【ヒョンデ コナ Nライン 新型試乗】BYDに付けられた販売台数の差は一体何なのか…中村孝仁
◆好調なBYDとの差は一体何か?
のっけから批判的な話で申し訳ないのだが、日本市場に再参入を果たしたヒョンデは、新規参入を果たした中国のBYDに対してどうも旗色が悪い。
結構派手目で最近はTV CMも流しているBYDは今年上半期に1291台を売り上げ、純輸入車としては14位に入る健闘ぶり。これに対してヒョンデの方は388台(いずれも1-7月期)とだいぶ水をあけられている。その差は販売方法に現れていて、BYDは対面販売を中心としているのに対し、ヒョンデの方はネット販売を中心としている。
この差は一体何か? 筆者はBYDにもヒョンデにも試乗経験があるが、正直なところクルマの出来という点では大差はない。やはり日本人はまだまだ自動車という家に次いで大きな買い物をするにあたり、じっくりと吟味する対面型に流れるのかな? というのが結論のような気がする。
また、EVに逆風が吹いているという観測をヒョンデは示しているようだが、ならばBYDの好調は説明が付かない。だから、結局はヒョンデの販売戦略が、BYDのそれと比べて成功していないというのが実情なのだと思う。
ヒョンデの主力モデルは『アイオニック5』と呼ばれるモデル。そしてそれよりも少しコンパクトなモデルとして投入されているのが『コナ』と呼ばれるモデルだ。現行コナは第2世代のモデルとして2023年から販売されたもの。つまり日本にやってきたのは最新モデルがすぐに投入されたことになる。
他の市場にはガソリン車やハイブリッドなども展開されているが、日本市場はBEV一択。しかもこの第2世代のコナはBEVとして設計されたモデルだからBEV導入は理に適っているというわけである。
◆スポーティーな雰囲気を楽しむ「Nライン」
そんなコナに新投入されたモデルが「Nライン」と呼ばれるモデル。Nは元来ヒョンデ各モデルの高性能版を示す名称で、開発拠点のある韓国の南陽のNと、熟成のために使われたニュルブルクリンクのNのかけた名称である。そして新たに誕生したNラインはNの持つスポーティーなイメージを落とし込んだモデルであって、性能的にはベースモデルと同じであるものの、見た目の印象をだいぶスポーティーに仕上げたモデルである。
いってみればBMWのMスポーツのような存在ではあるが、あちらが足回りなどに手を加えているのに対し、Nラインはタイヤを含めていわゆるドライブトレーンには全く手を加えておらず、あくまでもスポーティーな雰囲気を楽しむモデルに仕立て上げられている。
そんなわけだからベースモデルよりも16.5万円アップというリーズナブルな価格で購入できるのも有り難い。
新しいNラインと従来のベースモデルを比較するとその違いはよくわかる。とりわけフロントの印象は低く構えたライトに沿ってブラックアウトされたトリムが追加され、精悍さが増した。タイヤはサイズとブランドは同じでクムホのエクスタPS71と呼ばれるものだが、ホイールデザインが異なりハブセンターには従来のヒョンデロゴに代わり、Nのロゴが入る。
リアもフロント同様の変更を受け、ディフューザー風のデザインがテールゲート下に設けられ、ルーフにはかなり大型のスポイラーが装備された。ボディは4色用意されるが、やはりテーマカラーであるアルティメットレッドメタリックが最も顕著に違いが判るようだ。
一方のインテリアは主として色使いの変化に終始し、ダッシュセンターを貫く赤いアクセントラインが目を引き、シートはバックレストにはNの文字が入れられている。これ以外に大きな違いはない。
◆BYDと比べても見劣りする部分はないが…
動力源は上級グレードともいえる204psの出力を持つ仕様で、搭載バッテリー容量なども変更はない。というわけだから走りに変化があろうはずもなく、おっとりとした発進傾向から右足に込める力のかけ具合によって実にスムーズで軽快な走りを見せる。特にこのサイズ(全長4355×全幅1825×全高1590mm)と搭載バッテリー容量を考えると車重1790kgはかなり頑張って軽量化している印象を受ける。
今回改めて感じられたのは乗り心地のフラット感の高さである。あたりの感触はハードでもソフトでもないのだが、上下方向の揺れは最小限に抑えられている印象で、とても好感の持てる乗り心地だった。
余談ながらナビは標準で、それはARナビゲーションと言って、ディスプレイに映し出されたフロントカメラ映像に、矢印等の情報を視覚的に表示し、行先を分かりやすく案内するという仕組み。無機質な地図が出ているよりは死角による前方状況と同じシーンがナビにも映し出され、そこに行く方向を示す矢印が出るのだからわかり易い。さらにウィンカーを出すとその曲がる方向のサイドが映像として映し出されるシステムも念が行って、慣れれば使い易いかもしれない。
とまあ、出来としてはレベルが高いし、作り込みも装備の充実も文句はない。冒頭記したようにBYDと比べても見劣りする部分は皆無なのだが、4倍近い差をつけられた販売実績はやはり戦略の差なのだろうか?
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
のっけから批判的な話で申し訳ないのだが、日本市場に再参入を果たしたヒョンデは、新規参入を果たした中国のBYDに対してどうも旗色が悪い。
結構派手目で最近はTV CMも流しているBYDは今年上半期に1291台を売り上げ、純輸入車としては14位に入る健闘ぶり。これに対してヒョンデの方は388台(いずれも1-7月期)とだいぶ水をあけられている。その差は販売方法に現れていて、BYDは対面販売を中心としているのに対し、ヒョンデの方はネット販売を中心としている。
この差は一体何か? 筆者はBYDにもヒョンデにも試乗経験があるが、正直なところクルマの出来という点では大差はない。やはり日本人はまだまだ自動車という家に次いで大きな買い物をするにあたり、じっくりと吟味する対面型に流れるのかな? というのが結論のような気がする。
また、EVに逆風が吹いているという観測をヒョンデは示しているようだが、ならばBYDの好調は説明が付かない。だから、結局はヒョンデの販売戦略が、BYDのそれと比べて成功していないというのが実情なのだと思う。
ヒョンデの主力モデルは『アイオニック5』と呼ばれるモデル。そしてそれよりも少しコンパクトなモデルとして投入されているのが『コナ』と呼ばれるモデルだ。現行コナは第2世代のモデルとして2023年から販売されたもの。つまり日本にやってきたのは最新モデルがすぐに投入されたことになる。
他の市場にはガソリン車やハイブリッドなども展開されているが、日本市場はBEV一択。しかもこの第2世代のコナはBEVとして設計されたモデルだからBEV導入は理に適っているというわけである。
◆スポーティーな雰囲気を楽しむ「Nライン」
そんなコナに新投入されたモデルが「Nライン」と呼ばれるモデル。Nは元来ヒョンデ各モデルの高性能版を示す名称で、開発拠点のある韓国の南陽のNと、熟成のために使われたニュルブルクリンクのNのかけた名称である。そして新たに誕生したNラインはNの持つスポーティーなイメージを落とし込んだモデルであって、性能的にはベースモデルと同じであるものの、見た目の印象をだいぶスポーティーに仕上げたモデルである。
いってみればBMWのMスポーツのような存在ではあるが、あちらが足回りなどに手を加えているのに対し、Nラインはタイヤを含めていわゆるドライブトレーンには全く手を加えておらず、あくまでもスポーティーな雰囲気を楽しむモデルに仕立て上げられている。
そんなわけだからベースモデルよりも16.5万円アップというリーズナブルな価格で購入できるのも有り難い。
新しいNラインと従来のベースモデルを比較するとその違いはよくわかる。とりわけフロントの印象は低く構えたライトに沿ってブラックアウトされたトリムが追加され、精悍さが増した。タイヤはサイズとブランドは同じでクムホのエクスタPS71と呼ばれるものだが、ホイールデザインが異なりハブセンターには従来のヒョンデロゴに代わり、Nのロゴが入る。
リアもフロント同様の変更を受け、ディフューザー風のデザインがテールゲート下に設けられ、ルーフにはかなり大型のスポイラーが装備された。ボディは4色用意されるが、やはりテーマカラーであるアルティメットレッドメタリックが最も顕著に違いが判るようだ。
一方のインテリアは主として色使いの変化に終始し、ダッシュセンターを貫く赤いアクセントラインが目を引き、シートはバックレストにはNの文字が入れられている。これ以外に大きな違いはない。
◆BYDと比べても見劣りする部分はないが…
動力源は上級グレードともいえる204psの出力を持つ仕様で、搭載バッテリー容量なども変更はない。というわけだから走りに変化があろうはずもなく、おっとりとした発進傾向から右足に込める力のかけ具合によって実にスムーズで軽快な走りを見せる。特にこのサイズ(全長4355×全幅1825×全高1590mm)と搭載バッテリー容量を考えると車重1790kgはかなり頑張って軽量化している印象を受ける。
今回改めて感じられたのは乗り心地のフラット感の高さである。あたりの感触はハードでもソフトでもないのだが、上下方向の揺れは最小限に抑えられている印象で、とても好感の持てる乗り心地だった。
余談ながらナビは標準で、それはARナビゲーションと言って、ディスプレイに映し出されたフロントカメラ映像に、矢印等の情報を視覚的に表示し、行先を分かりやすく案内するという仕組み。無機質な地図が出ているよりは死角による前方状況と同じシーンがナビにも映し出され、そこに行く方向を示す矢印が出るのだからわかり易い。さらにウィンカーを出すとその曲がる方向のサイドが映像として映し出されるシステムも念が行って、慣れれば使い易いかもしれない。
とまあ、出来としてはレベルが高いし、作り込みも装備の充実も文句はない。冒頭記したようにBYDと比べても見劣りする部分は皆無なのだが、4倍近い差をつけられた販売実績はやはり戦略の差なのだろうか?
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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