ボルボ最新4モデルで九州をショートトリップ、イッキ乗りで体感した「電動車の今」
◆ボルボ最新の4モデルをイッキ乗り
結論から述べてしまうと、ミディアム以上のセグメントのEVやPHEV、つまりそこそこ車格の大きな電動車なら、東京のような大都市より地方都市の方が向いていると思う。ここで分けて考えておきたいのはコンパクト&スモールEV。市街地でも住宅街でも村でも、人里限定のコミューター用途として高速道路にのらない前提の軽EV、あるいは高速道路やバイパスを走るとしてもたまに程度の、欧州Bセグ・ハッチバック相当のEVだ。
そうではない、ある程度大きな容量のバッテリーを積んで実用レンジも400km超に届く、ミッド+α車格のEVであれば、日常生活圏といえる近隣の町が半径50~150km以内にあって、戸建て率の高さゆえに満充電で出発できる環境が整えやすい地方なら、行き先や途中で急速充電しなくても大抵、自宅まで帰って来られる。具体的には京阪神や九州辺りでこそ、日常的にEVやPHEVが活かしやすい。じつをいって東京が日本の中では、物理的な距離感の上で孤立している都市なのだ。
現実に陸路のレンジだけでなく、空路のレンジという観点でも、日本で定期的に買い物を楽しむアジアの富裕なインバウンド客にとって、3時間の壁を超えずに毎週末のように気軽に通うのなら、大阪や福岡がいちばん便利らしい。東アジアと九州や関西の近さは、歴史的に水路の時代から証明されている通り、空路でも変わらないのだ。
だから今回ボルボの試乗会が福岡をベースに行われ、2日間で4台を試乗するために好きなところへ走り出していいというルールというか自由さに、多少なりと面食らった。他のジャーナリストや編集部員は、萩やら長崎やら阿蘇やら、けっこう遠くを目指すらしい。とはいえそれらはもう隣の別の空港から向かう行先とも思えるので、あえて福岡空港圏内の陸路で妙味のありそうなところを考えてみた。
先ほど触れた古代の水路ではないが、志賀島に行ってみることにした。金印の実物は市内の博物館に展示されているが、むしろ金印の出土した場所の雰囲気を見てみたかった。
◆重さを活かした乗り心地と、キビキビした動的質感が同居する
最初に割り当てられた試乗車は、『XC40リチャージ アルティメイト ツインモーター』、つまりEVだ。少しグレーがかった緑色のボディカラーは「セージグリーン」。また内装色は「チャコール」と呼ばれるもののかなり薄いグレーで、ウールブレンドのファブリックに白パイピングの施されたシートは、いい意味でEVらしからぬ温かみを感じさせる。
手元のシフトノブは、ノーベル賞の晩餐会でも用いられることで有名な、オレフォス製のクリスタルだ。シンプルでいて高いクオリティを感じさせる内装は、北欧ブランドとしてのボルボの面目躍如といえる。しかも開放的なサンルーフのおかげもあって、新緑の季節を楽しむのにまたとない仕様だ。
福岡の都市高速の路面は、首都高速のそれと比べてもかなり平滑性が高いが、XC40リチャージは継ぎ目ギャップでもEVにありがちなパタパタ感を足元から伝えてくることなく、至極滑らかに巡航をこなす。しかし強くアクセルを踏み込むと、AWDで660Nm・408psを発揮するパワートレインの加速感は凄まじい。
都市高速を下りてアイランドシティを抜け、海の中道という砂州だけが、志賀島に通じる一本道だ。島を一周する道は舗装が古く決してフラットな路面ではなかったが、XC40リチャージの乗り心地が荒れることはなかった。2150kgという車重はCセグのSUVとしては重いが、78kWh容量のバッテリーと積むEVとしては軽い。重さを活かした乗り心地のよさと、キビキビした動的質感が同居する、そういう走りだ。
金印が出土したという金印公園の高台に寄ってみた。実際に発見された水田はどうやら今や海の中らしいが、その先に壱岐・対馬が控えるとはいえ、志賀島ひいては福岡が国境の街という雰囲気は何となく漂ってきた。
続いて撮影のため糸島方面へ向かった。先ほどより都市高速の交通量は明らかに増えて、周りの車の不規則なペースに合わせて慣れない道を走るには、ワンペダル・モードが重宝した。中央のタッチスクリーン内で、ドライビング>ドライビングダイナミクスで、ワンペダル・ドライブのスライダーをONに設定にして、アクセルから足を浮かせると、回生による減速Gと制動がかなり強く利き始める。
市街地で用いても、ブレーキペダルに足をのせずに完全停止までもっていける。回生の強さを段階的にパドルシフトなど手元で選ぶ仕掛けはないが、だからこそ乗り手が意識して選んだモードとして、完全停止ができるワンペダルを備えられたのだろう。またフロントのボンネット下に、カバー付きのトランクスペースが設けられているのも、EVならではの芸当といえる。
◆『XC60 PHEV』のクラス感は、さすがのベストセラー
糸島の海岸ではもう一台の試乗車、『XC60リチャージ アルティメイトT6 AWDプラグインハイブリッド』に乗り換えた。こちらのパワーユニットは2リットルターボ+前後それぞれの電気モーターという、PHEVだ。
じつはボルボのPHEVパワートレインは昨年からガラリと改変され、ピュアモードというEV状態で走行できる距離がカタログ値では81kmと、相当に伸びた。ハイブリッドとはいえ電気の比重が明らかに高くなっているのだ。それでいてドライバビリティはあらゆる局面で向上して、キビキビ感も滑らかさも増している。ハイブリッド・モードで走らせながら感じるのは、電気とモーターの切り替えが恐ろしくスムーズで静粛性も相当に高いため、ある程度の巡航速度になると、どちらで走っているのか本当に意識しなくなる。
コースティングも相当巧みに使っているようだが、ひとたびアクセルを踏み込めば電気モーターの駆動レスポンスのダイレクトさに導かれつつ、さらに必要とあればエンジンが目覚める。その一連の繋ぎにモタついたところが一切ない。従来のダウンサイジングターボと違って最大トルクは2500rpmからと、下の領域は電気モーターに任せられ、エンジンの伸びをも堪能できる。それこそが、走りにおけるPHEVの強みであることを実感できる。
それにしても、同じ「アルティメイト」内装とはいえ、カジュアルな印象だったXC40に比べるとXC60の内装には、ドリンクホルダーにスライドシャッターのカバーが付くなど、ウッドの加飾アクセントによって「調度品」のようなクラス感が強調されている。どことなくカントリー風のテイストなのに、あか抜けて見えるインテリアはさすが、ボルボのグローバル規模でのベストセラー・モデルだ。
この日は糸島の海沿いのワインディングを経由して、福岡へ戻った。足まわりは概して、ストローク量控えめながら感触がしなやか。横方向の素早さを強調せず、ほんの一瞬のタメを伴って忠実に反応する、適度にスポーティなハンドリングと相まって、XC60には最高のステージだった。
◆『XC40』本来のキャラを感じさせるMHEVの魅力
福岡市内のホテルから出発して、撮影を進めながら一日で帰って来られ、隣の空港エリアと微妙にかぶらない範囲かつ陸路のドライブとして妙味のありそうな行先とはどこか? むしろ選択肢があり過ぎて前日の晩からずっと悩んだが、二日目は平戸島にいってみることにした。これとて長崎空港や佐賀空港の方が福岡空港より近いだろう。でも生月島と並んで橋で繋がっている日本としては最西端というところが、コロナ明け早々の旅として今までにない経験をしてみたい気分というか、ひょんな気を起こさせたのだ。
朝一番に割り当てられた試乗車は『XC40 アルティメイトB4 AWD』だ。これは現在、XC40の中ではB3というFFのベースモデルの上を担うICE(内燃機関)モデルのハイエンドで、取材時の車両価格は579万円。前期型との大きな違いは、2リットルの直4ガソリンターボエンジンはアトキンソンサイクルに、組み合わされるトランスミッションもボルボ内製の電子制御式7速DCTに改められ、しかも48Vのマイルドハイブリッドシステムが組み合わされたこと。つまり、あえて車名に含まれないものの、B3と並んでMHEVなのだ。ちなみにシフト作動は、油圧ではなく電気モーターを介して行われる。
走り出しからタウンスピードでの徐行域はやはり、昨日のEV版のXC40に比べて軽い。それもそのはず、車両重量は1750kgでEV比で40kgも少ないのだから、電気モーターに導かれた転がり出しでは、それが差として感じられるのだ。とはいえ前日のXC60リチャージのようなPHEVが電気モーターのトルクでグイグイと車体を引っ張り上げるのに対し、このXC40は概して10km/hより上ではエンジンがかかり始める。エンジンがいちばん燃料を消費しやすいゼロ発進の不得手な領域をキチンと電気モーターがカバーして、あとは圧縮比を高めてリーンにキレイに燃やしきるICEが受け持つ、そんなロジックなのだ。
電気のメリットはさすが変速フィールにも表れていて、ドゴッとかボゴッとした繋がりの唐突さはなく、シュッ、シュンとシフトアップでもシフトダウンでも静かに優しく繋いでみせる。走り味の軽さとカジュアルさ、そんなXC40本来のキャラクターというか魅力を、むしろこのMHEV版にこそ感じる人は少なくないだろう。
なぜなら、このMHEVには「チャコール&ブロンド」というコクある色合いのレザーシートの内装が用意されているからだ。レザーフリー内装が基本テーマといえるXC40リチャージとやはりラインナップ体系が異なる、よりクラシックな選択肢ともいえる。それでいて、シフトコンソールにオレフォス製クリスタルのシフトノブが光る辺りは、電動化モデルのひとつであることを静かに主張する。
西九州自動車道は決して流れがいいわけでもなく、時には車線も減ったり、ペースの掴みづらいルートだった。そういう知らない道での退屈さや疲れを、質感の高い内装が和らげてくれる効果は、図り難いとはいえ見逃せない。平たくいって、ドライブのアテが外れて楽しめる道でなかったとしても、車内で過ごした時間に対して徒労感にも似た虚しさを抱かせないところだ。それがXC40のようなベーシックなSUVにも備わっているのがボルボであり、その凄味に今さらながらに気づく。
◆静けさのレベルが違う、道を選ばない『V90 PHEV』
初夏というより真夏に近い強い陽射しの中を進んでいくと、緑の島々を繋ぐ青い海の上に真っ赤な橋が架かっている、そんな絶景が開けた。平戸大橋だ。福岡から140kmそこそこながらゆうに3時間を費やした、そんな道中の疲れも報われる。橋のたもとのパーキングで、この旅で4台めとなる試乗車、『V90リチャージ アルティメイトT8 AWD プラグインハイブリッド』に乗り換えた。
これまでに乗ってきたXC40の2台もXC60も十分に静かだったのだが、V90の静けさはレベルが違う。ドアを閉めると完全に外界から仕切られ、一瞬の間をおいて静寂が訪れるような感覚がある。欧州Eセグメントというハイエンドのドライバーズカーとして、ドイツ御三家に割って入っただけのことはある。このクラスにふさわしい品格が、今世代のV90にはキチンと備わっている。
上下動が少ないのに鷹揚な乗り心地で、2940mmのロングホイールベースを活かして適度にゆったりしながら、それでいて車体のマスが掴みやすい滑らかなステアリングフィールは、相反する美点を高いレベルで統合している、そんなV90ならではの美点だ。このクラスのステーションワゴンとして、クオリティとはつねに複数形で多面的なものでなくてはならないのだ。
ドライブモードをパワー重視の設定にして、ワインディングでペースを上げてみても、分かりやすくトルク&パワーがドンと上のせされるというより、いち操作に対する仕事量を増やしてくれて結果的により速いペースにもっていきやすくなる、そういう感覚だ。いわばドライブモード切替ごとに、異なる別の車になるのではなく、あくまで乗り手の意図をバックアップして援けるという調子なのだ。
だからドライビングを楽しむにあたって、前後輪どちらかあるいは両方がどう駆動しているのか、400Nm・317psのICEと前後の電気モーターのバランスが瞬間的にどうなっているのかとか、PHEVパワートレインが仕事ぶりを主張してこない。それらを意識するにはボディの剛性感まで含め、車があまりに静かで、意図した操作に対し予想よりほんの半テンポだけ素早く、この決して小さくない巨躯が忠実に反応する。操って車との対話を楽しむ以上に、乗り手に付き従うからこそ純粋にドライビングに没頭させる、そういうタイプなのだ。だから神社仏閣とカトリックの天主堂が同居する狭い街区や、アップダウンの多い幹線道路といっ、変化に富んだ平戸島の道を、ストレスに感じることなく走り続けられた。
ストレスのなさ、エフォートレスであることから生まれるクオリティは、動的質感の話だけに終わらない。試乗した4台いずれもそうだが、インフォテイメントの検索インターフェイスとしてグーグルの音声認識が当たり前に使える点も、ボルボ流の快適さのカギといえる。浮いた労力を何に繋げるか? そこまでがエクスペリエンスとして設計されているようなのだ。
市街を少し外れて外海に臨む辺りに、平戸オランダ商館がある。国籍こそ違えど「航海者」という意味で、不思議とボルボV90が似合う背景に見えた。躾やプログラミングというレベルではなく、人間の感覚にかくも巧みに沿えるほど調律の行き届いた、統合力の高いPHEVだからこそ、V90は道を選ばないのだろう。さりげなく押しつけることなく、ステーションワゴンとして進化すべき方向性をも、見事に示していた。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
結論から述べてしまうと、ミディアム以上のセグメントのEVやPHEV、つまりそこそこ車格の大きな電動車なら、東京のような大都市より地方都市の方が向いていると思う。ここで分けて考えておきたいのはコンパクト&スモールEV。市街地でも住宅街でも村でも、人里限定のコミューター用途として高速道路にのらない前提の軽EV、あるいは高速道路やバイパスを走るとしてもたまに程度の、欧州Bセグ・ハッチバック相当のEVだ。
そうではない、ある程度大きな容量のバッテリーを積んで実用レンジも400km超に届く、ミッド+α車格のEVであれば、日常生活圏といえる近隣の町が半径50~150km以内にあって、戸建て率の高さゆえに満充電で出発できる環境が整えやすい地方なら、行き先や途中で急速充電しなくても大抵、自宅まで帰って来られる。具体的には京阪神や九州辺りでこそ、日常的にEVやPHEVが活かしやすい。じつをいって東京が日本の中では、物理的な距離感の上で孤立している都市なのだ。
現実に陸路のレンジだけでなく、空路のレンジという観点でも、日本で定期的に買い物を楽しむアジアの富裕なインバウンド客にとって、3時間の壁を超えずに毎週末のように気軽に通うのなら、大阪や福岡がいちばん便利らしい。東アジアと九州や関西の近さは、歴史的に水路の時代から証明されている通り、空路でも変わらないのだ。
だから今回ボルボの試乗会が福岡をベースに行われ、2日間で4台を試乗するために好きなところへ走り出していいというルールというか自由さに、多少なりと面食らった。他のジャーナリストや編集部員は、萩やら長崎やら阿蘇やら、けっこう遠くを目指すらしい。とはいえそれらはもう隣の別の空港から向かう行先とも思えるので、あえて福岡空港圏内の陸路で妙味のありそうなところを考えてみた。
先ほど触れた古代の水路ではないが、志賀島に行ってみることにした。金印の実物は市内の博物館に展示されているが、むしろ金印の出土した場所の雰囲気を見てみたかった。
◆重さを活かした乗り心地と、キビキビした動的質感が同居する
最初に割り当てられた試乗車は、『XC40リチャージ アルティメイト ツインモーター』、つまりEVだ。少しグレーがかった緑色のボディカラーは「セージグリーン」。また内装色は「チャコール」と呼ばれるもののかなり薄いグレーで、ウールブレンドのファブリックに白パイピングの施されたシートは、いい意味でEVらしからぬ温かみを感じさせる。
手元のシフトノブは、ノーベル賞の晩餐会でも用いられることで有名な、オレフォス製のクリスタルだ。シンプルでいて高いクオリティを感じさせる内装は、北欧ブランドとしてのボルボの面目躍如といえる。しかも開放的なサンルーフのおかげもあって、新緑の季節を楽しむのにまたとない仕様だ。
福岡の都市高速の路面は、首都高速のそれと比べてもかなり平滑性が高いが、XC40リチャージは継ぎ目ギャップでもEVにありがちなパタパタ感を足元から伝えてくることなく、至極滑らかに巡航をこなす。しかし強くアクセルを踏み込むと、AWDで660Nm・408psを発揮するパワートレインの加速感は凄まじい。
都市高速を下りてアイランドシティを抜け、海の中道という砂州だけが、志賀島に通じる一本道だ。島を一周する道は舗装が古く決してフラットな路面ではなかったが、XC40リチャージの乗り心地が荒れることはなかった。2150kgという車重はCセグのSUVとしては重いが、78kWh容量のバッテリーと積むEVとしては軽い。重さを活かした乗り心地のよさと、キビキビした動的質感が同居する、そういう走りだ。
金印が出土したという金印公園の高台に寄ってみた。実際に発見された水田はどうやら今や海の中らしいが、その先に壱岐・対馬が控えるとはいえ、志賀島ひいては福岡が国境の街という雰囲気は何となく漂ってきた。
続いて撮影のため糸島方面へ向かった。先ほどより都市高速の交通量は明らかに増えて、周りの車の不規則なペースに合わせて慣れない道を走るには、ワンペダル・モードが重宝した。中央のタッチスクリーン内で、ドライビング>ドライビングダイナミクスで、ワンペダル・ドライブのスライダーをONに設定にして、アクセルから足を浮かせると、回生による減速Gと制動がかなり強く利き始める。
市街地で用いても、ブレーキペダルに足をのせずに完全停止までもっていける。回生の強さを段階的にパドルシフトなど手元で選ぶ仕掛けはないが、だからこそ乗り手が意識して選んだモードとして、完全停止ができるワンペダルを備えられたのだろう。またフロントのボンネット下に、カバー付きのトランクスペースが設けられているのも、EVならではの芸当といえる。
◆『XC60 PHEV』のクラス感は、さすがのベストセラー
糸島の海岸ではもう一台の試乗車、『XC60リチャージ アルティメイトT6 AWDプラグインハイブリッド』に乗り換えた。こちらのパワーユニットは2リットルターボ+前後それぞれの電気モーターという、PHEVだ。
じつはボルボのPHEVパワートレインは昨年からガラリと改変され、ピュアモードというEV状態で走行できる距離がカタログ値では81kmと、相当に伸びた。ハイブリッドとはいえ電気の比重が明らかに高くなっているのだ。それでいてドライバビリティはあらゆる局面で向上して、キビキビ感も滑らかさも増している。ハイブリッド・モードで走らせながら感じるのは、電気とモーターの切り替えが恐ろしくスムーズで静粛性も相当に高いため、ある程度の巡航速度になると、どちらで走っているのか本当に意識しなくなる。
コースティングも相当巧みに使っているようだが、ひとたびアクセルを踏み込めば電気モーターの駆動レスポンスのダイレクトさに導かれつつ、さらに必要とあればエンジンが目覚める。その一連の繋ぎにモタついたところが一切ない。従来のダウンサイジングターボと違って最大トルクは2500rpmからと、下の領域は電気モーターに任せられ、エンジンの伸びをも堪能できる。それこそが、走りにおけるPHEVの強みであることを実感できる。
それにしても、同じ「アルティメイト」内装とはいえ、カジュアルな印象だったXC40に比べるとXC60の内装には、ドリンクホルダーにスライドシャッターのカバーが付くなど、ウッドの加飾アクセントによって「調度品」のようなクラス感が強調されている。どことなくカントリー風のテイストなのに、あか抜けて見えるインテリアはさすが、ボルボのグローバル規模でのベストセラー・モデルだ。
この日は糸島の海沿いのワインディングを経由して、福岡へ戻った。足まわりは概して、ストローク量控えめながら感触がしなやか。横方向の素早さを強調せず、ほんの一瞬のタメを伴って忠実に反応する、適度にスポーティなハンドリングと相まって、XC60には最高のステージだった。
◆『XC40』本来のキャラを感じさせるMHEVの魅力
福岡市内のホテルから出発して、撮影を進めながら一日で帰って来られ、隣の空港エリアと微妙にかぶらない範囲かつ陸路のドライブとして妙味のありそうな行先とはどこか? むしろ選択肢があり過ぎて前日の晩からずっと悩んだが、二日目は平戸島にいってみることにした。これとて長崎空港や佐賀空港の方が福岡空港より近いだろう。でも生月島と並んで橋で繋がっている日本としては最西端というところが、コロナ明け早々の旅として今までにない経験をしてみたい気分というか、ひょんな気を起こさせたのだ。
朝一番に割り当てられた試乗車は『XC40 アルティメイトB4 AWD』だ。これは現在、XC40の中ではB3というFFのベースモデルの上を担うICE(内燃機関)モデルのハイエンドで、取材時の車両価格は579万円。前期型との大きな違いは、2リットルの直4ガソリンターボエンジンはアトキンソンサイクルに、組み合わされるトランスミッションもボルボ内製の電子制御式7速DCTに改められ、しかも48Vのマイルドハイブリッドシステムが組み合わされたこと。つまり、あえて車名に含まれないものの、B3と並んでMHEVなのだ。ちなみにシフト作動は、油圧ではなく電気モーターを介して行われる。
走り出しからタウンスピードでの徐行域はやはり、昨日のEV版のXC40に比べて軽い。それもそのはず、車両重量は1750kgでEV比で40kgも少ないのだから、電気モーターに導かれた転がり出しでは、それが差として感じられるのだ。とはいえ前日のXC60リチャージのようなPHEVが電気モーターのトルクでグイグイと車体を引っ張り上げるのに対し、このXC40は概して10km/hより上ではエンジンがかかり始める。エンジンがいちばん燃料を消費しやすいゼロ発進の不得手な領域をキチンと電気モーターがカバーして、あとは圧縮比を高めてリーンにキレイに燃やしきるICEが受け持つ、そんなロジックなのだ。
電気のメリットはさすが変速フィールにも表れていて、ドゴッとかボゴッとした繋がりの唐突さはなく、シュッ、シュンとシフトアップでもシフトダウンでも静かに優しく繋いでみせる。走り味の軽さとカジュアルさ、そんなXC40本来のキャラクターというか魅力を、むしろこのMHEV版にこそ感じる人は少なくないだろう。
なぜなら、このMHEVには「チャコール&ブロンド」というコクある色合いのレザーシートの内装が用意されているからだ。レザーフリー内装が基本テーマといえるXC40リチャージとやはりラインナップ体系が異なる、よりクラシックな選択肢ともいえる。それでいて、シフトコンソールにオレフォス製クリスタルのシフトノブが光る辺りは、電動化モデルのひとつであることを静かに主張する。
西九州自動車道は決して流れがいいわけでもなく、時には車線も減ったり、ペースの掴みづらいルートだった。そういう知らない道での退屈さや疲れを、質感の高い内装が和らげてくれる効果は、図り難いとはいえ見逃せない。平たくいって、ドライブのアテが外れて楽しめる道でなかったとしても、車内で過ごした時間に対して徒労感にも似た虚しさを抱かせないところだ。それがXC40のようなベーシックなSUVにも備わっているのがボルボであり、その凄味に今さらながらに気づく。
◆静けさのレベルが違う、道を選ばない『V90 PHEV』
初夏というより真夏に近い強い陽射しの中を進んでいくと、緑の島々を繋ぐ青い海の上に真っ赤な橋が架かっている、そんな絶景が開けた。平戸大橋だ。福岡から140kmそこそこながらゆうに3時間を費やした、そんな道中の疲れも報われる。橋のたもとのパーキングで、この旅で4台めとなる試乗車、『V90リチャージ アルティメイトT8 AWD プラグインハイブリッド』に乗り換えた。
これまでに乗ってきたXC40の2台もXC60も十分に静かだったのだが、V90の静けさはレベルが違う。ドアを閉めると完全に外界から仕切られ、一瞬の間をおいて静寂が訪れるような感覚がある。欧州Eセグメントというハイエンドのドライバーズカーとして、ドイツ御三家に割って入っただけのことはある。このクラスにふさわしい品格が、今世代のV90にはキチンと備わっている。
上下動が少ないのに鷹揚な乗り心地で、2940mmのロングホイールベースを活かして適度にゆったりしながら、それでいて車体のマスが掴みやすい滑らかなステアリングフィールは、相反する美点を高いレベルで統合している、そんなV90ならではの美点だ。このクラスのステーションワゴンとして、クオリティとはつねに複数形で多面的なものでなくてはならないのだ。
ドライブモードをパワー重視の設定にして、ワインディングでペースを上げてみても、分かりやすくトルク&パワーがドンと上のせされるというより、いち操作に対する仕事量を増やしてくれて結果的により速いペースにもっていきやすくなる、そういう感覚だ。いわばドライブモード切替ごとに、異なる別の車になるのではなく、あくまで乗り手の意図をバックアップして援けるという調子なのだ。
だからドライビングを楽しむにあたって、前後輪どちらかあるいは両方がどう駆動しているのか、400Nm・317psのICEと前後の電気モーターのバランスが瞬間的にどうなっているのかとか、PHEVパワートレインが仕事ぶりを主張してこない。それらを意識するにはボディの剛性感まで含め、車があまりに静かで、意図した操作に対し予想よりほんの半テンポだけ素早く、この決して小さくない巨躯が忠実に反応する。操って車との対話を楽しむ以上に、乗り手に付き従うからこそ純粋にドライビングに没頭させる、そういうタイプなのだ。だから神社仏閣とカトリックの天主堂が同居する狭い街区や、アップダウンの多い幹線道路といっ、変化に富んだ平戸島の道を、ストレスに感じることなく走り続けられた。
ストレスのなさ、エフォートレスであることから生まれるクオリティは、動的質感の話だけに終わらない。試乗した4台いずれもそうだが、インフォテイメントの検索インターフェイスとしてグーグルの音声認識が当たり前に使える点も、ボルボ流の快適さのカギといえる。浮いた労力を何に繋げるか? そこまでがエクスペリエンスとして設計されているようなのだ。
市街を少し外れて外海に臨む辺りに、平戸オランダ商館がある。国籍こそ違えど「航海者」という意味で、不思議とボルボV90が似合う背景に見えた。躾やプログラミングというレベルではなく、人間の感覚にかくも巧みに沿えるほど調律の行き届いた、統合力の高いPHEVだからこそ、V90は道を選ばないのだろう。さりげなく押しつけることなく、ステーションワゴンとして進化すべき方向性をも、見事に示していた。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
最新ニュース
-
-
トヨタ『ヤリス』、「GR SPORT」のスポーツ度がアップ…2025年型を欧州発表
2024.12.03
-
-
-
カスタムは『バランス』が超重要! 強弱付けて大失敗?~カスタムHOW TO~
2024.12.03
-
-
-
トヨタ『ヤリスクロス』の特別仕様車公開…仏工場の生産500万台を祝う
2024.12.03
-
-
-
メルセデス・マイバッハ『SLモノグラム』日本発表…高性能ラグジャリー2シーターの価格は?
2024.12.02
-
-
-
「3000GT誕生」初代トヨタ『スープラ』とセリカ、ソアラとの意外な関係性【懐かしのカーカタログ】
2024.12.02
-
-
-
【マセラティ GT2ストラダーレ】レーシングカーを公道で走らせる、マセラティならではのマジック
2024.12.02
-
-
-
「最後の本気出し過ぎだろ」トヨタ『スープラ』最終モデル発表に驚きの声あふれる
2024.12.01
-
最新ニュース
-
-
トヨタ『ヤリス』、「GR SPORT」のスポーツ度がアップ…2025年型を欧州発表
2024.12.03
-
-
-
カスタムは『バランス』が超重要! 強弱付けて大失敗?~カスタムHOW TO~
2024.12.03
-
-
-
トヨタ『ヤリスクロス』の特別仕様車公開…仏工場の生産500万台を祝う
2024.12.03
-
-
-
メルセデス・マイバッハ『SLモノグラム』日本発表…高性能ラグジャリー2シーターの価格は?
2024.12.02
-
-
-
「3000GT誕生」初代トヨタ『スープラ』とセリカ、ソアラとの意外な関係性【懐かしのカーカタログ】
2024.12.02
-
-
-
【マセラティ GT2ストラダーレ】レーシングカーを公道で走らせる、マセラティならではのマジック
2024.12.02
-
MORIZO on the Road