【試乗記】日産リーフe+プロトタイプ(FF)

【試乗記】日産リーフe+プロトタイプ(FF)
日産リーフe+プロトタイプ(FF)

まだまだ伸びしろがある

日産の電気自動車(EV)「リーフ」に、バッテリーとモーターの性能を大幅に強化した「e+(イープラス)」が追加設定された。とはいえ発売前ということで、公道走行はNG……。まずはクローズドコースで動力性能を試しつつ、570kmにまで延びた最大航続距離に思いをめぐらせた。

京都までノンストップ?

「日産リーフe+」の発売は2019年1月23日。今回はそのプロトタイプモデルに千葉県のサーキット、袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗した。
「日産リーフe+」の発売は2019年1月23日。今回はそのプロトタイプモデルに千葉県のサーキット、袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗した。
「リーフe+」には、フロントバンパーの下にブルーの装飾パーツが備わる。外観上での標準車との違いはこの1点のみ。
「リーフe+」には、フロントバンパーの下にブルーの装飾パーツが備わる。外観上での標準車との違いはこの1点のみ。
リアバンパーにもブルーのアクセントが施されているが、こちらは標準車と同じ。
リアバンパーにもブルーのアクセントが施されているが、こちらは標準車と同じ。
一充電あたりの航続可能距離は、標準車よりも170km長い570kmと公表されている。
一充電あたりの航続可能距離は、標準車よりも170km長い570kmと公表されている。
リーフがフルモデルチェンジを受けて2代目となったのは2017年の9月6日。発売は10月2日で、直後に試乗する機会があった。借り出して2日間乗ることができたのは、予定されていた試乗会が中止になったからである。最悪のタイミングで検査不正問題が発覚し、この年のカー・オブ・ザ・イヤーも辞退することになった。リーフe+に試乗したのは、日産を揺るがす大事件が発覚した1カ月後。なんだか妙な因縁を感じてしまう。

会社のゴタゴタはさておき、リーフe+は待望のモデルである。バッテリー容量を増やし、航続距離を大幅に延ばしたのだ。2代目リーフは初代最終型の280kmから400kmへと延ばしていたわけだが、約540kmを走行した2日間の試乗では5回の充電が必要になった。近場での買い物や通勤ならまったく問題はないが、ちょっとした遠出や旅行には心もとない。400kmという数字ばかりが強調されていることには疑問を持たざるを得なかった。

リーフの40kWhに対し、リーフe+のバッテリー容量は62kWhである。実に55%もの増強だ。航続距離は当然長くなり、570kmに達した。東京から神戸あたりまで行ける計算だ。ただしこれはJC08モードの数字で、WLTCモードでは458kmである。こちらのほうが実態に近い数字だろう。それでも机上の計算では京都までノンストップで走れる。

発売前なので、クローズドコースでの試乗となった。残念ながら、燃費性能はテストできない。もう一つの改良点である走行性能の向上についてのみ試すことになった。

「日産リーフe+」の発売は2019年1月23日。今回はそのプロトタイプモデルに千葉県のサーキット、袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗した。
「日産リーフe+」の発売は2019年1月23日。今回はそのプロトタイプモデルに千葉県のサーキット、袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗した。
「リーフe+」には、フロントバンパーの下にブルーの装飾パーツが備わる。外観上での標準車との違いはこの1点のみ。
「リーフe+」には、フロントバンパーの下にブルーの装飾パーツが備わる。外観上での標準車との違いはこの1点のみ。
リアバンパーにもブルーのアクセントが施されているが、こちらは標準車と同じ。
リアバンパーにもブルーのアクセントが施されているが、こちらは標準車と同じ。
一充電あたりの航続可能距離は、標準車よりも170km長い570kmと公表されている。
一充電あたりの航続可能距離は、標準車よりも170km長い570kmと公表されている。

爽快な中間加速

標準車よりも容量が22kWh多い62kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載。グレードにもよるが、車両重量は160~180kgほどの増加となる。
標準車よりも容量が22kWh多い62kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載。グレードにもよるが、車両重量は160~180kgほどの増加となる。
アクセル操作のみで加減速を自在に行える「e-Pedal」のオン/オフスイッチはセンターコンソールに備わる。
アクセル操作のみで加減速を自在に行える「e-Pedal」のオン/オフスイッチはセンターコンソールに備わる。
容量アップによってバッテリーユニットの厚みが2cm増したため、ボディーの下に15mmはみ出すことに。これによって最低地上高も標準車より15mm低い135mmとなっている。
容量アップによってバッテリーユニットの厚みが2cm増したため、ボディーの下に15mmはみ出すことに。これによって最低地上高も標準車より15mm低い135mmとなっている。
バッテリー容量アップによって、車高も標準車より5mm高くなっているが、空気抵抗係数0.28は変わっていない。
バッテリー容量アップによって、車高も標準車より5mm高くなっているが、空気抵抗係数0.28は変わっていない。
ピットから走りだすと、すぐに力強さを実感した。バッテリーが増えているのだから車両重量も増加している。それをカバーするトルクアップなのだ。極端に重くなったとは感じさせないし、スムーズさは相変わらずである。1コーナーまでフル加速してアクセルを離すと急激に減速し、ブレーキを踏まずに曲がることができた。

ほかのコーナーでも多くの場合はこの「e-Pedal(イーペダル)」を使ってクリアできる。ヘアピンではさすがに無理で、メインストレートを走り抜けた後ではブレーキが必要になる。ある程度のスピードを出しているとe-Pedalの効きは緩やかになるからだ。高速走行中の急な速度変化を抑えるための制御である。e-Pedalをオフにして走ってみたが、1周で元に戻した。慣れるとワンペダル走行のほうが楽しい。とはいえ、後席に乗ってみたら少々違和感があった。ドライバーは気持ちいいが、乗員が同意してくれるとは限らない。

モーターの最高出力はリーフの110kWから160kWに、最大トルクは320Nmから340Nmにアップしている。発進から最大加速Gが継続するのはリーフでは50km/hまでだったが、リーフe+は70km/hまで持続する。中間加速性能も向上した。80-120km/hの加速時間は15%減少しているという。確かにEV特有の伸びのいい加速がいつまでも続くようで爽快だ。最高速には限界があるが、実用域での加速は十分以上である。

バッテリーを増やしたことは重心高を下げる効果もあった。厚さの増したバッテリーの搭載位置を工夫してボディーから下に15mmはみ出すようにし、車高の増加は5mmに抑えている。結果として重心高が10mm下がり、ロール角は0.4G旋回時で5%減少したという。

標準車よりも容量が22kWh多い62kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載。グレードにもよるが、車両重量は160~180kgほどの増加となる。
標準車よりも容量が22kWh多い62kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載。グレードにもよるが、車両重量は160~180kgほどの増加となる。
アクセル操作のみで加減速を自在に行える「e-Pedal」のオン/オフスイッチはセンターコンソールに備わる。
アクセル操作のみで加減速を自在に行える「e-Pedal」のオン/オフスイッチはセンターコンソールに備わる。
容量アップによってバッテリーユニットの厚みが2cm増したため、ボディーの下に15mmはみ出すことに。これによって最低地上高も標準車より15mm低い135mmとなっている。
容量アップによってバッテリーユニットの厚みが2cm増したため、ボディーの下に15mmはみ出すことに。これによって最低地上高も標準車より15mm低い135mmとなっている。
バッテリー容量アップによって、車高も標準車より5mm高くなっているが、空気抵抗係数0.28は変わっていない。
バッテリー容量アップによって、車高も標準車より5mm高くなっているが、空気抵抗係数0.28は変わっていない。

サーキット走行は楽しいが……

標準車では96セルユニットバッテリーを2並列(192セル)で搭載するが、「リーフe+」ではこれを3並列化して288セルを搭載。容量アップによる航続距離延長だけでなく、電流量アップによるパワーアップも実現している。
標準車では96セルユニットバッテリーを2並列(192セル)で搭載するが、「リーフe+」ではこれを3並列化して288セルを搭載。容量アップによる航続距離延長だけでなく、電流量アップによるパワーアップも実現している。
電流量アップとインバーター性能の強化により、「リーフe+」は標準車よりも68psと20Nmアップの最高出力218ps、最大トルク340Nmを発生する。
電流量アップとインバーター性能の強化により、「リーフe+」は標準車よりも68psと20Nmアップの最高出力218ps、最大トルク340Nmを発生する。
急速充電(写真左)と普通充電用のソケットがフロントに並んで設置される。バッテリーの容量がアップしたため、残量警告灯がついてから80%までの充電時間は、一般的な急速充電器(50kW)を使った場合で60分ほどかかるそうだ。
急速充電(写真左)と普通充電用のソケットがフロントに並んで設置される。バッテリーの容量がアップしたため、残量警告灯がついてから80%までの充電時間は、一般的な急速充電器(50kW)を使った場合で60分ほどかかるそうだ。
テスト車には215/50R17サイズの「ダンロップ・エナセーブEC300」が装着されていたが、こちらは標準車と同様。
テスト車には215/50R17サイズの「ダンロップ・エナセーブEC300」が装着されていたが、こちらは標準車と同様。
重量増に合わせたサスペンションの仕様変更も行われた。リーフとの厳密な比較をしたわけではないが、コーナーでの安定性が高いレベルにあるのは間違いない。それもあってついついサーキット走行を楽しんでしまい、実際に使われるのとはまったく違う乗り方になった。言い訳になるが、パンチの効いたEVの加速には魔力があってあらがうことは難しい。

当然、燃費は劇的に悪化する。1回目の試乗の前には、バッテリー残量が63%、走行可能距離は290kmだった。サーキット3周が1セットで、走行距離は7km。帰ってきた時には57%、252kmに減少していた。7kmで38km分のバッテリーを消費したことになる。ストレートエンドでは140km/hに達していて、アベレージスピードも80km/hを超えていたと思われる。強い風圧を受けて、電力消費が急増したのだ。

他媒体と1台を共有して走り、5セット35kmを走り終えた時点では24%、89kmに。トータルでバッテリー容量が39%減り、走行可能距離が201km減少したことになる。通常の使い方に比べ、5.74倍もの電力を消費したわけだ。EVで急加速と急減速を繰り返すのは厳禁であることを明確に示す結果である。

実際の使われ方とはかけ離れていて、参考にはならない。公道でこんな走り方をしたら電力より先に免許証がなくなってしまう。スピードを上げると目に見えて電力消費が増えるのは確かなので、遠出をする時はむやみに速く走ろうとしないほうがいい。1年前のリーフの試乗では、100km/h走行でも想定以上に走行可能距離が減っていった。

標準車では96セルユニットバッテリーを2並列(192セル)で搭載するが、「リーフe+」ではこれを3並列化して288セルを搭載。容量アップによる航続距離延長だけでなく、電流量アップによるパワーアップも実現している。
標準車では96セルユニットバッテリーを2並列(192セル)で搭載するが、「リーフe+」ではこれを3並列化して288セルを搭載。容量アップによる航続距離延長だけでなく、電流量アップによるパワーアップも実現している。
電流量アップとインバーター性能の強化により、「リーフe+」は標準車よりも68psと20Nmアップの最高出力218ps、最大トルク340Nmを発生する。
電流量アップとインバーター性能の強化により、「リーフe+」は標準車よりも68psと20Nmアップの最高出力218ps、最大トルク340Nmを発生する。
急速充電(写真左)と普通充電用のソケットがフロントに並んで設置される。バッテリーの容量がアップしたため、残量警告灯がついてから80%までの充電時間は、一般的な急速充電器(50kW)を使った場合で60分ほどかかるそうだ。
急速充電(写真左)と普通充電用のソケットがフロントに並んで設置される。バッテリーの容量がアップしたため、残量警告灯がついてから80%までの充電時間は、一般的な急速充電器(50kW)を使った場合で60分ほどかかるそうだ。
テスト車には215/50R17サイズの「ダンロップ・エナセーブEC300」が装着されていたが、こちらは標準車と同様。
テスト車には215/50R17サイズの「ダンロップ・エナセーブEC300」が装着されていたが、こちらは標準車と同様。

99.5%のユーザーをカバー

バッテリーユニットの大型化と重量アップにより、ボディーのねじり剛性が8%アップしたほか、重心高が10mm低下。結果として操縦安定性が向上したという。
バッテリーユニットの大型化と重量アップにより、ボディーのねじり剛性が8%アップしたほか、重心高が10mm低下。結果として操縦安定性が向上したという。
スマートフォンとの連携により、クルマから離れた状態でバッテリー残量を確認したり、乗車前にエアコンを作動させたりといった操作ができる。
スマートフォンとの連携により、クルマから離れた状態でバッテリー残量を確認したり、乗車前にエアコンを作動させたりといった操作ができる。
先進運転支援システム「プロパイロット」の操作スイッチはステアリングスポーク上に備わる。
先進運転支援システム「プロパイロット」の操作スイッチはステアリングスポーク上に備わる。
ブレーキ回生の量は標準車と同じだが、「e-Pedal」(回生と油圧ブレーキを併用)の制御については車重に合わせて最適化されている。
ブレーキ回生の量は標準車と同じだが、「e-Pedal」(回生と油圧ブレーキを併用)の制御については車重に合わせて最適化されている。
WLTCモードの458kmという航続距離は、99.5%のユーザーの一日あたりの走行距離をカバーするそうだ。旅行をするにしても、一日で400kmを超える距離を走ることはめったにない。数字的には十分に実用になることを示している。それでも購入をためらってしまうのであれば、心理的な抵抗感のゆえなのだろう。

外見ではリーフe+にはリーフとの違いがほとんどない。フロントバンパー下部にブルーのリップスポイラー状パーツが追加されているだけだ。知らなければ気づかないだろう。充電ポートを開けると「e+」ロゴが見えるので、オーナーは充電する時には満足感を得ることができるかもしれない。中身の進化は目を見張るものがあるので、アピールしないのはもったいない気がする。

バッテリーは従来の192セルから288セルに増加した。セル数が1.5倍になったのに容積が厚さ2cm増しにとどめられているのは、モジュールの構造を変えたからだ。従来は8セル単位のモジュールをハーネスで結合していて、自由度が低い上に隙間ができて空間効率が悪かった。新型モジュールはハーネスを基盤化してセルをレーザー接合しているので、最適なセル数と形状を設定することができる。電気抵抗の低減にも貢献した。

スペックを見て気になるのは、最大トルクの発生回転数が500rpmからになっていることだ。モーターは転がりはじめから最大トルクを生み出すことができるとされていたはずである。エンジニアに聞いてみると、リーフe+でも従来の320Nmは出ているということだった。トータルでトルクを増大させるための設定で、最大トルクを340Nmに高めるための工夫なのだそうだ。トルク変動でギクシャクしないように繊細な制御が行われている。

EVの進化スピードは速い。熱効率が1%向上したことがニュースになる内燃機関とは違う。逆の言い方をすれば、課題は多く残されているということになるだろう。現段階でガソリン車と同じように使えるかのような紹介をするべきではないが、可能性と期待度は高いのだ。まだまだ伸びしろがある。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

バッテリーユニットの大型化と重量アップにより、ボディーのねじり剛性が8%アップしたほか、重心高が10mm低下。結果として操縦安定性が向上したという。
バッテリーユニットの大型化と重量アップにより、ボディーのねじり剛性が8%アップしたほか、重心高が10mm低下。結果として操縦安定性が向上したという。
スマートフォンとの連携により、クルマから離れた状態でバッテリー残量を確認したり、乗車前にエアコンを作動させたりといった操作ができる。
スマートフォンとの連携により、クルマから離れた状態でバッテリー残量を確認したり、乗車前にエアコンを作動させたりといった操作ができる。
先進運転支援システム「プロパイロット」の操作スイッチはステアリングスポーク上に備わる。
先進運転支援システム「プロパイロット」の操作スイッチはステアリングスポーク上に備わる。
ブレーキ回生の量は標準車と同じだが、「e-Pedal」(回生と油圧ブレーキを併用)の制御については車重に合わせて最適化されている。
ブレーキ回生の量は標準車と同じだが、「e-Pedal」(回生と油圧ブレーキを併用)の制御については車重に合わせて最適化されている。

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