【フェラーリ ローマスパイダー 海外試乗】半世紀以上ぶりの幌屋根+FRが醸し出す「甘美と快楽」…渡辺敏史
フェラーリというクルマの伝統的かつ基本的形態といえばFRレイアウトの2+2クーペだ。かつてはそれを元にホイールベースを短縮化したスポーツモデルが生まれたり、幌屋根のオープンモデルを架装したりと、それがフェラーリのクルマ作りの常套だったのは70年代前半までの話だ。
以降、12気筒ユニットを搭載する2+2クーペがGT的色合いを強める中、リトラクタブルハードトップという新たなソリューションを得て1台で往時の趣旨を現代化したのが8気筒の『カリフォルニア』~『ポルトフィーノ』のラインとなる。ゆえに、その実質的後継として純然たるクーペからスタートした『ローマ』にオープンモデルが設定されるのは自然の流れだったのだと思う。
が、この『ローマスパイダー』の誕生は当初からの必然だったわけではなく、デザイナーのプッシュにより実現することになったというのがフェラーリの見解だ。
◆半世紀以上ぶりとなる幌屋根+FRとなるローマスパイダー
彼らとしては『365GTS』/『4』&『GTC』/4の世代以来というから、かれこれ半世紀以上ぶりとなる幌屋根+FRとなるローマスパイダー、その組み合わせが実現した背景はリトラクタブルハードトップと同等以上の快適性が確保できるようになったからだ。その屋根はデザイン的にも薄手にみえる外観からは想像できない5レイヤーで、ハードパネルも組み込むことで風切り音の類を低減しながらフロントウインドウとの結合を強固なものとしている。
幌屋根は独特の織りで風合いを高めた表皮を5色から選ぶことが可能だ。開閉に要する時間は13.5秒で、走行時でも60km/h以内であれば操作できる。トランクは幌が収納された状態でも255リットルとクラス最大級の容量を確保。子供が座るのも厳しい後席を荷物用と割り切れば、積載力はメルセデス『SL』やポルシェ『911カブリオレ』といったライバルと同等以上が期待できる。
その後席はボタン操作で背面を跳ね上げれば、風の巻き込みを防ぐ大型ディフレクターとしても機能する。ちょうど後部空間に天蓋を被せるようなかたちにになるため、荷物の飛散やセキュリティ的にも一助となりそうだし、何より別添の大袈裟な造作物ではなく使わない際には気配がなくなるのも巧くしたものだと思う。
幌屋根化による実質的な重量増は約80kgで、オープン化に伴いシャシー側もAピラーやサイドシル、リアカウルやアクスル周りといった要所に補強が加えられている。3.9リットルV8ツインターボや8速DCTに仕様変更はなく、0-100km/h加速は3.4秒とクーペに同じ。0-200km/h加速では0.4秒遅れの9.7秒となるが、この数字から読み解くに日常的な速度域での動力性能差は無視できるレベルということだ。最高速は320km/hと言うまでもなくフェラーリのレベルだ。
◆クーペに勝る乗り心地の良さと、隙のない佇まい
凡人には気恥ずかしくなってしまうほどの甘美さこそローマが目指す境地だが、スパイダーとなったことでその佇まいは一段と華やかさを増したように思う。幌屋根を閉じている時にはその色味や風合いによってこのクルマが特別な設えであることを窺わせるし、開けている際にはローマの見せ場でもある、上質な鞣しの本革が丁寧に縫い込まれた内装が露わになる。ともあれ内も外もコーディネートにはオーナーのセンスが問われるクルマであることは間違いない。
その、幌屋根の開閉で感心させられるのは精緻な仕上がりだ。Aピラー側の受け口に向けてアンカーがカキンと嵌るその作動感はさながらドイツ車のようでもある。その幌屋根は閉じている限り、骨組みがミシリということもなければ当然ながらバタつくこともない。おろして間もないメーカーの車両であるからして経年変化はわからずとも、およそクーペとの差が見いだせないほどきっちりと作り込まれている。
その上で、はっきりとクーペに勝るといえるのは乗り心地の良さだ。補剛策と足回りの調律がオープンボディの減衰特性とピタリとハマっているのだろう、そのしなやかな動きは近年のフェラーリの中では随一、SLや911カレラカブリオレといった前述のライバルたちは手練れだが、それらとは一線を画する艶やかさが備わっている。パワーを乗せて曲がっていく際のリアタイヤの粘り感などは、公道を走るにあたってはクーペよりむしろ好ましいほどだ。かといって剛性が足りないかといえば屋根開きもの由来のスカットルシェイクやフロア振動などもなく、操舵応答にも濁りはない。
FRで620psを走らせるといえばいかにも緊張を追い求める刹那的な行為のようにも思えるが、それをも快楽としてしまうシャシーの度量こそがローマスパイダーの核心だ。むしろその佇まいの隙なしぶりこそ、乗る者の背筋をキリッと伸ばすことになるだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)
以降、12気筒ユニットを搭載する2+2クーペがGT的色合いを強める中、リトラクタブルハードトップという新たなソリューションを得て1台で往時の趣旨を現代化したのが8気筒の『カリフォルニア』~『ポルトフィーノ』のラインとなる。ゆえに、その実質的後継として純然たるクーペからスタートした『ローマ』にオープンモデルが設定されるのは自然の流れだったのだと思う。
が、この『ローマスパイダー』の誕生は当初からの必然だったわけではなく、デザイナーのプッシュにより実現することになったというのがフェラーリの見解だ。
◆半世紀以上ぶりとなる幌屋根+FRとなるローマスパイダー
彼らとしては『365GTS』/『4』&『GTC』/4の世代以来というから、かれこれ半世紀以上ぶりとなる幌屋根+FRとなるローマスパイダー、その組み合わせが実現した背景はリトラクタブルハードトップと同等以上の快適性が確保できるようになったからだ。その屋根はデザイン的にも薄手にみえる外観からは想像できない5レイヤーで、ハードパネルも組み込むことで風切り音の類を低減しながらフロントウインドウとの結合を強固なものとしている。
幌屋根は独特の織りで風合いを高めた表皮を5色から選ぶことが可能だ。開閉に要する時間は13.5秒で、走行時でも60km/h以内であれば操作できる。トランクは幌が収納された状態でも255リットルとクラス最大級の容量を確保。子供が座るのも厳しい後席を荷物用と割り切れば、積載力はメルセデス『SL』やポルシェ『911カブリオレ』といったライバルと同等以上が期待できる。
その後席はボタン操作で背面を跳ね上げれば、風の巻き込みを防ぐ大型ディフレクターとしても機能する。ちょうど後部空間に天蓋を被せるようなかたちにになるため、荷物の飛散やセキュリティ的にも一助となりそうだし、何より別添の大袈裟な造作物ではなく使わない際には気配がなくなるのも巧くしたものだと思う。
幌屋根化による実質的な重量増は約80kgで、オープン化に伴いシャシー側もAピラーやサイドシル、リアカウルやアクスル周りといった要所に補強が加えられている。3.9リットルV8ツインターボや8速DCTに仕様変更はなく、0-100km/h加速は3.4秒とクーペに同じ。0-200km/h加速では0.4秒遅れの9.7秒となるが、この数字から読み解くに日常的な速度域での動力性能差は無視できるレベルということだ。最高速は320km/hと言うまでもなくフェラーリのレベルだ。
◆クーペに勝る乗り心地の良さと、隙のない佇まい
凡人には気恥ずかしくなってしまうほどの甘美さこそローマが目指す境地だが、スパイダーとなったことでその佇まいは一段と華やかさを増したように思う。幌屋根を閉じている時にはその色味や風合いによってこのクルマが特別な設えであることを窺わせるし、開けている際にはローマの見せ場でもある、上質な鞣しの本革が丁寧に縫い込まれた内装が露わになる。ともあれ内も外もコーディネートにはオーナーのセンスが問われるクルマであることは間違いない。
その、幌屋根の開閉で感心させられるのは精緻な仕上がりだ。Aピラー側の受け口に向けてアンカーがカキンと嵌るその作動感はさながらドイツ車のようでもある。その幌屋根は閉じている限り、骨組みがミシリということもなければ当然ながらバタつくこともない。おろして間もないメーカーの車両であるからして経年変化はわからずとも、およそクーペとの差が見いだせないほどきっちりと作り込まれている。
その上で、はっきりとクーペに勝るといえるのは乗り心地の良さだ。補剛策と足回りの調律がオープンボディの減衰特性とピタリとハマっているのだろう、そのしなやかな動きは近年のフェラーリの中では随一、SLや911カレラカブリオレといった前述のライバルたちは手練れだが、それらとは一線を画する艶やかさが備わっている。パワーを乗せて曲がっていく際のリアタイヤの粘り感などは、公道を走るにあたってはクーペよりむしろ好ましいほどだ。かといって剛性が足りないかといえば屋根開きもの由来のスカットルシェイクやフロア振動などもなく、操舵応答にも濁りはない。
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