【アルファロメオ トナーレPHEV 新型試乗】アルファロメオの再定義が必要なのか?…中村孝仁
伝統あるブランドはそれなりに評価が定まっていて、例えばメルセデスベンツの場合は自動車としての走る要素を高次元で満たしてくれるクルマという風になる。
まあ異論はあろうが、とにかくメルセデスと言えばこんな感じとか、BMWと言えばこんな感じと言ったいわゆる定評があると思う。アルファロメオもしかりだ。個人的にはアルファロメオは4気筒でも6気筒でも美しく官能的なサウンドを響かせ、ダイナミックに走るスポーティーなモデルを連想させる。新時代になって『ジュリア』や『ステルビオ』が登場しても、そうした個人的な定評が覆ることがなかったのだが、どうも新しい『トナーレ』はそうじゃないようだ。
◆初めての充電機能を持つアルファロメオ
以前にMHEVのモデルをお借りして900kmほど走ってみたのだが、ステアリングはそれほどシャープではないし、決して官能的とは言い難いエンジンサウンドだったし、7速DCTとエンジンのやり取りもあまり上手くなかった。
今回はPHEVである。アルファロメオにとって初めてとなる充電機能を持つクルマである。ご存じの通りアルファロメオは今、ステランティスという大所帯のメンバーとなった。住処がデカくなってそれなりにシナジー効果というか、従来アルファロメオが恐らく一番苦手としてきたこの種の電動化だったり、安全装備の数々だったりが、これまでは別の会社だったそれらが上手いブランドから知恵を拝借してうまく作り上げてきている。
しかし、これはあくまでも個人的なイメージではあるが、結果としてこれまでアルファロメオが100年以上の歳月をかけて築き上げてきた、アルファロメオのアルファロメオたる所以がなくなってしまったように感じるのである。
勿論、独特なエンブレムや一目でアルファとわかるデザインなどは昔のままであるのだが、こと走りに関して言えば、アルファロメオというブランドをこのクルマ以降、もしかすると再定義する必要性があるように感じられたのである。
◆アルファのアルファたる所以
まずトナーレのプラットフォームはジープ『コンパス』と共有されるものである。次に1.3リットルの内燃エンジンはこれもジープ『レネゲード』に搭載されるものと同じだ。このエンジンはFCA時代に作られたものだから、広くフィアットやクライスラー系のブランドで使われるものである。
とまあ、これだけとってもアルファらしさが発揮されるはずもないわけで、だからと言ってそれが「つまんねぇ!」とは結び付かないところがアルファのアルファたる所以かもしれない。
どこかから石が飛んでくるかもしれないが、元々アルファロメオのハンドリングはそれほど抜群に良かったかというと、実はそうでもなくて結構大時代的ところがいっぱいあった。最たるところは昔から小回りが利かないハンドルの切れないところ。
トナーレもその例に洩れない。悪いところだけ継承してどうすんだよ!という感じではあったのだが、残念ながら素晴らしいステアリングフィールというわけにはいかなかった。それにどことなく全体的にざらつき感のあるステアフィールだ。
◆“ダイナミック”と電機とが噛み合っていない?
この際だから、ネガ要素を抽出すると、やはり電機とのやり取りがあまりうまくない。それが顕著なのは走行モードで“d”即ちダイナミックをセレクトした時だ。
“n”(ナチュラル)から移行すると、まずエンジンブレーキがかかったようにギアが落とされて戦闘モードともいえる状況になるのだが、とにかくアクセルが過敏に反応し、ほんの僅か足を乗せただけでもすぐさま加速に移ろうとする。60km/h以下のようなスピード領域では敏感なことこの上なく、スムーズに走らせることが難しい。この領域ではまあ使わない方が良い。これが“n”と“a”ではとてもスムーズに走らせることができるし、何より当たり前だけど実に静粛性が高い。
カタログ上は満充電で72km走行できるというが、5日間お借りして都合3回充電してみたものの、レンジが60kmを超えることはなく、いいところ実走行距離で50kmを超えればよいかな?というレベルだが、我が家のある横浜から東京の都心に出向いて帰ってくるという使い方では、ガソリンの出る幕はほとんどない。
足回りは少し硬めだが、快適性を損なうレベルではなく運動性能とのバランスはちょうど良いかな?というところである。ダンパーのセッティングが変えられるFSD(フリクェンシー・セレクティブ・ダンピング)という機能が付いているが、一般道であれこれ変えてみても大した差ではない。今回はワインディングを攻めるような走りをしていないので、この点は言及を避ける。
◆アルファに求めていたスポーツ性とは対極にある
とにかく、街中を走行モード“n”をチョイスして、満充電で走る限り素晴らしく静粛性が高く十分に快適なモデルであることが分かったが、アルファに求めていたスポーツ性とは対極にあるようなクルマと感じてしまった。やはりアルファロメオというブランドを再定義しなくてはいけない。この先電動ブランドになるらしいが、ステランティスがアルファに与えるポジションはもしかすると高級路線なのかもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
まあ異論はあろうが、とにかくメルセデスと言えばこんな感じとか、BMWと言えばこんな感じと言ったいわゆる定評があると思う。アルファロメオもしかりだ。個人的にはアルファロメオは4気筒でも6気筒でも美しく官能的なサウンドを響かせ、ダイナミックに走るスポーティーなモデルを連想させる。新時代になって『ジュリア』や『ステルビオ』が登場しても、そうした個人的な定評が覆ることがなかったのだが、どうも新しい『トナーレ』はそうじゃないようだ。
◆初めての充電機能を持つアルファロメオ
以前にMHEVのモデルをお借りして900kmほど走ってみたのだが、ステアリングはそれほどシャープではないし、決して官能的とは言い難いエンジンサウンドだったし、7速DCTとエンジンのやり取りもあまり上手くなかった。
今回はPHEVである。アルファロメオにとって初めてとなる充電機能を持つクルマである。ご存じの通りアルファロメオは今、ステランティスという大所帯のメンバーとなった。住処がデカくなってそれなりにシナジー効果というか、従来アルファロメオが恐らく一番苦手としてきたこの種の電動化だったり、安全装備の数々だったりが、これまでは別の会社だったそれらが上手いブランドから知恵を拝借してうまく作り上げてきている。
しかし、これはあくまでも個人的なイメージではあるが、結果としてこれまでアルファロメオが100年以上の歳月をかけて築き上げてきた、アルファロメオのアルファロメオたる所以がなくなってしまったように感じるのである。
勿論、独特なエンブレムや一目でアルファとわかるデザインなどは昔のままであるのだが、こと走りに関して言えば、アルファロメオというブランドをこのクルマ以降、もしかすると再定義する必要性があるように感じられたのである。
◆アルファのアルファたる所以
まずトナーレのプラットフォームはジープ『コンパス』と共有されるものである。次に1.3リットルの内燃エンジンはこれもジープ『レネゲード』に搭載されるものと同じだ。このエンジンはFCA時代に作られたものだから、広くフィアットやクライスラー系のブランドで使われるものである。
とまあ、これだけとってもアルファらしさが発揮されるはずもないわけで、だからと言ってそれが「つまんねぇ!」とは結び付かないところがアルファのアルファたる所以かもしれない。
どこかから石が飛んでくるかもしれないが、元々アルファロメオのハンドリングはそれほど抜群に良かったかというと、実はそうでもなくて結構大時代的ところがいっぱいあった。最たるところは昔から小回りが利かないハンドルの切れないところ。
トナーレもその例に洩れない。悪いところだけ継承してどうすんだよ!という感じではあったのだが、残念ながら素晴らしいステアリングフィールというわけにはいかなかった。それにどことなく全体的にざらつき感のあるステアフィールだ。
◆“ダイナミック”と電機とが噛み合っていない?
この際だから、ネガ要素を抽出すると、やはり電機とのやり取りがあまりうまくない。それが顕著なのは走行モードで“d”即ちダイナミックをセレクトした時だ。
“n”(ナチュラル)から移行すると、まずエンジンブレーキがかかったようにギアが落とされて戦闘モードともいえる状況になるのだが、とにかくアクセルが過敏に反応し、ほんの僅か足を乗せただけでもすぐさま加速に移ろうとする。60km/h以下のようなスピード領域では敏感なことこの上なく、スムーズに走らせることが難しい。この領域ではまあ使わない方が良い。これが“n”と“a”ではとてもスムーズに走らせることができるし、何より当たり前だけど実に静粛性が高い。
カタログ上は満充電で72km走行できるというが、5日間お借りして都合3回充電してみたものの、レンジが60kmを超えることはなく、いいところ実走行距離で50kmを超えればよいかな?というレベルだが、我が家のある横浜から東京の都心に出向いて帰ってくるという使い方では、ガソリンの出る幕はほとんどない。
足回りは少し硬めだが、快適性を損なうレベルではなく運動性能とのバランスはちょうど良いかな?というところである。ダンパーのセッティングが変えられるFSD(フリクェンシー・セレクティブ・ダンピング)という機能が付いているが、一般道であれこれ変えてみても大した差ではない。今回はワインディングを攻めるような走りをしていないので、この点は言及を避ける。
◆アルファに求めていたスポーツ性とは対極にある
とにかく、街中を走行モード“n”をチョイスして、満充電で走る限り素晴らしく静粛性が高く十分に快適なモデルであることが分かったが、アルファに求めていたスポーツ性とは対極にあるようなクルマと感じてしまった。やはりアルファロメオというブランドを再定義しなくてはいけない。この先電動ブランドになるらしいが、ステランティスがアルファに与えるポジションはもしかすると高級路線なのかもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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