【日産 セレナ 新型試乗】ガソリン車と一線を画すe-POWER、ノアヴォクとの競争領域は…渡辺敏史
5ナンバーミニバンというカテゴライズは最近通用しなくなっているが、日産『セレナ』はその種に属するコテコテのドメスティックMPVだ。ここにエントリーするブランドは他に2つ。ご存知の通り、トヨタの『ノア』&『ヴォクシー』とホンダの『ステップワゴン』とがっぷり四つを組む。
これらは『N-BOX』のような軽スーパーハイトワゴンや、ルーミーのような5ナンバーコンパクトワゴンと同様、100%国内需要の、いってみればコモディティの極みのようなクルマだ。いずれも居住性や積載量はなんとなく定まった枠内で精一杯突き詰めてられている。新型セレナは室内長と幅においてクラストップを謳うが、乗り込んでみてもそれを実感することは難しい。
それよりもわかりやすい競争領域となっているのはシートアレンジで、ノア&ヴォクシーは2列目シートの超ロングスライドを、ステップワゴンは3列目シートのダイブダウン格納機能を売りにしている。新型セレナは2列目中央部のセンターマルチシートを前後自在にスライドさせることで乗るにも積むにもきめ細かなアレンジが出来ることを売りにしていたが、e-POWERでは前席下にバッテリーを置いた関係でその利便が享受できなかった。新型ではそのバッテリー搭載を工夫することでe-POWERにも同等機能の8人乗り仕様が設定出来たのがトピックとなる。
一方、キャプテンシートの7人乗りについては「LUXION」という新グレードを新たに設定し、上質さをより重視した仕立てを施した。また、いずれも3列目シートを跳ね上げることによって出来た荷室に積んだ荷物は、独立開閉するリアゲートのガラス部からアクセスできる機能は継続採用している。
つまり、新型セレナについては先行した2リットルガソリンとe-POWERとの間で使い勝手面の差異はほぼないということだ。その上で、e-POWERの側はパワートレインを完全に刷新するなど、その伸びしろはe-POWERの側に顕著にみてとれる。
◆2.5~3リットル級のモーター出力
新型セレナ e-POWERの駆動モーターの出力は、前型比で約20%アップの163ps/315Nmを発揮。ガソリンエンジでいえば2.5リットル~3リットル級のスペックというところだろうか。エンジンの側は新設計となる1.4リットル直噴3気筒のHR14DDe型で、ケース類は発電専用設計としてコンパクト化を図ると共に剛性を強化、更にバランサーを搭載するなど音・振動面のリファインを徹底的に施している。こちらもアウトプットは98ps/123Nmと前型比で約17~19%の向上を果たしている。このパワーアップは全てが発電効率向上のために用いられるわけだ。
新型セレナのガソリンモデルはこの2月、電動車バッテリーのリユースやリサイクルを手掛ける日産と住友商事の合弁会社に取材に行く際に、福島までドライブする機会があった。大人4人が乗っての移動だったが、13km/リットルと燃費の健闘ぶりに驚かされる一方で、高負荷・高荷重でのハコのワナワナ感に、さすがに車台の基本設計の古さが感じられる。ライバルの洗練度に対すれば、見劣りは否めないという旨は正直に関係者に伝えたのを覚えている。
それからちょっと遅れて登場したe-POWERの印象はいかがなものか。が、試乗日の天候は台風接近の余波で運悪く大雨。高速道路でのハンズオフを実現するプロパイロット2.0を搭載したLUXIONの実力も、システム作動条件が整わず体験できなかったほどの土砂降りだった。しまいには方々で通行止めが発生するほどの悪環境ゆえ、こりゃあ踏んでどうこう曲がって云々はわかんないだろうなと半ば諦め気味に、ひとまずトンネルの多い方面を目指して高速道路に乗ってみた。
◆「据わりの良さ」がガソリンモデルとは一味違う
ずぶずぶの路面を前にまず気づいたのは、車体の据わりの良さがガソリンモデルとは一味違うことだった。120kgの重量差はこういう場面では安定の側に効く。が、それに加えて床板周りから伝わってくる振動の少なさも印象的だ。これもまた、バッテリーユニットが補剛材の役割を果たしてくれているのだろう。
と、そんなことを考えながらトンネルに入り、路面やクルマから水気が飛んだところでわかったのが、パワートレインの音振が著しく低減したことだった。前型に対してはもちろん、現行のガソリンモデルに対してもその回転感は滑らかで3気筒の癖は感じられない。モーター走行の長所を際立てるべく、静粛性向上に遮音はかなり気遣ったと聞いてはいたが、源流であるエンジン側の対策効果が大きいことは明らかだ。
加えて下り坂など回生回収によりバッテリーが満タンになってしまうような状況では、積極的に電気を持ち出しモーター走行するという充放電の先読み制御もエンジン稼働の頻度を抑えることに貢献しているのだろう。ちなみにこの制御は、街中でのエンジン稼働を抑えるために市街地の手前までは電池容量を充分に確保するなど、ナビの目的地設定とも連動するという。
◆乗り味はギリギリのバランス!?
このパワートレインの上質さに加えて、ガソリンモデルとは一線を画する乗り味の洗練ぶりも新型セレナe-POWERの美点だ。特に実用的な速度域で入力が小さいところでは、上屋の震えも抑えられ、アタリの優しいまろやかなライド感を実現している。この辺りはライバルとなるノア&ヴォクシーやステップワゴンと比しても見劣りはない。
が、高速域・大入力時は固められたサスメンバーでも受け止めきれない突き上げが、やはり上屋をブルブルと震わせる。今あるソリューションでは精一杯のことをやっているとこちらに慮らせるほど、乗り味はギリギリのところでバランスしている印象だ。これを改めるにはもう根本的な骨格刷新しかないだろう。
ガソリンモデルとe-POWERとの価格差は同等グレード比で40万円余。燃費でその価格差をリカバーしようというのなら、街中走行が多い人ほどe-POWERが優位となる。加えて静粛性や乗り心地などの快適性を加味するならば、その価格差は更に縮まるだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)
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