【試乗記】トヨタ・プリウスA“ツーリングセレクション”(FF/CVT)

トヨタ・プリウスA“ツーリングセレクション”(FF/CVT)【試乗記】
トヨタ・プリウスA“ツーリングセレクション”(FF/CVT)

“ザ・トヨタ”の憂鬱

販売にかつての勢いがないとはいえ、「トヨタ・プリウス」が今もなおトヨタを象徴する車種であることに変わりはない。相撲の横綱に求められるのと同様に、プリウスにもプリウスらしい振る舞いが求められているのだ。最新モデルに試乗し、その出来栄えを確かめた。

「トヨタセーフティセンス」を全車標準化

デビューから3年を経て、初めてのマイナーチェンジが実施された「トヨタ・プリウス」。主要ハードウエアに変更はないが、内外装デザインの変更や、先進装備の強化が図られている。
デビューから3年を経て、初めてのマイナーチェンジが実施された「トヨタ・プリウス」。主要ハードウエアに変更はないが、内外装デザインの変更や、先進装備の強化が図られている。
「クラウン」「カローラ スポーツ」に続き、「プリウス」も“コネクティッドカー”へと進化。専用通信モジュールが全車に標準装備され、「T-Connectサービス」を車両購入から3年間は無償で利用できる。
「クラウン」「カローラ スポーツ」に続き、「プリウス」も“コネクティッドカー”へと進化。専用通信モジュールが全車に標準装備され、「T-Connectサービス」を車両購入から3年間は無償で利用できる。
プリクラッシュセーフティーやレーダークルーズコントロールなどからなる衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense」が全車に標準装備とされている。
プリクラッシュセーフティーやレーダークルーズコントロールなどからなる衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense」が全車に標準装備とされている。
レーダークルーズコントロールの操作レバーは、ステアリングポストの右側にレイアウトされている。
レーダークルーズコントロールの操作レバーは、ステアリングポストの右側にレイアウトされている。
現行プリウスの国内発売は2015年12月9日だったから、2018年12月17日に正式発売となった今回のマイナーチェンジはデビューからちょうど3年の、オンスケジュールの仕事と考えていい。

新しいプリウスにおいてクルマの主要ハードウエアに大きな変更はない。内外装デザイン面の変更以外では、自動ブレーキやレーダークルーズコントロールを含めた先進安全装備「Toyota Safety Sense(TSS)」の全車標準化とその機能の強化、昨今のトヨタが注力する“つながる化”への対応(=専用通信モジュールの標準搭載)、そして装備類の小改良がある。これらはどれも地味ながら実利的なアップデートといえるし、TSSの標準化はいかにも今っぽい判断といっていい。

ただ、車両後方レーダーセンサーが、いまだに「A」グレード以上の上級機種でしか恩恵にあずかれないものとなっているのはちょっと疑問だ。

今回はその後方レーダーを活用したリアクロストラフィックアラート(RCTA)が新機能として上級グレードにオプション追加されたが、後方レーダーはもともと斜め後方から近づく車両を感知して車線変更時に警告するブラインドスポットモニター(BSM)に使われてきたものである。よって、新しいプリウスでも「S」グレード以下では必然的にRCTAだけでなくBSMもつけられない。Sグレードはプリウスでも間違いなく売れ筋である。プリウスの車格でRCTAはともかく、いまだにBSMをつけられないケースがあるのは、ちょっといただけない。

……といった装備類の手直し以上に、今回のマイナーチェンジで注目されるのは、やはり内外装のデザイン変更。とりわけエクステリアの化粧直しだろう。

デビューから3年を経て、初めてのマイナーチェンジが実施された「トヨタ・プリウス」。主要ハードウエアに変更はないが、内外装デザインの変更や、先進装備の強化が図られている。
デビューから3年を経て、初めてのマイナーチェンジが実施された「トヨタ・プリウス」。主要ハードウエアに変更はないが、内外装デザインの変更や、先進装備の強化が図られている。
「クラウン」「カローラ スポーツ」に続き、「プリウス」も“コネクティッドカー”へと進化。専用通信モジュールが全車に標準装備され、「T-Connectサービス」を車両購入から3年間は無償で利用できる。
「クラウン」「カローラ スポーツ」に続き、「プリウス」も“コネクティッドカー”へと進化。専用通信モジュールが全車に標準装備され、「T-Connectサービス」を車両購入から3年間は無償で利用できる。
プリクラッシュセーフティーやレーダークルーズコントロールなどからなる衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense」が全車に標準装備とされている。
プリクラッシュセーフティーやレーダークルーズコントロールなどからなる衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense」が全車に標準装備とされている。
レーダークルーズコントロールの操作レバーは、ステアリングポストの右側にレイアウトされている。
レーダークルーズコントロールの操作レバーは、ステアリングポストの右側にレイアウトされている。

ライトのグラフィックを刷新

「トヨタ・プリウス」の2018年通年の新車販売台数は11万5462台(自販連調べ)。「日産ノート」「トヨタ・アクア」に次ぐ登録車3位につけた。
「トヨタ・プリウス」の2018年通年の新車販売台数は11万5462台(自販連調べ)。「日産ノート」「トヨタ・アクア」に次ぐ登録車3位につけた。
従来はヘッドランプから伸びていたボディーサイドの“アイライン”のような部分は分離され、よりマイルドな顔つきとなった。
従来はヘッドランプから伸びていたボディーサイドの“アイライン”のような部分は分離され、よりマイルドな顔つきとなった。
左右で“鳥居”のようなグラフィックを形成していたテールランプは、水平基調に光るように変更。フロントマスクともども、筆者の気に入っていたディテールは取り去られてしまった。
左右で“鳥居”のようなグラフィックを形成していたテールランプは、水平基調に光るように変更。フロントマスクともども、筆者の気に入っていたディテールは取り去られてしまった。
今回のテスト車のグレードは17インチのタイヤ&ホイールやブラック塗装のリアバンパーなどを備えた「A“ツーリングセレクション”」。幾何学調のルーフフィルムは“ツーリングセレクション”のみに設定されるオプション装備(5万4000円)となる。
今回のテスト車のグレードは17インチのタイヤ&ホイールやブラック塗装のリアバンパーなどを備えた「A“ツーリングセレクション”」。幾何学調のルーフフィルムは“ツーリングセレクション”のみに設定されるオプション装備(5万4000円)となる。
4代目プリウスは、実質的な発売初年となった2016年は国内新車販売で1位を獲得。翌2017年も全体1位こそ軽自動車の「ホンダN-BOX」に奪われたものの、登録車では1位を死守した。2018年は一気に登録車で3番手まで落ちてしまったが、逆にいうと、それでも3位である。4代目となってもトヨタ屈指の人気商品であることにちがいはない。

もちろん、リーマンショックとその後の世界的なエコカー人気(とくに日本ではその景気対策として導入されたエコカー補助金&減税が、プリウスの独走を後押しした)に乗って、社会現象ともいうべき超特大ヒットをかました3代目と比較すると、4代目プリウスの業績は見劣りする。しかし、当時と今ではプリウスを取り巻く状況もまるで異なるわけで、これをもって“4代目プリウスは失敗”と断じるのはあまりに可哀想だ。

ただ、とにかく売れまくった3代目に対して、4代目プリウスのデザインが好みの分かれるクセが強いタイプだったことは事実。というわけで、結果論もひっくるめて「それ見たことか、カッコ悪いから売れないんだ」と、まるで鬼の首をとったかのようにディスられてしまうのは人気モデルゆえの宿命だろう。

後出しで擁護するつもりもないが、4代目プリウスのオリジナルデザインは個人的に嫌いではなかった。切れ長ヘッドランプは日本の“能面”的で新鮮だったし、夜間のテールランプはまるでネオンに照らされた“鳥居”のようで、私なんぞは、そこに日本文化の象徴的なメッセージを勝手に受け止めたりもした。

というわけで、新しいプリウスはご覧のとおりである。マイナーチェンジなので基本プロポーションはもともとイジれないのだろうが、明るいところで見るイメージは意外にほとんど変えられていない。大きく手が入ったのは前後の照明グラフィックであり、私が好きだった能面アイラインと鳥居テールは見事に差し換えられた(笑)。新しいプリウスのお尻は夜間になると、従来とは一転、横長の水平基調に光る。それは正直なところ“どっかのなにか風”な気もして、私にはせっかくの個性を台無しにしたようにしか思えないのだが、つまりは私が好きだったこれらのディテールが、市場でとくに評判が芳しくなかったということだろう。われながら自分のセンスに泣ける。

「トヨタ・プリウス」の2018年通年の新車販売台数は11万5462台(自販連調べ)。「日産ノート」「トヨタ・アクア」に次ぐ登録車3位につけた。
「トヨタ・プリウス」の2018年通年の新車販売台数は11万5462台(自販連調べ)。「日産ノート」「トヨタ・アクア」に次ぐ登録車3位につけた。
従来はヘッドランプから伸びていたボディーサイドの“アイライン”のような部分は分離され、よりマイルドな顔つきとなった。
従来はヘッドランプから伸びていたボディーサイドの“アイライン”のような部分は分離され、よりマイルドな顔つきとなった。
左右で“鳥居”のようなグラフィックを形成していたテールランプは、水平基調に光るように変更。フロントマスクともども、筆者の気に入っていたディテールは取り去られてしまった。
左右で“鳥居”のようなグラフィックを形成していたテールランプは、水平基調に光るように変更。フロントマスクともども、筆者の気に入っていたディテールは取り去られてしまった。
今回のテスト車のグレードは17インチのタイヤ&ホイールやブラック塗装のリアバンパーなどを備えた「A“ツーリングセレクション”」。幾何学調のルーフフィルムは“ツーリングセレクション”のみに設定されるオプション装備(5万4000円)となる。
今回のテスト車のグレードは17インチのタイヤ&ホイールやブラック塗装のリアバンパーなどを備えた「A“ツーリングセレクション”」。幾何学調のルーフフィルムは“ツーリングセレクション”のみに設定されるオプション装備(5万4000円)となる。

メカニズム改良のアナウンスはないが……

パワートレインや足まわりの変更はうたわれていないものの、デビュー当初よりも走りの安定感が増したように感じられた。
パワートレインや足まわりの変更はうたわれていないものの、デビュー当初よりも走りの安定感が増したように感じられた。
“ツーリングセレクション”専用の17インチアルミホイールは、スポーク間の樹脂部分にチタン調塗装を施した新デザインに。テスト車に装着されていたタイヤは「ヨコハマ・ブルーアースGT」で、低燃費性能と高い走行性能を両立したとアピールされている。
“ツーリングセレクション”専用の17インチアルミホイールは、スポーク間の樹脂部分にチタン調塗装を施した新デザインに。テスト車に装着されていたタイヤは「ヨコハマ・ブルーアースGT」で、低燃費性能と高い走行性能を両立したとアピールされている。
インストゥルメントパネルの眺めは従来モデルと変わらないが、「プリウスPHV」と同じ縦長ディスプレイの車載インフォテインメントシステムがオプション設定された(テスト車はノーマルの横長ディスプレイタイプ)。
インストゥルメントパネルの眺めは従来モデルと変わらないが、「プリウスPHV」と同じ縦長ディスプレイの車載インフォテインメントシステムがオプション設定された(テスト車はノーマルの横長ディスプレイタイプ)。
「A“ツーリングセレクション”」ではヘッドアップディスプレイが標準装備となる。
「A“ツーリングセレクション”」ではヘッドアップディスプレイが標準装備となる。
メカニズム的な変更はアナウンスされていないので、その乗り味はわれわれがよく知る4代目プリウスそのものだ。

4代目プリウスはトヨタの新世代技術の集大成ともいうべき「TNGA(トヨタ ニュー グローバル アーキテクチャー)」の主力骨格設計「TNGA-C」を土台とした第1号車であり、TNGA-Cの低重心で姿勢変化が少ない身のこなしは、たしかにモダンである。ライントレース性もそれ以前のトヨタ車と比較すると明らかに正確性を増しており、日本の法定速度を超えるサーキットレベルでの高速安定性も不足ないわりに、日本特有の目地段差もうまくいなしてくれるところは感心する。

ただ、試乗した同業の先生方のなかには「発売初期よりもステアリング反応がマイルドになり、リアの安定性が増した」と指摘する向きもある。そういわれれば、安定感が増したというか、全体に動きが以前よりゆったりとしたかもしれない。このあたりは隠れた改良・熟成作業が実施された可能性もあるし、この3年で標準装着タイヤが代替わりした影響もあるかもしれない。実際、今回の試乗車が履いていたタイヤ銘柄はヨコハマの「ブルーアースGT」であり、同銘柄はアフター品ではこの2月に発売されたばかりだ。3年前のデビュー時のプリウスは、同じヨコハマの17インチでも「ブルーアースE70」を履いていた。

しつこいようだが、4代目プリウスが出てすでに3年がたつ。打倒プリウスを掲げて開発されたホンダの新型「インサイト」はプリウスよりさらにソフトな乗り心地を披露しつつも、ステアリングはより正確。さらにブレーキのリニア感や足ごたえでもプリウスの上をいっているのは事実である。

パワートレインや足まわりの変更はうたわれていないものの、デビュー当初よりも走りの安定感が増したように感じられた。
パワートレインや足まわりの変更はうたわれていないものの、デビュー当初よりも走りの安定感が増したように感じられた。
“ツーリングセレクション”専用の17インチアルミホイールは、スポーク間の樹脂部分にチタン調塗装を施した新デザインに。テスト車に装着されていたタイヤは「ヨコハマ・ブルーアースGT」で、低燃費性能と高い走行性能を両立したとアピールされている。
“ツーリングセレクション”専用の17インチアルミホイールは、スポーク間の樹脂部分にチタン調塗装を施した新デザインに。テスト車に装着されていたタイヤは「ヨコハマ・ブルーアースGT」で、低燃費性能と高い走行性能を両立したとアピールされている。
インストゥルメントパネルの眺めは従来モデルと変わらないが、「プリウスPHV」と同じ縦長ディスプレイの車載インフォテインメントシステムがオプション設定された(テスト車はノーマルの横長ディスプレイタイプ)。
インストゥルメントパネルの眺めは従来モデルと変わらないが、「プリウスPHV」と同じ縦長ディスプレイの車載インフォテインメントシステムがオプション設定された(テスト車はノーマルの横長ディスプレイタイプ)。
「A“ツーリングセレクション”」ではヘッドアップディスプレイが標準装備となる。
「A“ツーリングセレクション”」ではヘッドアップディスプレイが標準装備となる。

ライバル勢も着々と進化

テスト車のボディーカラーは、「エモーショナルレッドII」とともに新規設定された「ブルーメタリック」。
テスト車のボディーカラーは、「エモーショナルレッドII」とともに新規設定された「ブルーメタリック」。
1.8リッター直4エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドユニットのスペックは従来どおり。システム最高出力122psを発生する。
1.8リッター直4エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドユニットのスペックは従来どおり。システム最高出力122psを発生する。
「A“ツーリングセレクション”」では運転席8ウェイ、助手席4ウェイのパワーシートが標準装備となる。
「A“ツーリングセレクション”」では運転席8ウェイ、助手席4ウェイのパワーシートが標準装備となる。
「A“ツーリングセレクション”」では、シート表皮に合成皮革を採用。リアのセンターアームレストにはカップホルダーが2つ備わる。
「A“ツーリングセレクション”」では、シート表皮に合成皮革を採用。リアのセンターアームレストにはカップホルダーが2つ備わる。
プリウスのキモとなるハイブリッドシステムもまた相変わらず優秀だが、かつてほど圧倒的でもなくなっている。

プリウスも使うトヨタの「THS」は世界で初めて本格的に実用化されたハイブリッドだ。THSとその後継システム「THS II」はエンジンとモーターの2つの動力が複雑に融合した独特の“シリーズパラレル式”であることが大きな特徴。ハイブリッドが世に出てから十数年はトヨタが世界をリードして、世界中の自動車メーカーが「THS/THS IIに追いつけ追い越せ」だったことも事実である。

ただ、最近の世界的なハイブリッド技術は従来どおりのエンジン+変速機をモーターでアシストする“パラレル型”と、日本でいうと日産の「e-POWER」、あるいはそこに限定的なエンジン直接駆動機構を加えたホンダの「i-MMD」や三菱のPHEVなどの“シリーズ型(とその派生型)”に二極化する様相を呈している。

トヨタのTHS IIはそのどちらともちがう。意地悪にいうと、プリウスを世界各社の最新ハイブリッドと比較した場合、エンジン駆動車として見るとキレ味が弱く、モーター駆動車にしてはエンジン振動が雑味として混じりやすい。いわば“どっちつかず”に感じられるようになってきたのも否めない。

まあ、それでも低速域での燃費の良さは相変わらずで、日本では市販車トップの地位を堅守している。ただ、パワートレインを実際に操るときのリニアリティーでは、よりシンプルな他社製ハイブリッドに水をあけられつつある気がするのも、これまた正直なところだったりもするのだ。

テスト車のボディーカラーは、「エモーショナルレッドII」とともに新規設定された「ブルーメタリック」。
テスト車のボディーカラーは、「エモーショナルレッドII」とともに新規設定された「ブルーメタリック」。
1.8リッター直4エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドユニットのスペックは従来どおり。システム最高出力122psを発生する。
1.8リッター直4エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドユニットのスペックは従来どおり。システム最高出力122psを発生する。
「A“ツーリングセレクション”」では運転席8ウェイ、助手席4ウェイのパワーシートが標準装備となる。
「A“ツーリングセレクション”」では運転席8ウェイ、助手席4ウェイのパワーシートが標準装備となる。
「A“ツーリングセレクション”」では、シート表皮に合成皮革を採用。リアのセンターアームレストにはカップホルダーが2つ備わる。
「A“ツーリングセレクション”」では、シート表皮に合成皮革を採用。リアのセンターアームレストにはカップホルダーが2つ備わる。

憲法改正の議論を

現行型のデビュー当初に1万2000台とされていた「プリウス」の月間販売目標台数は、マイナーチェンジを機に6600台へと見直されている。
現行型のデビュー当初に1万2000台とされていた「プリウス」の月間販売目標台数は、マイナーチェンジを機に6600台へと見直されている。
エネルギーモニターなどでメーターパネル内に表示される車両イメージも、ボディー前後のデザインが変更されている。
エネルギーモニターなどでメーターパネル内に表示される車両イメージも、ボディー前後のデザインが変更されている。
シフトセレクターの左側には、ドライブモードの切り替えボタンやEVモードのオン/オフボタンなどがレイアウトされている。
シフトセレクターの左側には、ドライブモードの切り替えボタンやEVモードのオン/オフボタンなどがレイアウトされている。
エアコンルーバーのツマミには、「PRIUS」ロゴがデザインされている。
エアコンルーバーのツマミには、「PRIUS」ロゴがデザインされている。
クルマの基盤となるプラットフォームやパワートレインを完全刷新すると同時にモジュール化して、それを全社的に横展開する思想は、なにもトヨタのTNGAにかぎったことではない。極論をいえば、マツダの「スカイアクティブ」や日産(とルノー&三菱)の「CMF」、あるいはスバルの「SGP」なども目指すところは同じといっていい。さらに、ホンダも表向きには明確なプラットフォーム戦略をアピールしないが、新型「シビック」のそれが幅広い共用化を想定した設計なのは明らかだ。

プリウスに使われるTNGA-Cは数あるトヨタの新世代プラットフォームでも最量販となるはずである。その設計ではドライビングポジションなどの人間工学でも“もっといいクルマ”を意識したとはいうが、マツダなどに見られる執念めいたこだわりと比較すると、物足りない部分があるのも否定できない。

たとえば、プリウスの運転席も、あえていえばスロットルペダルはあとちょっと右に寄せてほしい。また、ステアリングのテレスコピック(=リーチ)調整が不足気味で、手前まで引ききれない……というトヨタ特有の悪癖はTNGAになっても解消されていない。とくに手足の短い日本人体形ほどステアリングが遠くなってドラポジが決まりにくいのは、日本を代表するトヨタとしてはさみしいかぎりだ。

じつは、このステアリング問題はトヨタのエンジニアや実験部隊もとっくに気づいているのだが、乗員とエアバッグの距離にまつわる社内の衝突安全基準ではこれが限界という。この種の社内基準はいわば“トヨタの憲法”なので、それを逸脱することは、いかなる理由があろうとも許されないのだ。

ただ、トヨタと同等以上の衝突安全性を誇るメーカーでもこれより人とステアリングが近い例はいくらでもあり、あらためて吟味すれば憲法改正の余地はあるはずだ。おなじみとなったTNGAとは、なにも特定の構造物や部品を指すのではなく“トヨタのクルマづくりそのものの刷新”であり、実際、開発組織や実験プロセスの改定もTGNAの名のもとでおこなわれている。であるならば、ドラポジという“いいクルマ”の根幹にももっと踏み込んでほしかった……と今回のプリウスに乗って、あらためて思った。

現行型のデビュー当初に1万2000台とされていた「プリウス」の月間販売目標台数は、マイナーチェンジを機に6600台へと見直されている。
現行型のデビュー当初に1万2000台とされていた「プリウス」の月間販売目標台数は、マイナーチェンジを機に6600台へと見直されている。
エネルギーモニターなどでメーターパネル内に表示される車両イメージも、ボディー前後のデザインが変更されている。
エネルギーモニターなどでメーターパネル内に表示される車両イメージも、ボディー前後のデザインが変更されている。
シフトセレクターの左側には、ドライブモードの切り替えボタンやEVモードのオン/オフボタンなどがレイアウトされている。
シフトセレクターの左側には、ドライブモードの切り替えボタンやEVモードのオン/オフボタンなどがレイアウトされている。
エアコンルーバーのツマミには、「PRIUS」ロゴがデザインされている。
エアコンルーバーのツマミには、「PRIUS」ロゴがデザインされている。

“ザ・トヨタ”であればこそ

今回のテストでは約580kmを走行し、満タン法で17.6km/リッターの燃費を記録した。カタログ燃費は37.2km/リッター(JC08モード)。
今回のテストでは約580kmを走行し、満タン法で17.6km/リッターの燃費を記録した。カタログ燃費は37.2km/リッター(JC08モード)。
スマートフォンをワイヤレス充電できる「おくだけ充電」は1万2960円のオプション装備。スマートフォンのディスプレイサイズが拡大傾向にあることに伴い、置けるスペースが広くなっている。
スマートフォンをワイヤレス充電できる「おくだけ充電」は1万2960円のオプション装備。スマートフォンのディスプレイサイズが拡大傾向にあることに伴い、置けるスペースが広くなっている。
荷室の容量はFF車(テスト車)で502リッター、4WD車で452リッターと公表されている。
荷室の容量はFF車(テスト車)で502リッター、4WD車で452リッターと公表されている。
「A“ツーリングセレクション”」では前席のシートヒーターが標準。今回のマイナーチェンジを機に、さらに上級のグレードではベンチレーション機能も標準化されている。
「A“ツーリングセレクション”」では前席のシートヒーターが標準。今回のマイナーチェンジを機に、さらに上級のグレードではベンチレーション機能も標準化されている。
4代目プリウスが3代目より売れないのは当然である。これまでのプリウスが開拓した市場は、今では国内だけでも「アクア」「ヴィッツ ハイブリッド」「C-HR」「カローラ スポーツ」などと分け合っているからだ。もはやプリウスがひとりで稼ぐ構図ではないのだ。

だから、プリウスがトヨタの最量販車種である必要はもはやないのだが、プリウスはトヨタの象徴である。つくり手も売り手も、そしてわれわれ買い手も、今はプリウスこそが“ザ・トヨタ”であるべきと思い込んでいる。

というわけで、台数が売れようが売れまいが、プリウスが総合的な意味で最新・最高のトヨタであるべき……という役割は今も変わりない。だとしたら、冒頭のように先進安全装備でいまだに微妙な割り切りを見せたり、人間工学で日本人体形に合わないと感じさせたり、あるいはハイブリッドシステムにおいて「さすがに古びてきたかなあ」と思わせたりしないでほしいものだ。

それはともかく、新しいプリウスは見た目には拒否反応が出にくい無難なものとなり、TSSやコネクテッド機能の標準化などの装備内容を吟味すれば実質的にわずかな値下げといえなくもない。燃費性能も今回は向上していないが、かといって他車はまったく追いついておらず、今も孤高である。発売当初は感心したステアリングやブレーキのタッチも今となっては少しばかり曖昧にも感じられるが、日本で乗るには相変わらず快適である。

というわけで、もともとプリウスを買うつもりでいた向きには、ここであえて思いとどまる必要はまったくない。

(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)

今回のテストでは約580kmを走行し、満タン法で17.6km/リッターの燃費を記録した。カタログ燃費は37.2km/リッター(JC08モード)。
今回のテストでは約580kmを走行し、満タン法で17.6km/リッターの燃費を記録した。カタログ燃費は37.2km/リッター(JC08モード)。
スマートフォンをワイヤレス充電できる「おくだけ充電」は1万2960円のオプション装備。スマートフォンのディスプレイサイズが拡大傾向にあることに伴い、置けるスペースが広くなっている。
スマートフォンをワイヤレス充電できる「おくだけ充電」は1万2960円のオプション装備。スマートフォンのディスプレイサイズが拡大傾向にあることに伴い、置けるスペースが広くなっている。
荷室の容量はFF車(テスト車)で502リッター、4WD車で452リッターと公表されている。
荷室の容量はFF車(テスト車)で502リッター、4WD車で452リッターと公表されている。
「A“ツーリングセレクション”」では前席のシートヒーターが標準。今回のマイナーチェンジを機に、さらに上級のグレードではベンチレーション機能も標準化されている。
「A“ツーリングセレクション”」では前席のシートヒーターが標準。今回のマイナーチェンジを機に、さらに上級のグレードではベンチレーション機能も標準化されている。

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