【AMG EQE 53 4MATIC+ SUV 海外試乗】BEVでAMGらしい“鮮烈な旨味”を味わえるか…渡辺慎太郎
わざわざBEV専用のプラットフォオーム(EVA2)を仕立て、2021年のコロナ禍に衝撃的なデビューを飾ったメルセデスベンツ『EQS』。あれから約2年が経過して、EQSと『EQE』のセダンとSUVで計4タイプが登場、加えてサブブランドであるマイバッハはEQS SUVを、メルセデスAMGはEQSとEQEのセダンをそれぞれ手掛けた。
『EQE 53 4MATIC+ SUV』は、実はAMGにとって初となるBEVのSUVである。一瞬「ほんとに初めてか?」と思ったけれど、確かに『EQA』/『EQB』/『EQC』はAMGのパッケージオプションのみで、数字がふた桁のAMGモデルは存在していなかった。そしておそらく、EVA2を使ったモデルはさすがにこれで打ち止めとなるだろう。メルセデスはまったく新しいBEV専用プラットフォームを開発中であるとすでに公言している。次にメルセデスからお披露目されるBEVは、プラットフォームからまったく新しいモデルになるに違いない。
◆EQE 53 4MATIC+ SUVの素性
このクルマの素性を知るには、ノーマルのEQE SUVやセダンのEQE 53と比較すると分かりやすいかもしれない。ボディサイズはEQE SUVよりも16mm長く13mm低いが、全幅とホイールベースは同値となる。前後にAMG専用のお化粧を施したので全長が伸び、AMGライドコントロール+を装着したので全高が下がっている。
室内やラゲッジスペースの広さなどに変更はない。ただし、車両重量はEQE 500 4MATIC SUVよりも130kg重くなっている。これは各種専用装備を備えていることが主な理由。バッテリー容量もAMGになったからといって増えてはいない。90.6kWhはすべてのEQEに共通する容量で、航続距離はEQE 500 4MATIC SUVの464~552kmから407~455kmへ減っている。重量の増加と出力/トルクの増強によるものと考えられる。
なお、セダンのEQEと同様に日本仕様は双方向充電が可能。家庭の太陽光発電システムで得た電力で充電できるだけでなく、停電時には電気を家庭に供給する予備電源的利用ができる。
◆+218ps/232Nmものパワーアップ
パワートレインはセダンのEQE 53 4MATIC+と基本的に同一である。前後にモーターを配置し、最高出力は626ps、最大トルクは950Nm。AMGダイナミックプラスパッケージのオプション装着車は687ps/950Nmとなる。EQE 500 4MATIC SUVは408ps/858Nmなので、+218ps/232Nmもパワーアップされており、数値だけ見ればスポーツカー並みのスペックである。
しかし実際にはいつもこれだけのパワーが発生しているわけではない。ドライブモードによって最大値が制限されるようになっていて、「スリッパリー」は50%、「コンフォート」は80%、「スポーツ」は90%、「スポーツ+」でようやく100%、そしてダイナミックプラスパッケージを装着すれば、いわゆるローンチコントロールとブースト機能が働いて瞬間的に110%(=687ps)といった具合である。内燃機と違い、モーターは電気によって出力/トルクを簡単に、しかも瞬時に変更することができるから、こうした特性を活かしたドライブモードのロジックも可能なのだ。
◆前後に追加されたアクティブ・スタビライザー
空気ばねと電子制御式ダンパーを組み合わせたエアサスペンションの形式は、すべてのEQS/EQEで共有する。EQE 53 4MATIC+ SUVはこれにAMGライドコントロール+が組み合わされている。ここまではEQSセダンなどと同等だが、前後にアクティブ・スタビライザーが装着されている点が新しい。
床下にバッテリーを置いているからとはいえ、全高の高いSUVはセダンと比較すると重心が高くなってしまう。これをばねレートと減衰力を上げることでばね上の動きを抑制するというのが、スポーツモデルのサスペンションセッティングにおける王道のやり方だ。
いっぽうで乗り心地が「硬くなる」という事象ももれなくついてくる。アクティブ・スタビライザーは、基本的にこれ自体でロール方向の動きを抑えるので、乗り心地への悪影響は最小限で済むことになる。48Vの電子制御式なので反応も速く、コーナーの大小を問わず挙動は安定しているし、路面状況を問わず乗り心地も悪くなかった。
いっぽうで、グイグイと曲がりたがるほどスポーティなセッティングにはなっておらず、ノーマルのEQE SUVよりもステアリングレスポンスがよく、ボディがちょっと小さくなったように感じる回頭性を持ち合わせていた。もちろん、こうしたハンドリング特性は、4MATIC+の随時可変式前後駆動力配分や後輪操舵機構との統合制御によってもたらされた結果である。
◆走りにノーマルEQE SUVとの違いはあるか
せっかくパワーアップしていても、前述のようにドライブモードによっては絞られてしまうので、公道を法定速度で走っている限りにおいては、ノーマルのEQE SUVと動力性能面で体感的に大きな違いがあまり感じられない。アクセルペダルを踏み増した時の瞬発力や加速感は強烈ではあるけれど、それがモーターである以上、ノーマルでもそれなりにパワフルに感じるからだ。
過日試乗したメルセデスAMG『S63 Eパフォーマンス』は、公道を法定速度で走っていても、「S580」とは明らかに異なり乗り味を持っていた。“ワンマン・ワンエンジン”のポリシーの元、AMGのエンジン工場で熟練工の手により組み上げられたV8ツインターボには特有の旨味がある。モーターだと、現時点ではまだこうした鮮烈な旨味を出すのは難しいのかもしれない。
EQE 53はセダンでも1992万円のプライスタグを掲げている。年内にも日本導入が予定されているSUVはおそらくこの価格を上回るだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
『EQE 53 4MATIC+ SUV』は、実はAMGにとって初となるBEVのSUVである。一瞬「ほんとに初めてか?」と思ったけれど、確かに『EQA』/『EQB』/『EQC』はAMGのパッケージオプションのみで、数字がふた桁のAMGモデルは存在していなかった。そしておそらく、EVA2を使ったモデルはさすがにこれで打ち止めとなるだろう。メルセデスはまったく新しいBEV専用プラットフォームを開発中であるとすでに公言している。次にメルセデスからお披露目されるBEVは、プラットフォームからまったく新しいモデルになるに違いない。
◆EQE 53 4MATIC+ SUVの素性
このクルマの素性を知るには、ノーマルのEQE SUVやセダンのEQE 53と比較すると分かりやすいかもしれない。ボディサイズはEQE SUVよりも16mm長く13mm低いが、全幅とホイールベースは同値となる。前後にAMG専用のお化粧を施したので全長が伸び、AMGライドコントロール+を装着したので全高が下がっている。
室内やラゲッジスペースの広さなどに変更はない。ただし、車両重量はEQE 500 4MATIC SUVよりも130kg重くなっている。これは各種専用装備を備えていることが主な理由。バッテリー容量もAMGになったからといって増えてはいない。90.6kWhはすべてのEQEに共通する容量で、航続距離はEQE 500 4MATIC SUVの464~552kmから407~455kmへ減っている。重量の増加と出力/トルクの増強によるものと考えられる。
なお、セダンのEQEと同様に日本仕様は双方向充電が可能。家庭の太陽光発電システムで得た電力で充電できるだけでなく、停電時には電気を家庭に供給する予備電源的利用ができる。
◆+218ps/232Nmものパワーアップ
パワートレインはセダンのEQE 53 4MATIC+と基本的に同一である。前後にモーターを配置し、最高出力は626ps、最大トルクは950Nm。AMGダイナミックプラスパッケージのオプション装着車は687ps/950Nmとなる。EQE 500 4MATIC SUVは408ps/858Nmなので、+218ps/232Nmもパワーアップされており、数値だけ見ればスポーツカー並みのスペックである。
しかし実際にはいつもこれだけのパワーが発生しているわけではない。ドライブモードによって最大値が制限されるようになっていて、「スリッパリー」は50%、「コンフォート」は80%、「スポーツ」は90%、「スポーツ+」でようやく100%、そしてダイナミックプラスパッケージを装着すれば、いわゆるローンチコントロールとブースト機能が働いて瞬間的に110%(=687ps)といった具合である。内燃機と違い、モーターは電気によって出力/トルクを簡単に、しかも瞬時に変更することができるから、こうした特性を活かしたドライブモードのロジックも可能なのだ。
◆前後に追加されたアクティブ・スタビライザー
空気ばねと電子制御式ダンパーを組み合わせたエアサスペンションの形式は、すべてのEQS/EQEで共有する。EQE 53 4MATIC+ SUVはこれにAMGライドコントロール+が組み合わされている。ここまではEQSセダンなどと同等だが、前後にアクティブ・スタビライザーが装着されている点が新しい。
床下にバッテリーを置いているからとはいえ、全高の高いSUVはセダンと比較すると重心が高くなってしまう。これをばねレートと減衰力を上げることでばね上の動きを抑制するというのが、スポーツモデルのサスペンションセッティングにおける王道のやり方だ。
いっぽうで乗り心地が「硬くなる」という事象ももれなくついてくる。アクティブ・スタビライザーは、基本的にこれ自体でロール方向の動きを抑えるので、乗り心地への悪影響は最小限で済むことになる。48Vの電子制御式なので反応も速く、コーナーの大小を問わず挙動は安定しているし、路面状況を問わず乗り心地も悪くなかった。
いっぽうで、グイグイと曲がりたがるほどスポーティなセッティングにはなっておらず、ノーマルのEQE SUVよりもステアリングレスポンスがよく、ボディがちょっと小さくなったように感じる回頭性を持ち合わせていた。もちろん、こうしたハンドリング特性は、4MATIC+の随時可変式前後駆動力配分や後輪操舵機構との統合制御によってもたらされた結果である。
◆走りにノーマルEQE SUVとの違いはあるか
せっかくパワーアップしていても、前述のようにドライブモードによっては絞られてしまうので、公道を法定速度で走っている限りにおいては、ノーマルのEQE SUVと動力性能面で体感的に大きな違いがあまり感じられない。アクセルペダルを踏み増した時の瞬発力や加速感は強烈ではあるけれど、それがモーターである以上、ノーマルでもそれなりにパワフルに感じるからだ。
過日試乗したメルセデスAMG『S63 Eパフォーマンス』は、公道を法定速度で走っていても、「S580」とは明らかに異なり乗り味を持っていた。“ワンマン・ワンエンジン”のポリシーの元、AMGのエンジン工場で熟練工の手により組み上げられたV8ツインターボには特有の旨味がある。モーターだと、現時点ではまだこうした鮮烈な旨味を出すのは難しいのかもしれない。
EQE 53はセダンでも1992万円のプライスタグを掲げている。年内にも日本導入が予定されているSUVはおそらくこの価格を上回るだろう。
■5つ星評価
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インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
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1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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