【ジープ コマンダー 新型試乗】チェロキーなき今、「程よさ」が売りのジープ…中村孝仁
結局のところ、自動車の価値って一体なんだ?という素朴な疑問がわいてしまう今日この頃。改めてブランド価値を考えさせられた。
ジープである。かつて日本ではクロカン四駆の代表格という存在にすぎず、どう考えても一般受けはしないモデルしか作ってこなかったブランドである。もっともそれにはちょっと語弊があって、1960年代になると言わばSUVの元祖となる『ワゴニア』を誕生させているのでクロカン四駆一辺倒というわけではなかったのだが、当時日本でそのワゴニアは導入されていなかった。
◆クロカン四駆から明確な価値あるSUVブランドへと進化
そもそもジープと言えば日本人が最初に思い浮かべるのは『三菱ジープ』であって、アメリカから輸入が始まったのは1982年頃にAMCブランドとして『CJ7』と『イーグルワゴン』が導入されているものの、その数はごく僅かであった。
ジープの価値が大きく見直されるのは1993年に『チェロキー』の右ハンドル仕様が導入されたことがきっかけだ。しかもそれを販売したのがホンダ系ディーラーで、ここからジープは俄然注目を集める存在になったと言って過言ではない。
ただそうは言っても、当時まだSUVなどという概念はなく、所詮はクロカン四駆の一つとしてとらえられていたので俄然注目は集めたものの、ブランド価値を上げるというものではなかった。
その間にメーカーはAMCからクライスラーに移り、そのクライスラーもダイムラー(メルセデスベンツだ)に合併され、さらにダイムラーが手放すと今度はフィアットが買収してフィアット・クライスラーオートモビルと社名を変える。ジープが大化けするのはちょうどこの時代である。アメリカ一辺倒だった市場がフィアットと合体したことでヨーロッパに広がり、さらに南米にも拠点ができた。
ヨーロッパ流を取り入れた『レネゲード』などが出来た結果販売台数が俄然拡大し、90年代の10年間の累計販売台数が63万台程度だったのに対し、2016年には単年で141万台を売り上げた。ミリオンセラーである。まさにブランドが確立され、ジープは単なるクロカン四駆から明確な価値あるSUVブランドへと進化を遂げたわけである。
◆3列シートを持つ「チェロキー」後継モデル
いま日本で販売されるコマンダーというモデルは、実は北米市場では販売されていない。販売されるのは南米、インド、それに日本だ。日本市場での位置付けは、消滅してしまったチェロキーの後継モデルというポジション。しかし、大きく異なるのは3列シートを持っていること。それに日本市場のジープでは唯一のターボディーゼルエンジンを装備することである。
このエンジン、フィアットのベースのマルチジェットIIと呼ばれるもので、ヨーロッパではフィアット、アルファロメオなどにも使われたもの。今でもイタリア本国のフィアット『500X』などに使われているものであるが、その誕生は2008年といささか古い。また、インド市場での燃料の品質を考慮しているのか、性能的には少し鷹揚なところがあって、マツダのターボディーゼルのような、しゃきっとしたところが無い。それに運動性能自体もやはりおっとりとしたもので、考えようによってはミニバンなどの上屋の高い自動車に慣れきっている日本人にとっては、それに似た感覚を持つコマンダーの動きは歓迎されるものかもしれない。
このクルマ、導入したての頃に2時間という短い時間試乗しただけだったので、改めて1週間たっぷりと乗って日常使いなどについて考察してみた。結論から行くとまさに程よいジープだと思う。
確かに『ラングラー』のような尖ったオフロード性能を持つわけでもないし(それでもオンデマンド4WDである)、『グランドチェロキー』のような華やかさや豪華さを持っているわけでもない。それにコンパクトなレネゲードのような機動力があるわけでもないのだが、とりあえず7人の乗車が可能だし(それはグランドチェロキーでしか求められない)、3列目をたたんでしまえば結構なラゲッジスペースがあって重宝できるなど、レネゲードからグランドチェロキーに至る一連のジープ各モデルの要素をうまく取り入れたまさに程よいクルマに仕上がっている。そして仕上げは日本ならではの安い軽油が使えるランニングコスト性能の高さである。
冒頭でブランドのお話をしたが、今となっては押しも押されもせぬ価値あるブランドに変貌したジープ。上を見れば1000万円の大台に乗るグランドチェロキーや、ほぼ800万円と高額になったラングラーなどなかなか手の届きにくいモデルが多くなってしまったが、597万円と限りなく600万円のコマンダーは使い勝手とサイズ感、それに見た目の上質さなどがミックスされたまさに「程よさ」が売りのモデルである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
ジープである。かつて日本ではクロカン四駆の代表格という存在にすぎず、どう考えても一般受けはしないモデルしか作ってこなかったブランドである。もっともそれにはちょっと語弊があって、1960年代になると言わばSUVの元祖となる『ワゴニア』を誕生させているのでクロカン四駆一辺倒というわけではなかったのだが、当時日本でそのワゴニアは導入されていなかった。
◆クロカン四駆から明確な価値あるSUVブランドへと進化
そもそもジープと言えば日本人が最初に思い浮かべるのは『三菱ジープ』であって、アメリカから輸入が始まったのは1982年頃にAMCブランドとして『CJ7』と『イーグルワゴン』が導入されているものの、その数はごく僅かであった。
ジープの価値が大きく見直されるのは1993年に『チェロキー』の右ハンドル仕様が導入されたことがきっかけだ。しかもそれを販売したのがホンダ系ディーラーで、ここからジープは俄然注目を集める存在になったと言って過言ではない。
ただそうは言っても、当時まだSUVなどという概念はなく、所詮はクロカン四駆の一つとしてとらえられていたので俄然注目は集めたものの、ブランド価値を上げるというものではなかった。
その間にメーカーはAMCからクライスラーに移り、そのクライスラーもダイムラー(メルセデスベンツだ)に合併され、さらにダイムラーが手放すと今度はフィアットが買収してフィアット・クライスラーオートモビルと社名を変える。ジープが大化けするのはちょうどこの時代である。アメリカ一辺倒だった市場がフィアットと合体したことでヨーロッパに広がり、さらに南米にも拠点ができた。
ヨーロッパ流を取り入れた『レネゲード』などが出来た結果販売台数が俄然拡大し、90年代の10年間の累計販売台数が63万台程度だったのに対し、2016年には単年で141万台を売り上げた。ミリオンセラーである。まさにブランドが確立され、ジープは単なるクロカン四駆から明確な価値あるSUVブランドへと進化を遂げたわけである。
◆3列シートを持つ「チェロキー」後継モデル
いま日本で販売されるコマンダーというモデルは、実は北米市場では販売されていない。販売されるのは南米、インド、それに日本だ。日本市場での位置付けは、消滅してしまったチェロキーの後継モデルというポジション。しかし、大きく異なるのは3列シートを持っていること。それに日本市場のジープでは唯一のターボディーゼルエンジンを装備することである。
このエンジン、フィアットのベースのマルチジェットIIと呼ばれるもので、ヨーロッパではフィアット、アルファロメオなどにも使われたもの。今でもイタリア本国のフィアット『500X』などに使われているものであるが、その誕生は2008年といささか古い。また、インド市場での燃料の品質を考慮しているのか、性能的には少し鷹揚なところがあって、マツダのターボディーゼルのような、しゃきっとしたところが無い。それに運動性能自体もやはりおっとりとしたもので、考えようによってはミニバンなどの上屋の高い自動車に慣れきっている日本人にとっては、それに似た感覚を持つコマンダーの動きは歓迎されるものかもしれない。
このクルマ、導入したての頃に2時間という短い時間試乗しただけだったので、改めて1週間たっぷりと乗って日常使いなどについて考察してみた。結論から行くとまさに程よいジープだと思う。
確かに『ラングラー』のような尖ったオフロード性能を持つわけでもないし(それでもオンデマンド4WDである)、『グランドチェロキー』のような華やかさや豪華さを持っているわけでもない。それにコンパクトなレネゲードのような機動力があるわけでもないのだが、とりあえず7人の乗車が可能だし(それはグランドチェロキーでしか求められない)、3列目をたたんでしまえば結構なラゲッジスペースがあって重宝できるなど、レネゲードからグランドチェロキーに至る一連のジープ各モデルの要素をうまく取り入れたまさに程よいクルマに仕上がっている。そして仕上げは日本ならではの安い軽油が使えるランニングコスト性能の高さである。
冒頭でブランドのお話をしたが、今となっては押しも押されもせぬ価値あるブランドに変貌したジープ。上を見れば1000万円の大台に乗るグランドチェロキーや、ほぼ800万円と高額になったラングラーなどなかなか手の届きにくいモデルが多くなってしまったが、597万円と限りなく600万円のコマンダーは使い勝手とサイズ感、それに見た目の上質さなどがミックスされたまさに「程よさ」が売りのモデルである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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