【試乗記】日産GT-R 50th Anniversary(4WD/6AT)
- 日産GT-R 50th Anniversary(4WD/6AT)
ありがたき存在
日本を代表するハイパフォーマンスカー「日産GT-R」が2020年モデルに進化。2007年のデビュー以来、間断なく続けられてきた改良は、このクルマにどのような価値をもたらしたのか? “GT-R”の誕生50周年を祝う記念モデルの試乗を通して確かめた。
今や“歴史”を語れるクルマに
2007年にデビューした日産GT-Rに初めて乗ったのは、大磯プリンスホテルを起点に行われた試乗会だった。西湘バイパスで、路面のつなぎ目を乗り越えるたびにビシビシ襲ってくる突き上げに耐えていたことをはっきりと覚えている。一方箱根ターンパイクでは、正確なハンドリングや無敵のブレーキ性能、巌(いわお)のような安定感に舌を巻いた。
この時、とてつもないクルマであることは理解できたけれど、好きにはなれなかった。それは、飛ばさないと楽しくないと感じたからだ。タイムを競うわけではないので、速いクルマよりも青山通りを30km/hで流すだけでも楽しいクルマに乗りたい。この思いは12年間、ずっと変わらなかったけれど、2020年モデルに乗ったら印象は一変した。GT-Rを好きになるなんて、自分が一番びっくりしている。
試乗したのは日産GT-R 50th Anniversary。そう、1969年に「スカイライン2000GT-R」(PGC10型)が発表されてから、今年で50周年なのだ。試乗車のボディーカラーは「ワンガンブルー」という新色で、2002年まで生産されたR34型の「スカイラインGT-R」に似た色があったことを思い出す。GT-Rというモデルは確実に歴史を重ねており、それをアセットとして活用できるようになったのだ。
歴史といえば、2007年に登場したR35型のGT-Rにも12年の歴史がある。2014年には「GT-R NISMO」が加わり、また複数回にわたり、内外装のデザインをはじめ、エンジン、足まわりに至るまで大がかりな変更を受けた。今回試乗した50th Anniversaryは最新の2020年モデルをベースに仕立てられており、2020年3月末までの期間限定モデルとなる。「ミディアムグレー」の内装は専用のもので、メーターパネル、サイドシルのキックプレート、センターコンソールなどに、「50th」あるいは「50th Anniversary」の文字が輝く。
この時、とてつもないクルマであることは理解できたけれど、好きにはなれなかった。それは、飛ばさないと楽しくないと感じたからだ。タイムを競うわけではないので、速いクルマよりも青山通りを30km/hで流すだけでも楽しいクルマに乗りたい。この思いは12年間、ずっと変わらなかったけれど、2020年モデルに乗ったら印象は一変した。GT-Rを好きになるなんて、自分が一番びっくりしている。
試乗したのは日産GT-R 50th Anniversary。そう、1969年に「スカイライン2000GT-R」(PGC10型)が発表されてから、今年で50周年なのだ。試乗車のボディーカラーは「ワンガンブルー」という新色で、2002年まで生産されたR34型の「スカイラインGT-R」に似た色があったことを思い出す。GT-Rというモデルは確実に歴史を重ねており、それをアセットとして活用できるようになったのだ。
歴史といえば、2007年に登場したR35型のGT-Rにも12年の歴史がある。2014年には「GT-R NISMO」が加わり、また複数回にわたり、内外装のデザインをはじめ、エンジン、足まわりに至るまで大がかりな変更を受けた。今回試乗した50th Anniversaryは最新の2020年モデルをベースに仕立てられており、2020年3月末までの期間限定モデルとなる。「ミディアムグレー」の内装は専用のもので、メーターパネル、サイドシルのキックプレート、センターコンソールなどに、「50th」あるいは「50th Anniversary」の文字が輝く。
間断のない改良がもたらした洗練
走りだして真っ先に感じるのは、乗り心地の変化だ。路面の凸凹を乗り越える時に4本の足がよく動いている印象で、足が伸びたり縮んだりすることで路面からの衝撃を上手に鎮めている。
2014年モデルで乗り心地がかなり改善され、17年モデルでは「この動力性能を考えれば納得できる乗り心地」にまで進化したけれど、20年モデルはさらにもう一歩洗練されたという印象を受けた。特に足まわりのモードを「Comfort」にセットすれば、タウンスピードでも突き上げは気にならない。
それでいながら高速巡航時にはフラットな姿勢を保ち、高速コーナーではしっかりと踏ん張る。乗り心地がよくなった一方で、巌のような安定感はみじんも損なわれていない。だから繰り返しになるけれど、足まわりがソフトになったというのではなく、足がよく動くようになったと感じる。
ちなみに、スペック表の車重の欄の値が変わるほどではないけれど、乗り心地や操縦性に大きな影響を与えるバネ下重量の低減には、継続的に取り組んでいるという。こうした何g、何十gを削る地道な取り組みの積み重ねも、乗り心地がリファインされた理由のひとつだろう。
乗り心地が改善された一方で、室内が騒がしいという点は変わっていない。エンジン回転の上下が連続するワインディングロードでは気にならないものの、エンジン回転が一定の高速巡航で「ゴーッ」というロードノイズが連続的に入ってくるのは、もうちょっとどうにかならないものかと思う。
2014年モデルで乗り心地がかなり改善され、17年モデルでは「この動力性能を考えれば納得できる乗り心地」にまで進化したけれど、20年モデルはさらにもう一歩洗練されたという印象を受けた。特に足まわりのモードを「Comfort」にセットすれば、タウンスピードでも突き上げは気にならない。
それでいながら高速巡航時にはフラットな姿勢を保ち、高速コーナーではしっかりと踏ん張る。乗り心地がよくなった一方で、巌のような安定感はみじんも損なわれていない。だから繰り返しになるけれど、足まわりがソフトになったというのではなく、足がよく動くようになったと感じる。
ちなみに、スペック表の車重の欄の値が変わるほどではないけれど、乗り心地や操縦性に大きな影響を与えるバネ下重量の低減には、継続的に取り組んでいるという。こうした何g、何十gを削る地道な取り組みの積み重ねも、乗り心地がリファインされた理由のひとつだろう。
乗り心地が改善された一方で、室内が騒がしいという点は変わっていない。エンジン回転の上下が連続するワインディングロードでは気にならないものの、エンジン回転が一定の高速巡航で「ゴーッ」というロードノイズが連続的に入ってくるのは、もうちょっとどうにかならないものかと思う。
エンジンに宿る“数字に表れない魅力”
3.8リッターV型6気筒ツインターボエンジンの最高出力570PS、最大トルク637N・mというスペックに変更はない。でも、運転した感じは明らかにいままでと異なる。違いを感じるのはワインディングロードや高速道路の合流でガンと踏んだ時ではなく、市街地でパーシャルスロットルを多用するような場面で、アクセル操作に対する反応がよくなっている。ダッシュしようという加速ではなく、ちょっと前へ出ようというぐらいのアクセル操作に対して、スムーズに反応するようになったのだ。
この変化には、レース用エンジンによく用いられるターボチャージャーの改良が貢献している。吸気側にシール加工を施すことで空気の漏れを最小限に抑える手法で、結果としてレスポンスが向上するというものだ。ただ速いというのではなく、ドライバーの意図が素早く、鮮やかに反映されるから丁寧に扱うほど味わい深くなるエンジンになっている。
日産GT-Rの魅力のひとつに、怒濤(どとう)のパワーを与えた時に4駆システムがそれをどっしりと受け止め、それほど高度なスキルを持たずとも血液が偏るほどの加速感が味わえるという点がある。それは間違いなくすさまじい体験であるけれど、サーキットでもなければそういった操作を頻繁に楽しむことは難しいし、そのうちに飽きもくる。でも今度のエンジンは、首都高速を軽く流すぐらいでも楽しめる。
GT-Rのエンジンは、2007年のデビュー時から「匠(たくみ)が手で組む」ことを売りにしていた。けれども、同じように「One man,one engine.」を標榜(ひょうぼう)するAMGのエンジンに感じる奥深さはイマイチ感じられなかった。ところが2020年モデルは「なるほど、手組みのありがたみがある」と感じられる繊細なフィールを手に入れている。
この変化には、レース用エンジンによく用いられるターボチャージャーの改良が貢献している。吸気側にシール加工を施すことで空気の漏れを最小限に抑える手法で、結果としてレスポンスが向上するというものだ。ただ速いというのではなく、ドライバーの意図が素早く、鮮やかに反映されるから丁寧に扱うほど味わい深くなるエンジンになっている。
日産GT-Rの魅力のひとつに、怒濤(どとう)のパワーを与えた時に4駆システムがそれをどっしりと受け止め、それほど高度なスキルを持たずとも血液が偏るほどの加速感が味わえるという点がある。それは間違いなくすさまじい体験であるけれど、サーキットでもなければそういった操作を頻繁に楽しむことは難しいし、そのうちに飽きもくる。でも今度のエンジンは、首都高速を軽く流すぐらいでも楽しめる。
GT-Rのエンジンは、2007年のデビュー時から「匠(たくみ)が手で組む」ことを売りにしていた。けれども、同じように「One man,one engine.」を標榜(ひょうぼう)するAMGのエンジンに感じる奥深さはイマイチ感じられなかった。ところが2020年モデルは「なるほど、手組みのありがたみがある」と感じられる繊細なフィールを手に入れている。
歳月を重ねてこそ得られるものがある
というわけで、GT-Rは速いスポーツカーから情感のあるスポーツカーへと進化した。ラップタイム命の機械ではないから、アマチュアでも楽しめる。
それもこれも、12年の長きにわたって丁寧に磨き上げてきた成果だ。もうひとつ、12年間も磨き続けられるだけ原石がデカかったということでもある。だから日産GT-Rの開発を担当し、2007年に世に出した元日産の水野和敏さんは本当に偉かった。
クルマは今後、「MaaS(Mobility as a Service)」と「POV(Personally Owned Vehicle)」に分かれて進化するという意見が大勢だ。つまり物流や運送、公共交通などの業務用車両と、個人が所有するクルマに二分される。個人所有のPOVのなかでも、便利なだけでどうでもいいクルマはカーシェアリングやレンタカーに取って代わられるから、おそらくなくなるだろう。残るのは、熱心なファンに愛されるクルマで、その代表がスポーツカーだ。
そして、箱スカGT-R(PGC10)やケンメリGT-R(KPGC110)の相場が何千万円もすることからもわかるように、こうしたクルマにファンが求めているのは、性能だけでなく、物語や味だ。
というわけで、日産GT-Rもずーっとつくり続けて、物語や味を極めてほしい。あまり形をイジらずに、自動車専門誌に「最新のGT-Rは最善のGT-R」と書かれるようになるといい。日本車で「ポルシェ911」のような存在になる可能性があるのは、いまのところ日産GT-Rだけなのだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
それもこれも、12年の長きにわたって丁寧に磨き上げてきた成果だ。もうひとつ、12年間も磨き続けられるだけ原石がデカかったということでもある。だから日産GT-Rの開発を担当し、2007年に世に出した元日産の水野和敏さんは本当に偉かった。
クルマは今後、「MaaS(Mobility as a Service)」と「POV(Personally Owned Vehicle)」に分かれて進化するという意見が大勢だ。つまり物流や運送、公共交通などの業務用車両と、個人が所有するクルマに二分される。個人所有のPOVのなかでも、便利なだけでどうでもいいクルマはカーシェアリングやレンタカーに取って代わられるから、おそらくなくなるだろう。残るのは、熱心なファンに愛されるクルマで、その代表がスポーツカーだ。
そして、箱スカGT-R(PGC10)やケンメリGT-R(KPGC110)の相場が何千万円もすることからもわかるように、こうしたクルマにファンが求めているのは、性能だけでなく、物語や味だ。
というわけで、日産GT-Rもずーっとつくり続けて、物語や味を極めてほしい。あまり形をイジらずに、自動車専門誌に「最新のGT-Rは最善のGT-R」と書かれるようになるといい。日本車で「ポルシェ911」のような存在になる可能性があるのは、いまのところ日産GT-Rだけなのだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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