【スズキ スイフト MT車 新型試乗】あの「スイスポ」で味わった走行感覚が忘れられない…中村孝仁
2023年末に現行スズキ『スイフト』はデビューした。2000年に初代モデルがデビューして以来、今回のフルチェンジで5代目のモデルに生まれ変わった。
ほんの少し愚痴を言わせてもらうと、現行スイフトから走りの良さで定評のあった「スポーツ」というグレードが無くなった。これまで4世代すべてスイフト・スポーツはカタログを飾り、その走りの良さは常に多くの賛辞を受けてきた。まあ、以前も1年以上経ってから追加されたこともあるので、無くなったというと語弊があるかもしれないが、少なくとも今はない。
スズキは最近走り屋向けのクルマを控える傾向にあって、『アルト』でも走りが素晴らしく魅力的だった『アルト・ワークス』が3年経った今も現行モデルに追加されていないから、これは間違いなくカタログ落ちということだと思う。
愚痴はその走り屋向けのクルマが無くなっているということだが、スイフトにはMT仕様があるので、今回はそれに試乗してみた。
◆MTでもマイルドな作りへと変身した新型スイフト
5速MTが設定されているのは「ハイブリッドMX」の2WD仕様のみ。相変わらず車重が軽く、MT仕様は同じMXグレードでもCVT仕様と比較して20kg軽い920kgに仕上がっている。だから、そのサイズ感と相まって“みずすまし”のような軽快でシャープな動きを期待していたのだが、実は少々裏切られた。
デビューした時に走りの質感が改善されて、スムーズで静粛性の高いモデルに生まれ変わっている旨の報告はしたが、まずボディ下面を覆って音振対策と空力対策を行っているから静粛性は確実に高いが、一方のスムーズでという点は、例えば発進がスムーズなのはCVTに低剛性化したダンパーを入れることで3気筒エンジンの振動を低減化して、且つCVT全体の設計を見直したことで特に発進性能などがスムーズになった結果だと思うのだが、それはMT車に直接反映はされない。
マニュアル自体の出来は可もなく不可もなくといったところで、特にシフト時のギアの入り具合や、繋がりのシャープさなどに特段の不満はなかったが、賛辞が送れるレベルにはない。
一方で、ギアリングの設定によるものだとは思うが、3000rpm以下のエンジン回転域で変速を繰り返している限り、確かにスムーズに走るけれど敢えてMTをチョイスする必然性はなく、まあこれならCVTをチョイスした方が良いと思えた。それに特に2000rpm以下ではトルク感に乏しく、ちょっとした上り坂でもグータラ運転を許さない。つまり現行スイフトがオーナーサーベイから導き出したスポーティーさの軽減が見事に反映されていて、例えマニュアル車でもマイルドな作りへと変身してしまっているのである。
◆「楽しむためのMT」からは程遠いが…
新しいZ型エンジンはレスポンスが良く、同時に高回転を全く苦にしない性格であることはよくわかった。そして回転数にして3700rpmあたりからはもりもりとトルク感を増して俄然楽しい走りができ、3000~4000rpmの領域に入れたまま変速を繰り返すような状況があれば、走りのイメージは激変する。
とはいえ、この領域に入れてシフトをすると、スピードはすぐにオービスやネズミ捕りの餌食になる領域に入ってしまうので、ある意味では使えない領域と言っても過言ではない。それに前述した通りマニュアル自体の出来も普通であって、先代スイフトスポーツの6速MTのようなシャープさは持たないから、シフト自体の醍醐味も残念ながらないのである。
それに、調子に乗って高回転を維持すると燃費は少なくともオンボードコンピューターを見る限り、みるみる下がっていくから、要するに楽しむためのMTからは残念ながら程遠い仕上がりである。ただ、燃費を稼ぐ走りをすると、自分では手の出せないCVTよりも確実に良さそうで、どうもMT車はそうしてエコ走行には向いているようである。
◆スズキさん、考え直してもらえないもんでしょうか?
アメリカに「トランスミッションダイジェスト」なるサイトがあり、そこのレポートによればドイツでは2030年にはマニュアルトランスミッションのクルマは生産されないというかなり不穏なレポートも上がっている。実際ヨーロッパのマニュアル比率は年々減少の一途を辿り、2025年には全体の36.15%になるという予測がある。
日本はと言えば、ずいぶん以前からマニュアル比率が1%しかないというデータが支配的で、最早MTは過去のものなのかもしれないが、その日本でもいわゆるスポーツ車のマニュアル比率は車種によって7割を超えるモデルすらある。今のマニュアル車は、坂道でもクラッチを繋ぐ際にサイドブレーキを引かなくてもクルマは後ずさりしないし、仮にエンストしてもクラッチを踏めばすぐにエンジンがかかる。それにクラッチ自体の重さも大したことはないから、クルマに乗りながら軽く足の運動をしていると思えば、エコノミー症候群の心配もない。
単に「面倒」だというバリアを超えてしまえば悪いことは一つもないのである。特にお年寄りなどアクセルとブレーキを踏み間違えることがまずなくなるから、積極的にマニュアルをチョイスすべきではないかとさえ思う次第である。
しかしそうは言っても、スイフトに限って言えば、あのスポーツで味わった走行感覚が忘れられないから、どうしても「スイフト・スポーツ」が欲しくなる。スズキさん、考え直してもらえないもんでしょうかね? 少数派ではあるかもしれませんが、スズキ車の走りに期待するユーザーもいるでしょうから。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
ほんの少し愚痴を言わせてもらうと、現行スイフトから走りの良さで定評のあった「スポーツ」というグレードが無くなった。これまで4世代すべてスイフト・スポーツはカタログを飾り、その走りの良さは常に多くの賛辞を受けてきた。まあ、以前も1年以上経ってから追加されたこともあるので、無くなったというと語弊があるかもしれないが、少なくとも今はない。
スズキは最近走り屋向けのクルマを控える傾向にあって、『アルト』でも走りが素晴らしく魅力的だった『アルト・ワークス』が3年経った今も現行モデルに追加されていないから、これは間違いなくカタログ落ちということだと思う。
愚痴はその走り屋向けのクルマが無くなっているということだが、スイフトにはMT仕様があるので、今回はそれに試乗してみた。
◆MTでもマイルドな作りへと変身した新型スイフト
5速MTが設定されているのは「ハイブリッドMX」の2WD仕様のみ。相変わらず車重が軽く、MT仕様は同じMXグレードでもCVT仕様と比較して20kg軽い920kgに仕上がっている。だから、そのサイズ感と相まって“みずすまし”のような軽快でシャープな動きを期待していたのだが、実は少々裏切られた。
デビューした時に走りの質感が改善されて、スムーズで静粛性の高いモデルに生まれ変わっている旨の報告はしたが、まずボディ下面を覆って音振対策と空力対策を行っているから静粛性は確実に高いが、一方のスムーズでという点は、例えば発進がスムーズなのはCVTに低剛性化したダンパーを入れることで3気筒エンジンの振動を低減化して、且つCVT全体の設計を見直したことで特に発進性能などがスムーズになった結果だと思うのだが、それはMT車に直接反映はされない。
マニュアル自体の出来は可もなく不可もなくといったところで、特にシフト時のギアの入り具合や、繋がりのシャープさなどに特段の不満はなかったが、賛辞が送れるレベルにはない。
一方で、ギアリングの設定によるものだとは思うが、3000rpm以下のエンジン回転域で変速を繰り返している限り、確かにスムーズに走るけれど敢えてMTをチョイスする必然性はなく、まあこれならCVTをチョイスした方が良いと思えた。それに特に2000rpm以下ではトルク感に乏しく、ちょっとした上り坂でもグータラ運転を許さない。つまり現行スイフトがオーナーサーベイから導き出したスポーティーさの軽減が見事に反映されていて、例えマニュアル車でもマイルドな作りへと変身してしまっているのである。
◆「楽しむためのMT」からは程遠いが…
新しいZ型エンジンはレスポンスが良く、同時に高回転を全く苦にしない性格であることはよくわかった。そして回転数にして3700rpmあたりからはもりもりとトルク感を増して俄然楽しい走りができ、3000~4000rpmの領域に入れたまま変速を繰り返すような状況があれば、走りのイメージは激変する。
とはいえ、この領域に入れてシフトをすると、スピードはすぐにオービスやネズミ捕りの餌食になる領域に入ってしまうので、ある意味では使えない領域と言っても過言ではない。それに前述した通りマニュアル自体の出来も普通であって、先代スイフトスポーツの6速MTのようなシャープさは持たないから、シフト自体の醍醐味も残念ながらないのである。
それに、調子に乗って高回転を維持すると燃費は少なくともオンボードコンピューターを見る限り、みるみる下がっていくから、要するに楽しむためのMTからは残念ながら程遠い仕上がりである。ただ、燃費を稼ぐ走りをすると、自分では手の出せないCVTよりも確実に良さそうで、どうもMT車はそうしてエコ走行には向いているようである。
◆スズキさん、考え直してもらえないもんでしょうか?
アメリカに「トランスミッションダイジェスト」なるサイトがあり、そこのレポートによればドイツでは2030年にはマニュアルトランスミッションのクルマは生産されないというかなり不穏なレポートも上がっている。実際ヨーロッパのマニュアル比率は年々減少の一途を辿り、2025年には全体の36.15%になるという予測がある。
日本はと言えば、ずいぶん以前からマニュアル比率が1%しかないというデータが支配的で、最早MTは過去のものなのかもしれないが、その日本でもいわゆるスポーツ車のマニュアル比率は車種によって7割を超えるモデルすらある。今のマニュアル車は、坂道でもクラッチを繋ぐ際にサイドブレーキを引かなくてもクルマは後ずさりしないし、仮にエンストしてもクラッチを踏めばすぐにエンジンがかかる。それにクラッチ自体の重さも大したことはないから、クルマに乗りながら軽く足の運動をしていると思えば、エコノミー症候群の心配もない。
単に「面倒」だというバリアを超えてしまえば悪いことは一つもないのである。特にお年寄りなどアクセルとブレーキを踏み間違えることがまずなくなるから、積極的にマニュアルをチョイスすべきではないかとさえ思う次第である。
しかしそうは言っても、スイフトに限って言えば、あのスポーツで味わった走行感覚が忘れられないから、どうしても「スイフト・スポーツ」が欲しくなる。スズキさん、考え直してもらえないもんでしょうかね? 少数派ではあるかもしれませんが、スズキ車の走りに期待するユーザーもいるでしょうから。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
最新ニュース
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
-
-
軍用ジープが最新モデルで蘇る…ドアなし&オリーブドラブが渋い「ラングラー ウィリス'41」発表
2024.11.21
-
-
-
EV好調のシトロエン『C3』新型、欧州カーオブザイヤー2025最終選考に
2024.11.21
-
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
-
-
楽しく学べる「防災ファミリーフェス」を茨城県の全トヨタディーラーが運営する「茨城ワクドキクラブ」が開催
2024.11.21
-
最新ニュース
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
-
-
軍用ジープが最新モデルで蘇る…ドアなし&オリーブドラブが渋い「ラングラー ウィリス'41」発表
2024.11.21
-
-
-
EV好調のシトロエン『C3』新型、欧州カーオブザイヤー2025最終選考に
2024.11.21
-
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
MORIZO on the Road