【試乗記】スズキ・スペーシア ギア ハイブリッドXZターボ(FF/CVT)

スズキ・スペーシア ギア ハイブリッドXZターボ(FF/CVT)【試乗記】
スズキ・スペーシア ギア ハイブリッドXZターボ(FF/CVT)

見事なトレンドミックス

これはハイトワゴンなのか!? SUVなのか!? それとも……!? スズキのニューフェイス「スペーシア ギア」は、過去にない新しいジャンルの軽乗用車だ。そのポテンシャルを探るべく、あちらへこちらへ連れ出してみた。

SUVライクなデザイン

「スズキ・スペーシア」ファミリーの、第3のモデルとして登場した「スペーシア ギア」。リアのバッジの文字は「Spacia」よりも「GEAR」のほうがだいぶ大きい。
「スズキ・スペーシア」ファミリーの、第3のモデルとして登場した「スペーシア ギア」。リアのバッジの文字は「Spacia」よりも「GEAR」のほうがだいぶ大きい。
丸目のヘッドランプが主張するフロントマスク。プロテクター風のバンパーなども専用仕立てとなっている。
丸目のヘッドランプが主張するフロントマスク。プロテクター風のバンパーなども専用仕立てとなっている。
「スペーシア ギア」にはルーフレールが全車に標準装備となるため、全高がノーマルの「スペーシア」よりも15mm高い1800mmとなっている(全長と全幅は同じ)。
「スペーシア ギア」にはルーフレールが全車に標準装備となるため、全高がノーマルの「スペーシア」よりも15mm高い1800mmとなっている(全長と全幅は同じ)。
リアにもプロテクター風のバンパーや、ガンメタリックのバックドアガーニッシュが備わる。
リアにもプロテクター風のバンパーや、ガンメタリックのバックドアガーニッシュが備わる。
「冒険心を刺激するSUVデザイン」「“SUVな”軽ハイトワゴン」
カタログの冒頭にスペーシア ギアの説明として書かれている言葉だ。慎重な言い回しである。SUVの匂いをまとっていることをアピールしながら、SUVだとは言っていない。

スペーシア ギアという名前のクルマが以前にもあったような気がするとしたら、それは勘違いである。2007年まで国内販売されていた「三菱デリカスペースギア」とはもちろん縁もゆかりもない。ただ、スペースが広くてギア(道具)感が強いという共通点があるとは言える。リアには大きな「GEAR」というバッジが付けられているので、知らない人が見ればギアというクルマだと思ってしまうかもしれない。

2017年12月に2代目となった「スペーシア」は、ノーマルタイプと「カスタム」という2つのデザインで登場した。昨今の軽自動車では常道の手法である。ファミリー向けには温和な顔を、血気盛んなタイプにはワイルドなスタイルを提供するわけだが、せんだってデビューした「ワゴンR」はデザインを3つに増やしていた。ハイトワゴンやスーパーハイトワゴンは軽自動車の売れ筋ジャンルだから、選択肢は多いほうがいい。スペーシアが3つ目のデザインを追加したのは、販売戦略的にはごく自然なことだろう。

パワートレインやボディーの骨格はスペーシア/スペーシア カスタムと基本的に同じ。流行のSUVスタイルを取り入れて、ユーザーが好むモデルに仕立てている。OEM供給されるマツダ版に「フレアワゴン タフスタイル」という名前が付けられていることからも意図は明確だ。SUVライクな軽自動車としては「ハスラー」があり、大成功を収めている。ハスラーでは車内スペースが狭いと感じる人もいるだろうから、スーパーハイトワゴン版SUVスタイル軽自動車の需要はあるに違いない。

「スズキ・スペーシア」ファミリーの、第3のモデルとして登場した「スペーシア ギア」。リアのバッジの文字は「Spacia」よりも「GEAR」のほうがだいぶ大きい。
「スズキ・スペーシア」ファミリーの、第3のモデルとして登場した「スペーシア ギア」。リアのバッジの文字は「Spacia」よりも「GEAR」のほうがだいぶ大きい。
丸目のヘッドランプが主張するフロントマスク。プロテクター風のバンパーなども専用仕立てとなっている。
丸目のヘッドランプが主張するフロントマスク。プロテクター風のバンパーなども専用仕立てとなっている。
「スペーシア ギア」にはルーフレールが全車に標準装備となるため、全高がノーマルの「スペーシア」よりも15mm高い1800mmとなっている(全長と全幅は同じ)。
「スペーシア ギア」にはルーフレールが全車に標準装備となるため、全高がノーマルの「スペーシア」よりも15mm高い1800mmとなっている(全長と全幅は同じ)。
リアにもプロテクター風のバンパーや、ガンメタリックのバックドアガーニッシュが備わる。
リアにもプロテクター風のバンパーや、ガンメタリックのバックドアガーニッシュが備わる。

内外装ともにアウトドア仕様

ターボエンジン+マイルドハイブリッドという同じパワーユニットを搭載した「スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ」と比較すると、車重は10kg軽くなっている。
ターボエンジン+マイルドハイブリッドという同じパワーユニットを搭載した「スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ」と比較すると、車重は10kg軽くなっている。
フロントウィンドウの立ったスタイリングだが、左右に湾曲させているためか、走行時の風切り音は気になるほどでもなかった。
フロントウィンドウの立ったスタイリングだが、左右に湾曲させているためか、走行時の風切り音は気になるほどでもなかった。
インパネの基本的な造形は「スペーシア」ゆずりだが、メーターリングやエアコン吹き出し口にオレンジのアクセントを配することで個性を主張している。
インパネの基本的な造形は「スペーシア」ゆずりだが、メーターリングやエアコン吹き出し口にオレンジのアクセントを配することで個性を主張している。
14インチアルミホイールのカラーリングもガンメタリックに。センター部分にはハーフキャップが装着されている。
14インチアルミホイールのカラーリングもガンメタリックに。センター部分にはハーフキャップが装着されている。
顔つきはスペーシア/スペーシア カスタムと明確に一線を画す。特徴的なのは丸目ヘッドライトで、ハスラーはもちろん、「ジムニー」とも共通する。ガンメタリック塗装のガーニッシュで、タフさとワイルドさをアピール。アルミホイールまでガンメタだ。スーツケースをモチーフにしている優しく穏やかなスペーシアからは遠く離れてしまった。

スペーシアはフロントガラスの角度を立ててフードを厚くし、ボリューム感と四角いカタチを強調している。シルエットが「ホンダN-BOX」に近づいたことは否めない。スペーシアはボディーサイドにリブを配してポップさを演出したものの、いかついグリルを持つスペーシア カスタムはうまく差別化できなかったきらいがある。スペーシア ギアはN-BOXとはまったく別の路線なので、似てしまう心配はない。

インテリアも専用の意匠となっている。エアコン吹き出し口とメーターの枠がオレンジ色になっており、シートのステッチやフロアマットの縁取りもオレンジ。スペーシアではスーツケースモチーフだったインパネアッパーボックスはツールボックスをイメージした形状となって天板にバッテンがついた。ロワーボックスもあって便利なのだが、素材が安っぽくてなめらかに開閉しないことがちょっと気になった。それがギア感と言えないこともない。

ラゲッジスペースはアウトドア仕様で、床面だけでなく後席のシートバックが防汚仕様になっている。ぬれたものを積んで汚れても、後で簡単に拭き取ることができる。長いものを入れたければ助手席の座面を前方に動かしてから背もたれを倒せばいいが、前席のシートバックは防汚仕様ではない。ボディー後端に自転車を積み込むためのガイドが装備されているのはスペーシアと同様である。荷室のサイドにはボルト穴があるので、用途に合わせてアレンジができるようだ。

ターボエンジン+マイルドハイブリッドという同じパワーユニットを搭載した「スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ」と比較すると、車重は10kg軽くなっている。
ターボエンジン+マイルドハイブリッドという同じパワーユニットを搭載した「スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ」と比較すると、車重は10kg軽くなっている。
フロントウィンドウの立ったスタイリングだが、左右に湾曲させているためか、走行時の風切り音は気になるほどでもなかった。
フロントウィンドウの立ったスタイリングだが、左右に湾曲させているためか、走行時の風切り音は気になるほどでもなかった。
インパネの基本的な造形は「スペーシア」ゆずりだが、メーターリングやエアコン吹き出し口にオレンジのアクセントを配することで個性を主張している。
インパネの基本的な造形は「スペーシア」ゆずりだが、メーターリングやエアコン吹き出し口にオレンジのアクセントを配することで個性を主張している。
14インチアルミホイールのカラーリングもガンメタリックに。センター部分にはハーフキャップが装着されている。
14インチアルミホイールのカラーリングもガンメタリックに。センター部分にはハーフキャップが装着されている。

ターボとマイルドハイブリッドの組み合わせ

ノーマルの「スペーシア」には自然吸気モデルしかラインナップされていないため(ターボは「カスタム」のみ)、ファニーなフロントマスクとターボを組み合わせられるのは「スペーシア ギア」の強みのひとつだ。
ノーマルの「スペーシア」には自然吸気モデルしかラインナップされていないため(ターボは「カスタム」のみ)、ファニーなフロントマスクとターボを組み合わせられるのは「スペーシア ギア」の強みのひとつだ。
右側のステアリングスポークには、クルーズコントロールとパワーモードのボタンが並んでレイアウトされている。
右側のステアリングスポークには、クルーズコントロールとパワーモードのボタンが並んでレイアウトされている。
「スペーシア」ではスーツケースを模していた助手席手前の収納のふたは、よりアウトドアテイスト漂うポリタンクのような形状に変更されている。
「スペーシア」ではスーツケースを模していた助手席手前の収納のふたは、よりアウトドアテイスト漂うポリタンクのような形状に変更されている。
助手席手前の収納を全部あけたところ。大きいほうの引き出しには、ティッシュ箱がぴったりとしまえる。
助手席手前の収納を全部あけたところ。大きいほうの引き出しには、ティッシュ箱がぴったりとしまえる。
スペーシア ギアのパワーユニットはNAとターボがあり、どちらもマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。試乗車はターボ版だった。ターボとハイブリッドの組み合わせというのは珍しいが、あくまでもマイルド版。「S-エネチャージ」と呼ばれていたテクノロジーの発展形で、10AhのリチウムイオンバッテリーとISG(モーター機能付き発電機・3.1ps/50Nm)を組み合わせている。S-エネチャージは加速時のモーターアシスト機能だけだったが、クリープに限り最長10秒のモーター走行が可能になった。

全高は1800mmもあるのに車重は890kgに抑えられているので、思いのほか加速は強力だ。ステアリングホイールに備えられた「PWR」ボタンを押せばパワーモードになり、さらに強い加速力が得られる。ISGのアシストも加わるというが、エンジンとCVTの制御変更の効果のほうが大きいようだ。エンジン音が急激に高まるのは仕方がない。

高速巡航もソツなくこなす。前方投影面積は大きいはずだが、空気を切り裂いて力強く走る。大きく湾曲したフロントガラスが空力的に優れた形状なのか、風切り音はそれほど大きくない。ただし、調子に乗ってコーナーで減速を怠ると、車高が高いクルマだったと思い出すことになる。

パドルが装備されていてシフト操作を行えるが、あまり活躍する場面はない。CVTがしっかり働いてくれるので、まかせておけば十分な走りを見せる。運転を楽しむことが主眼のクルマではないのだから、山道でむやみに飛ばすのは考えものだろう。路面が悪いところではデコボコを正直に乗員に伝える。これだけ背の高いクルマで操縦安定性を確保しているのだから、少しばかり乗り心地にしわ寄せがくるのは覚悟しなければならない。

ノーマルの「スペーシア」には自然吸気モデルしかラインナップされていないため(ターボは「カスタム」のみ)、ファニーなフロントマスクとターボを組み合わせられるのは「スペーシア ギア」の強みのひとつだ。
ノーマルの「スペーシア」には自然吸気モデルしかラインナップされていないため(ターボは「カスタム」のみ)、ファニーなフロントマスクとターボを組み合わせられるのは「スペーシア ギア」の強みのひとつだ。
右側のステアリングスポークには、クルーズコントロールとパワーモードのボタンが並んでレイアウトされている。
右側のステアリングスポークには、クルーズコントロールとパワーモードのボタンが並んでレイアウトされている。
「スペーシア」ではスーツケースを模していた助手席手前の収納のふたは、よりアウトドアテイスト漂うポリタンクのような形状に変更されている。
「スペーシア」ではスーツケースを模していた助手席手前の収納のふたは、よりアウトドアテイスト漂うポリタンクのような形状に変更されている。
助手席手前の収納を全部あけたところ。大きいほうの引き出しには、ティッシュ箱がぴったりとしまえる。
助手席手前の収納を全部あけたところ。大きいほうの引き出しには、ティッシュ箱がぴったりとしまえる。

キャンプは平たんな場所で

最低地上高はノーマルの「スペーシア」と変わらない150mm。写真のような未舗装路に乗り入れるのは、できれば遠慮したいところ。
最低地上高はノーマルの「スペーシア」と変わらない150mm。写真のような未舗装路に乗り入れるのは、できれば遠慮したいところ。
アウトドアユースを好む向きには、シート表皮のはっ水加工がうれしい。ステッチカラーはオレンジとなる。
アウトドアユースを好む向きには、シート表皮のはっ水加工がうれしい。ステッチカラーはオレンジとなる。
リアシートにもはっ水加工が施される。左右独立してスライドさせることが可能で、調整幅は最大で210mm。
リアシートにもはっ水加工が施される。左右独立してスライドさせることが可能で、調整幅は最大で210mm。
ラゲッジフロアと後席のシートバックは防汚仕様となっている。助手席の背もたれまで倒せば広大なラゲッジスペースが出現(写真)するが、助手席のシートバックは防汚仕様ではないので注意が必要。
ラゲッジフロアと後席のシートバックは防汚仕様となっている。助手席の背もたれまで倒せば広大なラゲッジスペースが出現(写真)するが、助手席のシートバックは防汚仕様ではないので注意が必要。
「“SUVな”軽ハイトワゴン」なのだから、本格的なオフロードを走ることは想定されていない。撮影のために未舗装路に乗り入れたら、転がっている石にバンパーが当たりそうで困った。最低地上高が高められているわけではないのだ。ロードクリアランスが確保できていないから、悪路を走るのはNGである。

カタログには森の中のキャンプや湖の釣り、海でスタンドアップパドルボードを楽しむ場面などのイメージ写真が紹介されている。ただ、クルマが置かれているのはいずれも平たんな場所。石がゴロゴロしている河原に進入するなどもってのほかなのだ。オプションのアクセサリーでバックドアネットやカータープが用意されているが、行き先はちゃんとした設備のあるオートキャンプ場を選ぶべきだろう。

ブレーキサポートや車線逸脱警報などの安全装備は一式そろっていて、誤発進抑制は後方もカバー。オプションの全方位モニターはとても見やすく、左右確認や3Dなどさまざまな視点を切り替えて使えるのが便利である。フロントガラス投影式のヘッドアップディスプレイが付属するのもうれしい。今どきの軽自動車が持つべき先進機能は一通り用意されている。

スペーシア ギアで毎週末アウトドアを楽しみに出掛けるユーザーはあまり多くないだろう。どこにでも行けるという性能を重視するならば、ジムニーを選んだほうがいい。スペーシア ギアはスペーシアに追加された第3のデザインバリエーションである。広いスペースを持っていて実用度が高く、人気のスタイルを取り入れたスーパーハイトワゴンなのだ。

SUV全盛の時流に乗り、ジムニー、ハスラー、「クロスビー」というラインナップに新たなモデルを加えたことにもなる。スーパーハイトワゴン、SUVという2つのトレンドをミックスしている。子育てファミリー層に向けてアウトドアテイストをまとった売れ筋モデルをリリースするというのは、誠に見事なマーケティングといえるだろう。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

最低地上高はノーマルの「スペーシア」と変わらない150mm。写真のような未舗装路に乗り入れるのは、できれば遠慮したいところ。
最低地上高はノーマルの「スペーシア」と変わらない150mm。写真のような未舗装路に乗り入れるのは、できれば遠慮したいところ。
アウトドアユースを好む向きには、シート表皮のはっ水加工がうれしい。ステッチカラーはオレンジとなる。
アウトドアユースを好む向きには、シート表皮のはっ水加工がうれしい。ステッチカラーはオレンジとなる。
リアシートにもはっ水加工が施される。左右独立してスライドさせることが可能で、調整幅は最大で210mm。
リアシートにもはっ水加工が施される。左右独立してスライドさせることが可能で、調整幅は最大で210mm。
ラゲッジフロアと後席のシートバックは防汚仕様となっている。助手席の背もたれまで倒せば広大なラゲッジスペースが出現(写真)するが、助手席のシートバックは防汚仕様ではないので注意が必要。
ラゲッジフロアと後席のシートバックは防汚仕様となっている。助手席の背もたれまで倒せば広大なラゲッジスペースが出現(写真)するが、助手席のシートバックは防汚仕様ではないので注意が必要。

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