【マツダ CX-80 新型試乗】ようやくハーモニーを奏で始めたラージプラットフォーム…中村孝仁

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ラージプラットフォーム群と呼ばれる、マツダが社運を賭けた構造のモデル第2段として、『CX-80』がデビューした。

第2段というのはあくまでも日本市場での話であり、海外市場を合わせると、これが第4弾になる。日本市場の第1弾だった『CX-60』は、初期の歓迎ムードとは裏腹に、浸透し始めるとボロが出た。社運を賭けたものだったから、マツダの焦りは社内的に勿論あったと思う。だから、第2段のCX-80では失敗は出来ないという、とてつもないプレッシャーの中での上梓だったことは想像に難くない。

◆CX-60は投入時期が早すぎたのか
第1段のCX-60については、ほぼすべてのモデルに乗せて頂き、僭越ながらかなりネガな部分を指摘させていただいた。そして何よりも、投入時期が少し早すぎたのでは?という勝手な感想も添えさせていただいた。そして今回比較的大規模で1泊2日という試乗会に参加させて頂き、新しいCX-80の味見をして、ようやくハーモニーを奏で始めた…という感想を持った。

どんなものでも、物を作るというプロセスは大変な苦労を伴う。多くのパーツから成り立つ自動車の場合、それはなおさらだ。だから、開発の初めから発売に至るまでに、数年の歳月を要するわけだ。

特に今回のラージプラットフォーム群は完全新規開発の縦置きエンジン、後輪駆動という構造なのだから、それをまとめ上げるのは並大抵の苦労ではなかったはずだ。しかも、エンジン自体も初めてとなる直列6気筒ターボディーゼル。トランスミッションも初めてとなる縦置きの8速ATで、大方のATとは異なりトルクコンバーターを使用せず、クラッチを用いたATという未知の世界に足を踏み入れている。

マツダの取締役専務執行役員兼CTO、廣瀬一郎氏の言葉を借りると、個々の部品、即ちエンジン、トランスミッション、シャシーなどは単体でとても良い仕上がりだったそうだ。しかし、それらを組み合わせてクルマという製品に仕上げた時、あちらこちらから問題が出たという。

これをオーケストラに例えたらわかり易い。個々の演奏者、即ち弦楽器や打楽器の奏者は皆優秀でも、それをオーケストラとしてハーモニーを作り上げるためには、何度も練習を重ね、修正して本番の演奏に到達する。指揮者と共に練習をするオーケストラの様子をテレビなどで見ることがあるが、とても細かい作業でしかも素人にはほとんどわからないような音やメロディの流れなどが、指揮者によって修正されていく。

CX-60の場合、その最終的な詰めのチューニングが不十分で、結果として思いもよらないネガが出たのだろう。個々のパーツが良いことは廣瀬氏の言葉にもあって、他銘柄のエンジンと比べても、エンジン単体の性能は遜色なかったそうだ。それが、モーターやトランスミッションと組み合わされて、シャシーに搭載された時、思いもよらないところから共振が出て、それが悪さをしていたそうだ。

◆ハーモニーを奏で始めたCX-80
そんなわけだからCX-80については、そのハーモニーの調和を焦点に改良がくわえられた。

もちろん、CX-60とはサイズも重さも違う。それに想定するユーザーも違うから、別な視点も加味された。今回試乗したモデルは2.5リットルガソリンエンジンとモーターを組み合わせたPHEVと3.3リットルターボディーゼルに、マイルドハイブリッド機構を加えたモデルの2種。細かい話は個別の試乗で改めてレポートするとして、今回痛感したのは、このラージプラットフォーム群のモデルがオーケストラのハーモニーを奏で始めた、ということである。

具体的な修正点は、乗り心地、スムーズネス、それに音振対策だ。CX-60で感じたリアからの突き上げ感はほぼ消えている。欲を言えばあと一歩のフラット感が欲しい。

スムーズネスは8速ATがもたらしていたと思えた発進初期のギクシャク感と、ぎこちないシフト感だが、少なくとも発進に関する限りは、全くと言ってよいほど良い仕上がりとなった。最後の音振対策。廣瀬氏も話していた思わぬところからの共振が問題だったそうだが、これは大きく修正されたと言ってよいと思う。

ただ、特に自動車の場合完璧はない。1モデルのライフサイクルの中で完璧に仕上がるなどということは恐らくなくて、常にあれをやれば、これをやれば…という無念の中で主査が奮闘しているはずである。そこには時間と資金という、とんでもなく大きな壁が潜んでいるから完璧が無いのである。だからCX-80とてもちろんまだ道半ばであるが、大きな一歩を踏み出したことは間違いない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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