【メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス 海外試乗】AMG史上もっともSクラスらしいSクラス…渡辺慎太郎
メルセデスベンツの『Sクラス』に待望のAMGバージョンが追加された。現行のSクラスが登場したにもかかわらず、実はAMGが出るまで“買い控え”をしている方が世界中で少なくないという。だからそんな彼らにとっては“待望”のモデルというわけだ。日本へは年内にも導入されるかもしれないので、もう少しの辛抱である。
正式名称は「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」。Eパフォーマンスとは、AMGが独自開発をしたPHEVシステムを搭載していることを示しており、すでに『AMG GT S63 S Eパフォーマンス』と『C63 S Eパフォーマンス』が販売されている。一般的なPHEVは、EVモードでの航続距離をいかに長くするかがキモで、それにより総燃費の向上を図ることが最大のメリットである。いっぽうAMGのEパフォーマンスはその名の通り、燃費よりもパフォーマンス(=動力性能)に重きを置いたPHEVシステムである。その証拠に、最高出力802ps/最大トルク1430Nmというスーパースポーツのようなパワースペックを誇る。
◆「Eパフォーマンス」のメカニズム&パフォーマンス
エンジンを縦置きにしたPHEVの場合、エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟み込む方法が一般的だ。Eパフォーマンスではモーター/2段トランスミッション/eデフをひとつハウジング内に収め、これをリヤにレイアウトしている。つまりパワートレインは4リットルのV8ツインターボをベースとし、後輪のみにモーターによるパワーの上乗せを行なう。車名にはないが実際には4MATIC+なので、通常は4WD、EVモードでは基本的に後輪駆動(後輪がグリップを失った場合などにはエンジンが直ちに始動して前輪も駆動する)となる。
駆動用バッテリーは水冷のリチウムイオンで容量は13.1kWh。これはAMG GTの6.1kWhの倍以上で、EVモードでの航続距離は最大33kmと公表されている。バッテリー内部に水路作って積極的に冷却するこのバッテリーの特徴は、電気を貯めることよりも出し入れが素早くできる点にある。熱エネルギーの回生効率もすこぶるいいし、それを直ちに電力として使える。以前、AMG GTをサーキットで試乗したとき、コースインしたときよりも数ラップ走ってピットに戻ってきた時のほうがバッテリーの残量が多かった。ハードブレーキングの連続によりたくさん充電されたわけだ。
エンジンはすでにお馴染みのAMG製V8ツインターボで、単体でも612ps/900Nmを発生する。これにモーターの190ps/320Nmが追加されたシステム出力/トルクが前述の値となる。ただし、1430Nmというとてつもない最大トルクは、ブースト的にモーターを使い約10秒間だけ発生する。したがって常にこの最大トルクと向き合った運転をする必要はない。
トランスミッションは湿式多板クラッチを用いたAMG SPEEDSHIFT MCT 9Gが採用されている。このトランスミッションが使えるよう、V8はISG仕様ではなくあえてBSG仕様になっている。
◆50年以上続いた慣例がついに破られた
エクステリアデザインには基本的に過剰な加飾は施されていないものの、実はAMG史上初めてのことがある。これまでAMGのSクラスのボンネットにはスリーポインテッドスターがそそり立っていたのだけれど、今回はそれがフロントグリル内に収まり、いわゆるAMGグリルとなったのである。参考までに、AMGが初めて手掛けたメルセデスは1971年の『300SEL 6.8』でやはりSクラスだったので、50年以上続いた慣例がついに破られたことになる。
インテリアも基本的にはノーマルのSクラスと同じである。ただしトリムやシート表皮、ステアリングなどはAMG仕様となっている。S63はSクラスのロングボディをベースにしているので、後席にはオットマンが備わり、ショーファードリブンカーとしての用途にも応えられる。
◆1430Nmのトラクションも大丈夫、と思わせる圧倒的な接地性
試乗車はしっかり充電されていたので、運転を始めてしばらくはEVモードでの走行となった。静粛性が高いのは当然のことながら、ボディの剛性感もノーマルのSクラスより高いと感じた。資料によると、主に前後のアクスル付近に補強を追加したとあった。甚大なパワーを4輪がしっかりと受け止まれるように、あるいはトラクションがかかっている最中でもちゃんと舵が効くように、ということだろう。
ワインディングロードに入り上り坂が続くとエンジンが始動して、それまで眠っていた回転計の針が目覚めた。それでも2000rpm以下であればエンジン音はほとんど気にならないし、パワートレイン由来の振動も抑えられている。おそらくアクティブエンジンマウントの恩恵だろう。
S63の操縦性は、しっかりしたボディの他に、エアサスで構成されるAMG RIDE CONTROL+サスペンション、後輪操舵、前後に装着されるアクティブスタビライザー、後輪操舵、そして4MATIC+の統合制御によってもたらされる。具体的には、ナーバスになるほど機敏に反応するセッティングではないものの、ステアリング操作に対するレスポンスは抜群によく、そして極めて正確に動く。
旋回中に驚かされるのは接地性の高さだ。まるでタイヤが路面にぺったりと張り付いているようで、意図的にセオリーから反した運転操作を試みてもグリップを失うような兆候をまったく見せない。圧倒的に盤石な安定感は見事だった。これなら(今回は試せなかったけれど)1430Nmのトラクションがかかってもきっと大丈夫だろう。
◆AMG史上もっともSクラスらしいSクラス
公道を法定速度で走る範囲内では、S63の動力性能の20%も使い切れないかもしれない。それでもいざという時にとてつもないパワーを発揮できると分かっているだけでも、心に余裕が生まれて悪くない。乗り心地は速度や路面状況を問わず常に良好で、スポーティモデルでお馴染みのアシの硬さはほとんど感じられなかった。むしろ、局面によってはノーマルのSクラスよりも乗り心地がいいかもと思ったほどである。
新型のS63はAMGの歴史上もっともSクラスらしいSクラスと言えるかもしれない。
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
正式名称は「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」。Eパフォーマンスとは、AMGが独自開発をしたPHEVシステムを搭載していることを示しており、すでに『AMG GT S63 S Eパフォーマンス』と『C63 S Eパフォーマンス』が販売されている。一般的なPHEVは、EVモードでの航続距離をいかに長くするかがキモで、それにより総燃費の向上を図ることが最大のメリットである。いっぽうAMGのEパフォーマンスはその名の通り、燃費よりもパフォーマンス(=動力性能)に重きを置いたPHEVシステムである。その証拠に、最高出力802ps/最大トルク1430Nmというスーパースポーツのようなパワースペックを誇る。
◆「Eパフォーマンス」のメカニズム&パフォーマンス
エンジンを縦置きにしたPHEVの場合、エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟み込む方法が一般的だ。Eパフォーマンスではモーター/2段トランスミッション/eデフをひとつハウジング内に収め、これをリヤにレイアウトしている。つまりパワートレインは4リットルのV8ツインターボをベースとし、後輪のみにモーターによるパワーの上乗せを行なう。車名にはないが実際には4MATIC+なので、通常は4WD、EVモードでは基本的に後輪駆動(後輪がグリップを失った場合などにはエンジンが直ちに始動して前輪も駆動する)となる。
駆動用バッテリーは水冷のリチウムイオンで容量は13.1kWh。これはAMG GTの6.1kWhの倍以上で、EVモードでの航続距離は最大33kmと公表されている。バッテリー内部に水路作って積極的に冷却するこのバッテリーの特徴は、電気を貯めることよりも出し入れが素早くできる点にある。熱エネルギーの回生効率もすこぶるいいし、それを直ちに電力として使える。以前、AMG GTをサーキットで試乗したとき、コースインしたときよりも数ラップ走ってピットに戻ってきた時のほうがバッテリーの残量が多かった。ハードブレーキングの連続によりたくさん充電されたわけだ。
エンジンはすでにお馴染みのAMG製V8ツインターボで、単体でも612ps/900Nmを発生する。これにモーターの190ps/320Nmが追加されたシステム出力/トルクが前述の値となる。ただし、1430Nmというとてつもない最大トルクは、ブースト的にモーターを使い約10秒間だけ発生する。したがって常にこの最大トルクと向き合った運転をする必要はない。
トランスミッションは湿式多板クラッチを用いたAMG SPEEDSHIFT MCT 9Gが採用されている。このトランスミッションが使えるよう、V8はISG仕様ではなくあえてBSG仕様になっている。
◆50年以上続いた慣例がついに破られた
エクステリアデザインには基本的に過剰な加飾は施されていないものの、実はAMG史上初めてのことがある。これまでAMGのSクラスのボンネットにはスリーポインテッドスターがそそり立っていたのだけれど、今回はそれがフロントグリル内に収まり、いわゆるAMGグリルとなったのである。参考までに、AMGが初めて手掛けたメルセデスは1971年の『300SEL 6.8』でやはりSクラスだったので、50年以上続いた慣例がついに破られたことになる。
インテリアも基本的にはノーマルのSクラスと同じである。ただしトリムやシート表皮、ステアリングなどはAMG仕様となっている。S63はSクラスのロングボディをベースにしているので、後席にはオットマンが備わり、ショーファードリブンカーとしての用途にも応えられる。
◆1430Nmのトラクションも大丈夫、と思わせる圧倒的な接地性
試乗車はしっかり充電されていたので、運転を始めてしばらくはEVモードでの走行となった。静粛性が高いのは当然のことながら、ボディの剛性感もノーマルのSクラスより高いと感じた。資料によると、主に前後のアクスル付近に補強を追加したとあった。甚大なパワーを4輪がしっかりと受け止まれるように、あるいはトラクションがかかっている最中でもちゃんと舵が効くように、ということだろう。
ワインディングロードに入り上り坂が続くとエンジンが始動して、それまで眠っていた回転計の針が目覚めた。それでも2000rpm以下であればエンジン音はほとんど気にならないし、パワートレイン由来の振動も抑えられている。おそらくアクティブエンジンマウントの恩恵だろう。
S63の操縦性は、しっかりしたボディの他に、エアサスで構成されるAMG RIDE CONTROL+サスペンション、後輪操舵、前後に装着されるアクティブスタビライザー、後輪操舵、そして4MATIC+の統合制御によってもたらされる。具体的には、ナーバスになるほど機敏に反応するセッティングではないものの、ステアリング操作に対するレスポンスは抜群によく、そして極めて正確に動く。
旋回中に驚かされるのは接地性の高さだ。まるでタイヤが路面にぺったりと張り付いているようで、意図的にセオリーから反した運転操作を試みてもグリップを失うような兆候をまったく見せない。圧倒的に盤石な安定感は見事だった。これなら(今回は試せなかったけれど)1430Nmのトラクションがかかってもきっと大丈夫だろう。
◆AMG史上もっともSクラスらしいSクラス
公道を法定速度で走る範囲内では、S63の動力性能の20%も使い切れないかもしれない。それでもいざという時にとてつもないパワーを発揮できると分かっているだけでも、心に余裕が生まれて悪くない。乗り心地は速度や路面状況を問わず常に良好で、スポーティモデルでお馴染みのアシの硬さはほとんど感じられなかった。むしろ、局面によってはノーマルのSクラスよりも乗り心地がいいかもと思ったほどである。
新型のS63はAMGの歴史上もっともSクラスらしいSクラスと言えるかもしれない。
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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