【ボルボ EX30 新型試乗】べた褒めしても良い出来栄えと「ひと手間」の罪と罰…中村孝仁
今回の試乗で一番感じたことは、このクルマが次世代を見据えて作られているというその1点である。旧世代の人間にとっては慣れる必要がある。
人間、歳を取れば目は見えずらくなるし、動的反応も鈍くなるのは当たり前。そのために自動車も色々なデバイスで武装して完全を確保してくれている。ボルボ『EX30』はまさに次世代を見据えたボルボの最新作と言えよう。
そもそも、プラットフォームがBEV専用の「SEA」と呼ばれるもの。このプラットフォームのおかげなのだろうか、コンパクトな外観に似合わず、インテリアの居住性は合格点が付けられる。インテリアを広く見せているもう一つの理由は、徹底的にシンプルさを貫いていることにあると思う。まあ、これには功罪あって、この部分が冒頭に記した旧世代の人間は慣れる必要があると評した部分である。
それにしても日本語って難しいと思った。例えば料理で「ひと手間かける」といえば、料理をさらに美味しくするマジックのようで、その魅力が伝わる言葉だと思うのだが、これが「かける」ではなく「かかる」となると話が違ってくる。「ひと手間」は大したことではないけれど、要は「手間がかかる」となると面倒で厄介だから、決して魅力的ではない。EX30の操作には常にこの「ひと手間」が必要になる。というのも、すべての機能とその操作をダッシュ中央にあるディスプレイに詰め込んでしまったからだ。
◆ひと手間どころか数手間かかる…
ドライバーの眼前にあるのはドライバー自身を見守るセンサーだけで、旧世代では見慣れたメーターディスプレイなど存在しない。ステアリングコラムから左右にレバーが2本生えているのは旧世代と同じだが、右のレバーはシフトレバーだから、右ハンドル仕様の国産車に慣れている人はそれをウィンカーと間違いやすい。ドアには見慣れたはずのパワーウィンドーのスイッチがない。あるのはアルミ製の洒落た形をしたドアハンドルだけである。そしてパワーウィンドーのスイッチはセンターコンソールに移動して、二つだけ装備される。リアウィンドーの開閉はいったん“rear”と書かれたスイッチを押してフロントと同じスイッチを使う。これも「ひと手間」。
一旦セットしてしまえばドライバーが変わらない限り動かすことはないと思っていたサイドミラーの操作も、ディスプレイから一度クルマのマークを押し、その後出て来るディスプレイからミラーのピクトグラムを選び、さらに左右をチョイスしてからステアリングに付く三角ボタンで上下左右をコントロールする。これになるとひと手間どころか数手間かかる。とにかく何をするにもディスプレイから呼び出す手間が必ず必要となる。ミラーの件はバックする際に左側のミラーを下げたかったのだが、この手間が必要だったというわけ。
というわけで、おおよそ考え得るすべての作業にはこの「ひと手間」が必要になるから慣れが必要になるのである。恐らく携帯などの操作が日常となっている若い世代の人にとってそれは何の苦もない作業で、きっと面倒とは思わないのだろう。私には表示される電池容量の数字や可能走行距離の数字が小さすぎて見にくいし、ディスプレイの左端にある電費の数字などはほとんど目に入らない。まあ、次世代のクルマである。
◆カタログ通りの航続距離に驚き
しかしそのスタイルにしても、あるいはリサイクル素材で作られているインテリアの仕上げ感などにしても、とても魅力的でBEVでなければ久しぶりに欲しいと思ったコンパクトカーの姿そのものである。そしてコンパクトカーとは言え、その走りは実にシャープで切れ味の鋭いステアリングフィールから少し硬さを感じるけれど快適な乗り心地に至るまで、正直走りに関しては個人的にべた褒めしても良いと思える出来栄えなのである。
1週間の我が家への滞在中に3回充電を行った。実はいずれの時もその必要性が無いのだが、敢えて入れてみたというだけの話。満充電での航続距離はカタログ上560kmとなっているが、これまで試乗したすべてのBEVは満充電にしてもそれを大きく下回る数字しか出してこなかった。ところがEX30は驚いたことに限りなくカタログ値に近い数字を出してくる。実際150kmほど走ってSOCが74%を表示しても可能走行距離は415kmを示し、その時満充電での可能走行距離は556kmを表示していた。ほぼカタログ値である。
69kwhも積んでいるのだから当たり前と考えるのか、それともカタログ値をきちんと表示できる性能が凄いと考えるかは別として、これならば電気自動車を日常の足として使えるのではないか?という気持ちにフッとさせた。まあ、頭の中ではいやいやダメ。だって我が家で満充電にするには1昼夜くらいかかりそうだし、最近の急速充電は容量が増えたとはいえ勝手に30分で切れるし、そもそもせっかちだから30分の充電を待ってられないし、旅の予定も狂うし等々、個人的にはまだまだBEVを使える身分ではないようだが…。
ただ、総じてボルボEX30は手間がかかることだけを除いて、個人的にはべた褒めのクルマであった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
人間、歳を取れば目は見えずらくなるし、動的反応も鈍くなるのは当たり前。そのために自動車も色々なデバイスで武装して完全を確保してくれている。ボルボ『EX30』はまさに次世代を見据えたボルボの最新作と言えよう。
そもそも、プラットフォームがBEV専用の「SEA」と呼ばれるもの。このプラットフォームのおかげなのだろうか、コンパクトな外観に似合わず、インテリアの居住性は合格点が付けられる。インテリアを広く見せているもう一つの理由は、徹底的にシンプルさを貫いていることにあると思う。まあ、これには功罪あって、この部分が冒頭に記した旧世代の人間は慣れる必要があると評した部分である。
それにしても日本語って難しいと思った。例えば料理で「ひと手間かける」といえば、料理をさらに美味しくするマジックのようで、その魅力が伝わる言葉だと思うのだが、これが「かける」ではなく「かかる」となると話が違ってくる。「ひと手間」は大したことではないけれど、要は「手間がかかる」となると面倒で厄介だから、決して魅力的ではない。EX30の操作には常にこの「ひと手間」が必要になる。というのも、すべての機能とその操作をダッシュ中央にあるディスプレイに詰め込んでしまったからだ。
◆ひと手間どころか数手間かかる…
ドライバーの眼前にあるのはドライバー自身を見守るセンサーだけで、旧世代では見慣れたメーターディスプレイなど存在しない。ステアリングコラムから左右にレバーが2本生えているのは旧世代と同じだが、右のレバーはシフトレバーだから、右ハンドル仕様の国産車に慣れている人はそれをウィンカーと間違いやすい。ドアには見慣れたはずのパワーウィンドーのスイッチがない。あるのはアルミ製の洒落た形をしたドアハンドルだけである。そしてパワーウィンドーのスイッチはセンターコンソールに移動して、二つだけ装備される。リアウィンドーの開閉はいったん“rear”と書かれたスイッチを押してフロントと同じスイッチを使う。これも「ひと手間」。
一旦セットしてしまえばドライバーが変わらない限り動かすことはないと思っていたサイドミラーの操作も、ディスプレイから一度クルマのマークを押し、その後出て来るディスプレイからミラーのピクトグラムを選び、さらに左右をチョイスしてからステアリングに付く三角ボタンで上下左右をコントロールする。これになるとひと手間どころか数手間かかる。とにかく何をするにもディスプレイから呼び出す手間が必ず必要となる。ミラーの件はバックする際に左側のミラーを下げたかったのだが、この手間が必要だったというわけ。
というわけで、おおよそ考え得るすべての作業にはこの「ひと手間」が必要になるから慣れが必要になるのである。恐らく携帯などの操作が日常となっている若い世代の人にとってそれは何の苦もない作業で、きっと面倒とは思わないのだろう。私には表示される電池容量の数字や可能走行距離の数字が小さすぎて見にくいし、ディスプレイの左端にある電費の数字などはほとんど目に入らない。まあ、次世代のクルマである。
◆カタログ通りの航続距離に驚き
しかしそのスタイルにしても、あるいはリサイクル素材で作られているインテリアの仕上げ感などにしても、とても魅力的でBEVでなければ久しぶりに欲しいと思ったコンパクトカーの姿そのものである。そしてコンパクトカーとは言え、その走りは実にシャープで切れ味の鋭いステアリングフィールから少し硬さを感じるけれど快適な乗り心地に至るまで、正直走りに関しては個人的にべた褒めしても良いと思える出来栄えなのである。
1週間の我が家への滞在中に3回充電を行った。実はいずれの時もその必要性が無いのだが、敢えて入れてみたというだけの話。満充電での航続距離はカタログ上560kmとなっているが、これまで試乗したすべてのBEVは満充電にしてもそれを大きく下回る数字しか出してこなかった。ところがEX30は驚いたことに限りなくカタログ値に近い数字を出してくる。実際150kmほど走ってSOCが74%を表示しても可能走行距離は415kmを示し、その時満充電での可能走行距離は556kmを表示していた。ほぼカタログ値である。
69kwhも積んでいるのだから当たり前と考えるのか、それともカタログ値をきちんと表示できる性能が凄いと考えるかは別として、これならば電気自動車を日常の足として使えるのではないか?という気持ちにフッとさせた。まあ、頭の中ではいやいやダメ。だって我が家で満充電にするには1昼夜くらいかかりそうだし、最近の急速充電は容量が増えたとはいえ勝手に30分で切れるし、そもそもせっかちだから30分の充電を待ってられないし、旅の予定も狂うし等々、個人的にはまだまだBEVを使える身分ではないようだが…。
ただ、総じてボルボEX30は手間がかかることだけを除いて、個人的にはべた褒めのクルマであった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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