【試乗記】トヨタ・スープラRZ(FR/8AT)/スープラSZ-R(FR/8AT)/スープラSZ(FR/8AT)

トヨタ・スープラRZ(FR/8AT)/スープラSZ-R(FR/8AT)/スープラSZ(FR/8AT)【試乗記】
トヨタ・スープラRZ(FR/8AT)/スープラSZ-R(FR/8AT)/スープラSZ(FR/8AT)

あるべきトヨタの味がする

17年ぶりに復活した新型「トヨタ・スープラ」が、ついに日本の道を走りだす。BMWとの提携をはじめとする新たな試みから生まれた5代目は、どんなクルマに仕上がっているのか? 全3グレードの走りを報告する。

こだわりの“1.55”

試乗会場となった伊豆・修善寺のホテル駐車場に並んだ新型「トヨタ・スープラ」。ボディーカラーは全8色がラインナップされる。
試乗会場となった伊豆・修善寺のホテル駐車場に並んだ新型「トヨタ・スープラ」。ボディーカラーは全8色がラインナップされる。
新型「スープラ」のベアシャシー。写真に見られるパワートレインや足まわりは姉妹車の「BMW Z4」と共通だが、ホイールのデザインやサスペンションのセッティングは異なっている。
新型「スープラ」のベアシャシー。写真に見られるパワートレインや足まわりは姉妹車の「BMW Z4」と共通だが、ホイールのデザインやサスペンションのセッティングは異なっている。
「RZ」(写真)と「SZ-R」には、本革とアルカンターラをあしらったスポーツシートが装着される。なお、過去の「スープラ」とは異なり、全車後席を持たない2シーター仕様となる。
「RZ」(写真)と「SZ-R」には、本革とアルカンターラをあしらったスポーツシートが装着される。なお、過去の「スープラ」とは異なり、全車後席を持たない2シーター仕様となる。
大きくふくらんだリアフェンダーと相まって、踏ん張り感が強調されたリアまわり。あえて横幅を狭めたダックテールスポイラーが、車体の幅広さを一段と印象づける。
大きくふくらんだリアフェンダーと相まって、踏ん張り感が強調されたリアまわり。あえて横幅を狭めたダックテールスポイラーが、車体の幅広さを一段と印象づける。
ベンチマークはポルシェ718ボクスター/ケイマン。その目標のために両社で新しいプラットフォーム(車台)を開発し、BMWはオープンモデルの新型「Z4」をつくった。一方、トヨタは「直列6気筒のFR」をDNAに刻むスポーツカーを17年ぶりに復活させた。それが新型スープラである。

共同開発といっても、車両設計はBMW。3リッター6気筒/2リッター4気筒のパワートレインや足まわりなど、動的部品もBMW製。“フルランナー”と呼ばれたプラットフォーム検討試作車は、「BMW 2シリーズ」をベースにつくられた。引き算すると、トヨタが腕を振るったのは、主に外形デザインと車両のチューニングということになるが、それだけに、この新型スポーツカーの果たしてどこまでがトヨタ・スープラなのかという点が、試乗する前の興味のポイントだった。

「単なる数値より、フィールを大切にした」というのが、スープラの開発スローガンだが、そのなかで、最もこだわったのが1.55という数字である。ホイールベース(2470mm)をトレッド(前1595mm/後1590mm)で割った数値だ。可能な限りホイールベースを短くして、可能な限りトレッドを広くする。このホイールベース/トレッド比によって、運動性能の基本は決まるという。

ケイマン、旧型Z4、旧型スープラ、レクサスLFA、フェアレディZ、トヨタ86などがいずれも1.6台であるのに対して、今回の共同開発プラットフォームは飛び抜けた数値を示す。ポルシェ911はこれまで1.60だったが、出来立てほやほやの新型では1.54まで詰めてきた。「この数値にこだわったわれわれの狙いが間違っていなかったことが証明された」。試乗前の技術説明会で開発責任者の多田哲哉さんはそう言った。

試乗会場となった伊豆・修善寺のホテル駐車場に並んだ新型「トヨタ・スープラ」。ボディーカラーは全8色がラインナップされる。
試乗会場となった伊豆・修善寺のホテル駐車場に並んだ新型「トヨタ・スープラ」。ボディーカラーは全8色がラインナップされる。
新型「スープラ」のベアシャシー。写真に見られるパワートレインや足まわりは姉妹車の「BMW Z4」と共通だが、ホイールのデザインやサスペンションのセッティングは異なっている。
新型「スープラ」のベアシャシー。写真に見られるパワートレインや足まわりは姉妹車の「BMW Z4」と共通だが、ホイールのデザインやサスペンションのセッティングは異なっている。
「RZ」(写真)と「SZ-R」には、本革とアルカンターラをあしらったスポーツシートが装着される。なお、過去の「スープラ」とは異なり、全車後席を持たない2シーター仕様となる。
「RZ」(写真)と「SZ-R」には、本革とアルカンターラをあしらったスポーツシートが装着される。なお、過去の「スープラ」とは異なり、全車後席を持たない2シーター仕様となる。
大きくふくらんだリアフェンダーと相まって、踏ん張り感が強調されたリアまわり。あえて横幅を狭めたダックテールスポイラーが、車体の幅広さを一段と印象づける。
大きくふくらんだリアフェンダーと相まって、踏ん張り感が強調されたリアまわり。あえて横幅を狭めたダックテールスポイラーが、車体の幅広さを一段と印象づける。

意外なほどコンフォート

ホイールベースに対して広く取られた前後トレッドや、50:50の前後重量配分は新型「スープラ」の特徴のひとつ。これにより「レーシングカート並みの圧倒的な旋回性能を実現した」とアピールされる。
ホイールベースに対して広く取られた前後トレッドや、50:50の前後重量配分は新型「スープラ」の特徴のひとつ。これにより「レーシングカート並みの圧倒的な旋回性能を実現した」とアピールされる。
高速走行時の見晴らし性と姿勢変化のつかみやすさに配慮し、水平基調のインストゥルメントパネルが与えられたインテリア。写真は「スープラRZ」のもの。
高速走行時の見晴らし性と姿勢変化のつかみやすさに配慮し、水平基調のインストゥルメントパネルが与えられたインテリア。写真は「スープラRZ」のもの。
センターコンソールの中央に陣取るのは、走行モードのセレクター。パーキングブレーキは従来型のレバー式ではなく、電動式となっている。
センターコンソールの中央に陣取るのは、走行モードのセレクター。パーキングブレーキは従来型のレバー式ではなく、電動式となっている。
	長いノーズと小さなキャビンは、FRのスポーツカーであることを印象づける。ホイールベースは2470mmで「86」のものより100mmも短い。
長いノーズと小さなキャビンは、FRのスポーツカーであることを印象づける。ホイールベースは2470mmで「86」のものより100mmも短い。
初の公道試乗会でまず最初に乗ったのは、「SZ-R」(590万円)。最高出力258psの4気筒ターボを積む18インチの中位グレードである。撮影と合わせてひとコマ60分の速攻試乗だ。すぐに走りだして、ホテル敷地内のワインディングロードを下る。

「1.55」の話を聞いた直後だったので、期待は高まった。最近で言えば、アルピーヌA110。最初のひと転がしで軽さと敏捷性に「オッ!」と目を見張らせた、ああいう“新しさ”があるかと思ったが、そこまではなかった。トヨタ86の2倍の剛性値を持つというボディーもニュースだが、ファーストタッチの印象は意外にもコンフォート系である。

乗り心地がいい。SZ-R以上には減衰力可変のアダプティブダンパーが備わる。スポーツカーらしい硬さはもちろんあるが、ズデンとしたアンコ型ではない。むしろバネ下の軽さを感じさせるかろやかな乗り味だ。

アップダウンとカーブに恵まれた道を見つけて、ペースを上げると、シャシーの素性のよさがさらに光った。前後重量配分は、BMWのお家芸ともいえる50:50。車重(1450kg)は3リッターモデルより70kg軽い。これだけのロングノーズプロポーションなのに、運転してはたしかにノーズが軽い。お尻の重さもない。そのため、まなじりを吊り上げるような走りをしなくてもファン・トゥ・ドライブなクルマである。

自分がつくったクルマを買うのは、自動車設計者冥利に尽きるといわれる。試乗後、スープラのシャシーチューニングを担当したYさんに話を聞いた。トヨタのテストドライバーのトップガンが購入を決めたのも、このSZ-Rだという。最もバランスがいいそうだ。

ホイールベースに対して広く取られた前後トレッドや、50:50の前後重量配分は新型「スープラ」の特徴のひとつ。これにより「レーシングカート並みの圧倒的な旋回性能を実現した」とアピールされる。
ホイールベースに対して広く取られた前後トレッドや、50:50の前後重量配分は新型「スープラ」の特徴のひとつ。これにより「レーシングカート並みの圧倒的な旋回性能を実現した」とアピールされる。
高速走行時の見晴らし性と姿勢変化のつかみやすさに配慮し、水平基調のインストゥルメントパネルが与えられたインテリア。写真は「スープラRZ」のもの。
高速走行時の見晴らし性と姿勢変化のつかみやすさに配慮し、水平基調のインストゥルメントパネルが与えられたインテリア。写真は「スープラRZ」のもの。
センターコンソールの中央に陣取るのは、走行モードのセレクター。パーキングブレーキは従来型のレバー式ではなく、電動式となっている。
センターコンソールの中央に陣取るのは、走行モードのセレクター。パーキングブレーキは従来型のレバー式ではなく、電動式となっている。
	長いノーズと小さなキャビンは、FRのスポーツカーであることを印象づける。ホイールベースは2470mmで「86」のものより100mmも短い。
長いノーズと小さなキャビンは、FRのスポーツカーであることを印象づける。ホイールベースは2470mmで「86」のものより100mmも短い。

キャラクターにブレはなし

「RZ」(写真)と「SZ-R」の2グレードには、走行モードや路面状況に応じて足まわりの減衰力を最適に制御する「アダプティブバリアブルサスペンションシステム」が搭載される。
「RZ」(写真)と「SZ-R」の2グレードには、走行モードや路面状況に応じて足まわりの減衰力を最適に制御する「アダプティブバリアブルサスペンションシステム」が搭載される。
「RZ」は、3グレードのなかで唯一の直6エンジン搭載車となっている。スペックそのものは、「BMW Z4 M40i」のものと変わらない。
「RZ」は、3グレードのなかで唯一の直6エンジン搭載車となっている。スペックそのものは、「BMW Z4 M40i」のものと変わらない。
グレードごとの識別点は、ホイールのサイズとデザインだ。写真の「RZ」には、最も大きな19インチの鍛造アルミホイールが装着される。
グレードごとの識別点は、ホイールのサイズとデザインだ。写真の「RZ」には、最も大きな19インチの鍛造アルミホイールが装着される。
この角度からは、空力性能を向上させるべく中央をくぼませた“ダブルバブル”のルーフ形状がよくわかる。
この角度からは、空力性能を向上させるべく中央をくぼませた“ダブルバブル”のルーフ形状がよくわかる。
次に乗ったのは「RZ」(690万円)。340psと500Nmを誇る3リッター6気筒ターボ搭載のイメージリーダーである。

0-100km/hは4.3秒。どんな欧州製スーパースポーツと比べても見劣りしない。力があるだけに、動き出した瞬間から“大物感”を漂わせるが、しかし基本的なキャラクターはSZ-Rと大差なく思えた。とくにノーズが重い印象があるわけではない。乗り心地もパワーの犠牲になっていない。

6気筒も4気筒も、いまのBMWに広く使われているエンジンだが、ZF製8段ATを含めて、パワートレインを制御するコンピューターのソフトはトヨタオリジナルである。

BMWのドライブモードにはノーマル、スポーツのほかにコンフォートやECO PROがあるが、スープラはノーマルとスポーツのみ。切り替えも、SPORTボタンを押してオン、もう一度押すとオフ(ノーマル)、と、いたってシンプルだ。ともいえるし、余計なお金をかけなかったともいえる。左ウインカーのレイアウトを変えなかったのも、コストアップを避けたかったからだという。

最後に乗った「SZ」(490万円)は2リッター4気筒ターボのローチューンモデルである。といっても197psある。車重(1410kg)はSZ-Rより40kg、RZより110kg軽い。17インチのライトウェイト・スープラか!? と思わせたが、RZから乗り換えると、さすがにパワーは少々物足りなかった。

「RZ」(写真)と「SZ-R」の2グレードには、走行モードや路面状況に応じて足まわりの減衰力を最適に制御する「アダプティブバリアブルサスペンションシステム」が搭載される。
「RZ」(写真)と「SZ-R」の2グレードには、走行モードや路面状況に応じて足まわりの減衰力を最適に制御する「アダプティブバリアブルサスペンションシステム」が搭載される。
「RZ」は、3グレードのなかで唯一の直6エンジン搭載車となっている。スペックそのものは、「BMW Z4 M40i」のものと変わらない。
「RZ」は、3グレードのなかで唯一の直6エンジン搭載車となっている。スペックそのものは、「BMW Z4 M40i」のものと変わらない。
グレードごとの識別点は、ホイールのサイズとデザインだ。写真の「RZ」には、最も大きな19インチの鍛造アルミホイールが装着される。
グレードごとの識別点は、ホイールのサイズとデザインだ。写真の「RZ」には、最も大きな19インチの鍛造アルミホイールが装着される。
この角度からは、空力性能を向上させるべく中央をくぼませた“ダブルバブル”のルーフ形状がよくわかる。
この角度からは、空力性能を向上させるべく中央をくぼませた“ダブルバブル”のルーフ形状がよくわかる。

じっくり乗ってみたくなる

カーボン製のエアロパーツや専用デザインの鍛造ホイールなど、カスタム用の純正オプション「GRパーツ」も用意される。写真はそれらをフル装備した「スープラSZ-R」の展示車両。
カーボン製のエアロパーツや専用デザインの鍛造ホイールなど、カスタム用の純正オプション「GRパーツ」も用意される。写真はそれらをフル装備した「スープラSZ-R」の展示車両。
中央にエンジン回転計を配した、TFT液晶式メーター。シフトタイミングのインジケーターも備わる。
中央にエンジン回転計を配した、TFT液晶式メーター。シフトタイミングのインジケーターも備わる。
荷室の容量は290リッター。奥行きは785mmで、幅は960~1121mm、深さは最大387mmとなっている。写真はトノカバーを外した状態。
荷室の容量は290リッター。奥行きは785mmで、幅は960~1121mm、深さは最大387mmとなっている。写真はトノカバーを外した状態。
VSC(車両安定性制御システム)と連携して後輪左右間のロック率を連続的に制御し、旋回性能と安定性を高める「アクティブディファレンシャル」もセリングポイントのひとつ。「RZ」および「SZ-R」グレードに備わる。
VSC(車両安定性制御システム)と連携して後輪左右間のロック率を連続的に制御し、旋回性能と安定性を高める「アクティブディファレンシャル」もセリングポイントのひとつ。「RZ」および「SZ-R」グレードに備わる。
一般道のみだった今回のショートインプレッションで、いちばん印象的だったのは、新型スープラにほとんどBMWの匂いがしなかったことである。この日、試乗会場への往復に乗っていったのは、たまたま「BMW X2 M35i」だった。FFプラットフォームだが、2リッターエンジンは基本、スープラSZ-Rと同じである。

そのBMWと比べても、スープラはBMW的というよりむしろトヨタ86的だった。86のさらに先にある“トヨタスポーツカー”に成り得ていたように思う。BMWっぽさを求めていた人にはお生憎さまかもしれないが。

でも、なにしろチョイ乗りだったので、断定的なことは言えない。だから、またじっくり乗ってみたい。またじっくり乗ってみたくなるクルマだったことは間違いない。

スポーツカーという、クルマ界のニッチ中のニッチは、それゆえに、いまや1メーカーの単独開発では成立しがたくなっている。先代80スープラが2002年に打ち切りになったとき、その理由は排ガス対策であると説明された。高性能ターボ車はもうムリ、といって市場を去ったスポーツカーが、はるかにクリーンな排気を求めるいま、ライバル関係を超えた協業で復活した。まずはともあれ、おめでとう、である。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)

カーボン製のエアロパーツや専用デザインの鍛造ホイールなど、カスタム用の純正オプション「GRパーツ」も用意される。写真はそれらをフル装備した「スープラSZ-R」の展示車両。
カーボン製のエアロパーツや専用デザインの鍛造ホイールなど、カスタム用の純正オプション「GRパーツ」も用意される。写真はそれらをフル装備した「スープラSZ-R」の展示車両。
中央にエンジン回転計を配した、TFT液晶式メーター。シフトタイミングのインジケーターも備わる。
中央にエンジン回転計を配した、TFT液晶式メーター。シフトタイミングのインジケーターも備わる。
荷室の容量は290リッター。奥行きは785mmで、幅は960~1121mm、深さは最大387mmとなっている。写真はトノカバーを外した状態。
荷室の容量は290リッター。奥行きは785mmで、幅は960~1121mm、深さは最大387mmとなっている。写真はトノカバーを外した状態。
VSC(車両安定性制御システム)と連携して後輪左右間のロック率を連続的に制御し、旋回性能と安定性を高める「アクティブディファレンシャル」もセリングポイントのひとつ。「RZ」および「SZ-R」グレードに備わる。
VSC(車両安定性制御システム)と連携して後輪左右間のロック率を連続的に制御し、旋回性能と安定性を高める「アクティブディファレンシャル」もセリングポイントのひとつ。「RZ」および「SZ-R」グレードに備わる。

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