【ホンダ N-BOX 4200km試乗】N-BOXはなぜ圧倒的優位性を確立することができたのか[前編]
10月6日に全面改良を受け、第3世代へと切り替わるホンダの軽規格スーパーハイトワゴン『N-BOX』。それを前に第2世代で4200kmほどツーリングを行う機会があったので、フェアウェル(さようなら)インプレッションをお届けする。
2011年末に第1世代が登場して以降、2017年のフルモデルチェンジをまたいで大いに人気を博してきたN-BOX。軽自動車市場では2012年、2014年を除き2022年まで年間最多販売モデル。登録車を含めた無差別級ランキングでも2017年に首位に立ち、以降、コロナ禍の混乱に見舞われた2021年を除きその座を守っている。
軽スーパーハイトワゴンは日本の自動車市場における最大のボリュームゾーンだ。そこにモデルを供給する製造元はスズキ、ダイハツ、ホンダ、日産自動車/三菱自動車連合の4陣営だが、人気カテゴリーは競争も熾烈なものになるのが宿命。他の軽スーパーハイトワゴンのレビューでも言及したことだが、各陣営とも勝利者たらんとして並々ならぬ意欲をもってクルマを作り込んでおり、どれを買っても失敗とは言えないというくらいの力作揃いだ。
筆者は過去、スズキ『スペーシアカスタム』、ダイハツ『タント』、日産『ルークスハイウェイスター』と、3モデルについて3000km超のスーパーロングドライブを試しており、この2代目N-BOXは4モデル目。軽自動車にとっては本来強烈なアゲインストとなる価格の高さを押してN-BOXがなぜ販売面における圧倒的優位性を確立することができたのかという視点も持ちつつドライブしてみた。
ロードテスト車は装飾性重視の「カスタム」で、グレードは自然吸気エンジンの「L・コーディネートスタイル」。オプションとしてカーナビ、ドライブレコーダーなどが装着されていた。ドライブルートは東京を起点に鹿児島までを周遊しながら走るというもので、往路は瀬戸内側、復路は日本海側経由。最遠到達値は固体燃料ロケットを主体に打ち上げている鹿児島・大隅半島にあるJAXA内之浦宇宙空間観測所。
総走行距離は4191.7kmで、道路比率は市街地3、山岳路を含む郊外路5、高速2。乗車人数は南九州エリアが2~4名、その他は1名。エアコン常時AUTO。
インプレッションの前にN-BOXカスタム L・コーディネートスタイルの長所と短所を5点ずつ列記してみる。
■長所
1. 機能、性能に目立った穴がなく、誰にでも合う商品性。
2. 軽スーパーハイトワゴン随一の高速安定性。
3. 超高速域や急勾配でぶん回ってもストレスを感じさせない自然吸気エンジン。
4. 広いだけでなく採光性に富んだ室内と秀逸な乗降性。
5. 速度域や路面状況、天候を問わず高い快適性
■短所
1. 2020年改良前に比べて中低速域での乗り心地の滑らかさが後退。
2. この個体の調子が悪かったか、想定を大幅に下回った燃費。
3. 後席は足元空間が広い代わりに座面高が低く、居心地はそれほどいいわけではない。
4. ノーマルスライド車のシートアレンジは取り立てて豊富というわけではない。
5. 価格が高い。
◆短所らしい短所が見当たらない
ではインプレッションに入っていこう。第2世代N-BOXを高速、郊外路、山岳路、市街地と、いろいろなシーンを4200kmにわたって走らせてみてことさら強いインパクトを覚えたのは、短所らしい短所が見当たらないということだった。
広大な後席をはじめライバルをリードする美点はいろいろあるが、ライバルもそれぞれN-BOXに勝るような素晴らしい要素を持ち合わせている。N-BOXが決定的にリードしていたのは結局、スキのなさだ。軽規格で重心も高い軽スーパーハイトワゴンゆえ絶対性能は大したことはなく、乗車定員も4名に限定される。が、それを承知のうえで見ると、ファミリーカーとしての作り込みは素晴らしい。室内の広さ、乗り降りのしやすさ、荷物の積載性、快適性、室内の明るさや視界、走行性能などが絶妙にバランスよくデザインされていて、どれかを際立たせるために他を犠牲にしているような部分がほとんどないのだ。
長距離試乗、とりわけ1000km超のロングツーリングになると高速、一般道、山岳路といった道路の種別だけでなく、実に多様な路面コンディションに遭遇する。その過程でファーストインプレッションではいいと思っていた部分が意外に良くなかったり、悪いと思っていた部分が気にならなくなったり等々、短時間試乗ではわからなかったことが判明していく。東京~鹿児島ツーリングの場合、九州内での多人数乗車や荷物の積載など、ユーティリティも実地で試される。最終的にどんな特質があるか、どんなライフスタイルに合うかといったイメージが確立される。
東京~鹿児島ツーリングを行った4モデルの中で第2世代N-BOXが図抜けていたのは結局「こういう路面は苦手だな」「もっとこういうふうに作られていればいいのに」と思う回数の少なさだったと思う。お買い物や家族の送り迎え、短距離通勤がもっぱらというデイリーユース専門のユーザー、大荷物を積んでキャンプや釣りなどのレジャーに頻々と出かけるユーザー、高速道路をよく走るユーザー、そして軽スーパーハイトワゴンにとってはイレギュラーな使い方だが気のおもむくままにどこまでもクルマで旅をしたいというユーザーまで、まさに誰にでも合うという感じだった。クルマ自体を白物化し、どのように使うかはオーナーのライフスタイルと創造性次第というキャラクターは、遠い昔にホンダが放ったスマッシュヒットモデル、第1世代『ステップワゴン』に重なるものがあるように思われた。
ホンダは第3世代N-BOXを完全キープコンセプトで作っている。軽スーパーハイトワゴンに対してユーザーが求めるものが劇的に変わっていない以上、ヒット商品の後継モデル作りとしてきわめて妥当な判断だと思う。気になるのは第2世代で課題となっていたオーバーコストの問題をどう解決しているかだ。普通に作れば今以上に高価になり、さすがに販売に影響が出ることは避けられない。自動車工学の進歩やホンダのクルマ作りの知見の深まりなどをもって、コストを抑えつつ第2世代と大きく変わらない価格でスキのなさを維持することができていれば、第3世代も普通車からのダウンサイザーを含め、幅広い顧客層からの支持を得続けることができるだろう。新たな戦いが興味深い。
◆軽スーパーハイトワゴン離れした爽快な滑走感
要素別にもう少し深堀りしていこう。まずは走りや快適性のベースとなるシャシー、ボディだが、ここはN-BOXの中で白眉と言える部分のひとつ。重心が高く、サスペンションをあまり柔らかくできない軽スーパーハイトワゴンとしてはきわめて乗り心地が良い。低中速域、かつ路面状況がおおむね良好という環境ではルークスハイウェイスターにやや質感負けするが、路面が荒れていたり70km/h以上の速度域では静粛性、防振の両面でN-BOXが逆転する。新東名をはじめ高速クルーズは同クラスの中でN-BOXが完全に別次元にいた。
FWD(前輪駆動)のサスペンションは前マクファーソンストラット、後トーションビームというごくありふれた形式だが、最安グレードを含め前後サスペンションにロールを抑えるスタビライザーが装備されているのが特徴。第2世代N-BOXと同様に前後スタビライザーを持つモデルとしてはスズキのスペーシアがあるが、スペーシアが動きの軽やかさを高めるのにリソースが割かれているのに対し、N-BOXの場合は乗り心地の向上が主眼だ。
サスペンションの構成部品にたっぷりコストを割いたのとの合わせ技で、N-BOXの乗り味は大変上質なものになった。舗装面のコンディションが悪くない道を低中速で走る場合は日産ルークスハイウェイスターの驚異的な滑らかさにやや負けるが、路面が悪かったりバイパスクルーズ以上の速度レンジでは逆転し、路面の悪い高速道路では圧勝するという感じである。
開通後10年あまりが過ぎ、ややアンジュレーション(路面のうねり)が目立つようになってきた新東名のスーパークルーズでも、大型車が巻き起こす空気の乱流への強さとあいまって、軽スーパーハイトワゴン離れした爽快な滑走感を味わうことができた。
◆ライドフィールは前期型の方が上だった?
ただ、2020年のマイナーモデルチェンジ前に比べると、ライドフィールは少々落ちたという感もあった。筆者は別メディアで前期型の700km試乗を行っていたのだが、その時は乗り心地についてはタウンスピードから高速まで大きな段差を除きまったくといっていいほど弱点がなく、ライバルに対して10倍のアドバンテージがあると思うくらいの好印象だった。後期型はさしずめそれが3倍に落ちたというところである。
そういう味の差は気のせいだったり記憶の補正だったりすることもあるのだが、今回に限って言えばそう断言する気になる特別な状況があった。前期型は2020年春に房総半島で行われた現行『フィット』のメディア試乗会に出かけるついでに乗ったのだが、向かう途中、あまりの滑らかさに吃驚。フィットの試乗の時、「ここはN-BOXと互角」「ここについてはちょっと負けているかも」と、N-BOXをベンチマークに評価する有様。本来はそのまま帰路に着くのだが、もっと乗って試してみたいという意欲が猛然と湧き、700km試乗になった次第だった。
同年8月にミッドサイズセダン『アコード』で4100kmツーリングを行った時も、路面の当たりの柔らかさや揺すられ感の小ささがN-BOX並みだったら仕立てはともかく乗り味についてはもはやプレミアムセグメントになるのにと思ったほど。前期型N-BOXのライドフィールが今回のロードテスト車くらいであったなら、さすがにそこまで圧倒的高評価は下さなかったであろう。
◆第2世代N-BOXの走りを支えたのは「ボディ」
といって、後期型が全面的に前期型に負けているかというと、そうでもない。操縦性は逆に後期型のほうが上回っているように感じられた。前期型は今回に比べて距離は短かったが、モノは試しで茨城の表筑波スカイラインを走ってみた。乗り心地がいいぶんハンドリングは凡庸で、タイトコーナーではいとも簡単にアンダーステアが出た。
そもそも軽スーパーハイトワゴンは走りなど二の次、三の次なのだから、そういう道は安定するまでスピードを落とせばすむ話だと思っていたが、後期型は前輪のグリップの安定性が良く、サスペンションが柔らかいなりにねっとりと路面をホールドするような動きになっていた。加えてウェット路面での操縦性の劣化幅も小さく、これなら誰もが安心して田舎道を走れるという印象だった。
シャシーと並び、第2世代N-BOXの走りや快適性を支える重要なファクターと思われたのはボディである。ボディが走行中、実際にどのように変位しているかというのは計測機器で解析してみなければわからないものだが、自動車工学の世界では遠い昔に、乗員はサスペンションだけでなく車体のわずかな変位も体感するという結論が出ている。ホンダは第2世代N-BOXを作るにあたって車体に高粘性ボンドを多用する新工法を採用しているが、車体のしなりの計算がよほど的確だったのか、縦横のGから路面の凹凸の入力まで、実にしなやかに受け止めているというフィールだった。
車内への騒音侵入経路の遮断も実によく考えられており、特定の条件で急にロードノイズが高まるということが少なく、安定的に静かであった。また、軽自動車が苦手とする降雨時の騒音処理も優れたものだった。
後編ではパワートレイン、居住性、ユーティリティなどについて述べる。
2011年末に第1世代が登場して以降、2017年のフルモデルチェンジをまたいで大いに人気を博してきたN-BOX。軽自動車市場では2012年、2014年を除き2022年まで年間最多販売モデル。登録車を含めた無差別級ランキングでも2017年に首位に立ち、以降、コロナ禍の混乱に見舞われた2021年を除きその座を守っている。
軽スーパーハイトワゴンは日本の自動車市場における最大のボリュームゾーンだ。そこにモデルを供給する製造元はスズキ、ダイハツ、ホンダ、日産自動車/三菱自動車連合の4陣営だが、人気カテゴリーは競争も熾烈なものになるのが宿命。他の軽スーパーハイトワゴンのレビューでも言及したことだが、各陣営とも勝利者たらんとして並々ならぬ意欲をもってクルマを作り込んでおり、どれを買っても失敗とは言えないというくらいの力作揃いだ。
筆者は過去、スズキ『スペーシアカスタム』、ダイハツ『タント』、日産『ルークスハイウェイスター』と、3モデルについて3000km超のスーパーロングドライブを試しており、この2代目N-BOXは4モデル目。軽自動車にとっては本来強烈なアゲインストとなる価格の高さを押してN-BOXがなぜ販売面における圧倒的優位性を確立することができたのかという視点も持ちつつドライブしてみた。
ロードテスト車は装飾性重視の「カスタム」で、グレードは自然吸気エンジンの「L・コーディネートスタイル」。オプションとしてカーナビ、ドライブレコーダーなどが装着されていた。ドライブルートは東京を起点に鹿児島までを周遊しながら走るというもので、往路は瀬戸内側、復路は日本海側経由。最遠到達値は固体燃料ロケットを主体に打ち上げている鹿児島・大隅半島にあるJAXA内之浦宇宙空間観測所。
総走行距離は4191.7kmで、道路比率は市街地3、山岳路を含む郊外路5、高速2。乗車人数は南九州エリアが2~4名、その他は1名。エアコン常時AUTO。
インプレッションの前にN-BOXカスタム L・コーディネートスタイルの長所と短所を5点ずつ列記してみる。
■長所
1. 機能、性能に目立った穴がなく、誰にでも合う商品性。
2. 軽スーパーハイトワゴン随一の高速安定性。
3. 超高速域や急勾配でぶん回ってもストレスを感じさせない自然吸気エンジン。
4. 広いだけでなく採光性に富んだ室内と秀逸な乗降性。
5. 速度域や路面状況、天候を問わず高い快適性
■短所
1. 2020年改良前に比べて中低速域での乗り心地の滑らかさが後退。
2. この個体の調子が悪かったか、想定を大幅に下回った燃費。
3. 後席は足元空間が広い代わりに座面高が低く、居心地はそれほどいいわけではない。
4. ノーマルスライド車のシートアレンジは取り立てて豊富というわけではない。
5. 価格が高い。
◆短所らしい短所が見当たらない
ではインプレッションに入っていこう。第2世代N-BOXを高速、郊外路、山岳路、市街地と、いろいろなシーンを4200kmにわたって走らせてみてことさら強いインパクトを覚えたのは、短所らしい短所が見当たらないということだった。
広大な後席をはじめライバルをリードする美点はいろいろあるが、ライバルもそれぞれN-BOXに勝るような素晴らしい要素を持ち合わせている。N-BOXが決定的にリードしていたのは結局、スキのなさだ。軽規格で重心も高い軽スーパーハイトワゴンゆえ絶対性能は大したことはなく、乗車定員も4名に限定される。が、それを承知のうえで見ると、ファミリーカーとしての作り込みは素晴らしい。室内の広さ、乗り降りのしやすさ、荷物の積載性、快適性、室内の明るさや視界、走行性能などが絶妙にバランスよくデザインされていて、どれかを際立たせるために他を犠牲にしているような部分がほとんどないのだ。
長距離試乗、とりわけ1000km超のロングツーリングになると高速、一般道、山岳路といった道路の種別だけでなく、実に多様な路面コンディションに遭遇する。その過程でファーストインプレッションではいいと思っていた部分が意外に良くなかったり、悪いと思っていた部分が気にならなくなったり等々、短時間試乗ではわからなかったことが判明していく。東京~鹿児島ツーリングの場合、九州内での多人数乗車や荷物の積載など、ユーティリティも実地で試される。最終的にどんな特質があるか、どんなライフスタイルに合うかといったイメージが確立される。
東京~鹿児島ツーリングを行った4モデルの中で第2世代N-BOXが図抜けていたのは結局「こういう路面は苦手だな」「もっとこういうふうに作られていればいいのに」と思う回数の少なさだったと思う。お買い物や家族の送り迎え、短距離通勤がもっぱらというデイリーユース専門のユーザー、大荷物を積んでキャンプや釣りなどのレジャーに頻々と出かけるユーザー、高速道路をよく走るユーザー、そして軽スーパーハイトワゴンにとってはイレギュラーな使い方だが気のおもむくままにどこまでもクルマで旅をしたいというユーザーまで、まさに誰にでも合うという感じだった。クルマ自体を白物化し、どのように使うかはオーナーのライフスタイルと創造性次第というキャラクターは、遠い昔にホンダが放ったスマッシュヒットモデル、第1世代『ステップワゴン』に重なるものがあるように思われた。
ホンダは第3世代N-BOXを完全キープコンセプトで作っている。軽スーパーハイトワゴンに対してユーザーが求めるものが劇的に変わっていない以上、ヒット商品の後継モデル作りとしてきわめて妥当な判断だと思う。気になるのは第2世代で課題となっていたオーバーコストの問題をどう解決しているかだ。普通に作れば今以上に高価になり、さすがに販売に影響が出ることは避けられない。自動車工学の進歩やホンダのクルマ作りの知見の深まりなどをもって、コストを抑えつつ第2世代と大きく変わらない価格でスキのなさを維持することができていれば、第3世代も普通車からのダウンサイザーを含め、幅広い顧客層からの支持を得続けることができるだろう。新たな戦いが興味深い。
◆軽スーパーハイトワゴン離れした爽快な滑走感
要素別にもう少し深堀りしていこう。まずは走りや快適性のベースとなるシャシー、ボディだが、ここはN-BOXの中で白眉と言える部分のひとつ。重心が高く、サスペンションをあまり柔らかくできない軽スーパーハイトワゴンとしてはきわめて乗り心地が良い。低中速域、かつ路面状況がおおむね良好という環境ではルークスハイウェイスターにやや質感負けするが、路面が荒れていたり70km/h以上の速度域では静粛性、防振の両面でN-BOXが逆転する。新東名をはじめ高速クルーズは同クラスの中でN-BOXが完全に別次元にいた。
FWD(前輪駆動)のサスペンションは前マクファーソンストラット、後トーションビームというごくありふれた形式だが、最安グレードを含め前後サスペンションにロールを抑えるスタビライザーが装備されているのが特徴。第2世代N-BOXと同様に前後スタビライザーを持つモデルとしてはスズキのスペーシアがあるが、スペーシアが動きの軽やかさを高めるのにリソースが割かれているのに対し、N-BOXの場合は乗り心地の向上が主眼だ。
サスペンションの構成部品にたっぷりコストを割いたのとの合わせ技で、N-BOXの乗り味は大変上質なものになった。舗装面のコンディションが悪くない道を低中速で走る場合は日産ルークスハイウェイスターの驚異的な滑らかさにやや負けるが、路面が悪かったりバイパスクルーズ以上の速度レンジでは逆転し、路面の悪い高速道路では圧勝するという感じである。
開通後10年あまりが過ぎ、ややアンジュレーション(路面のうねり)が目立つようになってきた新東名のスーパークルーズでも、大型車が巻き起こす空気の乱流への強さとあいまって、軽スーパーハイトワゴン離れした爽快な滑走感を味わうことができた。
◆ライドフィールは前期型の方が上だった?
ただ、2020年のマイナーモデルチェンジ前に比べると、ライドフィールは少々落ちたという感もあった。筆者は別メディアで前期型の700km試乗を行っていたのだが、その時は乗り心地についてはタウンスピードから高速まで大きな段差を除きまったくといっていいほど弱点がなく、ライバルに対して10倍のアドバンテージがあると思うくらいの好印象だった。後期型はさしずめそれが3倍に落ちたというところである。
そういう味の差は気のせいだったり記憶の補正だったりすることもあるのだが、今回に限って言えばそう断言する気になる特別な状況があった。前期型は2020年春に房総半島で行われた現行『フィット』のメディア試乗会に出かけるついでに乗ったのだが、向かう途中、あまりの滑らかさに吃驚。フィットの試乗の時、「ここはN-BOXと互角」「ここについてはちょっと負けているかも」と、N-BOXをベンチマークに評価する有様。本来はそのまま帰路に着くのだが、もっと乗って試してみたいという意欲が猛然と湧き、700km試乗になった次第だった。
同年8月にミッドサイズセダン『アコード』で4100kmツーリングを行った時も、路面の当たりの柔らかさや揺すられ感の小ささがN-BOX並みだったら仕立てはともかく乗り味についてはもはやプレミアムセグメントになるのにと思ったほど。前期型N-BOXのライドフィールが今回のロードテスト車くらいであったなら、さすがにそこまで圧倒的高評価は下さなかったであろう。
◆第2世代N-BOXの走りを支えたのは「ボディ」
といって、後期型が全面的に前期型に負けているかというと、そうでもない。操縦性は逆に後期型のほうが上回っているように感じられた。前期型は今回に比べて距離は短かったが、モノは試しで茨城の表筑波スカイラインを走ってみた。乗り心地がいいぶんハンドリングは凡庸で、タイトコーナーではいとも簡単にアンダーステアが出た。
そもそも軽スーパーハイトワゴンは走りなど二の次、三の次なのだから、そういう道は安定するまでスピードを落とせばすむ話だと思っていたが、後期型は前輪のグリップの安定性が良く、サスペンションが柔らかいなりにねっとりと路面をホールドするような動きになっていた。加えてウェット路面での操縦性の劣化幅も小さく、これなら誰もが安心して田舎道を走れるという印象だった。
シャシーと並び、第2世代N-BOXの走りや快適性を支える重要なファクターと思われたのはボディである。ボディが走行中、実際にどのように変位しているかというのは計測機器で解析してみなければわからないものだが、自動車工学の世界では遠い昔に、乗員はサスペンションだけでなく車体のわずかな変位も体感するという結論が出ている。ホンダは第2世代N-BOXを作るにあたって車体に高粘性ボンドを多用する新工法を採用しているが、車体のしなりの計算がよほど的確だったのか、縦横のGから路面の凹凸の入力まで、実にしなやかに受け止めているというフィールだった。
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