【試乗記】ダイハツ・ミラ トコットG“SA III”(FF/CVT)
- ダイハツ・ミラ トコットG“SA III”(FF/CVT)
ちょっとほっこりな幸せ
ダイハツから新型軽自動車「ミラ トコット」が登場。従来の女性向けモデルのあり方を問い直し、徹底してシンプルさを追求したというそのカタチは、クルマ好きにどう映るのか? 自らを“オッさん”と称する筆者が、その魅力を探った。
オッさんにも刺さるカタチ
「ジムニー」に「N-VAN」にと、相次いで登場した軽自動車にやたらと萌(も)えさせられたこの夏、忘れてはならないもう1台といえばミラ トコットである。
それめいたうわさも聞かなければ事前の告知もなきまま……というのは単なる僕の情報不足かもしれないが、いきなりポーンと現れたようにみえたそれをみて、それこそ頭にポーンと豆電球がついたのは、主に40~50代のオッさん(含む僕)だったように思う。
トコットのシェイプというか佇(たたず)まいというか、その既視感をたどっていけば、当時やたらと小粋にみえた70~80年代のラテン系大衆車だったりする。
だったらボディー上と下を赤黒で塗り分けて、金色のホイールでも合わせてみたら、ちょっと「シャレード デ・トマソ」風になったりして……とか、このデザインなら樹脂部は着色しない方がかえって80年代っぽいよな……などと勝手に妄想を膨らませてはニヤるオッさんサミットが夜な夜な各地のファミレスで繰り広げられていたのもまた、今となっては古き佳(よ)き思い出だ。
それめいたうわさも聞かなければ事前の告知もなきまま……というのは単なる僕の情報不足かもしれないが、いきなりポーンと現れたようにみえたそれをみて、それこそ頭にポーンと豆電球がついたのは、主に40~50代のオッさん(含む僕)だったように思う。
トコットのシェイプというか佇(たたず)まいというか、その既視感をたどっていけば、当時やたらと小粋にみえた70~80年代のラテン系大衆車だったりする。
だったらボディー上と下を赤黒で塗り分けて、金色のホイールでも合わせてみたら、ちょっと「シャレード デ・トマソ」風になったりして……とか、このデザインなら樹脂部は着色しない方がかえって80年代っぽいよな……などと勝手に妄想を膨らませてはニヤるオッさんサミットが夜な夜な各地のファミレスで繰り広げられていたのもまた、今となっては古き佳(よ)き思い出だ。
結果的にユニセックス
もしかしてトコットはあの頃の甘酸っぱい時に僕らを連れて行ってくれるのではないか。
と、思いきや、ホームページをみるにそんなフシはうかがえない。どちらかといえばゆるふわ女子向きの気配さえ漂っている。当然ながら彼女らにとってオッさんは体臭からして外敵だ。
そのオッさんが考えた女子向け企画の押し付けを全否定した女子たちのサジェストによって生まれてきたカタチが、結果的にオッさんホイホイとなってしまった。トコットのこじらせっぷりというか、ふりだし感というかは、長年自動車業界が格闘し続けてきたジェンダー問題にまつわる、揚げ句の果てのケミストリーなのかもしれない。
ゆえにトコットの造り手の中には、ゆるふわなカタログやプロモーションについて、そうじゃないんだけど感を抱く者もいることだろう。でもタレントキャスティングを前面に押し出すダイハツの営業部門にその思いは届かないことも推せられる。このねじれもまた、長年自動車業界が抱える構造的不和だろう。
と、思いきや、ホームページをみるにそんなフシはうかがえない。どちらかといえばゆるふわ女子向きの気配さえ漂っている。当然ながら彼女らにとってオッさんは体臭からして外敵だ。
そのオッさんが考えた女子向け企画の押し付けを全否定した女子たちのサジェストによって生まれてきたカタチが、結果的にオッさんホイホイとなってしまった。トコットのこじらせっぷりというか、ふりだし感というかは、長年自動車業界が格闘し続けてきたジェンダー問題にまつわる、揚げ句の果てのケミストリーなのかもしれない。
ゆえにトコットの造り手の中には、ゆるふわなカタログやプロモーションについて、そうじゃないんだけど感を抱く者もいることだろう。でもタレントキャスティングを前面に押し出すダイハツの営業部門にその思いは届かないことも推せられる。このねじれもまた、長年自動車業界が抱える構造的不和だろう。
MTの設定が欲しかった
その名が示すとおり、トコットはミラシリーズのいちバリエーションに相当し、そのアーキテクチャーは昨年登場した「ミラ イース」と共通だ。TNGAをもじってかDNGAと呼ばれるそれは、軽量・高剛性化だけでなく、拡張性やコスト耐性にも配慮がなされた今後のトヨタグループの内外小型車戦略の核となり得るもの。しかしトコットの中身がそんな大役物とはまる子も知る由がないのである。
搭載されるエンジンは熱効率を徹底的に高めた第3世代のKF型で、これもミラ イースと同じだ。そして組み合わせられるトランスミッションもCVTのみ。ここに淡い思いを寄せていたオッさんたちの落胆があったことは想像に難くない。他がうそでも絵でも怒らないからせめてMTの設定があってくれれば……と、その気持ちはよくわかる。
思えばダイハツには以前、「エッセ」というクルマがあった。同じ70年代ラテン系でもフランス側の、ちょっと「ルノー・サンク」の香りがあるデザインはさておき、70万円を切るスタートプライスにして58ps/7200rpmの初代KF型がおごられたそれは、スカスカな装備のおかげで車重も軽く、5段MTとの組み合わせでは望外に気持ちよく走るクルマだった。ちなみにエッセは今でもジムカーナ等のモータースポーツでは活躍している。
くしくもDNGAのおかげでエッセと同等車重に抑えられたトコットにはその資質があったのだが、いかんせん今のダイハツには気の利いたエンジンがない。いや、それはスズキやホンダにしても然(しか)りだろう。コストと燃費の優等生を目指してチューニングに対する余力の一片すら削り落とした合理的設計では、回してパワフルかつ気持ちのいいエンジンのキャラクターも望めない。もはや軽自動車のエンジニアリングとは、そういう額面に表れない性能の追求も許されないほどギリギリものなのだと思う。
搭載されるエンジンは熱効率を徹底的に高めた第3世代のKF型で、これもミラ イースと同じだ。そして組み合わせられるトランスミッションもCVTのみ。ここに淡い思いを寄せていたオッさんたちの落胆があったことは想像に難くない。他がうそでも絵でも怒らないからせめてMTの設定があってくれれば……と、その気持ちはよくわかる。
思えばダイハツには以前、「エッセ」というクルマがあった。同じ70年代ラテン系でもフランス側の、ちょっと「ルノー・サンク」の香りがあるデザインはさておき、70万円を切るスタートプライスにして58ps/7200rpmの初代KF型がおごられたそれは、スカスカな装備のおかげで車重も軽く、5段MTとの組み合わせでは望外に気持ちよく走るクルマだった。ちなみにエッセは今でもジムカーナ等のモータースポーツでは活躍している。
くしくもDNGAのおかげでエッセと同等車重に抑えられたトコットにはその資質があったのだが、いかんせん今のダイハツには気の利いたエンジンがない。いや、それはスズキやホンダにしても然(しか)りだろう。コストと燃費の優等生を目指してチューニングに対する余力の一片すら削り落とした合理的設計では、回してパワフルかつ気持ちのいいエンジンのキャラクターも望めない。もはや軽自動車のエンジニアリングとは、そういう額面に表れない性能の追求も許されないほどギリギリものなのだと思う。
0%の官能と100%の正義
トコットのエンジンはライバルに比べると、中~高回転域でややビリビリ感が強くノイジーな印象だが、これは遮音系の注力が割り切られているがゆえかもしれない。CVTとの相性は悪くなく、緩加速時も回転を必要以上に高めることなく粘ろうとする。が、そこは軽自動車的な限界もあって、高速道路では速度調整にエンジンの吹け上がりもにぎやかになるのは仕方がない。
制限速度が60~80km/h、加減速の頻度も高い首都高速を走るに、トコットの動力性能はきっちりカツカツといった印象だ。そこから100km/h制限の高速道路に入ると、追い抜きのレスポンスに我慢は必要だが、リラックスして巡航できる。首都高といえば逆カントのタイトなコーナーも随所にあるが、常識的な速度で進入する限り車体が不安定になることはない。かといって余力が感じられるほどではなく、ロール量も横力に正直だ。
それでも、街中から首都高速、高速道路の巡航までを織り交ぜての走行パターンでケロッと25km/リッター近い燃費を示されてはぐうの音も出ない。その後の撮影で平均燃費は下がることになったが、下手をすれば2モーターハイブリッドより低い燃費と絶対的にシンプルな構造、安い価格をみれば、思わず足るを知るという言葉が口をつく。
残念ながらクルマ好きのオッさんの欲求はかなえられないかもしれないが、夢を抱かせてくれたカタチに責任はない。そして、その性能は0%の官能と100%の正義で構成されている。でもクルマでワクワクする方法は何もお尻と前輪を明後日の方向に向けて走るだけではないのだから、トコットは毎朝車庫にあるその姿を横目にちょっとほっこりな幸せを供してくれる、それでいいんだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=大久保史子)
制限速度が60~80km/h、加減速の頻度も高い首都高速を走るに、トコットの動力性能はきっちりカツカツといった印象だ。そこから100km/h制限の高速道路に入ると、追い抜きのレスポンスに我慢は必要だが、リラックスして巡航できる。首都高といえば逆カントのタイトなコーナーも随所にあるが、常識的な速度で進入する限り車体が不安定になることはない。かといって余力が感じられるほどではなく、ロール量も横力に正直だ。
それでも、街中から首都高速、高速道路の巡航までを織り交ぜての走行パターンでケロッと25km/リッター近い燃費を示されてはぐうの音も出ない。その後の撮影で平均燃費は下がることになったが、下手をすれば2モーターハイブリッドより低い燃費と絶対的にシンプルな構造、安い価格をみれば、思わず足るを知るという言葉が口をつく。
残念ながらクルマ好きのオッさんの欲求はかなえられないかもしれないが、夢を抱かせてくれたカタチに責任はない。そして、その性能は0%の官能と100%の正義で構成されている。でもクルマでワクワクする方法は何もお尻と前輪を明後日の方向に向けて走るだけではないのだから、トコットは毎朝車庫にあるその姿を横目にちょっとほっこりな幸せを供してくれる、それでいいんだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=大久保史子)
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