【マセラティ グレカーレ 新型試乗】マニア限定!? だけどそこがイイ!「トロフェオ」の本懐はV6ターボにあり…南陽一浩
おそらくはプラットフォーム共有の悪弊で、後発のニューモデルが既存モデルと同じプラットフォームと聞くと、何となく車も乗り味も同じ、そう考えてしまう人も少なくないだろう。メーカーやグループによって「プラットフォーム共有」の概念や範囲は異なるが、実際にはフロアや車台、サブフレームやバルクヘッドといった大きなコンポーネントをモジュラー化することに限らない。
むしろ電装関連や制御システム、内装関連の部材といった「付け合わせ」の部分は元より、駆動系やパワートレインそのものというより基本設計のような知財部分にまで及ぶ。その共有部分を、どう加工して取り出して使って、特定のプロダクトを生み出すか、という話だ。よくフランスやイタリアの自動車メーカーの人々が喩えていうには、レストランのキッチンでストックされている食材が、玉ねぎや人参、魚に肉といった似たようなものでも、出てくる料理が違うのと一緒、なのだそうだ。
だからマセラティ『グレカーレ』が、アルファロメオ『ステルヴィオ』と「ジョルジオ・プラットフォーム」を共有し、全長4.8m強のサイズ感と知った時は、ポルシェ『マカン』が強大であり続けるDセグメントのプレミアムSUV市場を虎視眈々と狙う、わりとマーケット・オリエンティッドな一台なのかと、多少甘く見ていたことを白状しておく。
だからこそ今回、「グレカーレ・トロフェオ」に試乗して、その奥ゆかしいけど痛快な乗り味と、新世代マセラティとして完全に「らしさ」をモノにした完成度の高さに、驚嘆せざるを得なかった。
◆フェラーリともアルファロメオとも違う「ネットゥーノ」
グレカーレはその上のセグメントで『カイエン』に対峙する『レヴァンテ』に続くマセラティのSUVとして第2弾、プレチャンバー燃焼を備えた3リットル・V6ツインターボ「ネットゥーノ」搭載モデルとしても『MC20』に続く第2弾。ちなみにネットゥーノ搭載の第3弾モデルは、すでに日本で受注を開始した新型『グラントゥーリズモ・トロフェオ』だ。
ネットゥーノはマセラティが新たに100%独自開発したと公式にアナウンスされつつ、フェラーリの技術が入っているという言及も巷には少なくないが、それはプレチャンバー(副燃焼室方式)に関してではなく、それこそプラットフォーム化の産物、名残りといえる。元を辿ればF154系、つまりフェラーリでは『カリフォルニアT』以来、マセラティでは『クアトロポルテ』以来の直噴V8ベースに、2気筒を削ぎ落としたV6であるところまでは、ネットゥーノはアルファロメオの690Tに近い。実際、エンジンルームでの収まり具合はそっくりだし、エアインテークの取り回しもフェラーリそっくりだ。
ただし86.6×82mmというアルファロメオのV6・2891ccやフェラーリV8・3855ccで見られるボア×ストローク比を、マセラティはボアを88mmへと改め、圧縮比11.0とした。よりオーバーボアで、高圧縮比となる排気量2992ccだ。そしてプレチャンバーやポートインジェクターといったヘッド周りの燃焼機構のみならず、クランクシャフトやターボチャージャー、オイル潤滑方式といったコンフィギュレーションでも、マセラティV6としてネットゥーノは独自路線を進んだ。
具体的には、よりシンプルに回せるが振動の出やすいプレーン・クランクシャフトを採ることが多いフェラーリに対し、カウンターバランスによって重くなるがスムーズに回しやすいクロスプレーンのクランクシャフトを、シングルスクロールのターボチャージャーであるアルファロメオに対してツインスクロールのそれを、そしてMC20とグレカーレでは、車高や重心高の違いからもドライサンプとウェットサンプを使い分けている。
他にも異なるチューン・メニューは多々あるが、MC20の720Nm・630psに対し、グレカーレ・トロフェオは620Nm・530psというスペックが与えられている。ちなみにグラントゥーリズモ・トロフェオは650Nm・550psだ。
◆史上もっとも生活感のあるマセラティ
SUVらしいコンベンショナルなシルエットゆえ、グレカーレの外観に際立った特徴はないと思えるかもしれない。でも、おちょぼ口のフロントグリルや左右フロントフェンダーが盛り上がったフロントマスク、そしてボディサイドの3連エアアウトレットに、マセラティのアイコン的細部のさりげない主張は垣間見える。
逆に近未来的タッチとしては、ボディ・サーフェスに馴染んで限りなくフラットなドアハンドルがプッシュボタン式で、内側から開ける際も同じくプッシュボタン式。ドアポケット上部に予備の開閉レバーも備わるとはいえ、こうした頻繁に触れるところに先進性を採り入れるのは巧い。
それでいて、荷室容量もハイブリッドでややフロアの高い「グレカーレ・モデナ」より+35リットルの570リットルを確保しており、40:20:40の可倒分割式リアシートやフックポイントも採用しつつ、バッグや買い物袋をぶら下げられるフックや12V電源といった便利装備まで充実している。「史上もっとも生活感のある、ファミリーカー資質の高いマセラティ」でもあるのだ。
そう、バブル~平成期のマセラティの印象がいまだ強い人々が、グレカーレに当初抱いてしまうであろう違和感とは、夜の街でブイブイいわせていた友人を久々に見かけたら、甲斐甲斐しい家庭人になっていて声をかけづらかった、といった心境に似ている気がする。でも令和の文脈でいえば、それは間違いなくポジティブな変化なのだ。
◆先進的ながらユーザーを置き去りにしないインターフェイス
変わらないのは、インテリアの仕上げや質感の高さ。ダッシュボード・クロックの位置こそ古典的だが、液晶でアナログ/スポーツ/デジタルの各表示が選べるところはモダンだ。レザーが隈なく張り巡らされたシートや内張り、アルカンターラ張りの天井に、鮮やかなレッドのステッチ、そしてカーボンパネルやアルミのスピーカーパネルなど、素材感豊かな空間となっている。後者はイタリアの高級オーディオシステム、ソナス・ファベールによる。
一方で12.3インチのセントラルディスプレイと、PRND/Mのセレクタボタンを挟んで仰角に置かれた8.8インチのコンフォートディスプレイは、操作する指先と表示を読み取る視線を優しく迎えるエルゴノミー設計。12.3インチの液晶メーターと合わせて、新世代マセラティならではの先進的でいながらユーザーを置き去りにしないインターフェイスに好感がもてる。
後車軸に配されたELSDと8速トランスミッションを結ぶドライブシャフトが、床下を通る関係上、リアシートの足元中央は盛り上がっているが、左右座席の足元はDセグメントのサルーン並に広い。パノラミックガラスルーフも含め、室内の静的質感や居住性は上々で、ややアメリカ市場を意識した広々感ともいえるが、総じてイタリアンGTとしての作法は堅持されていると感じた。
◆トロフェオの本懐はやっぱり
でもグレカーレ・トロフェオの本懐は、新開発のネットゥーノV6ツインターボに頼むところが大きい、その鮮烈な動的質感だ。プレチャンパー燃焼はF1で培われた技術だけあって、ネットゥーノは低負荷領域を苦手とするはずなのだが、それを補って下支えするポートインジェクションの効果だろう、2000rpm以下のごく低回転域でゆっくりアクセルを開けても、驚くほど豊かでリニアなトルクを返してくる。
同時に瞬間燃費をモニターしていると、アクセルペダルの踏みしろ初期で2km/リットルを割る…ことは頻繁に起きるが、今どき貴重きわまりないビッグボアかつショートストロークのV6で、それなりに質量のあるクランクを回しているという摺動感は、何物にも代えがたい。踏み込み量だけでなく、踏み込むスピードに応じて、トルクの出方や反応の変化がきめ細かに表れるところが、日常域で走らせても奥行きのある、ネットゥーノを操る楽しさに繋がっている。
もちろん郊外の峠道で解き放てば、ズドドドドッと豪快にエキゾーストノートを高めながら3000rpm前後から恐ろしく息の長い加速が始まる。ギア比も絶妙で早々に吹け切ることなく、ドラマチックな加速が途切れず6000rpm辺りまで続くのだ。
ドライブモードの切替によってレッドゾーンは、「コンフォート」や「GT」モードでは6500rpmより上、「スポーツ」「CORSA」ではトップエンドで早めシフトアップ推奨なのだろう、6000rpmからとなる。そんな風だから前が空いているとついつい、不必要なぐらい踏み込みたくなってしまう。ちなみに高速道路での燃費は10km/リットルを上回ることもあったが、下道と混合状況では平均して8km/リットル強だった。
◆どのモードでも“いい塩梅”な電子制御エアサス
グレカーレのもうひとつの美点は、電子制御のエアサスペンションが、モード名に応じていずれもいい塩梅のセッティングであることだ。これはかなり稀なことで、並以下の可変シャシー車だと、コンフォートにすれば足まわりが柔らか過ぎてステアリングの中立付近が落ち着かなかったり、逆にスポーツやパフォーマンス側にするとアシも硬過ぎればステアリングも無駄に初期応答だけが早くなって、結局ノーマルで我慢せざるを得ないことが多い。
ところがグレカーレのそれは、コンフォート>GT>スポーツ>コルサの順に、ステアリングやパワートレインがハードに元気よくなって、足まわりが締め上げられていくだけではない。入力に対する減衰力特性を大幅に変えずに、65mm幅で上下する車高調整がむしろ大きく効いているだろう、ロール速度からボディコントロール、駆動レスポンスまで、まるで別の車を演じるかのような挙動をするのではなく、選んだモードなりに首尾一貫した反応を返してくる。逆にいえば、どのモードでも乗り手の求めに応じて丁度いい、対話性のあるドライバビリティなのだ。
コンフォートでは街乗り、コースティング重視のGTは高速巡航に、峠ならスポーツ、もっと攻めたければESCオフのモードであるコルサ。そんな具合に、それぞれの使い道と走り方によって、はっきり分けやすい。2900mmというロングなホイールベースは無論、高速巡航で矢のような直進安定性をもたらし、他方で前後トレッドが1620/1695mmというリアがかなりワイドなジオメトリーも、コーナー出口に向かって踏み込むほどにトラクションごと周り込むような、乗り手を「誘う」タイプのハンドリングに貢献している。
乗り心地はフラット一辺倒ではなく、スポーツやコルサで締め上げられた状態でも、ハーシュネスを巧みに丸めて振動はキチンと伝えてくるタイプだ。だからこそ、操舵に対する横方向の反応も、アクセルオンでの後輪からの蹴り上げを含む、前後荷重の変化といった情報も素直に鮮明に、素早く伝えてくる。
前後重量配分は50:50に近く、セントラルディスプレイで駆動輪をモニターしていると、ゼロ発進からの急加速時こそ前輪にも駆動配分がなされるが、ほとんど常時FRで、オンロードでの稼働状況は「良質のFRときどきAWD」といった具合だ。ちなみにドライブモードにはもうひとつ、「OFFROAD」がある。前後左右のピッチや傾き角度をモニターに表示しながら、悪路も走破するためのオールタイム4WDモードなのだ。
◆マセラティの今をコンパクトなV6ツインターボで凝縮した優等生
全幅1980mmはレヴァンテよりわずかー1mmというワイドさだが、力強いパフォ―マンスと、無色透明とは程遠い方向で洗練された快適性は、マセラティの伝統的な価値観をよりコンパクトなSUVで体現してきたといえる。グレカーレがエントリー車種である点を考慮すれば、「GT」や「モデナ」といった48VのMHEVを直4ターボと組み合わせたモデルにこそ妙味アリかもしれない。
でもマセラティの今をコンパクトなV6ツインターボで凝縮した優等生は、ポルシェ・マカンやBMW『X4』、『X5』辺りを脅かす存在になれる。局地的でマニア限定かもしれないが、潜在的な乗り手にはそれこそ望むところのはずだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
むしろ電装関連や制御システム、内装関連の部材といった「付け合わせ」の部分は元より、駆動系やパワートレインそのものというより基本設計のような知財部分にまで及ぶ。その共有部分を、どう加工して取り出して使って、特定のプロダクトを生み出すか、という話だ。よくフランスやイタリアの自動車メーカーの人々が喩えていうには、レストランのキッチンでストックされている食材が、玉ねぎや人参、魚に肉といった似たようなものでも、出てくる料理が違うのと一緒、なのだそうだ。
だからマセラティ『グレカーレ』が、アルファロメオ『ステルヴィオ』と「ジョルジオ・プラットフォーム」を共有し、全長4.8m強のサイズ感と知った時は、ポルシェ『マカン』が強大であり続けるDセグメントのプレミアムSUV市場を虎視眈々と狙う、わりとマーケット・オリエンティッドな一台なのかと、多少甘く見ていたことを白状しておく。
だからこそ今回、「グレカーレ・トロフェオ」に試乗して、その奥ゆかしいけど痛快な乗り味と、新世代マセラティとして完全に「らしさ」をモノにした完成度の高さに、驚嘆せざるを得なかった。
◆フェラーリともアルファロメオとも違う「ネットゥーノ」
グレカーレはその上のセグメントで『カイエン』に対峙する『レヴァンテ』に続くマセラティのSUVとして第2弾、プレチャンバー燃焼を備えた3リットル・V6ツインターボ「ネットゥーノ」搭載モデルとしても『MC20』に続く第2弾。ちなみにネットゥーノ搭載の第3弾モデルは、すでに日本で受注を開始した新型『グラントゥーリズモ・トロフェオ』だ。
ネットゥーノはマセラティが新たに100%独自開発したと公式にアナウンスされつつ、フェラーリの技術が入っているという言及も巷には少なくないが、それはプレチャンバー(副燃焼室方式)に関してではなく、それこそプラットフォーム化の産物、名残りといえる。元を辿ればF154系、つまりフェラーリでは『カリフォルニアT』以来、マセラティでは『クアトロポルテ』以来の直噴V8ベースに、2気筒を削ぎ落としたV6であるところまでは、ネットゥーノはアルファロメオの690Tに近い。実際、エンジンルームでの収まり具合はそっくりだし、エアインテークの取り回しもフェラーリそっくりだ。
ただし86.6×82mmというアルファロメオのV6・2891ccやフェラーリV8・3855ccで見られるボア×ストローク比を、マセラティはボアを88mmへと改め、圧縮比11.0とした。よりオーバーボアで、高圧縮比となる排気量2992ccだ。そしてプレチャンバーやポートインジェクターといったヘッド周りの燃焼機構のみならず、クランクシャフトやターボチャージャー、オイル潤滑方式といったコンフィギュレーションでも、マセラティV6としてネットゥーノは独自路線を進んだ。
具体的には、よりシンプルに回せるが振動の出やすいプレーン・クランクシャフトを採ることが多いフェラーリに対し、カウンターバランスによって重くなるがスムーズに回しやすいクロスプレーンのクランクシャフトを、シングルスクロールのターボチャージャーであるアルファロメオに対してツインスクロールのそれを、そしてMC20とグレカーレでは、車高や重心高の違いからもドライサンプとウェットサンプを使い分けている。
他にも異なるチューン・メニューは多々あるが、MC20の720Nm・630psに対し、グレカーレ・トロフェオは620Nm・530psというスペックが与えられている。ちなみにグラントゥーリズモ・トロフェオは650Nm・550psだ。
◆史上もっとも生活感のあるマセラティ
SUVらしいコンベンショナルなシルエットゆえ、グレカーレの外観に際立った特徴はないと思えるかもしれない。でも、おちょぼ口のフロントグリルや左右フロントフェンダーが盛り上がったフロントマスク、そしてボディサイドの3連エアアウトレットに、マセラティのアイコン的細部のさりげない主張は垣間見える。
逆に近未来的タッチとしては、ボディ・サーフェスに馴染んで限りなくフラットなドアハンドルがプッシュボタン式で、内側から開ける際も同じくプッシュボタン式。ドアポケット上部に予備の開閉レバーも備わるとはいえ、こうした頻繁に触れるところに先進性を採り入れるのは巧い。
それでいて、荷室容量もハイブリッドでややフロアの高い「グレカーレ・モデナ」より+35リットルの570リットルを確保しており、40:20:40の可倒分割式リアシートやフックポイントも採用しつつ、バッグや買い物袋をぶら下げられるフックや12V電源といった便利装備まで充実している。「史上もっとも生活感のある、ファミリーカー資質の高いマセラティ」でもあるのだ。
そう、バブル~平成期のマセラティの印象がいまだ強い人々が、グレカーレに当初抱いてしまうであろう違和感とは、夜の街でブイブイいわせていた友人を久々に見かけたら、甲斐甲斐しい家庭人になっていて声をかけづらかった、といった心境に似ている気がする。でも令和の文脈でいえば、それは間違いなくポジティブな変化なのだ。
◆先進的ながらユーザーを置き去りにしないインターフェイス
変わらないのは、インテリアの仕上げや質感の高さ。ダッシュボード・クロックの位置こそ古典的だが、液晶でアナログ/スポーツ/デジタルの各表示が選べるところはモダンだ。レザーが隈なく張り巡らされたシートや内張り、アルカンターラ張りの天井に、鮮やかなレッドのステッチ、そしてカーボンパネルやアルミのスピーカーパネルなど、素材感豊かな空間となっている。後者はイタリアの高級オーディオシステム、ソナス・ファベールによる。
一方で12.3インチのセントラルディスプレイと、PRND/Mのセレクタボタンを挟んで仰角に置かれた8.8インチのコンフォートディスプレイは、操作する指先と表示を読み取る視線を優しく迎えるエルゴノミー設計。12.3インチの液晶メーターと合わせて、新世代マセラティならではの先進的でいながらユーザーを置き去りにしないインターフェイスに好感がもてる。
後車軸に配されたELSDと8速トランスミッションを結ぶドライブシャフトが、床下を通る関係上、リアシートの足元中央は盛り上がっているが、左右座席の足元はDセグメントのサルーン並に広い。パノラミックガラスルーフも含め、室内の静的質感や居住性は上々で、ややアメリカ市場を意識した広々感ともいえるが、総じてイタリアンGTとしての作法は堅持されていると感じた。
◆トロフェオの本懐はやっぱり
でもグレカーレ・トロフェオの本懐は、新開発のネットゥーノV6ツインターボに頼むところが大きい、その鮮烈な動的質感だ。プレチャンパー燃焼はF1で培われた技術だけあって、ネットゥーノは低負荷領域を苦手とするはずなのだが、それを補って下支えするポートインジェクションの効果だろう、2000rpm以下のごく低回転域でゆっくりアクセルを開けても、驚くほど豊かでリニアなトルクを返してくる。
同時に瞬間燃費をモニターしていると、アクセルペダルの踏みしろ初期で2km/リットルを割る…ことは頻繁に起きるが、今どき貴重きわまりないビッグボアかつショートストロークのV6で、それなりに質量のあるクランクを回しているという摺動感は、何物にも代えがたい。踏み込み量だけでなく、踏み込むスピードに応じて、トルクの出方や反応の変化がきめ細かに表れるところが、日常域で走らせても奥行きのある、ネットゥーノを操る楽しさに繋がっている。
もちろん郊外の峠道で解き放てば、ズドドドドッと豪快にエキゾーストノートを高めながら3000rpm前後から恐ろしく息の長い加速が始まる。ギア比も絶妙で早々に吹け切ることなく、ドラマチックな加速が途切れず6000rpm辺りまで続くのだ。
ドライブモードの切替によってレッドゾーンは、「コンフォート」や「GT」モードでは6500rpmより上、「スポーツ」「CORSA」ではトップエンドで早めシフトアップ推奨なのだろう、6000rpmからとなる。そんな風だから前が空いているとついつい、不必要なぐらい踏み込みたくなってしまう。ちなみに高速道路での燃費は10km/リットルを上回ることもあったが、下道と混合状況では平均して8km/リットル強だった。
◆どのモードでも“いい塩梅”な電子制御エアサス
グレカーレのもうひとつの美点は、電子制御のエアサスペンションが、モード名に応じていずれもいい塩梅のセッティングであることだ。これはかなり稀なことで、並以下の可変シャシー車だと、コンフォートにすれば足まわりが柔らか過ぎてステアリングの中立付近が落ち着かなかったり、逆にスポーツやパフォーマンス側にするとアシも硬過ぎればステアリングも無駄に初期応答だけが早くなって、結局ノーマルで我慢せざるを得ないことが多い。
ところがグレカーレのそれは、コンフォート>GT>スポーツ>コルサの順に、ステアリングやパワートレインがハードに元気よくなって、足まわりが締め上げられていくだけではない。入力に対する減衰力特性を大幅に変えずに、65mm幅で上下する車高調整がむしろ大きく効いているだろう、ロール速度からボディコントロール、駆動レスポンスまで、まるで別の車を演じるかのような挙動をするのではなく、選んだモードなりに首尾一貫した反応を返してくる。逆にいえば、どのモードでも乗り手の求めに応じて丁度いい、対話性のあるドライバビリティなのだ。
コンフォートでは街乗り、コースティング重視のGTは高速巡航に、峠ならスポーツ、もっと攻めたければESCオフのモードであるコルサ。そんな具合に、それぞれの使い道と走り方によって、はっきり分けやすい。2900mmというロングなホイールベースは無論、高速巡航で矢のような直進安定性をもたらし、他方で前後トレッドが1620/1695mmというリアがかなりワイドなジオメトリーも、コーナー出口に向かって踏み込むほどにトラクションごと周り込むような、乗り手を「誘う」タイプのハンドリングに貢献している。
乗り心地はフラット一辺倒ではなく、スポーツやコルサで締め上げられた状態でも、ハーシュネスを巧みに丸めて振動はキチンと伝えてくるタイプだ。だからこそ、操舵に対する横方向の反応も、アクセルオンでの後輪からの蹴り上げを含む、前後荷重の変化といった情報も素直に鮮明に、素早く伝えてくる。
前後重量配分は50:50に近く、セントラルディスプレイで駆動輪をモニターしていると、ゼロ発進からの急加速時こそ前輪にも駆動配分がなされるが、ほとんど常時FRで、オンロードでの稼働状況は「良質のFRときどきAWD」といった具合だ。ちなみにドライブモードにはもうひとつ、「OFFROAD」がある。前後左右のピッチや傾き角度をモニターに表示しながら、悪路も走破するためのオールタイム4WDモードなのだ。
◆マセラティの今をコンパクトなV6ツインターボで凝縮した優等生
全幅1980mmはレヴァンテよりわずかー1mmというワイドさだが、力強いパフォ―マンスと、無色透明とは程遠い方向で洗練された快適性は、マセラティの伝統的な価値観をよりコンパクトなSUVで体現してきたといえる。グレカーレがエントリー車種である点を考慮すれば、「GT」や「モデナ」といった48VのMHEVを直4ターボと組み合わせたモデルにこそ妙味アリかもしれない。
でもマセラティの今をコンパクトなV6ツインターボで凝縮した優等生は、ポルシェ・マカンやBMW『X4』、『X5』辺りを脅かす存在になれる。局地的でマニア限定かもしれないが、潜在的な乗り手にはそれこそ望むところのはずだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
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