【スズキ フロンクス 新型試乗】まさに「バリューフォーマネー」、今スズキでイチバンいいクルマと断言できる…中村孝仁
試乗後に技術者との懇談会が必ず設定されているスズキの試乗会。今回の『フロンクス』でも、それはいつも通りだった。
私に対応した技術者は、いずれもブレーキ系の技術者だったが、そのうちの一人が最後に「今のスズキ自動車について何か思うことはありますか?例えば変わって欲しい点とか?」という質問を投げてきたので、こちらからは「今まで通り変わらないで欲しい」と伝えた。というのも、これまで一貫してスズキという会社は、「良品を安く」をモットーにしてきた会社だと思ったからで、先代社長の鈴木修氏の卓越した指導力と先見の明に長けた眼力によって今がある。
例をあげるなら、『ジムニー』。元々はホープ自動車が開発を断念した企画を、社内の反対を押し切って入手したことで今がある(若い技術者はこの事実を知らなかった)。初代『アルト』にしてもそう。当時非課税だった商用車の物品税に目をつけ、激安価格とこの非課税を利用して大ヒットを飛ばした。挙げればきりがないが、とにかく針の穴を見つけると、そこにとことん注力して新しい商品を生み出す。スズキという会社には常にそんな惜しみない努力を感じるのである。
今回のフロンクスでは主査の森田祐氏も語っていたが、最小回転半径4.8mという取り回しの良さを主張していた。ハンドルの切れ角をそれこそホイールハウスの内側で1mmの隙間を見つけてこうした結果を生み出すのは、まさにスズキの面目躍如である。
すでにプロトタイプは夏に試乗を済ませた。そこで、この3か月の間で何か変えたことはあるのか?と尋ねると、詳細は語れないとのことだったが、要はプロトタイプから何かを変えてきたことだけは察することができた。
◆コンパクトなクルマながら、安心感を得られる
今回も試乗会であるからいわゆるチョイ乗り、味見である。ただ、プロトタイプの時は乗れなかった日本専用という4WD車の試乗が叶った。というわけで2WD車1時間、4WD車1時間の合計2時間が味見の時間だったというわけで、あくまでもさわりのフィーリングだけをお届けする。
最初に乗ったのは2WDの方。プロトタイプでも感じられたキビキビ感とボディの硬質感を感じ、コンパクトなクルマながら、乗っていてかなり安心感を得られる印象を受けた。プロトタイプはクローズドコースでの試乗だったので、ストップ&ゴーを試せなかったが、今回それを試してみると、スポーツモードに入れた時の蹴り出し感にとても力強さを感じた。ノーマルモードとは顕著な差があって、ちょっとしたスポーツドライブを楽しみたい時は、とても有効だと感じた。一方で、一般道においてはリアからの突き上げ感が少しあって、それはクローズドコースでは感じられなかった数少ないネガポイントである。
主査曰く、今回は出来るだけドライバーに寄り添ったドライブ感覚を重視した、ということで、ACCを作動させて、さらにLKA(レーンキープアシスト)をオンにすると、他銘柄のクルマで、白線に寄った時にかなり無理矢理ハンドルを引き戻そうとする力の強いクルマに出くわすことがあるが、フロンクスの場合、それは主査の言う通りで、むしろ少し弱すぎない?…つまり、アシストされていることをほとんど感じさせないレベルにまで引き下げていた。
グイっと引き戻されるのは余計なお世話だが、うっすらとステアリングを修正してくれるフロンクスは、ちょっとクルマに怒られた気分がしないレベルの介入で、これはこれでもう少し介入は強めでも良いかな?と思わせたものである。
◆装備の充実と上質感はバリューフォーマネーを感じさせる
続いて乗った4WDは初体験。2WDから乗り換えるとやはり60kgの重量増が、1トンそこそこの車重では結構効いてきて、発進加速などはかなりもっさりとした印象を受ける。なので、スポーツモードに切り替えてみるとこれでしゃっきり。自分がせっかちでスポーティーに走るのが好きという向きには、常にスポーツモードがお勧めだ。一方で乗り心地のフラット感はこちらの方が強く、リアからの突き上げ感もこちらの方が希薄だった。
音振対策に関して言えば、自慢するだけのことはあって、どちらも全体的に静粛性は高いと思う。今回はスズキとしては珍しく、拘りのある上質感を標榜しているが、それは達成されていて、装備と共に実にバリューフォーマネーを感じさせた。2WD同士の比較で某メーカーのライバル車は、EPBがないので停車までのACC作動が無かったり、ホールドモードも省かれているにもかかわらず、フロンクスよりほぼ10万円高となるから、価格的優位性は間違いなくある。
余談ながら、そのホールドモードはデフォルトがオフ。これだとエンジンを切った時にドライバーの設定が無視されるから、できればこの辺りもドライバーに寄り添って欲しい。また、今やウィンカーを少し触って3回点滅(メーカーによっては5回)の機構もフロンクスには付かないが、これは個人的には採用すべきだと思う。
いずれにせよ、やはりフロンクスは現行スズキ・ラインナップの中で出色の出来であることは間違いない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
私に対応した技術者は、いずれもブレーキ系の技術者だったが、そのうちの一人が最後に「今のスズキ自動車について何か思うことはありますか?例えば変わって欲しい点とか?」という質問を投げてきたので、こちらからは「今まで通り変わらないで欲しい」と伝えた。というのも、これまで一貫してスズキという会社は、「良品を安く」をモットーにしてきた会社だと思ったからで、先代社長の鈴木修氏の卓越した指導力と先見の明に長けた眼力によって今がある。
例をあげるなら、『ジムニー』。元々はホープ自動車が開発を断念した企画を、社内の反対を押し切って入手したことで今がある(若い技術者はこの事実を知らなかった)。初代『アルト』にしてもそう。当時非課税だった商用車の物品税に目をつけ、激安価格とこの非課税を利用して大ヒットを飛ばした。挙げればきりがないが、とにかく針の穴を見つけると、そこにとことん注力して新しい商品を生み出す。スズキという会社には常にそんな惜しみない努力を感じるのである。
今回のフロンクスでは主査の森田祐氏も語っていたが、最小回転半径4.8mという取り回しの良さを主張していた。ハンドルの切れ角をそれこそホイールハウスの内側で1mmの隙間を見つけてこうした結果を生み出すのは、まさにスズキの面目躍如である。
すでにプロトタイプは夏に試乗を済ませた。そこで、この3か月の間で何か変えたことはあるのか?と尋ねると、詳細は語れないとのことだったが、要はプロトタイプから何かを変えてきたことだけは察することができた。
◆コンパクトなクルマながら、安心感を得られる
今回も試乗会であるからいわゆるチョイ乗り、味見である。ただ、プロトタイプの時は乗れなかった日本専用という4WD車の試乗が叶った。というわけで2WD車1時間、4WD車1時間の合計2時間が味見の時間だったというわけで、あくまでもさわりのフィーリングだけをお届けする。
最初に乗ったのは2WDの方。プロトタイプでも感じられたキビキビ感とボディの硬質感を感じ、コンパクトなクルマながら、乗っていてかなり安心感を得られる印象を受けた。プロトタイプはクローズドコースでの試乗だったので、ストップ&ゴーを試せなかったが、今回それを試してみると、スポーツモードに入れた時の蹴り出し感にとても力強さを感じた。ノーマルモードとは顕著な差があって、ちょっとしたスポーツドライブを楽しみたい時は、とても有効だと感じた。一方で、一般道においてはリアからの突き上げ感が少しあって、それはクローズドコースでは感じられなかった数少ないネガポイントである。
主査曰く、今回は出来るだけドライバーに寄り添ったドライブ感覚を重視した、ということで、ACCを作動させて、さらにLKA(レーンキープアシスト)をオンにすると、他銘柄のクルマで、白線に寄った時にかなり無理矢理ハンドルを引き戻そうとする力の強いクルマに出くわすことがあるが、フロンクスの場合、それは主査の言う通りで、むしろ少し弱すぎない?…つまり、アシストされていることをほとんど感じさせないレベルにまで引き下げていた。
グイっと引き戻されるのは余計なお世話だが、うっすらとステアリングを修正してくれるフロンクスは、ちょっとクルマに怒られた気分がしないレベルの介入で、これはこれでもう少し介入は強めでも良いかな?と思わせたものである。
◆装備の充実と上質感はバリューフォーマネーを感じさせる
続いて乗った4WDは初体験。2WDから乗り換えるとやはり60kgの重量増が、1トンそこそこの車重では結構効いてきて、発進加速などはかなりもっさりとした印象を受ける。なので、スポーツモードに切り替えてみるとこれでしゃっきり。自分がせっかちでスポーティーに走るのが好きという向きには、常にスポーツモードがお勧めだ。一方で乗り心地のフラット感はこちらの方が強く、リアからの突き上げ感もこちらの方が希薄だった。
音振対策に関して言えば、自慢するだけのことはあって、どちらも全体的に静粛性は高いと思う。今回はスズキとしては珍しく、拘りのある上質感を標榜しているが、それは達成されていて、装備と共に実にバリューフォーマネーを感じさせた。2WD同士の比較で某メーカーのライバル車は、EPBがないので停車までのACC作動が無かったり、ホールドモードも省かれているにもかかわらず、フロンクスよりほぼ10万円高となるから、価格的優位性は間違いなくある。
余談ながら、そのホールドモードはデフォルトがオフ。これだとエンジンを切った時にドライバーの設定が無視されるから、できればこの辺りもドライバーに寄り添って欲しい。また、今やウィンカーを少し触って3回点滅(メーカーによっては5回)の機構もフロンクスには付かないが、これは個人的には採用すべきだと思う。
いずれにせよ、やはりフロンクスは現行スズキ・ラインナップの中で出色の出来であることは間違いない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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