【BMW M2 新型試乗】『M4』のデチューン版と思ったら大間違いだ…渡辺敏史
◆Mハイパフォーマンス銘柄のエントリーモデル
BMWのモータースポーツ部門を統括していたM GmbHがBMWの関連会社として改組したのは93年のこと。以来30年に渡り、MはプロダクションカーをベースとしたMモデルの開発やプロデュースに関わっている。
現在のMモデル群はコスメティックやサスペンション変更がメインとなる「Mスポーツ」、Mスポーツを基に動力性能や運動性能なども連動して引き上げられた「Mパフォーマンス」、そして独自チューニングのエンジンや車両制御技術なども加えたトップレンジとして「Mハイパフォーマンス」という3ステージが構成されている。
というわけで、『M2』の位置づけは『2シリーズクーペ』のラインナップにおいては「M240i」の更に上となる一方で、Mハイパフォーマンス銘柄としては価格や車格的にみるとエントリーモデルということになる。でも、好事家にとってはむしろそのコンパクトな体躯こそが望むところで、7年前に登場した初代は走りに一家言もつユーザーに親しまれた。
二代目となるG87型M2も全長は4580mmと、同じクーペの『M4』に比べても200mm以上短い。対して全幅はまったく同じ1885mmだ。加えていえば履いているタイヤのサイズもまったく同じとあらば、そのホイールベース/トレッド比から想定するに、敏捷性は明らかにM2の側が上回ることが窺える。さすがに日本の路上では気遣いそうな幅ではあるが、そのぶんパンパンに張ったフェンダーからなる佇まいの圧は只ならぬものがある。
◆M4や911をも上回る加速性能
搭載するエンジンもまた、M4と同じS58型だ。『Z4』やトヨタ『スープラ』にも搭載される同じ直6のB58型と型式は似ているが、骨格からしてMハイパフォーマンス専用の設計となっており、ボア・ストロークも異なる設定となっている。3リットルツインターボの最大出力は460ps、最大トルクは550Nmで、これはM4の標準モデルに対して20ps低い。但し0-100km/h加速はメーカー発表値で4.1秒とM4のそれを上回っている。トラクション管理の難しいFRにして、ポルシェになぞらえれば『911カレラ』を上回る瞬発力を備えていることになるわけだ。
組み合わせられるミッションは8速ATと6速MTで、日本仕様でも同価格でいずれかの選択が可能だ。また、電子制御でロック率を可変しながら最適な差動を生み出すMスポーツデファレンシャルや、電子制御可変ダンパーを含めたアダプティブMサスペンションなども標準装備となる。これらの作動レベルに加えてエンジンマネジメントや変速制御、EPSやブレーキのレスポンス、DSC介入などあらかたの項目は詳細設定が個別に可能で、自分好みのドライブモードとして登録しておけば、ステアリングスポーク左右の赤いボタンでいつでも呼び出せるようになっている。
装備面は車載ソフトウェアに最新のOS 8.0を搭載するほか、12.3インチのメータークラスターと14.9インチのタッチパネルディスプレイを1枚に束ねたカーブドディスプレイを採用するなど、最新のBMWのモデルに倣ったものとなっている。
8速ATの側はADASもフルスペックに近いものが標準化されるなど、先進装備の充実も初代に対する大きな進化点だ。後席居住性はレッグスペースが広がったものの、ヘッドクリアランス的にみると小柄な女性や子供向きといったところだろうか。トランク容量は初代と同じ390リットルを確保している。スポーツカーとして括るとするなら、望外の実用性といえるだろう。
◆内燃機の頂点的な質感を6速MTで味わえる尊さ
いわばM4のデチューン版とはいえ、S58ユニットの輝きにまったく曇りはない。1500rpmも回っていればたっぷりのトルクが車体を力強く押し出してくれる。そこからの速度コントロールもアクセル操作のみで滑らかに応答してくれる。そこから回転を高めていくと感じられる吹け上がりのシャープさやサウンドのクリーンさは直6だからこその味わいだ。
そのパワフルさは言うに及ばずだが、内燃機の頂点的な質感を慈しむという点においても、M2は希少な選択肢としてクルマ好きに認められてきた。そして、そういう対話性を重視するならやっぱり6速MTとの組み合わせは尊い存在だ。加えて、その6速MTのシフトフィールが大きく改善されていることも新しいM2のセリングポイントのひとつだろう。前後トラベルの摺動感やリンケージのカチッとした触感などが掌に明確に伝わってくる辺りはBMWらしからぬところだ。
車格からみればかなりファットなタイヤを履いているにも関わらず、乗り心地は概ね洗練されていた。日常的に出くわす路面の荒れや凹凸は綺麗にいなすが、入力が大きくなるとバネやスタビのレートなりに跳ね返しがしっかり現れるのは致し方ないところだろう。高速域に入ればアタリも丸くなり、ライド感も徐々にフラットさを増してくる。長距離高速巡航のようなGT的用途はしっかりと快適にこなしてくれるはずだ。
ディメンジョン的にかなり鋭利な応答性を想像していたハンドリングは、むしろ常識的な方向に躾けられている。操舵ゲインの立ち上がりは過敏というほどではなく、よくよく観察すれば旋回の入り口の動きはリニアさが勝っていた。そこから更にステアリングを切り込んでいけば反応はアジャイルだが、ドライバーの意思にも増して曲がりすぎるようなことはない。総じて旋回の始めから終わりにかけての繋がりはM4よりも洗練されているのではないかというのが偽らざる感想だ。
新しいM2は日本市場でも現在受注を開始しており、この春に上陸する予定だという。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)
BMWのモータースポーツ部門を統括していたM GmbHがBMWの関連会社として改組したのは93年のこと。以来30年に渡り、MはプロダクションカーをベースとしたMモデルの開発やプロデュースに関わっている。
現在のMモデル群はコスメティックやサスペンション変更がメインとなる「Mスポーツ」、Mスポーツを基に動力性能や運動性能なども連動して引き上げられた「Mパフォーマンス」、そして独自チューニングのエンジンや車両制御技術なども加えたトップレンジとして「Mハイパフォーマンス」という3ステージが構成されている。
というわけで、『M2』の位置づけは『2シリーズクーペ』のラインナップにおいては「M240i」の更に上となる一方で、Mハイパフォーマンス銘柄としては価格や車格的にみるとエントリーモデルということになる。でも、好事家にとってはむしろそのコンパクトな体躯こそが望むところで、7年前に登場した初代は走りに一家言もつユーザーに親しまれた。
二代目となるG87型M2も全長は4580mmと、同じクーペの『M4』に比べても200mm以上短い。対して全幅はまったく同じ1885mmだ。加えていえば履いているタイヤのサイズもまったく同じとあらば、そのホイールベース/トレッド比から想定するに、敏捷性は明らかにM2の側が上回ることが窺える。さすがに日本の路上では気遣いそうな幅ではあるが、そのぶんパンパンに張ったフェンダーからなる佇まいの圧は只ならぬものがある。
◆M4や911をも上回る加速性能
搭載するエンジンもまた、M4と同じS58型だ。『Z4』やトヨタ『スープラ』にも搭載される同じ直6のB58型と型式は似ているが、骨格からしてMハイパフォーマンス専用の設計となっており、ボア・ストロークも異なる設定となっている。3リットルツインターボの最大出力は460ps、最大トルクは550Nmで、これはM4の標準モデルに対して20ps低い。但し0-100km/h加速はメーカー発表値で4.1秒とM4のそれを上回っている。トラクション管理の難しいFRにして、ポルシェになぞらえれば『911カレラ』を上回る瞬発力を備えていることになるわけだ。
組み合わせられるミッションは8速ATと6速MTで、日本仕様でも同価格でいずれかの選択が可能だ。また、電子制御でロック率を可変しながら最適な差動を生み出すMスポーツデファレンシャルや、電子制御可変ダンパーを含めたアダプティブMサスペンションなども標準装備となる。これらの作動レベルに加えてエンジンマネジメントや変速制御、EPSやブレーキのレスポンス、DSC介入などあらかたの項目は詳細設定が個別に可能で、自分好みのドライブモードとして登録しておけば、ステアリングスポーク左右の赤いボタンでいつでも呼び出せるようになっている。
装備面は車載ソフトウェアに最新のOS 8.0を搭載するほか、12.3インチのメータークラスターと14.9インチのタッチパネルディスプレイを1枚に束ねたカーブドディスプレイを採用するなど、最新のBMWのモデルに倣ったものとなっている。
8速ATの側はADASもフルスペックに近いものが標準化されるなど、先進装備の充実も初代に対する大きな進化点だ。後席居住性はレッグスペースが広がったものの、ヘッドクリアランス的にみると小柄な女性や子供向きといったところだろうか。トランク容量は初代と同じ390リットルを確保している。スポーツカーとして括るとするなら、望外の実用性といえるだろう。
◆内燃機の頂点的な質感を6速MTで味わえる尊さ
いわばM4のデチューン版とはいえ、S58ユニットの輝きにまったく曇りはない。1500rpmも回っていればたっぷりのトルクが車体を力強く押し出してくれる。そこからの速度コントロールもアクセル操作のみで滑らかに応答してくれる。そこから回転を高めていくと感じられる吹け上がりのシャープさやサウンドのクリーンさは直6だからこその味わいだ。
そのパワフルさは言うに及ばずだが、内燃機の頂点的な質感を慈しむという点においても、M2は希少な選択肢としてクルマ好きに認められてきた。そして、そういう対話性を重視するならやっぱり6速MTとの組み合わせは尊い存在だ。加えて、その6速MTのシフトフィールが大きく改善されていることも新しいM2のセリングポイントのひとつだろう。前後トラベルの摺動感やリンケージのカチッとした触感などが掌に明確に伝わってくる辺りはBMWらしからぬところだ。
車格からみればかなりファットなタイヤを履いているにも関わらず、乗り心地は概ね洗練されていた。日常的に出くわす路面の荒れや凹凸は綺麗にいなすが、入力が大きくなるとバネやスタビのレートなりに跳ね返しがしっかり現れるのは致し方ないところだろう。高速域に入ればアタリも丸くなり、ライド感も徐々にフラットさを増してくる。長距離高速巡航のようなGT的用途はしっかりと快適にこなしてくれるはずだ。
ディメンジョン的にかなり鋭利な応答性を想像していたハンドリングは、むしろ常識的な方向に躾けられている。操舵ゲインの立ち上がりは過敏というほどではなく、よくよく観察すれば旋回の入り口の動きはリニアさが勝っていた。そこから更にステアリングを切り込んでいけば反応はアジャイルだが、ドライバーの意思にも増して曲がりすぎるようなことはない。総じて旋回の始めから終わりにかけての繋がりはM4よりも洗練されているのではないかというのが偽らざる感想だ。
新しいM2は日本市場でも現在受注を開始しており、この春に上陸する予定だという。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)
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