【試乗記】日産リーフNISMO(FF)

日産リーフNISMO(FF)【試乗記】
日産リーフNISMO(FF)

航続距離も大事だけれど

日産の電気自動車(EV)「リーフ」に、スポーティーな走りが身上の「NISMO」バージョンが登場。世にも珍しい電動ホットハッチはどのような走りを見せるのか? “エコ”と“楽しさ”を同時にうたう一台の出来栄えを確かめた。

誕生の経緯に思いをはせる

「日産リーフ」のスポーティーモデルである「リーフNISMO」。2017年の東京モーターショーでコンセプトモデルが発表され、2018年7月に発売された。
「日産リーフ」のスポーティーモデルである「リーフNISMO」。2017年の東京モーターショーでコンセプトモデルが発表され、2018年7月に発売された。
赤いアクセントが目を引く「リーフNISMO」のインテリア。ステアリングホイールをはじめ、各所に専用の装備や装飾が用いられている。
赤いアクセントが目を引く「リーフNISMO」のインテリア。ステアリングホイールをはじめ、各所に専用の装備や装飾が用いられている。
シートやドアトリムクロスには専用の表皮を採用。シートの縁を飾るレッドとグレーのツインステッチも目を引く。
シートやドアトリムクロスには専用の表皮を採用。シートの縁を飾るレッドとグレーのツインステッチも目を引く。
テールゲートに装着された「nismo」のバッジ。現在、NISMOのモデルにはチューニングの度合いに応じて「NISMO」と「NISMO S」の2つのグレードが用意されているが、両者の区分けに厳密なルールはない。なお「リーフ」には比較的ライトなチューニングとされる「NISMO」のみが設定される。
テールゲートに装着された「nismo」のバッジ。現在、NISMOのモデルにはチューニングの度合いに応じて「NISMO」と「NISMO S」の2つのグレードが用意されているが、両者の区分けに厳密なルールはない。なお「リーフ」には比較的ライトなチューニングとされる「NISMO」のみが設定される。
EVはリーフにかぎらず、「エコです、未来です」という主張に加えて、いまだに「だから普通に使えますってば!」といった説明をいちいち求められる空気が根強く残る。いっぽう、NISMOとは現在の日産市販商品でスポーツテイスト……いわば“遊び”に特化したシリーズである。

というわけで、リーフにNISMO……と聞いて、急進的EV否定派などは「EVでスポーツなんて不謹慎だ!」と勝手に憤慨するかもしれない(笑)。まあ、そこまで強い感情でなくても“EVのスポーツモデル”という存在そのものが新しすぎて、どう受け入れていいのか困惑する向きもあろう。

ただ、世界初の本格量産EVであるリーフも初代登場から8年以上が経過して、現行型はすでに2代目だ。早期からEVを普通に使っているユーザーにとってはEVであることはもはや大前提で、そのうえで「なんか、もっと面白いものはないの?」と思いはじめても不思議ではない。同時に、EVがこれだけ快適かつ便利に使える存在になって、しかも当局がこんなに後押ししても、いまだに普及が遅々として進まない現状を見れば、メーカー側が「なんか、起爆剤を!」とワラにもすがる思いでいても不思議ではない。

というわけで、リーフNISMOである。日産におけるNISMOはなるほど本格スポーツブランドではあるのだが、その定義は良くも悪くも“ゆるい”のが特徴だ。それを名乗るための条件は、たとえばホンダの「タイプR」ほどハードルは高くなく、またトヨタの「GRスポーツ/GR/GRMN」のように、イジリの範囲を厳格に定めて名称を変えたりしない。ただ、内外装の仕立てだけではなく、シャシーにはそれなりに本格的な手を施して、ときにはパワートレインもなにかしらの部分を専用とする(その専用レベルはかなり幅があるにしても)ことが、NISMOを名乗る一応のお約束のようであるが……。

「日産リーフ」のスポーティーモデルである「リーフNISMO」。2017年の東京モーターショーでコンセプトモデルが発表され、2018年7月に発売された。
「日産リーフ」のスポーティーモデルである「リーフNISMO」。2017年の東京モーターショーでコンセプトモデルが発表され、2018年7月に発売された。
赤いアクセントが目を引く「リーフNISMO」のインテリア。ステアリングホイールをはじめ、各所に専用の装備や装飾が用いられている。
赤いアクセントが目を引く「リーフNISMO」のインテリア。ステアリングホイールをはじめ、各所に専用の装備や装飾が用いられている。
シートやドアトリムクロスには専用の表皮を採用。シートの縁を飾るレッドとグレーのツインステッチも目を引く。
シートやドアトリムクロスには専用の表皮を採用。シートの縁を飾るレッドとグレーのツインステッチも目を引く。
テールゲートに装着された「nismo」のバッジ。現在、NISMOのモデルにはチューニングの度合いに応じて「NISMO」と「NISMO S」の2つのグレードが用意されているが、両者の区分けに厳密なルールはない。なお「リーフ」には比較的ライトなチューニングとされる「NISMO」のみが設定される。
テールゲートに装着された「nismo」のバッジ。現在、NISMOのモデルにはチューニングの度合いに応じて「NISMO」と「NISMO S」の2つのグレードが用意されているが、両者の区分けに厳密なルールはない。なお「リーフ」には比較的ライトなチューニングとされる「NISMO」のみが設定される。

ここもあそこもNISMOならでは

「リーフNISMO」のボディーカラーは全5色。ブラック以外の4色には、ルーフをブラックで塗り分けるツートンカラーも用意されている。
「リーフNISMO」のボディーカラーは全5色。ブラック以外の4色には、ルーフをブラックで塗り分けるツートンカラーも用意されている。
足まわりについては、コイルスプリングやスタビライザーはそのままに、ダンパーを変更。前後ともに減衰力を高めている。
足まわりについては、コイルスプリングやスタビライザーはそのままに、ダンパーを変更。前後ともに減衰力を高めている。
パワートレインについてはハードウエアの変更はなく、制御プログラムの変更によってドライブフィールの違いを演出している。
パワートレインについてはハードウエアの変更はなく、制御プログラムの変更によってドライブフィールの違いを演出している。
専用の空力パーツや足まわりが採用された「リーフNISMO」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4510×1790×1550mmと、全長が30mm、全高が10mmアップしている。
専用の空力パーツや足まわりが採用された「リーフNISMO」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4510×1790×1550mmと、全長が30mm、全高が10mmアップしている。
リーフNISMOの内外装は、おなじみとなりつつあるNISMO流ではある。エクステリアは前後バンパーを専用として「Cd値を悪化させることなくダウンフォースを向上」させたといい、インテリアにはカーボン調やスエード調などの加飾があしらわれる。

シャシーでは、パワーステアリングやトレースコントール(旋回時にアンダーステアの兆候を検知すると、内輪側のブレーキをつまむ)の制御を変更したほか、タイヤとダンパーを専用品に換装。コイルやスタビライザーなどのバネ系はノーマルと共通だそうだが、ダンパー減衰が縮み側で10%、そして伸び側ではフロントが25%、リアが33%強化されている。タイヤはサイズだけでなく、銘柄も専用の「コンチスポーツコンタクト5」になっている。

こうした変更が施されたリーフNISMOは全長がノーマル比で30mm長くなって、全高も10mm高くなった。「スポーツモデルなのに車高アップ?」と意外に思うかもしれないが、コイルスプリングに変更がないということはサスペンション部分で意図的にリフトアップしたわけではない。タイヤのサイズ変更による結果的なものだろう。

パワートレインにも当然のごとくNISMOの“鼻のアブラ”が塗られるが、それはもっぱら制御ユニットのVCM(Vehicle Control Module)のプログラムに対してであり、バッテリーやモーター、インバーターといった主要ハードウエアはそのままだ。このあたりはエンジン車に慣れ親しんだ伝統的な感覚では物足りない気もするのだが、EVを取り巻く現状を考えれば、それはしかたない。

昨年(2017年)発売されたばかりの2代目リーフに使われるパワートレインは日産で最新鋭のそれである。日産にはリーフより上級のEVが存在するわけではないので、これより高性能なEVコンポーネントをそもそも持ち合わせていない。かといって、膨大なコストをかけて専用パワートレインを新開発するのは、そもそも“現実的な価格の派生スポーツモデル”というNISMOの商品企画にそぐわない。

「リーフNISMO」のボディーカラーは全5色。ブラック以外の4色には、ルーフをブラックで塗り分けるツートンカラーも用意されている。
「リーフNISMO」のボディーカラーは全5色。ブラック以外の4色には、ルーフをブラックで塗り分けるツートンカラーも用意されている。
足まわりについては、コイルスプリングやスタビライザーはそのままに、ダンパーを変更。前後ともに減衰力を高めている。
足まわりについては、コイルスプリングやスタビライザーはそのままに、ダンパーを変更。前後ともに減衰力を高めている。
パワートレインについてはハードウエアの変更はなく、制御プログラムの変更によってドライブフィールの違いを演出している。
パワートレインについてはハードウエアの変更はなく、制御プログラムの変更によってドライブフィールの違いを演出している。
専用の空力パーツや足まわりが採用された「リーフNISMO」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4510×1790×1550mmと、全長が30mm、全高が10mmアップしている。
専用の空力パーツや足まわりが採用された「リーフNISMO」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4510×1790×1550mmと、全長が30mm、全高が10mmアップしている。

ボタンひとつで“普通のリーフ”にも

ステアリングホイールは本革とアルカンターラのコンビタイプ。オプションで本革巻きのステアリングも用意される。
ステアリングホイールは本革とアルカンターラのコンビタイプ。オプションで本革巻きのステアリングも用意される。
センターコンソールに配された「e-ペダル」のON/OFFスイッチ。「Bモード」「Dモード」の切り替えはシフトセレクターで、エコモードとノーマルモードの切り替えはダッシュボードの右端に配されたスイッチで行う。
センターコンソールに配された「e-ペダル」のON/OFFスイッチ。「Bモード」「Dモード」の切り替えはシフトセレクターで、エコモードとノーマルモードの切り替えはダッシュボードの右端に配されたスイッチで行う。
インテリアでは、ダッシュボードを飾るカーボン調のフィニッシャーも「リーフNISMO」の特徴となっている。
インテリアでは、ダッシュボードを飾るカーボン調のフィニッシャーも「リーフNISMO」の特徴となっている。
そのパワートレインチューンの基本ロジックは「ノートe-POWER」に酷似する。つまり、ピーク性能は変わりないが、加速・減速両方のレスポンスを引き上げることで特有のスポーツテイストを演出する。

ただ、これまたノートe-POWER同様に、純粋なモーター駆動パワートレインならではのスポーツテイストを強調しすぎると、日常では少し扱いづらくなってしまう。よって、このクルマでもNISMOならではの超レスポンシブな走りを楽しめるモードのほか、普通のリーフと同様のエコランが可能となる穏やかなモードの2つを用意する。具体的には「エコモード」をONにすると、ノーマルのリーフ(のエコモード)と同様のパワートレイン制御で走ることができる。そして、エコモードを解除してノーマルモードにすると、いわば“カッ飛び専用NISMOモード”が起動して、いよいよ前例のない“EVホットハッチ”に変貌するというわけだ。

まあ、ぜいたくをいえば、ノーマルと共通のパワートレイン制御はまるごと残しつつ、そのうえでNISMO特有のモードを追加してくれれば文句はない。しかし、そのための制御プログラムの実証やスイッチの新規追加など、それなりに低くないコストがかかるので、実際にはそう簡単な話ではないらしい。このあたりは部品ひとつ、プログラムひとつにも責任を負わなければならない純正ワークスチューン特有のむずかしさだろう。

ステアリングホイールは本革とアルカンターラのコンビタイプ。オプションで本革巻きのステアリングも用意される。
ステアリングホイールは本革とアルカンターラのコンビタイプ。オプションで本革巻きのステアリングも用意される。
センターコンソールに配された「e-ペダル」のON/OFFスイッチ。「Bモード」「Dモード」の切り替えはシフトセレクターで、エコモードとノーマルモードの切り替えはダッシュボードの右端に配されたスイッチで行う。
センターコンソールに配された「e-ペダル」のON/OFFスイッチ。「Bモード」「Dモード」の切り替えはシフトセレクターで、エコモードとノーマルモードの切り替えはダッシュボードの右端に配されたスイッチで行う。
インテリアでは、ダッシュボードを飾るカーボン調のフィニッシャーも「リーフNISMO」の特徴となっている。
インテリアでは、ダッシュボードを飾るカーボン調のフィニッシャーも「リーフNISMO」の特徴となっている。

自分好みのモードを探す面白さ

パワートレインの制御については、「ノーマルモード」がNISMO独自のプログラム、「エコモード」は標準車と同じプログラムとなる。
パワートレインの制御については、「ノーマルモード」がNISMO独自のプログラム、「エコモード」は標準車と同じプログラムとなる。
前後のバンパーやサイドシルプロテクターなど、「リーフNISMO」の空力パーツにはレースで培われた技術が取り入れられているという。
前後のバンパーやサイドシルプロテクターなど、「リーフNISMO」の空力パーツにはレースで培われた技術が取り入れられているという。
フロントまわりではバンパーに加えて「nismo」のロゴ入が入ったフロントグリル(?)も専用品。内装同様、外装にも赤いアクセントが用いられている。
フロントまわりではバンパーに加えて「nismo」のロゴ入が入ったフロントグリル(?)も専用品。内装同様、外装にも赤いアクセントが用いられている。
メーターパネルは、ガンメタクロームの装飾と「nismo」のロゴが特徴。インフォメーションディスプレイの起動画面も専用のアニメーションとなっている。
メーターパネルは、ガンメタクロームの装飾と「nismo」のロゴが特徴。インフォメーションディスプレイの起動画面も専用のアニメーションとなっている。
走行モードの組み合わせ次第で、さまざまな走りが楽しめるのも「リーフNISMO」の魅力だ。
走行モードの組み合わせ次第で、さまざまな走りが楽しめるのも「リーフNISMO」の魅力だ。
面白いのはノーマルモード(=NISMOモード?)にしたときに、セレクターレバーのDレンジとBレンジそれそれで、減速度だけでなく加速度にも差異が与えられることだ。リーフNISMOのBレンジはいわゆるエンジンブレーキが強まるだけでなく、加速レスポンスもDレンジより鋭くなるのだ。

もちろん、そのうえで例の「e-ペダル」のスイッチも残されるから、エコモードとノーマルモード、DレンジとBレンジ、e-ペダルONとe-ペダルOFF……を組み合わせて、合計8パターンのパワートレイン制御が選べるのはNISMOでも変わりない。

というわけで、まずはパワートレインを「ノーマルモード+Bレンジ+e-ペダルON」というもっともNISMOらしい=最過激レスポンスにセットして走ってみる。こうしてすべてを解放したリーフNISMOの加速ピックアップは、まさにのけぞるほどにすさまじい……というか、不用意に踏み込むとヘッドレストに後頭部を打ちつけるほどである。高速でも日本の法定速度100km/hまでは、まさしく“瞬時”というほかない。音も高まらず、断続感もなく、背中だけが強く蹴られるEVの加速Gは素直に新鮮である。

ここであらためてエコモードに戻すと、まるで不自然な“去勢感”をおぼえる。リーフはエコモードでもそこいらのエンジン車より明確にリニアで強力な加速を披露しているはずなのだが、体感的な活発さはNISMOのノーマルモードの3分の1程度しかない。それくらいNISMOのパワートレイン制御は、ノーマルとは別物なのだ。

加速度はDレンジでもBレンジでも微妙なちがいしかないが、ホットハッチ(?)らしく走らせるには、やはり減速度も明確に増強されるBレンジがおすすめである。ただ、その際にe-ペダルを起動させるかどうかは好みが分かれそうだ。

右足を緩めた瞬間の減速の立ち上がりはe-ペダルOFFのほうが強力なのだが、その後はe-ペダルONのほうが減速Gも長く継続する。また、e-ペダルONの場合は、そもそもDレンジのほうがより自然……と、いくつもあるモードの組み合わせから、自分好みのフィーリングを見つける作業は技術マニアにはたまらないごちそうになりそうだ。

パワートレインの制御については、「ノーマルモード」がNISMO独自のプログラム、「エコモード」は標準車と同じプログラムとなる。
パワートレインの制御については、「ノーマルモード」がNISMO独自のプログラム、「エコモード」は標準車と同じプログラムとなる。
前後のバンパーやサイドシルプロテクターなど、「リーフNISMO」の空力パーツにはレースで培われた技術が取り入れられているという。
前後のバンパーやサイドシルプロテクターなど、「リーフNISMO」の空力パーツにはレースで培われた技術が取り入れられているという。
フロントまわりではバンパーに加えて「nismo」のロゴ入が入ったフロントグリル(?)も専用品。内装同様、外装にも赤いアクセントが用いられている。
フロントまわりではバンパーに加えて「nismo」のロゴ入が入ったフロントグリル(?)も専用品。内装同様、外装にも赤いアクセントが用いられている。
メーターパネルは、ガンメタクロームの装飾と「nismo」のロゴが特徴。インフォメーションディスプレイの起動画面も専用のアニメーションとなっている。
メーターパネルは、ガンメタクロームの装飾と「nismo」のロゴが特徴。インフォメーションディスプレイの起動画面も専用のアニメーションとなっている。
走行モードの組み合わせ次第で、さまざまな走りが楽しめるのも「リーフNISMO」の魅力だ。
走行モードの組み合わせ次第で、さまざまな走りが楽しめるのも「リーフNISMO」の魅力だ。

やりすぎないところに感じる見識

足まわりの変更は限界性能の向上を狙ったものではなく、パワートレインの変更やハイグリップタイヤの採用に合わせ、チューニングを最適化したものという印象が強い。
足まわりの変更は限界性能の向上を狙ったものではなく、パワートレインの変更やハイグリップタイヤの採用に合わせ、チューニングを最適化したものという印象が強い。
タイヤサイズは、標準車より幅も外径も大きい225/45R18。「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」が標準装着される。
タイヤサイズは、標準車より幅も外径も大きい225/45R18。「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」が標準装着される。
コーナリングでは、床下にバッテリーを積むことによる低重心パッケージの美点を実感。なおバッテリーの仕様は標準車も「NISMO」も同じで、総電圧は350V、総電力量は40kWhとなっている。
コーナリングでは、床下にバッテリーを積むことによる低重心パッケージの美点を実感。なおバッテリーの仕様は標準車も「NISMO」も同じで、総電圧は350V、総電力量は40kWhとなっている。
フットワークチューンが過激にすぎないのも、NISMOらしいといえば、らしい。乗り心地も柔らかいとはいわないが硬いというわけではなく、一般的なCセグメントホットハッチ基準では明らかにマイルド系の印象である。

さらに、エンジン車のような聴覚による威嚇効果がないことも、リーフNISMO全体にただよう快適でソフトな印象に拍車をかけているように思える。この種のクルマとしてはロードノイズも印象的なほど静かなのは、コンチネンタルタイヤの恩恵もあるかしれない。クルマの乗り心地に対する音の影響は絶大であることを、あらためて実感する。

バネレートが引き上げられているわけではないので、最終的なロール剛性や俊敏性が明確に高まっているわけではない。あえてダンパー減衰だけをイジるあたりはさすがの見識。リーフNISMOのサスペンションチューンの極意は、これ見よがしの味付けではなく、前記のパワートレインチューンによって鋭くなった荷重移動とハイグリップタイヤに対する絶妙な最適化……という印象が強い。

下りタイトコーナーでも、ピタリと旋回する従来のFFらしからぬ動きは、最重量物(=バッテリー)が車体中央の床下に搭載されるEVならではだし、バネ類を締めずともこういう水平基調の挙動が演出できるのも低重心パッケージの恩恵だ。リーフNISMOのフットワークは、単純にゴリゴリのシャープになった……のではなく、前後左右の余分な動きが抑制されて、より重厚でイイモノ感が増している。

足まわりの変更は限界性能の向上を狙ったものではなく、パワートレインの変更やハイグリップタイヤの採用に合わせ、チューニングを最適化したものという印象が強い。
足まわりの変更は限界性能の向上を狙ったものではなく、パワートレインの変更やハイグリップタイヤの採用に合わせ、チューニングを最適化したものという印象が強い。
タイヤサイズは、標準車より幅も外径も大きい225/45R18。「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」が標準装着される。
タイヤサイズは、標準車より幅も外径も大きい225/45R18。「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」が標準装着される。
コーナリングでは、床下にバッテリーを積むことによる低重心パッケージの美点を実感。なおバッテリーの仕様は標準車も「NISMO」も同じで、総電圧は350V、総電力量は40kWhとなっている。
コーナリングでは、床下にバッテリーを積むことによる低重心パッケージの美点を実感。なおバッテリーの仕様は標準車も「NISMO」も同じで、総電圧は350V、総電力量は40kWhとなっている。

“50kmダウン”が気にならない人へ

テールゲートを飾る「Zero Emission」のバッジ。8年前にデビューした初代「リーフ」は、EV専用設計のボディーを持つ世界初の量販EVだった。
テールゲートを飾る「Zero Emission」のバッジ。8年前にデビューした初代「リーフ」は、EV専用設計のボディーを持つ世界初の量販EVだった。
標準車と同じ容量435リッターのラゲッジルーム。日常性を犠牲にしないところも、「リーフNISMO」のようなスポーティーモデルの美点である。
標準車と同じ容量435リッターのラゲッジルーム。日常性を犠牲にしないところも、「リーフNISMO」のようなスポーティーモデルの美点である。
インフォメーションディスプレイに表示された走行データの画面。パワートレインやバッテリーなどのハードウエアは標準車と同じが、走行抵抗の増大によるものか、「リーフNISMO」の一充電走行可能距離は標準車の400kmから350kmにダウンしている(いずれもJC08モード)。
インフォメーションディスプレイに表示された走行データの画面。パワートレインやバッテリーなどのハードウエアは標準車と同じが、走行抵抗の増大によるものか、「リーフNISMO」の一充電走行可能距離は標準車の400kmから350kmにダウンしている(いずれもJC08モード)。
今回の試乗では東京-裾野間の往復を含め、430.4kmの距離を走行。電力消費率は車載計計測値で6.3km/kWhとなった。
今回の試乗では東京-裾野間の往復を含め、430.4kmの距離を走行。電力消費率は車載計計測値で6.3km/kWhとなった。
リーフNISMOでは車体骨格に特別な強化策は施されてない。ちなみに、プラットフォームを初代からのキャリーオーバーとする2代目リーフ自体の車体構造も、初代からとくに強化されていない。それでも、こんな高性能タイヤを履かせてグリグリ攻め立てても、床や上屋がミシる兆候すら出ないのはさすがだ。

世界初の本格量産EVであるリーフでは、なによりバッテリー事故を起こさないことが第一に設計されており、床下のリチウムイオンを取り囲む車体構造は最初から堅牢そのものである。リーフにかぎらず、新しい世界に踏み出した元祖グルマには、多かれ少なかれエンジニアたちの熱量がほとばしった過剰なつくりや品質が見られるものだ。それは商売上は無駄で非効率かもしれないが、マニアにはたまらない美点となる。

繰り返すが、バッテリーやモーター、インバーターなどのパワートレイン主要ハードウエアがノーマルと変わりないリーフNISMOは、価格もことさら高価なわけではない。それでいて、パワートレインの体感性能をここまで別物のように変えられるのは、電動パワートレインならではの面白さである。

いっぽうで、ハードウエアや絶対性能はまったく変わっていないリーフNISMOだが、残念ながら一充電あたりの航続距離(JC08モード)はノーマルの400kmから350kmに短縮している。それは専用エクステリアによる空気抵抗やタイヤの転がり抵抗が増加したのが理由だろう。

これをもって「EVで航続距離が減るなんて!」と激しいツッコミを入れる急進的EV否定派もいるかもしれないが、そもそも50kmやそこらの航続距離差が死活問題になる生活パターンの人には、EVは適さない。リーフNISMOは初代リーフでも特別に困らなかった人、こういうクルマを「面白いじゃん!」と細かいことを気にせず軽く買ってしまえる人にこそ好適である。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

テールゲートを飾る「Zero Emission」のバッジ。8年前にデビューした初代「リーフ」は、EV専用設計のボディーを持つ世界初の量販EVだった。
テールゲートを飾る「Zero Emission」のバッジ。8年前にデビューした初代「リーフ」は、EV専用設計のボディーを持つ世界初の量販EVだった。
標準車と同じ容量435リッターのラゲッジルーム。日常性を犠牲にしないところも、「リーフNISMO」のようなスポーティーモデルの美点である。
標準車と同じ容量435リッターのラゲッジルーム。日常性を犠牲にしないところも、「リーフNISMO」のようなスポーティーモデルの美点である。
インフォメーションディスプレイに表示された走行データの画面。パワートレインやバッテリーなどのハードウエアは標準車と同じが、走行抵抗の増大によるものか、「リーフNISMO」の一充電走行可能距離は標準車の400kmから350kmにダウンしている(いずれもJC08モード)。
インフォメーションディスプレイに表示された走行データの画面。パワートレインやバッテリーなどのハードウエアは標準車と同じが、走行抵抗の増大によるものか、「リーフNISMO」の一充電走行可能距離は標準車の400kmから350kmにダウンしている(いずれもJC08モード)。
今回の試乗では東京-裾野間の往復を含め、430.4kmの距離を走行。電力消費率は車載計計測値で6.3km/kWhとなった。
今回の試乗では東京-裾野間の往復を含め、430.4kmの距離を走行。電力消費率は車載計計測値で6.3km/kWhとなった。

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