【メルセデスベンツ GクラスEV 新型試乗】スゴいクルマを世に出したものだ…諸星陽一
メルセデスベンツ『Gクラス』のEV版にあたる『G580 with EQ Technology』に、オンロードとオフロード、そして都内でも試乗した。
2023年のジャパンモビリティショーでは「EQG」のネーミングが用いられていたが、このGクラスからフル電動のモデルは「with EQ Technology」というグレード名となる。
従来はEQで始まるネーミングとすることでEVであることを明確にそしてA、B、Cといったシリーズとは別の系列だと主張することを目的にしていたが、今後は「with EQ Technology」がグレード名として使われるようになる。メルセデスのなかでEVが特別なものではなく、パワーユニットの一選択肢となったというわけだ。このネーミング変更は追加車種、フルモデルチェンジ、マイナーチェンジなどのタイミングで行われる予定。
「G580 with EQ Technology」は108kW/291Nmのモーターを各輪に装着する4モーター方式を採用する。4モーターモデルはテストコースなどでは試乗したことがあるが、まさかこんなに早く公道で乗る日がくるとは思いもよらなかった。4つのモーターを合わせたシステムの最高出力は432kW、最大トルクは1164Nmに達する。搭載されるバッテリーの容量は116kWh。バッテリーだけで700kgを超える重量となり車両重量はなんと3トンを超え3120kgにもなる。
全長×全幅×全高は4730×1985×1990(mm)という立派なサイズだ。
◆トラック並の重量でも驚くほど軽快な走り
試乗会場は富士山麓にある富士ヶ嶺オフロードというクロスカントリーコースがベース。まずはオンロード試乗ということで、富士ヶ嶺オフロードから富士宮市を目指した。
目的地を富士宮市としたのは、せっかくだから充電も体験してみようということだったのだが、富士ヶ嶺オフロードから富士宮市は下り勾配だったため、バッテリーは減るどころか出発時82%だったバッテリー容量は到着時には83%に増加していた。あとから調べたところ841mもの標高差。改めてEVの回生エネルギーという方式の利点を感じとれた。
富士宮市内の90kW充電機を使って充電を実施。30分の充電を予定しましたが23分25秒で充電は自動終了。容量は9%アップの92%となった。充電機に表示された充電量は11.123kWh。もう少ししっかり容量が減った状態からでないと充電に対する評価は難しいようだ。
さてオンロードでの「G580 with EQ Technology」のドライブフィールだが、驚くほどに軽快だ。ラダーフレームに3トンを超える車重という組み合わせだと、ほぼトラックという感じだ。実際、いすゞの『エルフEV』と同レベルの車重である。にも関わらずモーター駆動が生み出すトルクフルな駆動力は「G580 with EQ Technology」に軽快さを与えている。
試乗時、基本はコンフォートモードで走った。コンフォートモードでは4つのモーターが駆動するわけではなく、リヤ2つのモーターが主役となる。つまり、432kW/1164Nmのスペックは得られていないのだが、単純に考えれば半分のスペックで走っているがそれでも不満はない。
回生モードはコースティング、通常回生、強回生、最大回生の4種の中から選択が可能。また車間距離などを考慮したD autoというモードもあるので、普通に使っている際はD autoで十分だ。ではなぜ回生モードが選べるのか? 回生モードをマニュアル操作してもっとも効果があるのが下り坂だ。勾配やコーナーのキツさなどに合わせて回生モードを選ぶことで効率的な回生が可能となる。最大回生は減速度が強いので同乗者がいる際は、クルマ酔いを起こす可能性もあるので使わないほうがいいだろう。
◆EVならではの「Gターン」も試した
富士ヶ嶺オフロードに戻りオフロードでの試乗をチェックした。まずは最大の注目となるGターンだ。Gターンとは対角線上のタイヤを逆移転させることで“その場ターン”(戦車が得意とするターン方法のためタンクターンとも呼ばれる)ができる。
Gターンはスイッチ操作でGターンができるモードにセットし、時計回り、反時計回りを選んであとはアクセルペダルを踏むだけ。360度を5秒くらいで回るのでかなり速いという印象である。途中で止めたいときはアクセルペダルをゆるめればいい。Gターンの公道での利用は禁止されている。ではどこで使うのかといえば、オフロードなどで行き止まりになってしまったときに何度も切り返えさずに方向転換できるというメリットがあるとのこと。
Gターン同様に公道での利用が禁止されている機構にGステアリングがある。Gステアリングをオンにするとタイトコーナーでアクセルを踏んでいった際にリヤタイヤのトルク配分が調整され、テールスライドを発生させられる。つまりGステアリングを使うことでタイトコーナーを切り返しなしで曲がれるわけだ。サイドブレーキを引いても同じような効果が得られるが、Gステアリングのほうがずっと簡単で確実。助走も必要ない。
さらにオフロードクロール機能も備える。スロークロールではアップヒル、ダウンヒル、フラット路のいずれでも約2km/hを維持でき、ステアリングワークに集中できる。可変クロールではフラットでは徒歩程度の速度、10~20%勾配のダウンヒルでは最大約14km/hまで可変できる。ファーストクロールではアップヒル、フラット路で約8km/hを維持し、ダウンヒルでは勾配に応じ車速制御する。オフロードクロールも公道使用は不可だ。
実際に「G580 with EQ Technology」で富士ヶ嶺オフロードのオフロードコースを走ったが、じつにイージーに走行できる。運転しているぶんには何の不満も不安もなく走れるのだが、客観的に見ると3トンを超えるクルマが急勾配のオフロードコースをものともせずに登っていく様子は脅威ですらある。前半にも書いたがエルフEVと同じ重量のクルマがスラスラとオフロードコースを走ってしまうのだから、まさに脱帽ものである。
◆スゴいクルマを作って世に出したものだ
試乗会でのオンロード&オフロードでのインプレッションで終わるはずだったが、その後に開催されたJAIA(日本自動車輸入組合)のイベントで、都内を走る機会があった。
丸の内の地下駐車場を出発し皇居を一周、ふたたび地下駐車場に戻るという行程。2mに届こうかという全幅の「G580 with EQ Technology」だが、Gクラスの特徴であるフロントフェンダーに取り付けられたウインカーなど、見切りのよさもあって地下駐車場の狭いスロープも苦にならない。皇居のまわりの道路なので道幅がしっかりあることも手伝って、乗りにくさを感じることはなかった。
「G580 with EQ Technology」を一言で評価するなら、スゴいクルマを作って世に出したものだ……というもの。EVの1つの方向性としての究極のモデルと言える。オススメ度の★の数は悩んだが、2500万円をオーバーするこのクルマを買える富裕層なら、ということで付けた。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。
2023年のジャパンモビリティショーでは「EQG」のネーミングが用いられていたが、このGクラスからフル電動のモデルは「with EQ Technology」というグレード名となる。
従来はEQで始まるネーミングとすることでEVであることを明確にそしてA、B、Cといったシリーズとは別の系列だと主張することを目的にしていたが、今後は「with EQ Technology」がグレード名として使われるようになる。メルセデスのなかでEVが特別なものではなく、パワーユニットの一選択肢となったというわけだ。このネーミング変更は追加車種、フルモデルチェンジ、マイナーチェンジなどのタイミングで行われる予定。
「G580 with EQ Technology」は108kW/291Nmのモーターを各輪に装着する4モーター方式を採用する。4モーターモデルはテストコースなどでは試乗したことがあるが、まさかこんなに早く公道で乗る日がくるとは思いもよらなかった。4つのモーターを合わせたシステムの最高出力は432kW、最大トルクは1164Nmに達する。搭載されるバッテリーの容量は116kWh。バッテリーだけで700kgを超える重量となり車両重量はなんと3トンを超え3120kgにもなる。
全長×全幅×全高は4730×1985×1990(mm)という立派なサイズだ。
◆トラック並の重量でも驚くほど軽快な走り
試乗会場は富士山麓にある富士ヶ嶺オフロードというクロスカントリーコースがベース。まずはオンロード試乗ということで、富士ヶ嶺オフロードから富士宮市を目指した。
目的地を富士宮市としたのは、せっかくだから充電も体験してみようということだったのだが、富士ヶ嶺オフロードから富士宮市は下り勾配だったため、バッテリーは減るどころか出発時82%だったバッテリー容量は到着時には83%に増加していた。あとから調べたところ841mもの標高差。改めてEVの回生エネルギーという方式の利点を感じとれた。
富士宮市内の90kW充電機を使って充電を実施。30分の充電を予定しましたが23分25秒で充電は自動終了。容量は9%アップの92%となった。充電機に表示された充電量は11.123kWh。もう少ししっかり容量が減った状態からでないと充電に対する評価は難しいようだ。
さてオンロードでの「G580 with EQ Technology」のドライブフィールだが、驚くほどに軽快だ。ラダーフレームに3トンを超える車重という組み合わせだと、ほぼトラックという感じだ。実際、いすゞの『エルフEV』と同レベルの車重である。にも関わらずモーター駆動が生み出すトルクフルな駆動力は「G580 with EQ Technology」に軽快さを与えている。
試乗時、基本はコンフォートモードで走った。コンフォートモードでは4つのモーターが駆動するわけではなく、リヤ2つのモーターが主役となる。つまり、432kW/1164Nmのスペックは得られていないのだが、単純に考えれば半分のスペックで走っているがそれでも不満はない。
回生モードはコースティング、通常回生、強回生、最大回生の4種の中から選択が可能。また車間距離などを考慮したD autoというモードもあるので、普通に使っている際はD autoで十分だ。ではなぜ回生モードが選べるのか? 回生モードをマニュアル操作してもっとも効果があるのが下り坂だ。勾配やコーナーのキツさなどに合わせて回生モードを選ぶことで効率的な回生が可能となる。最大回生は減速度が強いので同乗者がいる際は、クルマ酔いを起こす可能性もあるので使わないほうがいいだろう。
◆EVならではの「Gターン」も試した
富士ヶ嶺オフロードに戻りオフロードでの試乗をチェックした。まずは最大の注目となるGターンだ。Gターンとは対角線上のタイヤを逆移転させることで“その場ターン”(戦車が得意とするターン方法のためタンクターンとも呼ばれる)ができる。
Gターンはスイッチ操作でGターンができるモードにセットし、時計回り、反時計回りを選んであとはアクセルペダルを踏むだけ。360度を5秒くらいで回るのでかなり速いという印象である。途中で止めたいときはアクセルペダルをゆるめればいい。Gターンの公道での利用は禁止されている。ではどこで使うのかといえば、オフロードなどで行き止まりになってしまったときに何度も切り返えさずに方向転換できるというメリットがあるとのこと。
Gターン同様に公道での利用が禁止されている機構にGステアリングがある。Gステアリングをオンにするとタイトコーナーでアクセルを踏んでいった際にリヤタイヤのトルク配分が調整され、テールスライドを発生させられる。つまりGステアリングを使うことでタイトコーナーを切り返しなしで曲がれるわけだ。サイドブレーキを引いても同じような効果が得られるが、Gステアリングのほうがずっと簡単で確実。助走も必要ない。
さらにオフロードクロール機能も備える。スロークロールではアップヒル、ダウンヒル、フラット路のいずれでも約2km/hを維持でき、ステアリングワークに集中できる。可変クロールではフラットでは徒歩程度の速度、10~20%勾配のダウンヒルでは最大約14km/hまで可変できる。ファーストクロールではアップヒル、フラット路で約8km/hを維持し、ダウンヒルでは勾配に応じ車速制御する。オフロードクロールも公道使用は不可だ。
実際に「G580 with EQ Technology」で富士ヶ嶺オフロードのオフロードコースを走ったが、じつにイージーに走行できる。運転しているぶんには何の不満も不安もなく走れるのだが、客観的に見ると3トンを超えるクルマが急勾配のオフロードコースをものともせずに登っていく様子は脅威ですらある。前半にも書いたがエルフEVと同じ重量のクルマがスラスラとオフロードコースを走ってしまうのだから、まさに脱帽ものである。
◆スゴいクルマを作って世に出したものだ
試乗会でのオンロード&オフロードでのインプレッションで終わるはずだったが、その後に開催されたJAIA(日本自動車輸入組合)のイベントで、都内を走る機会があった。
丸の内の地下駐車場を出発し皇居を一周、ふたたび地下駐車場に戻るという行程。2mに届こうかという全幅の「G580 with EQ Technology」だが、Gクラスの特徴であるフロントフェンダーに取り付けられたウインカーなど、見切りのよさもあって地下駐車場の狭いスロープも苦にならない。皇居のまわりの道路なので道幅がしっかりあることも手伝って、乗りにくさを感じることはなかった。
「G580 with EQ Technology」を一言で評価するなら、スゴいクルマを作って世に出したものだ……というもの。EVの1つの方向性としての究極のモデルと言える。オススメ度の★の数は悩んだが、2500万円をオーバーするこのクルマを買える富裕層なら、ということで付けた。
■5つ星評価
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