【ホンダ ヴェゼル 3500km試乗】国産勢にライバルなし!あとは“トラウマ”恐れず十分な生産体制を[後編]
◆「e:HEV」のパフォーマンス
第2世代ヴェゼルのハイブリッドシステムは第1世代のDCT(デュアルクラッチ変速機)+1モーター「i-DCD」からエンジン+発電機+走行用電気モーターの2モーター式「e:HEV」に変更された。
ハイブリッドにはエンジンを発電のみに用いるシリーズハイブリッド、エンジンパワーを駆動と発電に振り分けるコンバインドハイブリッド、スズキのハイブリッドのようにエンジン駆動を電気モーターがアシストするパラレルハイブリッドがある。ホンダのe:HEVはエンジンを発電に用いるシリーズを基本としつつエンジンで直接駆動したほうが効率がいい場合はパラレルに移行する、俗にシリーズ・パラレル型と呼ばれるもの。特性としてはシリーズとコンバインドの中間といったところである。
エンジン、走行用電気モーターの型式はサブコンパクトクラス『フィット』と同一だが、リチウムイオン電池のセル数がフィットの48個に対して60個に増強されており、電気モーターの最高出力もフィットの90kW(123ps)に対して96kW(131ps)と、より大きな数値になっている。ホンダのハイブリッド用バッテリーセルは定格電圧約3.7V、容量5Aなので、バッテリーパックの容量は約1.1kWという計算になる。
そんなe:HEVのパフォーマンスだが、まず滑らかさ、騒音・振動などについてはフル電気駆動になった恩恵で第1世代とは比べ物にならないくらい良くなった。バッテリーの電力残が十分な時や下り坂で減速エネルギー回生を行っている時はエンジンは停止しており、その時の静粛性の高さや微振動の少なさはBEV(バッテリー式電気自動車)と同等である。
気になるのはエンジンが発電を行うために起動した時にどうかという点であろうが、e:HEVが「i-MMD」と呼ばれていた時代、モデルで言えば旧型『ステップワゴン』や旧型『アコード』に比べるとエンジン透過音がかなり減ったというのが率直な感想。これは単にエンジンルームと客室間の遮音を頑張ったというだけでなく、エンジン回転数が高まる頻度が如実に減ったことが寄与しているように感じられた。
旧世代モデルでヴェゼルに非常に近いパワートレインのスペックを持ち、車両重量も近似している第3世代『インサイト』は負荷が高まるのに連動してエンジン回転数も上がるという挙動を示していた。これには物理的な理由付けがある。バッテリーに電気を蓄えるには発電した交流電力を直流に、さらにそれを動力に使うのに直流から交流に変換する必要があり、そのさいに往復ビンタでエネルギーロスが発生する。当時のホンダ技術陣はそのロスを嫌い、なるべく交直流変換が必要とならないよう負荷に合わせてエンジンパワー=発電量を精密に制御することに心血を注いだ。その点が同じシリーズハイブリッドでも電気自動車らしさを重視した日産自動車の「e-POWER」との大きな違いになっていた。
ヴェゼルは一転、負荷が少々大きくなったくらいではエンジン回転は高まらず恒速運転が保たれるという、e-POWER寄りの制御になった。この新しい制御ポリシーがパワートレインのスムーズネス向上、ノイズ・バイブレーション低減への貢献度はかなり高いように感じられた。ヴェゼルPLaYによく似合うジェントルフィールと言える。
◆実燃費性能は2割アップ!『インサイト』との違いは
一方でこういう制御はバッテリーと駆動システム間の電力のやり取りが多くなるぶん、効率面では犠牲になる部分も出てくる。果たして実際に走ってみてどうだったか、ツーリング中の区間実測燃費を紹介しておこう。
1.栃木・小山~岐阜・垂井(427.1km) 21.4km/リットル
長野・塩尻までは一般道、その後岐阜まで中央道。平均車速中高。
2.垂井~福岡・田川(790.1km) 23.2km/リットル
琵琶湖沿岸から若狭湾、丹後、山陰道経由。昼間走行が多く平均車速中庸。
3.田川~鹿児島(310.5km) 24.0km/リットル
一般道主体。平均車速中低。
4、鹿児島エリア(303.8km) 18.7km/リットル
市街地5:郊外2:高速3の比率で走行。市街地のみの推定燃費16km/リットル強。
5.鹿児島~福岡・田川(303.8km) 23.3km/リットル
高速主体だが大人しい走り。
6.田川~愛知・西尾(888.6km) 23.7km/リットル
山陰道、北陸道、名神高速などを乗り継ぎ。平均車速中高。
7.西尾~静岡・沼津(207.1km) 26.9km/リットル
国道バイパス主体。エンジン直結状態をなるべく維持させるなどエコに気を配って走行。
8.沼津~東京・世田谷(111.5km) 20.1km/リットル
新東名および東名高速で御殿場越え。高速区間の平均車速約100km/h。
全体的な印象だが、以前に比べて運転の仕方による燃費の上下の振れが以前に比べて小さくなり、ドライバーの運転技量への依存度はかなり低下した。テキトーな運転をしていてもバッテリーがバッファとなり、運転におけるさまざまなブレが起こす効率低下を吸収してくれるという感じである。半面、発電した電力を生で使うことが効率的には有利ということがわかっているユーザーにとってはシステムが半強制的にエネルギー需要を平準化させるのに足を引っ張られ、昔のシステムに比べて好燃費を叩き出しにくくなったという側面もあった。
旧世代モデルとの比較だが、第1世代ヴェゼルのi-DCDモデルには完勝。過去のロングドライブ時の経験にかんがみて、同じような平均車速だと第2世代のほうが2割前後いい。第1世代が19km/リットルのところを23km/リットルで走るというイメージである。車両重量1.4トン弱のBセグメントクロスオーバーSUVとしては十分に良いと言える数値と言えよう。
一方、効率重視の制御ポリシーを持っていた第3世代インサイトと比較すると少なからずビハインドがあった。筆者が過去にお届けしたインサイトの4100km試乗記のデータと比べると少し負けている程度だが、一部区間を除きインサイトのほうがはるかにタフなドライブだったことを考慮すると、差は少なくとも1割以上というのが実感だった。
インサイトは空力特性が非常に良く、空走時の転がり抵抗がきわめて小さいという点でそもそもヴェゼルより優位なのだが、それを勘案しても若干差が大きい。インサイトは後期型へのチェンジ時にエンジンルームからの遮音が強化されたのかノイズが激減し、エンジン回転の上昇がまったく気にならなくなった。パワートレインの落ち着きという点ではヴェゼルが勝るが、燃費を含めたパフォーマンスと快適性のバランス的には後期型インサイトくらいがベストだったのではないかと思ったのも確かである。
◆先代とはもはやキャラクターが違う
最後に動力性能だが、合法的計測が可能な場所での一発勝負で得られたGPS計測器を使用しての0-100km/h(メーター読み105km/h)加速タイムは10秒3。電気モーターの出力と車両重量がほぼ同じ第3世代インサイトに比べてちょうど2秒遅れである。が、実際のドライブでは鈍足という印象は受けなかった。
登坂車線での追い越しなどでは羽のように軽々と加速して一気呵成にパスすることができるし、車線間の速度差が大きい新東名の車線変更もノーストレスだった。インサイトと比べてとくに大きく負けていたのは0-50km/hの飛び出し。スポーツモードでもパワーの立ち上がりがマイルドなのがタイムが出なかった要因であろう。
第1世代ヴェゼルとの比較では、もはやキャラクターが違うというくらいの差があった。これは0-100km/h加速が7秒台前半という、デュアルクラッチハイブリッド+高出力型1.5リットルDOHCの組み合わせによる速さが反則的だったと言ったほうがいいかもしれない。
i-DCDはバグを取り切れないまま発売を強行し、度重なるリコールを出すハメに陥ったという大失態が記憶に残るが、燃費とパワーの両立、そしてスムーズさには欠けるものの変速フィールは萌え要素になるくらい切れ味抜群という、実にホンダらしいハイブリッドパワートレインだった。個人的にはあれが本格的な技術的熟成をみることなく1世代限りで消えてしまったのは少々残念。
もちろん時代は逆には進まないので、かくなるうえは今のe:HEVを脳内麻薬を分泌させるくらいのレベルに熟成させていただきたいものだ。i-MMDモデル時代は十分速かったのだし、現行『シビック』のシリーズハイブリッドは爽快感の点では申し分なかったので、さらなる熟成を期待したい。
◆絶対的な広さと圧迫感の少ないインテリア
このところ車内の居心地の良さの追求に急激に舵を切った感があるホンダだが、ヴェゼルも居住区の絶対的な広さと圧迫感の少ないインテリアデザインを持つ。それに加えてアイボリーカラーのインテリアマテリアルと広大な面積のグラストップが装備されたPLaYは、第2世代ヴェゼルのラインナップの中でヴェゼルらしさが最も色濃いグレードだと強く感じた。
まずは乗降性。この部分は他のグレードと変わらない。ルーフ高が第1世代より低くなったにもかかわらず前席、後席とも相当に改善された。とくに良くなったのは前席。第1世代はピラーの傾斜やカーブがきつかったため頭とピラーが干渉する傾向が顕著だったが、第2世代は乗り込むときの頭のポジションがルーフの水平部分となるため干渉は大幅に減った。後席もドア開口部上端の後傾が緩くなったことで、大人でも頭をくぐらせるように乗り込まずにすむようになった。
車内の広さや眺望も基本的には他グレードと同じ。優秀なのは後席のレッグスペースで、Dセグメントセダンに比肩する広さ。また後席窓ガラスの上下幅がパセンジャーのアイポイント付近までしっかり確保されているので圧迫感が少なく、車内騒音がCピラーに反射して耳に入るといったクーペSUVにありがちな不快感も皆無だった。
サイドウインドウグラフィックは水平基調の台形へと第1世代から大きく変わったが、車内の閉所感を緩和するための機能追求型デザインと言える。ちなみに欧州市場ではバックドアや後席ドアの濃色ティンテッドガラスはオプション扱い。全面淡色ガラスだとさらに雰囲気が違ってくるのだろうな、などという想像が頭をよぎった。
前席も圧迫感は小さく、居住感は非常に良かった。メータークラスタこそ同社のBセグメント乗用車フィットのようなパッドディスプレイではなく一般的な二眼メーター式だが、ダッシュボード全体はフィット、シビックと同様低くデザインされており、開放感を上げるのに大いに寄与していた。
◆明るく開放的である、という個性
そんなヴェゼルの車内の開放感を倍増させていたのが、PLaYのアイボリー基調のトリムと広大なグラストップである。ホンダは北米市場に強いということで、伝統的に同地で人気が高い明るい色のインテリアづくりを得意としていた。ヴェゼルPLaYのインテリアカラーもアメリカ版のシビックやインサイトなどで多用されていたものだ。日本仕様のPLaYはルーフやピラーのトリムが黒だが、アイボリーインテリアを持つ欧州仕様の最高グレードはそこもアイボリーなので、それに比べるとまだささやかなほうである。
この明色の室内マテリアルは外から入ってきた光を反射するので室内を明るくするのにきわめて効果的で、空間を広く感じさせた。住宅でも壁紙を録音スタジオのように黒にするかリビングのように白にするかで明るさや圧迫感が全然違ってくるもの。車は家と違って車内が暗いほうがいいという意見も多いであろうが、現在日本で販売されているSUVを見ると高級クラスを除き国産車、輸入車を問わず真っ暗なインテリアばかりで、明るい車内が好きだというユーザーのニーズはほとんど無視されている。ヴェゼルPLaYのインテリアはそんなトレンドの逆を行くニッチ志向だが、狙いとしてはなかなか良いのではないかと思われた。
もう一点の特徴であるグラストップも開放感を高めるのにこのうえなく寄与していた。スライディング機構を持たない固定式で、直射日光が強烈すぎるときに光を遮断するサンシェードも前席は手動スライド、後席はデタッチャブルで使わないときは袋に入れて荷室に置いておくという原始的なものだが、クルマは採光性が高いほうがいいというユーザーにとっては嬉しい装備であることに変わりはない。なお、気温が30度、空は快晴という中で海岸沿いを走るシチュエーションもあったが、グラストップのガラスには熱線吸収、紫外線遮断などのスペックがかなり高いものが使われているようで、暑かったりジリジリ焼かれたりという不快感はきわめて小さかった。
◆荷室の使い勝手は退歩した…?
オーディオはヴェゼルの全グレードの中で最も充実している。標準でも8スピーカー仕様で、さらにオプションとして10スピーカーのプレミアムオーディオも用意される。ロードテスト車は後者のプレミアムオーディオが搭載されていたが、非常にヌケの良い爽やかなサウンドで、Spotifyのストリーミング再生くらいのレベルでは文句のつけどころがないという感じだった。少々音量を上げても内装がビリついたりしないのも好印象で、内装開発においてオーディオ部隊が相当に頑張ったという痕跡がありありとうかがえた。
最後に荷室だが、ここは第1世代からいささか退歩した。第1世代は詳細部分の設計を詰めに詰めてスクエアスペースを基本にデッドになりそうなところも実際に活用できるようスペース化するという見事な荷室を実現させていた。第2世代も荷室へのボディパーツの張り出しを削減してスクエアスペースを確保するというコンセプト自体は変わっていないが、横方向に長尺物を積めるようなスペースがなくなり、ユーザーが知恵を使って使い倒すような楽しみは薄れた。
また奥行きが浅くなったことで旅行用トランクの収容力も第1世代比で落ちた。このあたりは荷室と居住区のバランス型から居住区重視型へのコンセプトチェンジも影響しているものと考えられた。ないものねだりとしては後席にスライド機構があればCセグメントステーションワゴンのような使い方もできるのにと思ったが、日本ではSUVに荷物を満載してヴァカンスに出かけるというライフスタイルは一般的ではないので乗員重視と割り切る判断は大いにありだし、BセグメントSUVのライバル比較ではこれでも十分広い部類であることを考えれば、多くのユーザーにとってネガティブファクターにはならないだろう。
◆なぜ「PlaY」の生産計画を見誤ったのか
スポーティなクーペルックSUVを身上としていた第1世代から心地良さを売りとする小型SUVへと大きなキャラクターチェンジを行った第2世代ヴェゼル。PLaYはシリーズの中でその特徴を最も濃密に享受できるという点で、大変魅力的なグレードというのが試乗を終えての実感だった。とくに建築技術の発達で室内の明るい家で育った比較的若い世代にとって、明るくルーミーなインテリアは大いにポジティブに感じられることだろう。他のグレードもそれぞれに良さを持ってはいるのだが、PLaYはハッキリ言って別物。個人的には断然PLaY推しである。
ところがこのPLaY、2021年の発売からいくばくも経たないうちに受注停止。2022年に期間限定で受注を再開したが、その後ふたたび長期間オーダーを受け付けてないという状況が続いている。理由はホンダの想定とは裏腹に発売後の注文がPLaYに集中し、あっという間に生産計画をオーバーフローしてしまったからだという。現在はZグレードが圧倒多数だが、その中にはPLaYを注文することができないため次善策としてZを選んだ顧客が相当数いるものと思われる。
PLaYは第2世代ヴェゼルのラインナップの中で最も価格が高く、かつAWD(4輪駆動)が選べないなど、ホンダとしては遊びゴコロを増したグレードも用意しておくかという程度の気持ちだったことは容易に察しがつく。が、はじけた仕様であるPLaYこそベストセレクションという今回のテストドライブの実感に照らし合わせれば、PLaYに殺到したユーザーの気持ちは十分理解できる。
ホンダがPLaYの比率を低く見積もったのは、過去のグラストップモデルが連戦連敗だったことと無関係ではあるまい。ホンダのグラストップ作りの歴史は長く、古くは昭和時代、小型スポーティモデルの第2世代『“サイバースポーツ”CR-X』にグラストップ仕様を設定。平成期にはグラストップを大きなウリにしようと試みたこともあり、サブコンパクト乗用車の第2世代『フィット』、ミニワゴンの『エアウェイブ』や『フィットシャトル』などに続々とグラストップがオプション設定された。が、この平成期のチャレンジはうまくいかず、グラストップモデルの装着比率は低迷。その後、このヴェゼルPLaYまで長いブランクができた。
そんな状況をみると、ホンダにとってグラストップが一種のトラウマになってしまったのも無理からぬところはある。が、「流行など文字通り流れていく」という故・岡本太郎画伯の言葉どおり、トレンドなどというものは常に揺れ動くもの。過去にダメだったからといって、現在や未来もダメと確定したわけでも何でもない。
作り手は“本当に気持ち良いコンパクトSUVはこういうヤツ”という信念を持ってPLaYを作ったことはロングドライブで受けた印象からもまず間違いないと思う。ならば「お値段は高いですが、これがヴェゼルでやりたかったことなんですよ」と、PR、生産計画の両面でもっと前面に押し出してもよかった。さすれば第2世代ヴェゼルのイメージ作りもまた一味違ってきたのではなかろうか。ホンダが今やるべきことは作りやすいグレードに誘導することではなく、PLaYを選択したい顧客の注文に応えられるよう生産体制をしっかり取ることだ。
◆国産勢にライバルなし
最後にライバル考。PLaYに限って言えば、仕様的に国産勢に目立ったライバルはいない。グラストップ装備、居住区と荷室のバランス、ボディサイズの3点から真っ向勝負となりそうなのは仏プジョーの小型SUV『2008』だ。ホイールベースはまったく同じ2610mmで、全長もヴェゼルPLaYが4330mm、2008が4305mmとほぼ同じ。2008はバッテリー式電気自動車(BEV)と内燃機関車のみでハイブリッドがないが、内燃機関モデルに1.5リットルターボディーゼル「HDi」があるので、それが最も強く競合するだろう。
PLaYのアドバンテージは明るい内装、グラストップの面積、圧倒的な後席の広さ、静粛性など。2008HDiの利点はグラストップが開閉可能なこと、荷室の奥行き、ハーシュネス(路面のザラザラ感)カット、全高が古いタイプの立体駐車場にも入れられる1550mmといったところ。
走ったシーンが違うので直接比較はできないが、燃費のイメージは市街地ではヴェゼルが勝ち、中速では互角、高速では2008が有利。同じ1リットルの燃料でも軽油はガソリンより多量のCO2を出すこともあってCO2排出量ではヴェゼルが圧勝する半面、燃料コストでは軽油とガソリンの価格差もあって2008が有利か。
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