【スバル アウトバック 新型試乗】守るべきスバルらしさと表裏一体の「弱点」…中村孝仁
ところが、東京の端、世田谷の瀬田交差点手前で大渋滞に見舞われた。てっきり事故渋滞と思い、ならば東名で帰ろうと空いている左車線から環八を東名に向かう。ところがなんと!東名は通行止めである。ここに至ってようやく国道246渋滞の謎が解けた。そうこうするうちに雪が降りだした。じっと我慢の大渋滞を抜けて恵比寿から我が家についたのは3時ごろ。普段は1時間とはかからないから3倍はかかったことになる。
その後夜にかけて大雪が降ったことは御存じの通り。スタッドレスなど履いていない我が家のクルマでは孫のお迎えに行けないということで、『アウトバック』のお出ましとなった。4WDであることに加え、ヨコハマ・アイスガードのスタッドレスを履いたこのクルマは、まさに「水を得た魚」の表現がぴったりで、途中何度も出会ったスタック車両を尻目にすいすいとミッション(孫のお迎え)を完了したことは言うまでもない。
翌日は降った雪が凍るということで、再びアウトバックのお出まし。おかげで完全に雪が溶けた(道路から)3日目まで、まさに八面六臂の活躍を見せてくれたのである。こういう強みを見せると女性は弱いもので、我が家の女房殿は「次はこれにしようか」と言い出す始末。だから前からスバルは良いって言ってるじゃない…と改めて説明することになったのである。
◆快適性と運動性能のバランスの良さは「日本車中最良」
アウトバックは2023年9月にマイナーチェンジが施された。と言っても主たる改良点は最新のアイサイトの装備だけで、動力系をはじめ走りに関する部分には変更が加えられていない。それでも乗ってみたくなるのは近年のスバル車の出来があまりにも良いからである。アウトバックは前回乗った時もまだスタッドレスが履かされた状態だったから、実はサマータイヤを履いた状態では乗ったことが無いのだが、図らずも今回は雪国へ行くこともなくその無類の強みを体感できることになったというわけだ。
私は今のところアイサイトのいわゆる見守りのお世話になっていないけれど、知人はその必要性を感じていて、最新のアイサイトが欲しいという(ちなみに彼は『フォレスター』乗りだ)。確かに安全面に力を注ぐスバルらしく、今回も最新アイサイトは全車標準だ。ACCを使った時の加減速のスムーズさや特に高速の料金所などで前車がブレーキを踏んだ時などの制御の良さは、誤解を恐れずに言えば、日本車中最良である。
もう一つ特筆すべきが、その乗り心地である。確かにスタッドレスを履いて、タイヤハイトは高くなっていたのかもしれないが、とにかくそのフラット感の高さ、ステアリングを切った時のスムーズなノーズの入り方など、ちょっとクルマに拘りを持つ人ならその良さを実感できるはずである。これも誤解を恐れずに言えば、その快適性と運動性能のバランスの良さはこれも日本車中最良(ほぼスバル全車に共通)である。
「ほめ過ぎ!」と言われたらその通りかもしれないが、近頃日本人の所得が上がらないところに持ってきて、輸入車は正常に彼の地の給与所得が上がっているから本国での値段が上がり、且つ輸送費が高騰している影響をもろに受けて、日本で買う輸入車が軒並み高い。だから、コストパフォーマンスの点でも必然的に日本車の方が良くなってしまう。しかもあらゆる点でライバルを凌駕しているスバルの場合、とてつもなく費用対効果の高いクルマに写ってしまうのである。
◆現行アウトバックはこれ以上良くすることが難しい
もっとも、このクルマにだって弱点はある。一つは燃費だ。スバルも頑張ってはいるのだろうが、やはり同クラスのライバルと比べた時、間違いなく燃費は悪い。今回も350kmほど走った燃費は8.1km/リットル。お世辞にも褒められた数値ではない。
もう一つ、こちらは気にしないユーザーもいるとは思うのだが、リニアトロニックの加速感である。まあCVTの宿命のようなもので、特に高速上を一定速で走って前車を追従するような場合、車間が空いたら詰めようとアクセルを踏むと思うが、その時の反応が鈍い。昔と比べたらこの辺りの制御ははるかに洗練されたのだと思うが、それでもステップATと比較すると、リニアトロニックとは言いながら、ちっともリニアじゃないと感じてしまうのである。
ネットなどを読むと1.8リットルエンジンに不満が多くあるようだが、要はアウトバックよりも格下のクルマと同じエンジンかよ…という不満であって、性能面では大きな不満は出ないと思う。少なくとも加速感を含め、これで十分である。しかもターボエンジンながらハイオクではなくレギュラーで対応しているのだから何をかいわんやである。
もしも気になる燃費とトランスミッションのリニアリティーを改良しようと思うと、たぶん水平対向を諦め、ステップATを搭しなくてはならないと思う。しかし、ボクサーエンジンを捨てたらスバルじゃなくなるし、今のアイデンティティーをやはり守り続けて欲しいから、目をつぶるしかあるまい。
というわけなので、現行アウトバックはこれ以上良くすることが難しいレベルのクルマなのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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