【メルセデスベンツ Eクラス 新型試乗】ここからがメルセデスの本領発揮かもしれない…中村孝仁
◆メルセデスは今、輝きを失っているのか?
2023年5月に本国でリリースされた最新のメルセデスベンツ『Eクラス』に乗った。メルセデスは2030年までに市場の状況にもよるがと断りをつけて、完全EV化に舵を切ると発表していた。だから、ICEを搭載したEクラスに乗れるのはこれが最後かもしれない…と思ったものである。
しかし、どうやら市場がそれを許さなかったと判断したのか、2030年までの完全EV化は撤回された。そしてメルセデスは昔のメルセデスに戻る方針を固めたようである。ドイツの経済紙ハンデルスブラット(Handelsblatt)によれば、メルセデスは現行『Aクラス』及び『Bクラス』の生産を2025年で終了し、現行の7種あるボディのフルライン戦略から将来的には4種のボディスタイルの高級化路線に舵を切るという。(あくまでハンデルスブラットの記事引用)つまりは昔の高級化路線に戻るということである。
個人的には全く歓迎すべきもので(同時に手が届かなくなることも示唆するが)、昔の神格化されたメルセデスが戻ることを意味しているのだと思うわけである。かつて純粋に高級で上質なセダンだけを作ってきたメルセデスの精神に戻れば、このブランドは間違いなく輝きを取り戻すことになる。
では今、輝きを失っているのか?と問われたら、個人的な見解ではその答えは50%Yesである。
今から40年ほど前、即ち80年代にメルセデスにW201と呼ばれたコンパクトなモデルが誕生した。「190シリーズ」と呼ばれたモデルだ。あまりのクオリティーの高さから、オーバークォリティーと呼ばれたコンパクトなセダンだ。当時のメルセデスはそんなクルマ作りをしていた。勿論そんなことは時代と市場が許すはずもなく、徐々にその神格化された存在は薄れ、今ではBMW、アウディと共にドイツの高級車御三家と呼ばれる定位置に収まっているが、正直なところ昔のメルセデスはBMWやアウディではとても追いつくことのできない存在だったのである。
と、前置きが非常に長くなってしまったが要は如何にメルセデスが凄い存在だったかを長年見続けてきた筆者にとっては、最近の傾向はおいおい、どうしちゃったんだ?メルセデス?という印象が強いのである。
◆フルチェンジだからだいぶ改良されていると思ったら
先代のW213時代のEクラスに試乗した時、実は乗り心地がプアだったと書いた。その後マイナーチェンジを受けてそのプアさは30%ほど改良されたと書いた。以来4年ぶり。今回はフルチェンジだからだいぶ改良されていると思って試乗した。プラットフォームは先代の改良版である「MRA-II」と呼ばれるもの。しかし、乗り出してすぐ、残念ながらその期待は打ち砕かれた。少なくとも乗り心地に関しては先代とほぼ同じである。
問題はタイヤだと思った。今回試乗したのはセダンの「E200d」、同じくセダンでPHEVの「E350e」、それにワゴンの「E200」である。履いていたタイヤはそれぞれ前後のサイズが異なり、E200dの場合245/45R19と275/40R19のピレリPzero 。E350eは245/40R20と275/35R20のミシュランeプライマシー。そしてE200ワゴンは245/45R19と275/40R19のピレリPzeroであった。20インチはともかくとしてブランドこそ違うものの、このサイズは先代も同じである。
そのサイズによる接地感や横方向の踏ん張りは間違いなく良いものなのだろうが、乗り心地への影響は否定しずらい悪影響を及ぼしているように感じた。まあ正直言って試乗区間の路面も決して褒められたものではなかったが、上質を謳うならもう少し気を使っても良いように感じるわけである。実は、試乗に赴いた時全く同じサイズの20インチピレリPzero を履いたクルマで行ったのだが、こと乗り心地のみを取り上げればそのクルマの勝ちであった。
◆ここからがメルセデスの本領発揮かも
エンジンは全て2リットル4気筒でガソリンはM254、ディーゼルはOM654である。気になった乗り心地を除けばやはりメルセデスである。とりわけステアリングの正確さとそのフィーリングの良さは文句なしだし、2リットルとは言えPHEVを除いて全車ISGを装備するいわゆるマイルドハイブリッドで、23ps/205Nmのモーターを装備するから、それなりによく走る。さすがに先代の1.5リットルではなく2リットルということもあるかもしれない。
少々驚きをもって感じられたのは、同じ2リットルのガソリンとディーゼル。間違いなくディーゼルの方が車内音が大きいと思いきや、どちらも似たようなものでほとんど差がない。音質も似ていて区別がつかないほどであった。果たしてディーゼルが非常に静かなのか、あるいはガソリンがうるさいのか定かではないが、ファイアウォールを通じて室内に侵入するノイズは決して小さくはない。もちろんPHEVの場合はエンジンを回さない限りはEVなので例外である。
今回のフルチェンジでも一番多く時間が割かれた変更についてはやはりインフォテイメント系の話やダッシュ全面のディスプレイなど。時代とともに自動車の価値が変化していることをひしひしと感じる。スタイルこそ伝統的と称する3ボックスのセダンスタイルだし、スタイリングも先代とそう大きく変わらないいわゆるキープコンセプトであるから、見た目からは前オーナーは乗り換えやすい。
いずれにせよ、どうやらこれが最後のICE搭載Eクラスとはならないかもしれないし、将来的に高級化路線に舞い戻るみたいなので、ここからがメルセデスの本領発揮かもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
2023年5月に本国でリリースされた最新のメルセデスベンツ『Eクラス』に乗った。メルセデスは2030年までに市場の状況にもよるがと断りをつけて、完全EV化に舵を切ると発表していた。だから、ICEを搭載したEクラスに乗れるのはこれが最後かもしれない…と思ったものである。
しかし、どうやら市場がそれを許さなかったと判断したのか、2030年までの完全EV化は撤回された。そしてメルセデスは昔のメルセデスに戻る方針を固めたようである。ドイツの経済紙ハンデルスブラット(Handelsblatt)によれば、メルセデスは現行『Aクラス』及び『Bクラス』の生産を2025年で終了し、現行の7種あるボディのフルライン戦略から将来的には4種のボディスタイルの高級化路線に舵を切るという。(あくまでハンデルスブラットの記事引用)つまりは昔の高級化路線に戻るということである。
個人的には全く歓迎すべきもので(同時に手が届かなくなることも示唆するが)、昔の神格化されたメルセデスが戻ることを意味しているのだと思うわけである。かつて純粋に高級で上質なセダンだけを作ってきたメルセデスの精神に戻れば、このブランドは間違いなく輝きを取り戻すことになる。
では今、輝きを失っているのか?と問われたら、個人的な見解ではその答えは50%Yesである。
今から40年ほど前、即ち80年代にメルセデスにW201と呼ばれたコンパクトなモデルが誕生した。「190シリーズ」と呼ばれたモデルだ。あまりのクオリティーの高さから、オーバークォリティーと呼ばれたコンパクトなセダンだ。当時のメルセデスはそんなクルマ作りをしていた。勿論そんなことは時代と市場が許すはずもなく、徐々にその神格化された存在は薄れ、今ではBMW、アウディと共にドイツの高級車御三家と呼ばれる定位置に収まっているが、正直なところ昔のメルセデスはBMWやアウディではとても追いつくことのできない存在だったのである。
と、前置きが非常に長くなってしまったが要は如何にメルセデスが凄い存在だったかを長年見続けてきた筆者にとっては、最近の傾向はおいおい、どうしちゃったんだ?メルセデス?という印象が強いのである。
◆フルチェンジだからだいぶ改良されていると思ったら
先代のW213時代のEクラスに試乗した時、実は乗り心地がプアだったと書いた。その後マイナーチェンジを受けてそのプアさは30%ほど改良されたと書いた。以来4年ぶり。今回はフルチェンジだからだいぶ改良されていると思って試乗した。プラットフォームは先代の改良版である「MRA-II」と呼ばれるもの。しかし、乗り出してすぐ、残念ながらその期待は打ち砕かれた。少なくとも乗り心地に関しては先代とほぼ同じである。
問題はタイヤだと思った。今回試乗したのはセダンの「E200d」、同じくセダンでPHEVの「E350e」、それにワゴンの「E200」である。履いていたタイヤはそれぞれ前後のサイズが異なり、E200dの場合245/45R19と275/40R19のピレリPzero 。E350eは245/40R20と275/35R20のミシュランeプライマシー。そしてE200ワゴンは245/45R19と275/40R19のピレリPzeroであった。20インチはともかくとしてブランドこそ違うものの、このサイズは先代も同じである。
そのサイズによる接地感や横方向の踏ん張りは間違いなく良いものなのだろうが、乗り心地への影響は否定しずらい悪影響を及ぼしているように感じた。まあ正直言って試乗区間の路面も決して褒められたものではなかったが、上質を謳うならもう少し気を使っても良いように感じるわけである。実は、試乗に赴いた時全く同じサイズの20インチピレリPzero を履いたクルマで行ったのだが、こと乗り心地のみを取り上げればそのクルマの勝ちであった。
◆ここからがメルセデスの本領発揮かも
エンジンは全て2リットル4気筒でガソリンはM254、ディーゼルはOM654である。気になった乗り心地を除けばやはりメルセデスである。とりわけステアリングの正確さとそのフィーリングの良さは文句なしだし、2リットルとは言えPHEVを除いて全車ISGを装備するいわゆるマイルドハイブリッドで、23ps/205Nmのモーターを装備するから、それなりによく走る。さすがに先代の1.5リットルではなく2リットルということもあるかもしれない。
少々驚きをもって感じられたのは、同じ2リットルのガソリンとディーゼル。間違いなくディーゼルの方が車内音が大きいと思いきや、どちらも似たようなものでほとんど差がない。音質も似ていて区別がつかないほどであった。果たしてディーゼルが非常に静かなのか、あるいはガソリンがうるさいのか定かではないが、ファイアウォールを通じて室内に侵入するノイズは決して小さくはない。もちろんPHEVの場合はエンジンを回さない限りはEVなので例外である。
今回のフルチェンジでも一番多く時間が割かれた変更についてはやはりインフォテイメント系の話やダッシュ全面のディスプレイなど。時代とともに自動車の価値が変化していることをひしひしと感じる。スタイルこそ伝統的と称する3ボックスのセダンスタイルだし、スタイリングも先代とそう大きく変わらないいわゆるキープコンセプトであるから、見た目からは前オーナーは乗り換えやすい。
いずれにせよ、どうやらこれが最後のICE搭載Eクラスとはならないかもしれないし、将来的に高級化路線に舞い戻るみたいなので、ここからがメルセデスの本領発揮かもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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