【試乗記】マツダ3ファストバックXD Lパッケージ(4WD/6AT)
- マツダ3ファストバックXD Lパッケージ(4WD/6AT)
一石を投じる存在
「アクセラ」から“グローバルネーム”へと車名が改められ、生まれ変わった「マツダ3」。新世代の世界戦略車と位置付けられるこのモデルは、果たしてCセグメント・ハッチバックのベンチマークとされる「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を超えたのか。
ルックス優先の代償も
スタイリッシュなハッチバック車という点では、誰もが一目を置くであろう存在――それが、これまで親しまれたアクセラの名を改め、自らのブランドを車名へと入れ込んで新たなスタートを切ったマツダ3の「ファストバック」モデルだ。
全長と全幅は、従来の「アクセラスポーツ」と同様。しかし、ホイールベースは25mm長く、全高は30~40mmほど低くなった。そんなディメンションの変化も手伝ってか、このモデルの躍動感は、もはや従来型……というよりも、あらゆるハッチバックのライバルとは比較にならないほどに高いもの。ファストバックなるサブネームを与えたくなったのも「さもありなん」という印象だ。
一方で、そんな“カッコ良さ”を演じる重要な要素でもあろうワイドなCピラーや小さなサイドウィンドウなどが、その見た目から連想させる通りに視界を狭める結果となっていることは否定のしようがない。実際、ドライバー席に腰を下ろし大きく首を振ってみると、まずは左後方、次に側方、そしてルームミラー越しの後方視界に関しても、決して「広々」とは言い難いものだ。
ドアミラーの角度調整次第で左後方の視界はかなりカバーできるし、グレードを問わずリアバンパー内蔵のレーダーを用いたブラインドスポットモニターが標準装備されるので、個人的にはそれがさほど大きな問題になるとは思えなかったのは事実。しかし、あくまでも直接の目視を望みたいという人や、車線変更時の“首振り確認”がマストとされるアメリカの市場などでは、やはりこの点が問題視される可能性は残りそうだ。
加えれば、開口部下端の丸みが強く、ひと目で「ライバルよりも積めなさそう」と想像できるラゲッジスペースや、ベルトラインの高さと窓面積の小ささゆえに閉塞(へいそく)感が強い後席居住空間なども“見た目優先の代償”と実感せざるを得ない部分である。
ファストバックというネーミングは、イコール「クーペ風の要素が詰まっている」と、そのように解釈すべきなのかもしれない。
全長と全幅は、従来の「アクセラスポーツ」と同様。しかし、ホイールベースは25mm長く、全高は30~40mmほど低くなった。そんなディメンションの変化も手伝ってか、このモデルの躍動感は、もはや従来型……というよりも、あらゆるハッチバックのライバルとは比較にならないほどに高いもの。ファストバックなるサブネームを与えたくなったのも「さもありなん」という印象だ。
一方で、そんな“カッコ良さ”を演じる重要な要素でもあろうワイドなCピラーや小さなサイドウィンドウなどが、その見た目から連想させる通りに視界を狭める結果となっていることは否定のしようがない。実際、ドライバー席に腰を下ろし大きく首を振ってみると、まずは左後方、次に側方、そしてルームミラー越しの後方視界に関しても、決して「広々」とは言い難いものだ。
ドアミラーの角度調整次第で左後方の視界はかなりカバーできるし、グレードを問わずリアバンパー内蔵のレーダーを用いたブラインドスポットモニターが標準装備されるので、個人的にはそれがさほど大きな問題になるとは思えなかったのは事実。しかし、あくまでも直接の目視を望みたいという人や、車線変更時の“首振り確認”がマストとされるアメリカの市場などでは、やはりこの点が問題視される可能性は残りそうだ。
加えれば、開口部下端の丸みが強く、ひと目で「ライバルよりも積めなさそう」と想像できるラゲッジスペースや、ベルトラインの高さと窓面積の小ささゆえに閉塞(へいそく)感が強い後席居住空間なども“見た目優先の代償”と実感せざるを得ない部分である。
ファストバックというネーミングは、イコール「クーペ風の要素が詰まっている」と、そのように解釈すべきなのかもしれない。
優れたインターフェイス
そうした半面、ライバルを圧倒するエモーショナルなエクステリアデザインとともに高い評価を与えたくなるのは、奇をてらわないながらもスタイリッシュで、機能性にも優れたインテリアのデザインだ。
もちろん、こうしたカテゴリーのモデルであるだけに、各部に高価でぜいたくな素材がおごられているというわけではない。けれどそうした制約の中で、全般になかなか高い質感の表現に成功しているのがマツダ3のインテリアである。
シフトレバー手前には、かつてのアウディ方式に類似したセンターコンソール上の大きなダイヤルと、その周囲に配されたプッシュ式スイッチからなるマルチメディアコントローラーを中心に、左側にはオーディオ用ジョイスティックが、右側には電動式パーキングブレーキスイッチが並ぶ。
実際にこのモデルの操作系を扱ってみると、多少慣れれば左手ひとつでブラインドタッチが楽に行えそうだと感じる。昨今、さまざまなスイッチ機能を「何でもかんでもディスプレイスイッチ内に入れ込んでしまう」ことが流行のようになっているが、“スマホライク”がクルマの操作系として優れているわけではないことは明白だ。
3眼式メーターの中央部のみをTFT液晶に置き換えて、そこに常駐表示される速度とともに、多彩な情報をさまざまなグラフィックで映し出す“部分バーチャルメーター”も、理にかなったやり方と思えるもの。設定温度を調整するダイヤルとプッシュ式スイッチの組み合わせによって構成された空調も含め、同車の操作系ではあらためて「理想の操作性」が追求されたことを実感できる。
もちろん、こうしたカテゴリーのモデルであるだけに、各部に高価でぜいたくな素材がおごられているというわけではない。けれどそうした制約の中で、全般になかなか高い質感の表現に成功しているのがマツダ3のインテリアである。
シフトレバー手前には、かつてのアウディ方式に類似したセンターコンソール上の大きなダイヤルと、その周囲に配されたプッシュ式スイッチからなるマルチメディアコントローラーを中心に、左側にはオーディオ用ジョイスティックが、右側には電動式パーキングブレーキスイッチが並ぶ。
実際にこのモデルの操作系を扱ってみると、多少慣れれば左手ひとつでブラインドタッチが楽に行えそうだと感じる。昨今、さまざまなスイッチ機能を「何でもかんでもディスプレイスイッチ内に入れ込んでしまう」ことが流行のようになっているが、“スマホライク”がクルマの操作系として優れているわけではないことは明白だ。
3眼式メーターの中央部のみをTFT液晶に置き換えて、そこに常駐表示される速度とともに、多彩な情報をさまざまなグラフィックで映し出す“部分バーチャルメーター”も、理にかなったやり方と思えるもの。設定温度を調整するダイヤルとプッシュ式スイッチの組み合わせによって構成された空調も含め、同車の操作系ではあらためて「理想の操作性」が追求されたことを実感できる。
2.2リッターディーゼルが欲しくなる
今回用意されたテスト車は、今やマツダの定番ともいえる鮮やかな“ソウルレッド”に彩られたディーゼルモデル。売れ筋と思われるFF車ではなく4WD車を選んでみた。
ステアリングコラム左側のダッシュボード上に設けられたプッシュボタンを押してエンジンに火を入れると、まず実感させられるのは静粛性の高さ。振動も小さいので、何も知らされていなければこの段階で「ディーゼルエンジン車であること」に気付くのは、恐らく半数ほどの人にすぎないのではないだろうか。
発進時に気になったのは、パーキングブレーキ解除時の引っかかり感。昨今の他のモデルと同様に、Dレンジを選択してアクセルを踏み込めば、その段階で電動式パーキングブレーキは解除される設定。しかし、その動作にわずかなタイムラグがあり、出だし一瞬の加速が阻害されてしまう。特に、「オートホールド」のモードを選択して停車時は必ずパーキングブレーキを作動させる習慣のあるドライバーにとっては、これは発進の都度に見舞われる違和感。恐らくこれは、市場からも不満の声が上がると思う。
日本でのディーゼルモデルはすべてが6段ステップATとの組み合わせとなるので、「Dレンジ任せ」で走れば適切なギアがセレクトされていくのだが、マニュアルモードで走行すると、実は1500rpm以下ではトルクが急速に痩せてしまうことに気づく。そんな心臓の性格ゆえ、ヨーロッパ向けに設定されているMT仕様の存在は、さほどうらやましがらずに(?)すみそう。たとえ双方の選択が可能でも、このモデルの場合は「ATの方がオススメ」という結果となりそうだからだ。
かつてテストドライブの経験があるFF車と比べると、今回の4WD車の車両重量は60kgの上乗せとなる。それでももちろん、日常シーンでの動力性能は必要にして十分なのだが、「一度知ってしまったゆえに、なくなったのがなんとも惜しい」と思わせるのが、従来型には存在していた2.2リッター直4ユニット搭載のディーゼルモデルだ。175PSという最高出力はもとより、420N・mという最大トルクがもたらすパンチ力は圧巻だった。「このモデルには、あの心臓こそがベストマッチなはずなのに……」と、どうしてもそんな“ないものねだり”をしたくなってしまう。
ステアリングコラム左側のダッシュボード上に設けられたプッシュボタンを押してエンジンに火を入れると、まず実感させられるのは静粛性の高さ。振動も小さいので、何も知らされていなければこの段階で「ディーゼルエンジン車であること」に気付くのは、恐らく半数ほどの人にすぎないのではないだろうか。
発進時に気になったのは、パーキングブレーキ解除時の引っかかり感。昨今の他のモデルと同様に、Dレンジを選択してアクセルを踏み込めば、その段階で電動式パーキングブレーキは解除される設定。しかし、その動作にわずかなタイムラグがあり、出だし一瞬の加速が阻害されてしまう。特に、「オートホールド」のモードを選択して停車時は必ずパーキングブレーキを作動させる習慣のあるドライバーにとっては、これは発進の都度に見舞われる違和感。恐らくこれは、市場からも不満の声が上がると思う。
日本でのディーゼルモデルはすべてが6段ステップATとの組み合わせとなるので、「Dレンジ任せ」で走れば適切なギアがセレクトされていくのだが、マニュアルモードで走行すると、実は1500rpm以下ではトルクが急速に痩せてしまうことに気づく。そんな心臓の性格ゆえ、ヨーロッパ向けに設定されているMT仕様の存在は、さほどうらやましがらずに(?)すみそう。たとえ双方の選択が可能でも、このモデルの場合は「ATの方がオススメ」という結果となりそうだからだ。
かつてテストドライブの経験があるFF車と比べると、今回の4WD車の車両重量は60kgの上乗せとなる。それでももちろん、日常シーンでの動力性能は必要にして十分なのだが、「一度知ってしまったゆえに、なくなったのがなんとも惜しい」と思わせるのが、従来型には存在していた2.2リッター直4ユニット搭載のディーゼルモデルだ。175PSという最高出力はもとより、420N・mという最大トルクがもたらすパンチ力は圧巻だった。「このモデルには、あの心臓こそがベストマッチなはずなのに……」と、どうしてもそんな“ないものねだり”をしたくなってしまう。
路面によって変わる走行テイスト
一方、走りの条件次第で「これは、フォルクスワーゲン・ゴルフをキャッチアップしたのでは!」というほどの好感触と、「仕上がりはもうひとつ……」という印象が交錯する結果となったのが、フットワークのテイストだ。端的に言えば、表面が滑らかな良路においては好印象で、粗粒路や補修後の荒れた路面などではマイナスの印象。加えれば、ロードノイズも良路では「驚くほど静か」と思えたのに、荒れた路面では途端にノイズレベルが急上昇。ちなみに、“初乗り”を行ったテストコースはすべての路面が滑らかで、そこでの印象だけを元に仕上げざるを得なかった試乗記は、今読み返すと「良く書きすぎた」感がアリアリで、自身の反省点でもある……。
こうして、路面状態に対する感度が(良くない意味で)高いというのは、ずばりマツダ3のウイークポイントだ。ロードノイズがすこぶる低く、アンジュレーションに差し掛かってもそれを舐(な)めるようにクリアしていく良路上での振る舞いが好印象であるだけに、路面が荒れた途端にネガの印象を大きく感じてしまうというハンディキャップもあるように思う。
それでも、例えば現在のゴルフと比較した場合、あちらはこうした路面の変化に対する感度が(良い意味で)鈍いのだ。そして、そんなゴルフは新型の登場がカウントダウンの段階にあることを考えると、「マツダはまだまだ安心している場合ではないナ」とも思えてしまうのである。
高速道路を中心に長時間ドライブしていると、「全般にボディー上下の動き量が大きい」という印象を受けることともなった。実はこれは、以前から「しなやかな乗り味を演出しよう」とする多くのマツダ車に共通して感じられた傾向でもある。
一方、停止後にブレーキ踏力を一段増した段階でエンジンがストップし、踏力をわずかに緩めれば停車状態のままエンジン始動……と、一時停止時などに非常に重宝する踏力ひとつでその機能を自在に操れるアイドリングストップメカのロジックや、増す方向と狭める方向の双方に調整が可能な車間距離の管理や、レーンキープ機能の設定と解除も含め、たちまち慣れてブラインド操作が可能になるステアリングスポーク上にまとめられたADAS(先進運転支援システム)関連の操作系などには、「運転好きが念入りにチューニングしたに違いない」という形跡も実感でき、それがこのモデルの見どころのひとつにもなっている。
なんだかんだで、これまでの常識にはとらわれないマツダ3が、今の自動車界に一石を投じる貴重な存在であることは、やはり間違いないのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
こうして、路面状態に対する感度が(良くない意味で)高いというのは、ずばりマツダ3のウイークポイントだ。ロードノイズがすこぶる低く、アンジュレーションに差し掛かってもそれを舐(な)めるようにクリアしていく良路上での振る舞いが好印象であるだけに、路面が荒れた途端にネガの印象を大きく感じてしまうというハンディキャップもあるように思う。
それでも、例えば現在のゴルフと比較した場合、あちらはこうした路面の変化に対する感度が(良い意味で)鈍いのだ。そして、そんなゴルフは新型の登場がカウントダウンの段階にあることを考えると、「マツダはまだまだ安心している場合ではないナ」とも思えてしまうのである。
高速道路を中心に長時間ドライブしていると、「全般にボディー上下の動き量が大きい」という印象を受けることともなった。実はこれは、以前から「しなやかな乗り味を演出しよう」とする多くのマツダ車に共通して感じられた傾向でもある。
一方、停止後にブレーキ踏力を一段増した段階でエンジンがストップし、踏力をわずかに緩めれば停車状態のままエンジン始動……と、一時停止時などに非常に重宝する踏力ひとつでその機能を自在に操れるアイドリングストップメカのロジックや、増す方向と狭める方向の双方に調整が可能な車間距離の管理や、レーンキープ機能の設定と解除も含め、たちまち慣れてブラインド操作が可能になるステアリングスポーク上にまとめられたADAS(先進運転支援システム)関連の操作系などには、「運転好きが念入りにチューニングしたに違いない」という形跡も実感でき、それがこのモデルの見どころのひとつにもなっている。
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