【試乗記】トヨタ・カムリWS(FF/CVT)

トヨタ・カムリWS(FF/CVT)【試乗記】
トヨタ・カムリWS(FF/CVT)

ダンナ向けのセダンとは一味だけ違う

10代目「トヨタ・カムリ」の販売開始から1年、新グレードが追加された。“Worldwide Sporty”の頭文字を持つ「WS」がそれだ。北米デビュー当初から設定されている顔を日本向けに新採用した、ニューフェイスの走りを確かめる。

北米市場にはない「WS」という名称

「カムリWS」専用色としてアティチュードブラックマイカ×ダークブルーマイカメタリックのツートンカラーが設定される。
「カムリWS」専用色としてアティチュードブラックマイカ×ダークブルーマイカメタリックのツートンカラーが設定される。
フロントマスクのデザインモチーフはカタマラン(双胴船)。標準モデルからヘッドライト以外のすべてが変更されている。
フロントマスクのデザインモチーフはカタマラン(双胴船)。標準モデルからヘッドライト以外のすべてが変更されている。
控えめなデザインの固定式となる「リアスポイラー」も「カムリWS」の専用装備。ツートンカラーを選ぶと、リアスポイラーもブラックとなる。
控えめなデザインの固定式となる「リアスポイラー」も「カムリWS」の専用装備。ツートンカラーを選ぶと、リアスポイラーもブラックとなる。
ショックアブソーバのロッドガイドブッシュ、ピストンバンドなどを「カムリWS」用に新規で開発した。
ショックアブソーバのロッドガイドブッシュ、ピストンバンドなどを「カムリWS」用に新規で開発した。
2017年1月のデトロイトモーターショーでデビューした新型カムリは、メインマーケットとなる米国市場で、「ホンダ・アコード」や「ヒュンダイ・ソナタ」といった強力なライバルたちと激しい戦いを繰り広げながらも、15年連続乗用車販売台数ナンバーワンの栄誉に輝くベストセラーモデルだ。初代「セリカ カムリ」──「セリカ」や「カリーナ」の姉妹車として1980年に登場したシリーズ最初で最後のFRモデル──から数え日本で10代目となる現行モデルは、2017年7月に発表されている。

カムリは日本仕様こそハイブリッド専用モデルだが、メインマーケットの北米では最高出力301psの3.5リッターV6がフラッグシップ。スポーティーなセダンとしても認識されている。そのV6搭載モデルにも採用されているアグレッシブとも表現したい厳(いか)つい顔が、日本でもWSとして選べるようになった……というのが既報の通り今回のトピックだ。

カムリ=スポーティーセダンの証明になるのかどうかはわからないが、年間36戦で争われるアメリカの「モンスターエナジーNASCARカップシリーズ」、いわゆるNASCARの参戦マシンとしてもカムリは使用されている。昨2017年シーズンはドライバーズタイトルとマニュファクチャラーズタイトルを同時に獲得。これはトヨタとして、2度目となる快挙である。2018年シーズンは、カムリを駆るカイル・ブッシュ選手が現在ドライバーズポイントで1位を爆走中で、めっぽう強い……というのは余談である。

新グレードに与えられた、WSというネーミングの意味するところは前述の通りだが、しかしなぜこの車名が日本市場向けとして選ばれたのかは不明だ。くだんの北米市場では、2.5リッター直4ハイブリッドの「SE」と3.5リッターV6の「XSE V6」のグレードが、このWS顔で販売されている。もちろんNASCARもこの顔だ。けれど、そのいずれにも「WS」の文字はない。

「カムリWS」専用色としてアティチュードブラックマイカ×ダークブルーマイカメタリックのツートンカラーが設定される。
「カムリWS」専用色としてアティチュードブラックマイカ×ダークブルーマイカメタリックのツートンカラーが設定される。
フロントマスクのデザインモチーフはカタマラン(双胴船)。標準モデルからヘッドライト以外のすべてが変更されている。
フロントマスクのデザインモチーフはカタマラン(双胴船)。標準モデルからヘッドライト以外のすべてが変更されている。
控えめなデザインの固定式となる「リアスポイラー」も「カムリWS」の専用装備。ツートンカラーを選ぶと、リアスポイラーもブラックとなる。
控えめなデザインの固定式となる「リアスポイラー」も「カムリWS」の専用装備。ツートンカラーを選ぶと、リアスポイラーもブラックとなる。
ショックアブソーバのロッドガイドブッシュ、ピストンバンドなどを「カムリWS」用に新規で開発した。
ショックアブソーバのロッドガイドブッシュ、ピストンバンドなどを「カムリWS」用に新規で開発した。

迫力あるフロントマスク

スポーティーグレードらしくライントレース性を重視しながら、いっぽうで、カーペットライドと称される乗り心地はそのままキープ。独特の走りを見せる。
スポーティーグレードらしくライントレース性を重視しながら、いっぽうで、カーペットライドと称される乗り心地はそのままキープ。独特の走りを見せる。
2.5リッター直4エンジン+ハイブリッドシステム(THS II)が搭載される。システム最高出力は211psとなる。
2.5リッター直4エンジン+ハイブリッドシステム(THS II)が搭載される。システム最高出力は211psとなる。
ディフューザー風のリアバンパー下部のデザインと2本出しのマフラーが標準モデルからの変更点。
ディフューザー風のリアバンパー下部のデザインと2本出しのマフラーが標準モデルからの変更点。
235/45R18サイズのタイヤに18×8Jアルミホイールを組み合わせる。試乗車は「ブリヂストン・トランザT005A」を装着していた。
235/45R18サイズのタイヤに18×8Jアルミホイールを組み合わせる。試乗車は「ブリヂストン・トランザT005A」を装着していた。
日本仕様だけにWSもまたパワーユニットはもちろんハイブリッドであり、これは既存モデルからの変更はない。2.5リッター直4エンジン単体の最高出力は178ps、モーターの最高出力は120psで、システム最高出力も211psのままだ。ではWSをWSたらしめているものとは何か。2017年7月に日本で発表された“標準”モデルとの違いは、主にデザイン面とサスペンションにある。

トヨタでは、内外装にわたりWS専用デザインと装備を与え、「より応答性の高い操舵フィーリングとフラットな走りを追求したサスペンションチューニングを行った」と標準モデルとの違いを説明する。

実際に目にしたWSは、最近の「トヨタ顔といえばこれ」といえるキーンルックをベースに、ヘッドライト内側下部からリップ部分に向けて“ハの字”にデザインされたバンパーが特徴的である。トヨタの開発陣は、これをカタマラン(双胴船)形状と紹介している。ヘッドライトだけが共通で「WSではグリルを含むフロントマスク全部が変更を受けている」と言えば、手を入れられた部分がイメージしやすいかもしれない。

個人的には現行カムリでも「随分と思い切った顔にしたなぁ」という感想を持っていたので、WSはさらに「やってくれた」という印象である。もともとおとなしいとはいえない面構えがさらに主張するようになり、このクルマのステアリングを握るのは“オッサン”を自認し、なおかつ自己顕示欲が比較的弱い自分としては、どこか気恥ずかしさも感じてしまうのだった。

リアに回れば、スポイラーの追加と、エキゾーストパイプが2本出しに変更されていることに気づく。ダミーのエアアウトレットを左右に加え、ディフューザーをイメージした下部デザインを持つバンパーもWS専用の装備だ。ついでに言えば、「WS“レザーパッケージ”」に装着される18インチホイールは、「G“レザーパッケージ”」とはデザインが異なっている。

スポーティーグレードらしくライントレース性を重視しながら、いっぽうで、カーペットライドと称される乗り心地はそのままキープ。独特の走りを見せる。
スポーティーグレードらしくライントレース性を重視しながら、いっぽうで、カーペットライドと称される乗り心地はそのままキープ。独特の走りを見せる。
2.5リッター直4エンジン+ハイブリッドシステム(THS II)が搭載される。システム最高出力は211psとなる。
2.5リッター直4エンジン+ハイブリッドシステム(THS II)が搭載される。システム最高出力は211psとなる。
ディフューザー風のリアバンパー下部のデザインと2本出しのマフラーが標準モデルからの変更点。
ディフューザー風のリアバンパー下部のデザインと2本出しのマフラーが標準モデルからの変更点。
235/45R18サイズのタイヤに18×8Jアルミホイールを組み合わせる。試乗車は「ブリヂストン・トランザT005A」を装着していた。
235/45R18サイズのタイヤに18×8Jアルミホイールを組み合わせる。試乗車は「ブリヂストン・トランザT005A」を装着していた。

足まわりは専用チューン

豪華ではないが、デザインと素材の工夫でインテリアの質感はなかなか高いといえる。9スピーカーのJBLプレミアムサウンドシステムはオプション。
豪華ではないが、デザインと素材の工夫でインテリアの質感はなかなか高いといえる。9スピーカーのJBLプレミアムサウンドシステムはオプション。
標準車にはないパドルシフトは「WS」の専用装備。右がプラス(シフトアップ)、左がマイナス(シフトダウン)のスイッチになる。
標準車にはないパドルシフトは「WS」の専用装備。右がプラス(シフトアップ)、左がマイナス(シフトダウン)のスイッチになる。
シート表皮は合成皮革とファブリックのコンビネーションデザイン。「WS」では8ウェイのパワーシートが標準装備されている。
シート表皮は合成皮革とファブリックのコンビネーションデザイン。「WS」では8ウェイのパワーシートが標準装備されている。
2825mmのホイールベースがもたらす後席の居住スペースは、頭上、足元とも十分な広さを確保している。
2825mmのホイールベースがもたらす後席の居住スペースは、頭上、足元とも十分な広さを確保している。
車重が約1.5t、Eセグといってもいいサイズ感のボディーではあるものの、最高出力211psのパワーは必要にして十分である。トランスミッションは電気式の無段変速機だが疑似的な6段シーケンシャルシフトを採用しており、WSシリーズで追加されたパドルシフトを駆使すれば、コーナー手前でブレーキングと同時にギアを2段落として……という、スポーティーな走りを味わえる。

パドルシフト未採用の標準モデルでマニュアルモードを選ぶ場合は、シフトレバーをDレンジからSレンジに入れる必要があるから、時と場合を選んで積極的にシフトワークを楽しみたい向きには、ステアリングホイールから手を離さずに変速できるこのパドルシフトの有無は“スポーツ”をキーワードにすれば十分加点要素になりそうだ。

WS専用にチューンしたというフットワークは、乗り心地とステアリング操作に対する反応を程よくバランスさせていた。元がアメリカンだけに、舗装路面がフラットなところばかりではない荒れた北米のフリーウェイを、ダーっと一気に300マイル走っても疲れない“ゆるフワ”なサスペンションを想像し、それをちょっとばかり締めたぐらいかと舐(な)めてもいたが、芯のあるいかにも重心が低い安定した乗り味は、意外にも(失礼)上質。これもやはり加点要素である。

さらに、前輪のグリップ感も、実はなかなかである。試乗車はハイグリップタイヤに到底分類できないはずの「ブリヂストン・トランザT005A」を装着していたが、パワーに対してのバランスは悪くない。加えて、ステアリングを通して路面コンディションがつかみやすかったのもカムリWSの美点である。電動パワステにあまりいいイメージを持たない方も少なくないと思うが、違和感はなかった。

WSにおいては“ライントレース性”と“カーペットライド感”を同時に向上させ操安性を高めた、と開発陣は言うが、その言葉に偽りはないと思う。これには当然新しいプラットフォームの出来が貢献しているはずだ。ここも加点要素であり、TNGAの実力をあらためて認めるわけである。

豪華ではないが、デザインと素材の工夫でインテリアの質感はなかなか高いといえる。9スピーカーのJBLプレミアムサウンドシステムはオプション。
豪華ではないが、デザインと素材の工夫でインテリアの質感はなかなか高いといえる。9スピーカーのJBLプレミアムサウンドシステムはオプション。
標準車にはないパドルシフトは「WS」の専用装備。右がプラス(シフトアップ)、左がマイナス(シフトダウン)のスイッチになる。
標準車にはないパドルシフトは「WS」の専用装備。右がプラス(シフトアップ)、左がマイナス(シフトダウン)のスイッチになる。
シート表皮は合成皮革とファブリックのコンビネーションデザイン。「WS」では8ウェイのパワーシートが標準装備されている。
シート表皮は合成皮革とファブリックのコンビネーションデザイン。「WS」では8ウェイのパワーシートが標準装備されている。
2825mmのホイールベースがもたらす後席の居住スペースは、頭上、足元とも十分な広さを確保している。
2825mmのホイールベースがもたらす後席の居住スペースは、頭上、足元とも十分な広さを確保している。

何をもって“スポーツ”とするか

サイドスカートのデザインも「カムリWS」専用。ワイド&ローフォルムに見せる視覚的な効果が高い。
サイドスカートのデザインも「カムリWS」専用。ワイド&ローフォルムに見せる視覚的な効果が高い。
荷室容量は524リッターで、6:4の分割可倒式となるリアシートの背もたれを倒せば、長尺物も収容可能。
荷室容量は524リッターで、6:4の分割可倒式となるリアシートの背もたれを倒せば、長尺物も収容可能。
タッチパネル式のクルマが増える中で、アナログスイッチを中心に配置した「カムリWS」のコックピット。直感的な操作がしやすい。
タッチパネル式のクルマが増える中で、アナログスイッチを中心に配置した「カムリWS」のコックピット。直感的な操作がしやすい。
エコ/ノーマル/スポーツという3つのパターンを持つ、ドライブモードセレクトを採用。シフトレバー後方に切り替えスイッチを配置する。
エコ/ノーマル/スポーツという3つのパターンを持つ、ドライブモードセレクトを採用。シフトレバー後方に切り替えスイッチを配置する。
もちろん現行モデルも含まれるが、歴代カムリで定評のあった乗り心地の良さは、WSでも損なわれていない。スポーティーグレードという位置付けでありながら、例えば頭が上下してしまうような足の固さや、ドライバーの操作感覚と車両の動きにずれが生じるどこか嫌な感じもWSには見受けられないのだ。マイルドなアメリカンテイストがセリングポイントであるはずのカムリに追加設定されたWSは、程よく締まった足まわりと乗り心地の両立で、単なるダンナ向けのセダンとは一味異なった仕上がりをみせる。

ただし、ハイブリッドのパワーユニットがもたらすフィーリングは、スポーティーモデルに期待したいそれではない。標準モデルとなんら変わらないパワーは、十分である反面、スポーティーモデルを名乗るにふさわしいエモーショナルな“何か”が足りないのである。

その“何か”とは、例えばベースモデルに対する単純なパワーアップでもいいし、心を躍らせるようなエキゾーストサウンドでもいい。趣味性の高いクルマを好事家に向けて出すのなら、わずかな違いでも喜んでもらえるかもしれないが、カムリにおいてハンドリングを磨いただけの差異では、薄味のままだ。もっと分かりやすい“刺激=スポーティネス”が必要ではないか。WSのデザインがその“刺激”に相当すると考えているのであれば、オプティカルチューンだけでは物足りない。V6を持ってくるまではしなくても、例えばモーターをブースト用に分かりやすく使用するなど、できることはいくつかあると思う。

すでにうわさになっているように、天下のトヨタですら今後は車種削減を進めていくという。直近のデータを見れば「マークX」が半年かけて売る台数(2018年4~9月=1739台)を、カムリは1カ月(9月=1665台)で売っている。北米での人気も健在だ。となれば、将来このクラスで残るのは、FRのマークXではなくFFのカムリになりそうだ。

そんなことを考えると、カムリは今後ますます重要なモデルになってくるだろう。快適で上質な走りをもたらすシャシーの出来は納得するところだから、あとは本格ハイブリッドスポーツと呼べる何かが加われば、存在価値はがぜん高まるはずだ。車種の整理統合が現実となりそうな今こそ、1980年に“4ドアスポーツ”として誕生した原点に戻れるチャンスではないか。

(文=櫻井健一/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)

サイドスカートのデザインも「カムリWS」専用。ワイド&ローフォルムに見せる視覚的な効果が高い。
サイドスカートのデザインも「カムリWS」専用。ワイド&ローフォルムに見せる視覚的な効果が高い。
荷室容量は524リッターで、6:4の分割可倒式となるリアシートの背もたれを倒せば、長尺物も収容可能。
荷室容量は524リッターで、6:4の分割可倒式となるリアシートの背もたれを倒せば、長尺物も収容可能。
タッチパネル式のクルマが増える中で、アナログスイッチを中心に配置した「カムリWS」のコックピット。直感的な操作がしやすい。
タッチパネル式のクルマが増える中で、アナログスイッチを中心に配置した「カムリWS」のコックピット。直感的な操作がしやすい。
エコ/ノーマル/スポーツという3つのパターンを持つ、ドライブモードセレクトを採用。シフトレバー後方に切り替えスイッチを配置する。
エコ/ノーマル/スポーツという3つのパターンを持つ、ドライブモードセレクトを採用。シフトレバー後方に切り替えスイッチを配置する。

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