【試乗記】メルセデス・ベンツA180スタイル(FF/7AT)

【試乗記】メルセデス・ベンツA180スタイル(FF/7AT)
メルセデス・ベンツA180スタイル(FF/7AT)

もう少し付き合ってから

メルセデス・ベンツの新世代デザインをまとい、華々しいデビューを飾った新型「Aクラス」。金看板の自然対話式インターフェィス「MBUX」を武器に、強豪ひしめくCセグメントの新たな盟主となることはできるのだろうか。

まあ、こんなもんでしょう

2018年10月に日本導入が発表された4代目「メルセデス・ベンツAクラス」。納車開始となった同年12月には、3000台以上がデリバリーされたという。
2018年10月に日本導入が発表された4代目「メルセデス・ベンツAクラス」。納車開始となった同年12月には、3000台以上がデリバリーされたという。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4440×1800×1420mm。従来型と比べると120mm長く、15mm幅広く、15mm低くなっている。ホイールベースはプラス30mmの2730mm。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4440×1800×1420mm。従来型と比べると120mm長く、15mm幅広く、15mm低くなっている。ホイールベースはプラス30mmの2730mm。
メーター用とインフォテインメントシステム用の、2枚のワイドスクリーンが目を引くインテリア。ダッシュボードは2段構造となっている。
メーター用とインフォテインメントシステム用の、2枚のワイドスクリーンが目を引くインテリア。ダッシュボードは2段構造となっている。
「MBUX」に東京の天気を尋ねたところ。「今日、東京で傘は要る?」といった普通の会話も認識するところが新しい。
「MBUX」に東京の天気を尋ねたところ。「今日、東京で傘は要る?」といった普通の会話も認識するところが新しい。
日用品は普通にスーパーで買っている私には、スピーカーに向かってトイレットペーパーを注文する理由がどうも腑(ふ)に落ちない。だが、果たして本当に便利なのかは別にして、そのトレンドは進むいっぽうだろう。そんなことを言っているオヤジでさえ、スマホに語り掛けて電車の乗り継ぎを教えてもらっているぐらいだから、若い世代にとっては対話型のインターフェイスはもう当たり前に違いない。4代目に生まれ変わったメルセデス・ベンツAクラスが大きなセリングポイントとして自然対話型の新しいインターフェイスを搭載したのもまた当然なのである。MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)は、自然言語(要するに普通の会話)の認識機能を搭載し、インフォテインメントや各種機能をコントロールするのが特徴。起動のキーワードは「ハイ、メルセデス」というが実際のトリガーは「メルセデス」のようで、呼びかけは「ハイ」でも「ヘイ」でも「ハロー」でも、あるいは「もうかってまっか?」でも問題ない。従来通りにボタンで起動させることもできる。いっぽうでシート調節やドライブモードの切り替えなど、重要な運転機能に直接かかわるようなコマンドには反応しない。他のメーカーでは「その操作には対応していません」と答えるものもあるが、MBUXは無言で反応しないところが、かえって聞き取れなかったのかと不安になる。

試乗会で2台のクルマを半日ずつ試した印象は、他のシステムと大差ないというものだった。人工知能による学習機能が備わっていることが特徴というから、データが蓄積されて“賢く”なっていけば、また違うのかもしれないが、いきなり乗り込んでかゆいところに手が届くようにコミュニケーションできるかといえばそんなことはない。あまり最初から大きな期待はせずに、慣れていく、育てていくといった姿勢が大切なのだろう。海外試乗会で英語版を試した人たちの評判は上々だっただけに、まだ日本語対応が十分ではないということかもしれない。新しもの好きをガッカリさせてしまうようだが、これを目当てに選ぶほどではない、というのが現状の評価である。

2018年10月に日本導入が発表された4代目「メルセデス・ベンツAクラス」。納車開始となった同年12月には、3000台以上がデリバリーされたという。
2018年10月に日本導入が発表された4代目「メルセデス・ベンツAクラス」。納車開始となった同年12月には、3000台以上がデリバリーされたという。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4440×1800×1420mm。従来型と比べると120mm長く、15mm幅広く、15mm低くなっている。ホイールベースはプラス30mmの2730mm。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4440×1800×1420mm。従来型と比べると120mm長く、15mm幅広く、15mm低くなっている。ホイールベースはプラス30mmの2730mm。
メーター用とインフォテインメントシステム用の、2枚のワイドスクリーンが目を引くインテリア。ダッシュボードは2段構造となっている。
メーター用とインフォテインメントシステム用の、2枚のワイドスクリーンが目を引くインテリア。ダッシュボードは2段構造となっている。
「MBUX」に東京の天気を尋ねたところ。「今日、東京で傘は要る?」といった普通の会話も認識するところが新しい。
「MBUX」に東京の天気を尋ねたところ。「今日、東京で傘は要る?」といった普通の会話も認識するところが新しい。

そんなに安いわけはない

「Sクラス」や「Eクラス」と同じデザインのステアリングホイールを装備する。左右のスポーク上にはそれぞれタッチコントローラーが備わっている。
「Sクラス」や「Eクラス」と同じデザインのステアリングホイールを装備する。左右のスポーク上にはそれぞれタッチコントローラーが備わっている。
前席の空間は、従来モデルよりもヘッドルームが7mm、ショルダールームが9mmそれぞれ拡大したと説明される。
前席の空間は、従来モデルよりもヘッドルームが7mm、ショルダールームが9mmそれぞれ拡大したと説明される。
後席も同様に、ヘッドルームが8mm、ショルダールームが22mmそれぞれ拡大している。
後席も同様に、ヘッドルームが8mm、ショルダールームが22mmそれぞれ拡大している。
目の前に巨大なスクリーンが2枚デンと備わり、ステアリングホイールも上級モデルと同じ、どう見ても一段と立派になった新型Aクラスの車両価格はスタンダードの「A180」が328万円、「A180スタイル」は369万円である。だが、あのメルセデスが300万円台前半で買えるなんて、レクサスより安いじゃないか! と喜ぶのはまだ早い。新型Aクラスは「Sクラス」や「Eクラス」並みの安全運転支援システムを備えることも自慢のひとつなのだが、注意すべきはそれらがオプション装備であるということだ。A180/A180スタイルともにアクティブレーンチェンジまで完備した「レーダーセーフティーパッケージ」は24万5000円のオプションとなり、また「ナビゲーションパッケージ」も同様にオプション装備(18万4000円)となっている。定評のあるメルセデスの運転支援システムや新しいMBUXを求めるならば、それらの代金が上乗せされる。ほぼすべての顧客がこのふたつのオプションを選択すると予想されるから、事実上やはり400万円レベルということである。ちなみにウェブ上からオーダーするとオプションの半額を割り引くキャンペーンを展開中だという。

見かけの車両価格をできるだけ抑えて敷居を低くし、最初から予算オーバーとしてはねられることを避けたいという目論見(もくろみ)だろうが、何事にも必要な対価というものがあり、価値のあるものはただでは手に入らないということを、自動車界のリーダーたるメルセデスには正面から知らしめてほしい。400万円でも十分にその価値があると私は思う。

「Sクラス」や「Eクラス」と同じデザインのステアリングホイールを装備する。左右のスポーク上にはそれぞれタッチコントローラーが備わっている。
「Sクラス」や「Eクラス」と同じデザインのステアリングホイールを装備する。左右のスポーク上にはそれぞれタッチコントローラーが備わっている。
前席の空間は、従来モデルよりもヘッドルームが7mm、ショルダールームが9mmそれぞれ拡大したと説明される。
前席の空間は、従来モデルよりもヘッドルームが7mm、ショルダールームが9mmそれぞれ拡大したと説明される。
後席も同様に、ヘッドルームが8mm、ショルダールームが22mmそれぞれ拡大している。
後席も同様に、ヘッドルームが8mm、ショルダールームが22mmそれぞれ拡大している。

低速では扱いやすい1.3リッターターボエンジン

Cd値0.25という優れた空力性能に加えて、遮音材やエンジンベイへの追加バルクヘッドの採用などによって静粛性を強化。室内に伝わるノイズは、80km/h走行時で従来型よりも3dB低減している。
Cd値0.25という優れた空力性能に加えて、遮音材やエンジンベイへの追加バルクヘッドの採用などによって静粛性を強化。室内に伝わるノイズは、80km/h走行時で従来型よりも3dB低減している。
ルノーと共同開発された「M282」型1.3リッターエンジン。デルタ形状(三角形)のシリンダーヘッドを採用することで、軽量化とフットプリント低減を実現している。
ルノーと共同開発された「M282」型1.3リッターエンジン。デルタ形状(三角形)のシリンダーヘッドを採用することで、軽量化とフットプリント低減を実現している。
新型「CLS」から採用されているつり目のヘッドライト。くの字型のポジションランプはウインカーとしても機能する。
新型「CLS」から採用されているつり目のヘッドライト。くの字型のポジションランプはウインカーとしても機能する。
従来型A180の1.6リッター4気筒直噴ターボは122psと200Nmを生み出していたが、新型は同じく「180」ながら、さらにダウンサイジングした排気量1331ccのDOHC 4気筒ターボから136ps(100kW)/5500rpmと200Nm(20.4kgm)/1460-4000rpmを発生する。本国では2リッターターボや1.6リッターディーゼルターボも用意されているが、今のところ日本仕様は従来型に比べて軽量コンパクトであると同時に14psパワーアップした新型1.3リッターターボのみとなる。トランスミッションは従来通りの7段DCTである。

先代の1.6リッターターボは低速でのスロットルレスポンスにやや難があったが、この1.3リッターターボは低回転からでもトルクのツキが気持ちいいエンジンだ。ごく軽く踏んで走るとスイッと身軽に反応し、軽快でレスポンス良く、扱いやすいうえに静かでもある。ハッチバックモデルとしては非常に優れた0.25というCd値も走行音の低減に効果を発揮しているはずだ。ただし、その代わりというわけではないが、フルスロットルにしても回転の上昇につれて骨太なパワーが湧き出すというタイプではなく、ちょっとスカスカな感じで早々と頭打ちになるのはわずか1.3リッターの排気量ゆえに仕方のないところだろう。もちろん、実用エンジンとしては納得できる出来栄えといえる。

Cd値0.25という優れた空力性能に加えて、遮音材やエンジンベイへの追加バルクヘッドの採用などによって静粛性を強化。室内に伝わるノイズは、80km/h走行時で従来型よりも3dB低減している。
Cd値0.25という優れた空力性能に加えて、遮音材やエンジンベイへの追加バルクヘッドの採用などによって静粛性を強化。室内に伝わるノイズは、80km/h走行時で従来型よりも3dB低減している。
ルノーと共同開発された「M282」型1.3リッターエンジン。デルタ形状(三角形)のシリンダーヘッドを採用することで、軽量化とフットプリント低減を実現している。
ルノーと共同開発された「M282」型1.3リッターエンジン。デルタ形状(三角形)のシリンダーヘッドを採用することで、軽量化とフットプリント低減を実現している。
新型「CLS」から採用されているつり目のヘッドライト。くの字型のポジションランプはウインカーとしても機能する。
新型「CLS」から採用されているつり目のヘッドライト。くの字型のポジションランプはウインカーとしても機能する。

静かだが、ラフな突き上げもある

同じ「A180スタイル」ながら、オプションの「AMGライン」(25万5000円)装着車に乗り換える。18インチタイヤを履くこちらのほうが、乗り心地はいくぶん良く感じられた。
同じ「A180スタイル」ながら、オプションの「AMGライン」(25万5000円)装着車に乗り換える。18インチタイヤを履くこちらのほうが、乗り心地はいくぶん良く感じられた。
18インチタイヤ&ホイールのほかに「AMGライン」には、よりスポーティーな形状の専用バンパーやサイドスカート、マルチビームLEDヘッドライトなどが含まれている。
18インチタイヤ&ホイールのほかに「AMGライン」には、よりスポーティーな形状の専用バンパーやサイドスカート、マルチビームLEDヘッドライトなどが含まれている。
荷室は従来型よりも奥行きが115mm、幅が225mmそれぞれ拡大し、容量は29リッターアップの370リッターとなっている。開口部の幅も200mm広くなった。
荷室は従来型よりも奥行きが115mm、幅が225mmそれぞれ拡大し、容量は29リッターアップの370リッターとなっている。開口部の幅も200mm広くなった。
従来型に比べて全長が120mm延長され(ホイールベースは+30mm)、全幅も15mm広がり、いっぽう車高が15mm低くなったおかげで、さらにスポーティーなルックスを持つ新型だが、ハンドリングや乗り心地は妙にスポーティー志向だった従来型よりは穏当な仕上がりである。Aクラスはモデルによって2種類のリアサスペンションを使い分けており、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のように上級モデルはマルチリンクとなるが、A180はシンプルなトーションビーム式を採用している。今のところ日本仕様はA180と装備が充実した同スタイルに限られ、トーションビームのみとなる(ただし発売記念モデルの「エディション1」はマルチリンク式)。

試乗会では標準の16インチタイヤ装着車と18インチを履いた「AMGライン」仕様の2台を試したが、実のところどちらも乗り心地はいまひとつ。高速道路のような滑らかな路面では静かにフラットに走るものの、舗装の継ぎ目が点在する一般道ではサスペンションがスムーズに動かないようで、特に16インチの標準仕様車はなぜかゴトゴト、ゴロンと突き上げとフリクション感が目立ち、建て付けが悪いように感じられた。むしろ18インチのタイヤを履いたAMGライン付きのほうが、あまり粗さが目立たずまだましといった印象だった。メルセデスの主張では乗り心地などの快適性に配慮したというが、第一印象は期待したほどのものではなかった。こちらももう少し様子を見る必要があるだろう。派手な宣伝に引かれて前のめりにならずに、皆さんも冷静沈着に見極めてほしいと思う。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

同じ「A180スタイル」ながら、オプションの「AMGライン」(25万5000円)装着車に乗り換える。18インチタイヤを履くこちらのほうが、乗り心地はいくぶん良く感じられた。
同じ「A180スタイル」ながら、オプションの「AMGライン」(25万5000円)装着車に乗り換える。18インチタイヤを履くこちらのほうが、乗り心地はいくぶん良く感じられた。
18インチタイヤ&ホイールのほかに「AMGライン」には、よりスポーティーな形状の専用バンパーやサイドスカート、マルチビームLEDヘッドライトなどが含まれている。
18インチタイヤ&ホイールのほかに「AMGライン」には、よりスポーティーな形状の専用バンパーやサイドスカート、マルチビームLEDヘッドライトなどが含まれている。
荷室は従来型よりも奥行きが115mm、幅が225mmそれぞれ拡大し、容量は29リッターアップの370リッターとなっている。開口部の幅も200mm広くなった。
荷室は従来型よりも奥行きが115mm、幅が225mmそれぞれ拡大し、容量は29リッターアップの370リッターとなっている。開口部の幅も200mm広くなった。

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