【試乗記】ダイハツ・ミラ イースG“SA III”/スズキ・アルトX(前編)
似て非なる存在
ダイハツ・ミラ イースG“SA III”(FF/CVT)/スズキ・アルトX(FF/CVT)
ニッポンの乗用車のボトムレンジを担う「ダイハツ・ミラ イース」と「スズキ・アルト」。両モデルの比較を通してそれぞれの実力を検証するとともに、軽自動車開発のトレンド、そしてスズキとダイハツのクルマ造りの違いを浮き彫りにする。
ニッポンの乗用車のボトムレンジを担う「ダイハツ・ミラ イース」と「スズキ・アルト」。両モデルの比較を通してそれぞれの実力を検証するとともに、軽自動車開発のトレンド、そしてスズキとダイハツのクルマ造りの違いを浮き彫りにする。
“安いから”から“便利だから”へ
現状の市況ではもっとも新しい数字となる3月末締め……つまり2016年度の新車販売台数は約508万台。うち、軽自動車の販売台数は約172万台で、その比率は約34%と、新車の3台に1台がそれということになる。一時は2台に1台の勢いだったのが、先の軽自動車税増税が潮目となって販売減が3年連続となり、登録車の堅調ぶりと明暗分かれたかたちだ。
とはいえ、ここ十数年のスパンでみれば軽自動車の需要がじわじわと伸びていることに変わりはない。その動向は高齢化と比してのユーザーの節約志向ともいわれるが、販売動向の1位が「ホンダN-BOX」で2位が「ダイハツ・タント」と、おのおの150万円前後の客単価となるだろうモデルが上位を占めているところをみると、維持費だけでなく背高スライドドアなどの機能や車寸的な扱いやすさの面で軽を積極的に選ぶ層が多い、つまり合理的選択の側が大勢だということがうかがえる。
さらに販売動向をみていくと、3位は「ダイハツ・ムーヴ」で4位は「日産デイズ」(「デイズ ルークス」含む)、5位に当該車種の1台であるアルトが登場し、さらに4車種を挟んで10位にようやくミラが現れる。ちなみに直近(2017年6月)の動向では、N-BOXに対してアルトの販売台数は約4割といったところ。これを多いとみるか少ないとみるかは人それぞれだが、法人需要の手堅さを思えば、両車ともに悩みのタネは個人需要の縮小というところだろう。それをなんとかしようという思惑は、好感度タレントをじゃんじゃん動員してのCMなどからも感じ取れる。アルトはゲス不倫うんぬんのおかげでケチがついてしまったが、ミラ イースの側は嫁いだ娘を落としてでもユーザー層の確実な囲い込みに差し向けようかという人選に、ナニワ商人道の本気をみる思いだ。
とはいえ、ここ十数年のスパンでみれば軽自動車の需要がじわじわと伸びていることに変わりはない。その動向は高齢化と比してのユーザーの節約志向ともいわれるが、販売動向の1位が「ホンダN-BOX」で2位が「ダイハツ・タント」と、おのおの150万円前後の客単価となるだろうモデルが上位を占めているところをみると、維持費だけでなく背高スライドドアなどの機能や車寸的な扱いやすさの面で軽を積極的に選ぶ層が多い、つまり合理的選択の側が大勢だということがうかがえる。
さらに販売動向をみていくと、3位は「ダイハツ・ムーヴ」で4位は「日産デイズ」(「デイズ ルークス」含む)、5位に当該車種の1台であるアルトが登場し、さらに4車種を挟んで10位にようやくミラが現れる。ちなみに直近(2017年6月)の動向では、N-BOXに対してアルトの販売台数は約4割といったところ。これを多いとみるか少ないとみるかは人それぞれだが、法人需要の手堅さを思えば、両車ともに悩みのタネは個人需要の縮小というところだろう。それをなんとかしようという思惑は、好感度タレントをじゃんじゃん動員してのCMなどからも感じ取れる。アルトはゲス不倫うんぬんのおかげでケチがついてしまったが、ミラ イースの側は嫁いだ娘を落としてでもユーザー層の確実な囲い込みに差し向けようかという人選に、ナニワ商人道の本気をみる思いだ。
真面目な取り組みで軽量化を追求
現行アルトが登場したのは2014年12月末のこと。何より驚かされたのは某有名デザイナーが絡んでいるとのうわさもあがった斬新なエクステリアデザイン……という人は多かっただろう。が、業界関係者がそれ以上に腰を抜かしたのがその車重だ。最軽量グレードで610kg、量販グレードで650kg付近というその数字は、車寸が変更になった1998年の規格改正前のアルトの数字とほぼ変わらなかった。それ以前に登場していた「ワゴンR」や「スペーシア」でもスズキの軽量ぶりは際立っていたが、いくらなんでも610kgからは異常だ。それまでの常識からいえばエンジンを載せ忘れているかのような衝撃的数字に、スズキは一体何をやったのかと正月も気が気でなく、3日の初売りに行ってしまったという他社の車体設計エンジニアの話も実際に聞いたことがある。ちょうどその頃CMのあるじは……と思い浮かべるに、本当に人生いろいろだ。
結局のところ、アルトの軽さに飛び道具的な理由は見当たらなかった。メルセデスやアウディのように派手な材料置換をやるでもなく、フォルクスワーゲンやトヨタのように凝ったレーザー溶接を繰り広げるでもなく、従来の素材や工機をうまく用いつつ、主要骨格の配置を直線化するなどして剛性と衝撃分散をキッカリのセンで担保しながら駄肉を徹底的に削り取った。「ソリオ」や「イグニス」「スイフト」といったモデルもまた、驚くほどの軽量化を果たしているが、そのすべての源泉となっているのがアルトのエンジニアリング的な発想でもある。
その頃のダイハツといえば、車重をある程度譲歩してでもその駄肉を走りに振り向けることで、登録車からのダウンサイジング系のニーズにも応えられる上質感を得ようとしていた。実際、ムーヴは下手なリッターカーを上回るねっとりした接地感、そして重厚なライドフィールを備えており、走ってなんぼの話でいえば今でも軽自動車のトップにいると思う。
結局のところ、アルトの軽さに飛び道具的な理由は見当たらなかった。メルセデスやアウディのように派手な材料置換をやるでもなく、フォルクスワーゲンやトヨタのように凝ったレーザー溶接を繰り広げるでもなく、従来の素材や工機をうまく用いつつ、主要骨格の配置を直線化するなどして剛性と衝撃分散をキッカリのセンで担保しながら駄肉を徹底的に削り取った。「ソリオ」や「イグニス」「スイフト」といったモデルもまた、驚くほどの軽量化を果たしているが、そのすべての源泉となっているのがアルトのエンジニアリング的な発想でもある。
その頃のダイハツといえば、車重をある程度譲歩してでもその駄肉を走りに振り向けることで、登録車からのダウンサイジング系のニーズにも応えられる上質感を得ようとしていた。実際、ムーヴは下手なリッターカーを上回るねっとりした接地感、そして重厚なライドフィールを備えており、走ってなんぼの話でいえば今でも軽自動車のトップにいると思う。
激しいスペック競争は過去の話
取捨選択の割り切りぶりは他の追随を許さないスズキと、限られた予算の中でなるべく盛ってアラを埋めてやろうというダイハツ。両社のクルマ作りの方向性はここにきて、いずれも一理あるなと思わせる好対照なものだった。が、ダイハツが新型ミラ イースで軽量化に大きく舵を切ったのは当然の流れでもあったのだろう。軽自動車の本懐を鑑みれば、エンジニアリング的に正論なのは間違いなくスズキの側だ。クルマが軽くなることで失うものを強いて挙げれば、物量からなる動的質感のみである。
結果、新型ミラ イースは前型比で最大80kgの軽量化を達成、売れ筋の中間グレードをみると、トランスミッションに同じくCVTを用いるアルトと同じ650kgに車重を収めた。一方でエンジン出力はアルトより3ps低い49ps、トルクも6Nm低い57Nmをアルトよりも高回転域で発生している。燃費もアルトより1.8km/リッター悪い35.2km/リッター。以前からの営業的価値観からいえば、カタログ開いた時点で負けてどうするよというやつである。が、ダイハツはこの数字を、扱いやすさを追求した結果とし、不毛な燃費競争とは一線を引くとおっしゃる。
一体どの口が……と言いたくなる気持ちもわかるがここはご辛抱を。というわけで、そんな両車の違いとは何か……を装備や価格や燃費だけでなく、走りの面でもしかと比べてみた。その結果を知るに、両社の涙ぐましいまでの努力はコストのみならずのところにもあり、それゆえに個人的には考えるところがますます複雑になったわけだが、それはまた追ってということで。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
結果、新型ミラ イースは前型比で最大80kgの軽量化を達成、売れ筋の中間グレードをみると、トランスミッションに同じくCVTを用いるアルトと同じ650kgに車重を収めた。一方でエンジン出力はアルトより3ps低い49ps、トルクも6Nm低い57Nmをアルトよりも高回転域で発生している。燃費もアルトより1.8km/リッター悪い35.2km/リッター。以前からの営業的価値観からいえば、カタログ開いた時点で負けてどうするよというやつである。が、ダイハツはこの数字を、扱いやすさを追求した結果とし、不毛な燃費競争とは一線を引くとおっしゃる。
一体どの口が……と言いたくなる気持ちもわかるがここはご辛抱を。というわけで、そんな両車の違いとは何か……を装備や価格や燃費だけでなく、走りの面でもしかと比べてみた。その結果を知るに、両社の涙ぐましいまでの努力はコストのみならずのところにもあり、それゆえに個人的には考えるところがますます複雑になったわけだが、それはまた追ってということで。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ダイハツ・ミラ イースG“SA III”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2455mm
車重:670kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6800rpm
最大トルク:57Nm(5.8kgm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:34.2km/リッター(JC08モード)
価格:120万9600円/テスト車=139万0673円
オプション装備:純正ナビ装着用アップグレードパック(1万9440円)/ ※以下、販売店オプション ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万0153円)/ワイドスタンダードメモリーナビ(12万4200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1415km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:217.4km
使用燃料:10.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.7km/リッター(満タン法)/22.0km/リッター(車載燃費計計測値)
スズキ・アルトX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2460mm
車重:650kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6500rpm
最大トルク:63Nm(6.4kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:37.0km/リッター(JC08モード)
価格:113万4000円/テスト車=118万8918円
オプション装備:ボディーカラー<ピュアレッド ミディアムグレー2トーンバックドア>(1万6200円) ※以下、販売店オプション フロアマット(1万6902円)/ビルトインETC(2万1816円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1万4238km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:171.5km
使用燃料:8.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.9km/リッター(満タン法)/20.1km/リッター(車載燃費計計測値)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2455mm
車重:670kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6800rpm
最大トルク:57Nm(5.8kgm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:34.2km/リッター(JC08モード)
価格:120万9600円/テスト車=139万0673円
オプション装備:純正ナビ装着用アップグレードパック(1万9440円)/ ※以下、販売店オプション ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万0153円)/ワイドスタンダードメモリーナビ(12万4200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1415km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
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使用燃料:10.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.7km/リッター(満タン法)/22.0km/リッター(車載燃費計計測値)
スズキ・アルトX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2460mm
車重:650kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6500rpm
最大トルク:63Nm(6.4kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
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オプション装備:ボディーカラー<ピュアレッド ミディアムグレー2トーンバックドア>(1万6200円) ※以下、販売店オプション フロアマット(1万6902円)/ビルトインETC(2万1816円)
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テスト開始時の走行距離:1万4238km
テスト形態:ロードインプレッション
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テスト距離:171.5km
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