【試乗記】トヨタ・カローラ スポーツ ハイブリッドG“Z”(FF/CVT)
- トヨタ・カローラ スポーツ ハイブリッドG“Z”(FF/CVT)
守るための革新
トヨタ伝統のロングセラーである「カローラ」シリーズに、久々のハッチバック「カローラ スポーツ」が登場。ライバルひしめくCセグメントのど真ん中に投入されたニューモデルの出来栄えを、ハイブリッドモデルの試乗を通して確かめた。
そういう生き方もアリかもしれない
わが家に初めてマイカーなるものがやってきたのは1967年生まれの僕がまだ1歳にも満たぬ頃のこと。当時としてはちょっとぜいたくだったのかもしれないが、後日聞いた話だと、公立学校の教員だった父が週に幾度か離れた村区の学校に通わなければならないという事情があって、思い切って購入したそうだ。
最初のクルマは中古の「トヨタ・パブリカ」。そこから中古の「三菱ミニカ」とつないで3台めのマイカーとしてわが家にやってきたのは新車の「スプリンター」だった。なんでカローラにしなかったのかという話はこれまた後日聞いたわけだが、その勇ましき名前にほれたわけでもアンチメジャー的な判官びいきでもなく、ただ単にやんちゃな教え子が販売店=当時出来たてのトヨタオート店に就職したからだという。以降、僕が知恵をつけて「スカイライン」だの「カペラ」だのと騒ぎ立てる中、わが家のマイカーは一片もブレることなくトヨタで固められ、先ごろ父は「クラウン」にたどり着くことなく「プレミオ」を最後に免許を返納した。
トヨタにクルマの一切合切を委ねるほどつまらない人生はない……とクルマ好きには久しくそう言われてきたし、僕も普通にそう思っていた。道にあふれるカローラをみるたび、思考なき衆愚どもめと思っていたクルマ革命戦士はしかし、今やクルマ周り以前に胴回りとの戦いで精いっぱいの50歳超えである。トヨタの所業に逐一目くじらを立てるのも面倒なら、長いものにはとっとと巻かれて勝ち馬にせっせと乗り続ける人生も悪くはないという事例も数々目にしてきた。今や他人のトヨタ漬け人生をみても、そうだよねぇと理解もできる。
最初のクルマは中古の「トヨタ・パブリカ」。そこから中古の「三菱ミニカ」とつないで3台めのマイカーとしてわが家にやってきたのは新車の「スプリンター」だった。なんでカローラにしなかったのかという話はこれまた後日聞いたわけだが、その勇ましき名前にほれたわけでもアンチメジャー的な判官びいきでもなく、ただ単にやんちゃな教え子が販売店=当時出来たてのトヨタオート店に就職したからだという。以降、僕が知恵をつけて「スカイライン」だの「カペラ」だのと騒ぎ立てる中、わが家のマイカーは一片もブレることなくトヨタで固められ、先ごろ父は「クラウン」にたどり着くことなく「プレミオ」を最後に免許を返納した。
トヨタにクルマの一切合切を委ねるほどつまらない人生はない……とクルマ好きには久しくそう言われてきたし、僕も普通にそう思っていた。道にあふれるカローラをみるたび、思考なき衆愚どもめと思っていたクルマ革命戦士はしかし、今やクルマ周り以前に胴回りとの戦いで精いっぱいの50歳超えである。トヨタの所業に逐一目くじらを立てるのも面倒なら、長いものにはとっとと巻かれて勝ち馬にせっせと乗り続ける人生も悪くはないという事例も数々目にしてきた。今や他人のトヨタ漬け人生をみても、そうだよねぇと理解もできる。
強力なライバルひしめくCセグメントへ
しかし、そんな最近の自分でさえ、2012年に登場した現行のカローラは理解の難しいクルマだった。どうしても5ナンバーでなければならないオジさんのためのセダンと、後席を頻繁に使う法人向けの「プロボックス」代わりのワゴン……と、街中で見かけるそれらからは積極的選択の気配がしない。時は移ろい国民車の座は「プリウス」と「アクア」で分かち合っている。もはやカローラという名前に特別な思い入れを抱く人もわずかになったということだろう。
が、トヨタ内部では今もってカローラの名前は会社の出世を支えた聖なるものだ。それは過去形ではなく、世界に目を向ければ100万台を超えるカローラが毎年生まれている。仕向け地によって形は異なれど、車名別でいえば「カムリ」との2トップであることは変わらない。その故郷である日本において、カローラの名がつくクルマがなくなることなどあってはならないという思いもあってのことだろう。新しいカローラシリーズは世界市場と同等のグローバルスペックで新たな門出となった。
「カローラ ランクス」以来のハッチバックとなるカローラ スポーツのネタ元は、欧州においてカローラの後継的位置づけで3代にわたり展開されている「オーリス」だ。日本でも定着しかかったその名を捨ててまでカローラを名乗らせるのだから、そこからもトヨタの意気込みは十分感じられる。オーリスは欧州市場において間もなくワゴンが発表されるが、それが「カローラ フィールダー」の後継的位置づけで展開される可能性は十分考えられるだろう。風のうわさではセダンの存在もささやかれているが、詳細は不明だ。が、5ナンバー枠という退路を断った新世代カローラの前方に広がるのは、日本車では「マツダ・アクセラ」や「スバル・インプレッサ」とがっぷり四つ、欧州Cセグメントともガチという、なかなかのいばら道である。
が、トヨタ内部では今もってカローラの名前は会社の出世を支えた聖なるものだ。それは過去形ではなく、世界に目を向ければ100万台を超えるカローラが毎年生まれている。仕向け地によって形は異なれど、車名別でいえば「カムリ」との2トップであることは変わらない。その故郷である日本において、カローラの名がつくクルマがなくなることなどあってはならないという思いもあってのことだろう。新しいカローラシリーズは世界市場と同等のグローバルスペックで新たな門出となった。
「カローラ ランクス」以来のハッチバックとなるカローラ スポーツのネタ元は、欧州においてカローラの後継的位置づけで3代にわたり展開されている「オーリス」だ。日本でも定着しかかったその名を捨ててまでカローラを名乗らせるのだから、そこからもトヨタの意気込みは十分感じられる。オーリスは欧州市場において間もなくワゴンが発表されるが、それが「カローラ フィールダー」の後継的位置づけで展開される可能性は十分考えられるだろう。風のうわさではセダンの存在もささやかれているが、詳細は不明だ。が、5ナンバー枠という退路を断った新世代カローラの前方に広がるのは、日本車では「マツダ・アクセラ」や「スバル・インプレッサ」とがっぷり四つ、欧州Cセグメントともガチという、なかなかのいばら道である。
進化を続けるTNGAプラットフォーム
その中で、カローラ スポーツの大きな武器となるのはやはりハイブリッドだろう。ちなみにディーゼルにまつわる諸問題が噴出した欧州でも電動化シフトが著しく、コンシューマー向けでは苦戦していたハイブリッドにも商機が訪れている。プリウス→C-HRの流れをくむ1.8リッター&THS IIの総合出力は122ps。かつて苦手としていた130km/h高速巡航レベルでの燃費も含め、総合的に1.6リッターディーゼルと対峙(たいじ)する能力は備えているといえる。
日本の環境であれば動力性能的な不満はもちろんないが、注目すべきはパワートレインの質感だろう。まずマネジメントがモーターを積極的に用いる側に振られていて、得たい加速に対してエンジン側がガッと吹け上がる無駄ぼえ的な稼働が少なくなっている。特に、街中から郊外路での穏やかな加速をみれば、以前との差は明らかで、静粛性や走行フィールなどでメリットを生んでいる。そしてTNGAプラットフォームも新型車ごとのアップデートの中で剛性向上が果たされており、それがマウントものの硬度選定や支持精度にもいい影響を与えているのだろう。エンジン稼働時の振動はプリウスやC-HRに対してさらに低減されている印象だ。
日本の環境であれば動力性能的な不満はもちろんないが、注目すべきはパワートレインの質感だろう。まずマネジメントがモーターを積極的に用いる側に振られていて、得たい加速に対してエンジン側がガッと吹け上がる無駄ぼえ的な稼働が少なくなっている。特に、街中から郊外路での穏やかな加速をみれば、以前との差は明らかで、静粛性や走行フィールなどでメリットを生んでいる。そしてTNGAプラットフォームも新型車ごとのアップデートの中で剛性向上が果たされており、それがマウントものの硬度選定や支持精度にもいい影響を与えているのだろう。エンジン稼働時の振動はプリウスやC-HRに対してさらに低減されている印象だ。
オーリスの名を捨てた是非
加えていえば、皆々が指摘する運動性能の高さについても、TNGAのアップデートによる影響は無視できない。バネ下の転がりの滑らかさや足まわりの精度感はカローラ スポーツの動的印象をひと回り上質なものとしている。乗り心地に関しても微小入力域から奇麗に動くアシがあるからこそ新しいダンパーも生かされるわけで、TNGAがもたらす好循環はソロバンより先にエンジニアの側に福音をもたらしている。
それに対して、すぐにでも改善を望みたいのは後席の快適性、ひとえに音環境の悪さだ。中高速域での盛大なロードノイズは音質も不快で、高速道路では前席側との会話もためらうほどだった。ハンドリングに費やす情熱の一片でも、後席の音消しに振り向けてもらえればと思う。
カローラ スポーツがもたらしたこの成果は、当然マイナーチェンジを控えるプリウスはじめ、今後登場する他のモデルにも反映されるはずだ。が、現時点で1.8リッター+THS IIのハイブリッドモデルを検討するなら、このクルマが最右翼の選択肢であることに疑いはない。“最新は最良”とは100%のクルマに当てはまるものではないが、カローラ スポーツに関しては、その体幹がカローラのイメージを激変させたと言っても過言ではないだろう。オーリスの名に別れを告げてまでカローラを生かしたトヨタの決定の是非は、このあと国内の販売台数が示すことになる。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
それに対して、すぐにでも改善を望みたいのは後席の快適性、ひとえに音環境の悪さだ。中高速域での盛大なロードノイズは音質も不快で、高速道路では前席側との会話もためらうほどだった。ハンドリングに費やす情熱の一片でも、後席の音消しに振り向けてもらえればと思う。
カローラ スポーツがもたらしたこの成果は、当然マイナーチェンジを控えるプリウスはじめ、今後登場する他のモデルにも反映されるはずだ。が、現時点で1.8リッター+THS IIのハイブリッドモデルを検討するなら、このクルマが最右翼の選択肢であることに疑いはない。“最新は最良”とは100%のクルマに当てはまるものではないが、カローラ スポーツに関しては、その体幹がカローラのイメージを激変させたと言っても過言ではないだろう。オーリスの名に別れを告げてまでカローラを生かしたトヨタの決定の是非は、このあと国内の販売台数が示すことになる。
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