内を暖められるこれにより、航続距離が約10%改善されたそうだ。
◆巡航時に前輪をフリーにできるEQE SUVの4MATIC
現時点でのEQE SUVのラインナップは「EQE300」「EQE350+」「EQE350 4MATIC」「EQE 500 4MATIC」の4タイプ。年内にEQE350 4MATICが日本導入される見通しらしい。今回はこのEQE 350 4MATICを中心に試乗した。
車名からも分かるように、EQE350 4MATICは前後にeATSと呼ぶモーターとそれに付随する補機類をひとつのモジュールにしたパワートレインを前後に置いている。最高出力は292ps、最大トルクは765Nmで、航続距離はWLTPモードで460-551kmと公表されている。
パワートレインのハードウエアは基本的に他のEQモデルと同様だが、DCUと呼ばれる機構がこのクルマから新たに採用された。これはフロントのeATSにアクチュエータを用いたいわゆるドグクラッチを設け、状況に応じてクラッチを切ることにより前輪をフリーにするというもの。
EQS/EQS SUV/EQEの4MATICはフルタイムの四駆で、2輪駆動になることは基本的になかったが、EQE SUVの4MATICでは例えば巡航時などに前輪を完全フリーとすることで電池の消費量を抑えるという。つまり、厳密に言えば後輪駆動にもなるパートタイム式四駆ということになる。
その作動状況は車内のモニターにリアルタイムで表示することも可能でしばらく眺めながら運転してみたけれど、正直なところ二駆と四駆の切り替えはまったく体感できなかった。でもモニターを見る限り、かなり頻繁に切り替えているようだし、ドライブモードによって切り替えるタイミングも変えていた。なおこのDCUは今後、EQの4MATIC仕様に随時展開されていくそうだ。
◆「細かいことはともかく楽しんで欲しい」
車両重量はまだ公表されていないが、おそらく2.5トンはくだらないだろう。それでも765Nmのトルクは瞬発力もあるのでまったくもたつかないどころか、軽々と加速させていく。パドルによる回生ブレーキの調整も可能でワンペダル操作も可能である。
試乗車にはエアサスと後輪操舵が付いていたので、操縦性はこれらの機構によるサポートを大いに受けている。ホイールベースが短くなったとはいえわずか90mmなので、おかげでEQEのセダンと比べて見違えるほどよく曲がるようになったとは思わないけれど、ステアリング操作に対するレスポンスはよく、ボディがひと回り小さくなったように感じる小気味よいハンドリングはなかなか楽しい。普通のダンパーと金属ばねを組み合わせたコンベンショナルなサスの350+も試したが、そちらの操縦性や乗り心地も決して悪くなく、そもそもEVA2は体幹がしっかりしたプラットフォームであることを再認識した。
前後フェンダーの9時のあたりに黒いスポイラーが装着されていて、これをメルセデスは「ナインオクロック・スポイラー」と呼び、これだけで航続距離が8kmも増えたという。この他にも航続距離の上乗せや風切り音対策を狙った空力対策が随所に施されていた。バッテリーは簡単に増やせないからとそこで諦めず、航続距離を少しでも増やそうと努力を惜しまない姿勢はさすがである。
いっぽうで会場には、サーフボードをルーフに積んだ展示車両が置かれていた。「細かいことはともかく、EQE SUVはこんな風に使って楽しんで欲しい」という彼らのメッセージだった。
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
内燃機用のプラットフォームは、メルセデスならエンジンが横置きのMFA2や縦置きのMRA2などがあって、MFA2は『Aクラス』や『Bクラス』や『GLA』や『GLB』、MRA2は『Cクラス』や『Sクラス』というように、セダンやワゴンやSUVを問わず幅広く共有されている。
いっぽうEVA2は、開発のスタート時点でセダンが2種類、SUVが2種類の計4モデルしか想定されていないことからも、BEV専用プラットフォームというのは内燃機のそれほどあれやこれやと使い回しの効くものではないというのが分かる。加えて、プラットフォームの新設には億単位の費用がかかるとも言われており、だから多くのメーカーは内燃機で使用しているプラットフォームをBEVにコンバートする方法を採っているわけだ。
◆「EQEはセダンとSUVで乗り味に差を出したかった」
EQSとEQS SUVはホイールベースをいじることなくセダンとSUVを作り分けた。ところがEQEに対するEQE SUVはホイールベースを90mm短くしている。この判断にメルセデスは「EQEはセダンとSUVで乗り味に差を出したかった。特にEQE SUVは、SUVらしからぬアジリティを表現したかった」と説明している。EQSとEQS SUVは電気で走るSクラスの『GLS』みたいなもので、ショーファードリブンとしての用途も想定されるのでスポーティな方向へ振ることは避けたようだ。でも本当のところは航続距離の確保にあると思う。BEVの場合、ホイールベース=電池搭載量=航続距離だからである。
では、EQE SUVはホイールベースを縮めてしまったので、セダンよりもバッテリー容量が減ってしまったのか? スペックを確認したところ90.6kWhの数値はセダンもSUVも同値だった。このトリックの種明かしはこうである。そもそもEQEはホイールベースいっぱいいっぱいまでバッテリーを搭載しておらず、スペースに余裕があった。EQE SUVではこの余裕分を詰めたのでバッテリー容量に変化はないとのことだった。
EQE SUVのボディサイズは全長4863mm、全幅1940mm、全高1686mm、ホイールベース3030mm。『GLC』よりは大きいけれど『GLE』よりは若干小さい辺りに収まっている。エクステリアデザインは、ルーフ後端をわずかに下げることでスポーティな印象を作り出しているが、インテリアはMBUXハイパースクリーンがオプションで、標準仕様はCクラスなどと似たふたつ液晶パネルを配した意匠となっている。
あらたに追加導入された室内装備は4つあって、ドルビーサラウンドシステムと専用の動画配信アプリの採用、そしてMBUXハイパースクリーンを選ぶと助手席前のモニターに例えばスマホに入っている画像などを映し出すことができる。また、高効率のヒートポンプを投入し、バッテリーやモーターが発する熱を冬場のヒーターとして積極的に利用するという。電気を使わず室内を暖められるこれにより、航続距離が約10%改善されたそうだ。
◆巡航時に前輪をフリーにできるEQE SUVの4MATIC
現時点でのEQE SUVのラインナップは「EQE300」「EQE350+」「EQE350 4MATIC」「EQE 500 4MATIC」の4タイプ。年内にEQE350 4MATICが日本導入される見通しらしい。今回はこのEQE 350 4MATICを中心に試乗した。
車名からも分かるように、EQE350 4MATICは前後にeATSと呼ぶモーターとそれに付随する補機類をひとつのモジュールにしたパワートレインを前後に置いている。最高出力は292ps、最大トルクは765Nmで、航続距離はWLTPモードで460-551kmと公表されている。
パワートレインのハードウエアは基本的に他のEQモデルと同様だが、DCUと呼ばれる機構がこのクルマから新たに採用された。これはフロントのeATSにアクチュエータを用いたいわゆるドグクラッチを設け、状況に応じてクラッチを切ることにより前輪をフリーにするというもの。
EQS/EQS SUV/EQEの4MATICはフルタイムの四駆で、2輪駆動になることは基本的になかったが、EQE SUVの4MATICでは例えば巡航時などに前輪を完全フリーとすることで電池の消費量を抑えるという。つまり、厳密に言えば後輪駆動にもなるパートタイム式四駆ということになる。
その作動状況は車内のモニターにリアルタイムで表示することも可能でしばらく眺めながら運転してみたけれど、正直なところ二駆と四駆の切り替えはまったく体感できなかった。でもモニターを見る限り、かなり頻繁に切り替えているようだし、ドライブモードによって切り替えるタイミングも変えていた。なおこのDCUは今後、EQの4MATIC仕様に随時展開されていくそうだ。
◆「細かいことはともかく楽しんで欲しい」
車両重量はまだ公表されていないが、おそらく2.5トンはくだらないだろう。それでも765Nmのトルクは瞬発力もあるのでまったくもたつかないどころか、軽々と加速させていく。パドルによる回生ブレーキの調整も可能でワンペダル操作も可能である。
試乗車にはエアサスと後輪操舵が付いていたので、操縦性はこれらの機構によるサポートを大いに受けている。ホイールベースが短くなったとはいえわずか90mmなので、おかげでEQEのセダンと比べて見違えるほどよく曲がるようになったとは思わないけれど、ステアリング操作に対するレスポンスはよく、ボディがひと回り小さくなったように感じる小気味よいハンドリングはなかなか楽しい。普通のダンパーと金属ばねを組み合わせたコンベンショナルなサスの350+も試したが、そちらの操縦性や乗り心地も決して悪くなく、そもそもEVA2は体幹がしっかりしたプラットフォームであることを再認識した。
前後フェンダーの9時のあたりに黒いスポイラーが装着されていて、これをメルセデスは「ナインオクロック・スポイラー」と呼び、これだけで航続距離が8kmも増えたという。この他にも航続距離の上乗せや風切り音対策を狙った空力対策が随所に施されていた。バッテリーは簡単に増やせないからとそこで諦めず、航続距離を少しでも増やそうと努力を惜しまない姿勢はさすがである。
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渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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