【試乗記】日産ノートe-POWER NISMO S(FF)
- 日産ノートe-POWER NISMO S(FF)
うま味たっぷりスパイシー
「日産ノートe-POWER NISMO」のハイパフォーマンスバージョンとして登場した「NISMO S」。ベースモデルの109psに対し、136psに出力を向上させた電動パワーユニットと専用開発されたドライビングモードがもたらす走りを確かめるために、富士山麓のワインディングロードを目指した。
パワーとトルクを大幅に増量
- 「ノートe-POWER NISMO」の最高出力109psに対して、同136psにパワーアップした「ノートe-POWER NISMO S」。ガソリンエンジン搭載モデルと同様に、車名末尾の「S」がハイパワーバージョンを示している。
日産ノートe-Power NISMO Sで走りだしてすぐに、ビシッと引き締まった乗り心地に身が引き締まった。すっかり油断していた。日産ノートといえば、2018年のベストセラー。1年で13万6324台を売り、軽自動車を除く、いわゆる登録車の年間販売台数ナンバーワンに輝いたモデルだ。
2位の「トヨタ・アクア」には約1万台の差をつけており、国民車というのは大げさにしても、いまの日本人がクルマに求める要素の最大公約数的なモデルだと言っても間違いじゃないだろう。
ちなみに日産にとって登録車の年間販売台数1位は初めてで、「マーチ」でも「サニー」でも「パルサー」でも成し得なかった偉業をノートが達成したということになる。その日産ノートが、ここまでスパルタンな味付けになっているとは……。正直、毎日食べる白いご飯に激辛スパイスを振りかけたような、ちょっとした違和感を覚える。
それにしても日産ノートe-Power NISMO Sとは、たくさんの“役”がついたモデル名だ。ノートのe-Power搭載モデルで、NISMO仕様、しかもNISMO仕様の中でもよりスポーティーなSグレードと、声に出して読んでみると、「メン・タン・ピン・ドラ・ドラ」で満貫のようだ。その成り立ちは、以下のようになる。
まず日産ノートの売り上げ躍進の原動力となったのが、エンジンで発電して駆動は100%モーターで行う、e-Powerという仕組みだ。これは、システムとしてはシリーズ式のハイブリッドであるけれど、モーターだけで走る感覚はEVに近いというもの。34.0km/リッター(e-Power Sは37.2km/リッター)という優れたJC08モード燃費と、モーターによる新鮮な走行フィーリングが受けて日産ノートの販売を押し上げたのだ。
そしてボディーと足まわりを強化した日産ノートe-Power NISMOが生まれ、その上にモーターの出力を高め、シャシーにもさらなるチューニングを施した日産ノートe-Power NISMO Sが君臨する形になっている。標準の日産ノートe-Powerとノートe-Power NISMOの最高出力が109ps、最大トルクが254Nm。一方のノートe-Power NISMO Sが136psと320Nmだから、パワーとトルクは約25%の増量ということになる。
特に市街地ではトルクが厚くなったことの恩恵は明らかで、ノートの軽量コンパクトなボディーもあって、ストップ&ゴーの連続でもスーッと前に出るからストレスは感じない。
2位の「トヨタ・アクア」には約1万台の差をつけており、国民車というのは大げさにしても、いまの日本人がクルマに求める要素の最大公約数的なモデルだと言っても間違いじゃないだろう。
ちなみに日産にとって登録車の年間販売台数1位は初めてで、「マーチ」でも「サニー」でも「パルサー」でも成し得なかった偉業をノートが達成したということになる。その日産ノートが、ここまでスパルタンな味付けになっているとは……。正直、毎日食べる白いご飯に激辛スパイスを振りかけたような、ちょっとした違和感を覚える。
それにしても日産ノートe-Power NISMO Sとは、たくさんの“役”がついたモデル名だ。ノートのe-Power搭載モデルで、NISMO仕様、しかもNISMO仕様の中でもよりスポーティーなSグレードと、声に出して読んでみると、「メン・タン・ピン・ドラ・ドラ」で満貫のようだ。その成り立ちは、以下のようになる。
まず日産ノートの売り上げ躍進の原動力となったのが、エンジンで発電して駆動は100%モーターで行う、e-Powerという仕組みだ。これは、システムとしてはシリーズ式のハイブリッドであるけれど、モーターだけで走る感覚はEVに近いというもの。34.0km/リッター(e-Power Sは37.2km/リッター)という優れたJC08モード燃費と、モーターによる新鮮な走行フィーリングが受けて日産ノートの販売を押し上げたのだ。
そしてボディーと足まわりを強化した日産ノートe-Power NISMOが生まれ、その上にモーターの出力を高め、シャシーにもさらなるチューニングを施した日産ノートe-Power NISMO Sが君臨する形になっている。標準の日産ノートe-Powerとノートe-Power NISMOの最高出力が109ps、最大トルクが254Nm。一方のノートe-Power NISMO Sが136psと320Nmだから、パワーとトルクは約25%の増量ということになる。
特に市街地ではトルクが厚くなったことの恩恵は明らかで、ノートの軽量コンパクトなボディーもあって、ストップ&ゴーの連続でもスーッと前に出るからストレスは感じない。
内燃機関とは違うファン・トゥ・ドライブ
- ボディーサイドに「e-POWER」のエンブレムを装着。赤く塗られたサイドシルプロテクターは「ノート」の「NISMO」シリーズに共通するアイテムで、前後のバンパーデザインとの統一性を図ったデザインになっている。
スパルタンな乗り心地はひとまずおくとして、市街地を流しているとe-Powerが支持されてノートを日本一へ導いた理由がわかる。第一に、静かだ。エンジンは発電に徹しているから、アクセルペダルを踏み込んでも急に回転を上げることはない。充電が不足するとエンジンが始動するけれど、基本的には最も効率のいい回転域で一定の回転数を保つから、「エンジン積んでるんだっけ?」と、その存在感は次第に薄れていく。
それから、楽しい。回転を上げることでパワーを高める内燃機関と違って、電気が流れた瞬間に最大の力を発揮できるモーターは、アクセル操作に対するレスポンスが鋭い。エンジンとモーターは、手紙とEメールのように違う。もちろん、手紙のほうが味はあるというご意見もありましょうが、もしディーラーでエンジンとe-Powerのノートを乗り比べたら、多くの方の心はe-Powerに傾くはずだ。
e-Powerは運転の疲労低減に効果があることもあらためて感じた。アクセルペダルを戻せばブレーキペダルを踏まずともしっかり減速するから、ペダルを踏みかえずにドライブすることができる。いわゆるワンペダル走行だ。ノートe-Power NISMO Sには「NORMAL」「S」「ECO」の3つの走行モードがあり、すべてのモードで減速感を強める「B」レンジを選ぶことができる(ノートe-Power NISIMOでは「NORMAL」でしか「B」レンジを選べない)。
ワンペダル走行は疲れないだけでなく、次第にブレーキを使わずに滑らかかつ確実に減速できるようになるという、運転が上達する喜びもある。回生ブレーキによる発電量が大きいけれど減速がかなり急激になる「S」モードの「B」レンジを選び、スムーズかつ力強く走らせるコツをつかむと、内燃機関車とはまた違うファン・トゥ・ドライブを味わえる。
そして、いざとなればガソリンスタンドでガソリンを入れればいいわけだから、遠くを目指してもピュアEVのように充電スポットや航続距離を気にする必要はない。NISMOうんぬんの前に、ノートにおいては販売台数の約7割を占めるという、e-Powerの魅力を再確認した。
それから、楽しい。回転を上げることでパワーを高める内燃機関と違って、電気が流れた瞬間に最大の力を発揮できるモーターは、アクセル操作に対するレスポンスが鋭い。エンジンとモーターは、手紙とEメールのように違う。もちろん、手紙のほうが味はあるというご意見もありましょうが、もしディーラーでエンジンとe-Powerのノートを乗り比べたら、多くの方の心はe-Powerに傾くはずだ。
e-Powerは運転の疲労低減に効果があることもあらためて感じた。アクセルペダルを戻せばブレーキペダルを踏まずともしっかり減速するから、ペダルを踏みかえずにドライブすることができる。いわゆるワンペダル走行だ。ノートe-Power NISMO Sには「NORMAL」「S」「ECO」の3つの走行モードがあり、すべてのモードで減速感を強める「B」レンジを選ぶことができる(ノートe-Power NISIMOでは「NORMAL」でしか「B」レンジを選べない)。
ワンペダル走行は疲れないだけでなく、次第にブレーキを使わずに滑らかかつ確実に減速できるようになるという、運転が上達する喜びもある。回生ブレーキによる発電量が大きいけれど減速がかなり急激になる「S」モードの「B」レンジを選び、スムーズかつ力強く走らせるコツをつかむと、内燃機関車とはまた違うファン・トゥ・ドライブを味わえる。
そして、いざとなればガソリンスタンドでガソリンを入れればいいわけだから、遠くを目指してもピュアEVのように充電スポットや航続距離を気にする必要はない。NISMOうんぬんの前に、ノートにおいては販売台数の約7割を占めるという、e-Powerの魅力を再確認した。
未体験のスポーツドライビング
- 「e-POWER NISMO S」では、KYB製のダンパーを採用。サスペンションは、ガソリンエンジンを搭載する「NISMO S」と異なった、それぞれの装着タイヤに合わせたチューニングになっているという。
といった具合に、e-Powerに感心するほどに、このハードコアなNISMO S仕様はどうなの、というギモンが湧くのだった。シームレスに加速して、静かに走るんだから、もっとしなやかな足を与えて“小さな高級車”を目指したほうがおもしろいのではないか……。
という思いは、ちょっとしたワインディングロードに入った途端に霧散した。これは楽しい!
コーナーに進入すると、強化されたスタビライザーや専用サスペンションのおかげで安定した姿勢をキープ、そしてコーナー出口でアクセルペダルを踏むと、「パチン!」と間髪入れずに前輪にトルクが伝わり、まさに電光石火のレスポンスを味わえる。出口からの加速は、「ズリッ!」と一瞬ホイールスピンをするほど強烈で、しかもトランスミッション不要のモーターならではの段差のないもの。前述したように静かだからこれまでに経験したことのないスポーツドライビングとなる。
ワインディングロードの連続ではNISMOが入念にボディーを強化したことの効果が確認できる。ハードなコーナリングでもボディーがカチッとしていてねじれない、歪(ゆが)まない。だから、サスペンションが正確に機能して、4本のタイヤが正しく地面と接している様子が伝わってくる。
コーナー進入時、「S」モードと「B」レンジの組み合わせはエンジンブレーキならぬモーターブレーキの減速力がかなりのもので、これとフットブレーキを連携させながら最大かつ滑らかなブレーキングにするのはちょっとした知的なゲームだ。そしてコーナーの脱出では再び電光石火のレスポンスと段差のない新幹線のような加速感——。
エンジン車のスポーツドライビングがスーパーファミコンだとしたら、こっちはプレステ4ぐらいか。それくらい、レスポンスが素早いと感じる。白いご飯に激辛スパイス、なかなかいいじゃないか。
という思いは、ちょっとしたワインディングロードに入った途端に霧散した。これは楽しい!
コーナーに進入すると、強化されたスタビライザーや専用サスペンションのおかげで安定した姿勢をキープ、そしてコーナー出口でアクセルペダルを踏むと、「パチン!」と間髪入れずに前輪にトルクが伝わり、まさに電光石火のレスポンスを味わえる。出口からの加速は、「ズリッ!」と一瞬ホイールスピンをするほど強烈で、しかもトランスミッション不要のモーターならではの段差のないもの。前述したように静かだからこれまでに経験したことのないスポーツドライビングとなる。
ワインディングロードの連続ではNISMOが入念にボディーを強化したことの効果が確認できる。ハードなコーナリングでもボディーがカチッとしていてねじれない、歪(ゆが)まない。だから、サスペンションが正確に機能して、4本のタイヤが正しく地面と接している様子が伝わってくる。
コーナー進入時、「S」モードと「B」レンジの組み合わせはエンジンブレーキならぬモーターブレーキの減速力がかなりのもので、これとフットブレーキを連携させながら最大かつ滑らかなブレーキングにするのはちょっとした知的なゲームだ。そしてコーナーの脱出では再び電光石火のレスポンスと段差のない新幹線のような加速感——。
エンジン車のスポーツドライビングがスーパーファミコンだとしたら、こっちはプレステ4ぐらいか。それくらい、レスポンスが素早いと感じる。白いご飯に激辛スパイス、なかなかいいじゃないか。
美味なるスパイス
このクルマは新しい時代のホットハッチだ、とほくほくしながら帰路につく。落ち着いて高速道路を走りながら感じるのは、やっぱり丁寧に仕立てられたクルマは、運転のしがいがあるということだ。
ノートe-Power NISMO Sは、出力アップのためにコンピューターに専用チューニングが施されているほか、フロントとリアのクロスバー設置などのボディー補強、専用サスペンションに電動パワステの専用チューニングなど、手がかかっている。ただパワーを上げて足を固めただけでなく、クルマ全体が同じ方向を目指しているから、スパルタンな乗り心地も納得できる。
なんというか、クルマとドライビングを知り尽くした匠(たくみ)の技を、あちこちに感じることができる。このシートも掛け心地とホールド性がいいな、と思ったら運転席・助手席セットで27万円なりのオプションのレカロ製だった。ただの激辛スパイスではなく、一流の職人が腕によりをかけたスパイスだから美味なのだ。
面白いのは、試乗車に付いていたオプションのインテリジェントクルーズコントロールだ。車速をセットして先行する車両の追従を始めると、エンジン車より明らかにキメ細やかに、スムーズについていく。運転する楽しさといい、自動運転のアドバンテージといい、モーターが有利なんだな、とエンジン車育ちとしてはしみじみした。
同時に、モーターで走る時代になっても、人の手によるチューニングは大事だということも痛感した。モーターとバッテリーで走るEVの時代になるとだれでもクルマをつくれるようになるなんて言説もあるけれど、とんでもない。
NISMOにはぜひAMGやBMW M社のように、楽しいクルマをばんばんつくってもらいたい。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
ノートe-Power NISMO Sは、出力アップのためにコンピューターに専用チューニングが施されているほか、フロントとリアのクロスバー設置などのボディー補強、専用サスペンションに電動パワステの専用チューニングなど、手がかかっている。ただパワーを上げて足を固めただけでなく、クルマ全体が同じ方向を目指しているから、スパルタンな乗り心地も納得できる。
なんというか、クルマとドライビングを知り尽くした匠(たくみ)の技を、あちこちに感じることができる。このシートも掛け心地とホールド性がいいな、と思ったら運転席・助手席セットで27万円なりのオプションのレカロ製だった。ただの激辛スパイスではなく、一流の職人が腕によりをかけたスパイスだから美味なのだ。
面白いのは、試乗車に付いていたオプションのインテリジェントクルーズコントロールだ。車速をセットして先行する車両の追従を始めると、エンジン車より明らかにキメ細やかに、スムーズについていく。運転する楽しさといい、自動運転のアドバンテージといい、モーターが有利なんだな、とエンジン車育ちとしてはしみじみした。
同時に、モーターで走る時代になっても、人の手によるチューニングは大事だということも痛感した。モーターとバッテリーで走るEVの時代になるとだれでもクルマをつくれるようになるなんて言説もあるけれど、とんでもない。
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