【マセラティ グレカーレ トロフェオ 新型試乗】このエンジンこそ、100%マセラティオリジナルの所以…中村孝仁
人間の体力と洞察力、視力そして何よりも運動能力は歳には勝てない。そんなわけでそれらすべてが必要となる高性能スポーツカーの試乗はこのところ避けていた。
マセラティというブランドは、私の中ではスーパーカーを作るブランドとして認知されていて、かつては旧い『ギブリ』から始まって、『ボーラ』、『カムシン』など当時のスーパー・マセラティは全て体験した。時が過ぎて『ビトゥルボ』などの時代も少しマイルドにはなったものの、依然として個人的にはスーパーカーの範疇に入っていて、大いに楽しませてもらった。
ところが最新の世代、つまり現行モデルの時代は全く試乗の食指が動いておらず、最後に乗ったマセラティは2016年のギブリであることが判明した。つまりもう8年間、マセラティに試乗していない。
そんな折、輸入車の試乗会に『グレカーレ』が登場していたので申し込んだところ、見事抽選に当たり、最新鋭のモデルを試乗することができることになった。正直言えばマセラティに関しては完全に今浦島状態だから、色々と試乗にあたって説明を聞く。説明してくれたのはマセラティ・ジャパンのコミュニケーション、アレッサンドロ・ラメーラさん。イタリア人だが流暢な日本語を話す。彼が強調していたのは、グレカーレが100%マセラティのオリジナル車であるという点。
どうもステランティスという巨大な傘の下に入ったことと、その中にあってもかつてオーナーシップがコロコロと変わった名残から、やれフェラーリエンジンを積んでいるとか、やれアルファロメオのシャシーを使っている等々多くのいわゆる下種の勘繰りがあって、マセラティは寄せ集め的なイメージがもしかしたらついているということに対してメッセージを出したかったのではないかと感じてしまった。
もちろん明確にわかっていることはジョルジョ・プラットフォームを使っているから確かにアルファロメオ『ステルヴィオ』の遠縁にあたることは否定できないが、とはいえ少なくともアルファロメオ的?と感じるところは一つもない。まあスターターボタンがステアリングにつくところが一緒と言えば一緒。でもマセラティはやはりマセラティであった。
◆エンジンこそ、100%マセラティオリジナルの所以
日本市場には3タイプのグレカーレが導入されている。このうち「トロフェオ」というモデルは最上級のグレードで、このモデルのみ3リットルツインターボV6エンジンを搭載する。この1点だけとってもマセラティがスーパーカーであるオーラを放つことは昔と変わっていない。そしてこのエンジンこそアレッサンドロ・ラメーラさんが特に強調したかった100%マセラティオリジナルの所以であろう。
V8由来かとも思われる90度V6で、しかもレーシングカーが今ではほとんど採用するプレチャンバーを備えたエンジンなのである。言ってみれば昔のディーゼルエンジン同様、別室で着火させてその火炎を燃焼室に送り込む方式である。この方が負荷の大きな領域では熱損失を抑えられるそうだ。もっとも負荷の小さな時はどうする?という話になって、そのためにこのエンジンはプラグを二つ用意し、低回転域や冷間時はいわゆる直噴ではなくポート噴射で第2のプラグによって燃焼室内で直接燃焼させる方式をとっている。要するにとても凝ったエンジンというわけである。
そんなエンジンを積んでいるから、本当ならどこか速度無制限のところに持って行って全負荷をかけてみたいものだが、今回は一般道の試乗。そんなわけにはいかなかったが、低負荷から比較的高負荷の領域まで実にスムーズで、今や余程の高性能を標榜するクルマでないと4気筒以上のマルチシリンダーを味わうことはできないので、久々にスーパーな雰囲気を味わった。つまりは4気筒とは明確に異なるスムーズネスと豪快なサウンドが楽しめる。最高出力は530ps。それに合わせたのか車両ナンバーが「530」であった。洒落が効いている。
他の4気筒モデルとは異なり、通常のドライブモードにコルサといういわゆるサーキット走行想定のモードが加わっているのもトロフェオの特徴である。あれこれいじっては見たものの、精々味見の域を出ないから詳しいお話は避けるが、コンフォートモードからスポーツモードに至るモード変換ではかなり顕著に足が引き締まった印象を受けた。特にコルサをチョイスすればエクゾーストサウンドが明確に変わり、マルチシリンダーの良さを味わえる。
◆マセラティの名に恥じないSUV
運動性能はこの種の重心高が高いモデルとしては異例のシャープさを持っていて、この辺りもマセラティの名に恥じない。どうもスーパーカーブランドのSUVと聞くと「○○よお前もか」的考えに支配されてしまうが、そのあたりがとてもうまくまとめられている印象を受けた。
既に4気筒の「モデナ」というグレードもこの時同時試乗をしたのだが、マセラティ・ジャパンのご厚意で1週間じっくりと乗る機会を頂いたので、モデナについては後日詳しく説明しようと思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
マセラティというブランドは、私の中ではスーパーカーを作るブランドとして認知されていて、かつては旧い『ギブリ』から始まって、『ボーラ』、『カムシン』など当時のスーパー・マセラティは全て体験した。時が過ぎて『ビトゥルボ』などの時代も少しマイルドにはなったものの、依然として個人的にはスーパーカーの範疇に入っていて、大いに楽しませてもらった。
ところが最新の世代、つまり現行モデルの時代は全く試乗の食指が動いておらず、最後に乗ったマセラティは2016年のギブリであることが判明した。つまりもう8年間、マセラティに試乗していない。
そんな折、輸入車の試乗会に『グレカーレ』が登場していたので申し込んだところ、見事抽選に当たり、最新鋭のモデルを試乗することができることになった。正直言えばマセラティに関しては完全に今浦島状態だから、色々と試乗にあたって説明を聞く。説明してくれたのはマセラティ・ジャパンのコミュニケーション、アレッサンドロ・ラメーラさん。イタリア人だが流暢な日本語を話す。彼が強調していたのは、グレカーレが100%マセラティのオリジナル車であるという点。
どうもステランティスという巨大な傘の下に入ったことと、その中にあってもかつてオーナーシップがコロコロと変わった名残から、やれフェラーリエンジンを積んでいるとか、やれアルファロメオのシャシーを使っている等々多くのいわゆる下種の勘繰りがあって、マセラティは寄せ集め的なイメージがもしかしたらついているということに対してメッセージを出したかったのではないかと感じてしまった。
もちろん明確にわかっていることはジョルジョ・プラットフォームを使っているから確かにアルファロメオ『ステルヴィオ』の遠縁にあたることは否定できないが、とはいえ少なくともアルファロメオ的?と感じるところは一つもない。まあスターターボタンがステアリングにつくところが一緒と言えば一緒。でもマセラティはやはりマセラティであった。
◆エンジンこそ、100%マセラティオリジナルの所以
日本市場には3タイプのグレカーレが導入されている。このうち「トロフェオ」というモデルは最上級のグレードで、このモデルのみ3リットルツインターボV6エンジンを搭載する。この1点だけとってもマセラティがスーパーカーであるオーラを放つことは昔と変わっていない。そしてこのエンジンこそアレッサンドロ・ラメーラさんが特に強調したかった100%マセラティオリジナルの所以であろう。
V8由来かとも思われる90度V6で、しかもレーシングカーが今ではほとんど採用するプレチャンバーを備えたエンジンなのである。言ってみれば昔のディーゼルエンジン同様、別室で着火させてその火炎を燃焼室に送り込む方式である。この方が負荷の大きな領域では熱損失を抑えられるそうだ。もっとも負荷の小さな時はどうする?という話になって、そのためにこのエンジンはプラグを二つ用意し、低回転域や冷間時はいわゆる直噴ではなくポート噴射で第2のプラグによって燃焼室内で直接燃焼させる方式をとっている。要するにとても凝ったエンジンというわけである。
そんなエンジンを積んでいるから、本当ならどこか速度無制限のところに持って行って全負荷をかけてみたいものだが、今回は一般道の試乗。そんなわけにはいかなかったが、低負荷から比較的高負荷の領域まで実にスムーズで、今や余程の高性能を標榜するクルマでないと4気筒以上のマルチシリンダーを味わうことはできないので、久々にスーパーな雰囲気を味わった。つまりは4気筒とは明確に異なるスムーズネスと豪快なサウンドが楽しめる。最高出力は530ps。それに合わせたのか車両ナンバーが「530」であった。洒落が効いている。
他の4気筒モデルとは異なり、通常のドライブモードにコルサといういわゆるサーキット走行想定のモードが加わっているのもトロフェオの特徴である。あれこれいじっては見たものの、精々味見の域を出ないから詳しいお話は避けるが、コンフォートモードからスポーツモードに至るモード変換ではかなり顕著に足が引き締まった印象を受けた。特にコルサをチョイスすればエクゾーストサウンドが明確に変わり、マルチシリンダーの良さを味わえる。
◆マセラティの名に恥じないSUV
運動性能はこの種の重心高が高いモデルとしては異例のシャープさを持っていて、この辺りもマセラティの名に恥じない。どうもスーパーカーブランドのSUVと聞くと「○○よお前もか」的考えに支配されてしまうが、そのあたりがとてもうまくまとめられている印象を受けた。
既に4気筒の「モデナ」というグレードもこの時同時試乗をしたのだが、マセラティ・ジャパンのご厚意で1週間じっくりと乗る機会を頂いたので、モデナについては後日詳しく説明しようと思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
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1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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