【試乗記】2019ワークスチューニンググループ合同試乗会(後編:NISMO/無限編)
- 日産GT-Rブラックエディション クラブマンレーススペック(4WD/6AT)
速さに真摯 走りに真剣
普段、サーキットなどでしのぎを削る国内メーカーの4つの“ワークス”が、一堂に会して開催する「ワークスチューニンググループ合同試乗会」。今回はNISMOが手がけた「日産GT-R」と、無限のパーツを装着した「ホンダ・シビック タイプR」を試す。
気軽にサーキット走行を楽しむためのGT-R ――日産GT-Rブラックエディション クラブマンレーススペック
ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(NISMO)が今回示したコンセプトは「クラブマンレーススペック」(以下、CRS)。これは、文字通りわれわれアマチュアドライバー向けに提供される、「ユーザーが自走でサーキットへ赴き、一日楽しんでまた自走して帰る」という用途を想定したセットアップだ。第2世代GT-Rの歴代モデル(R32~R34)とR35の初期型・中期型を対象としており、今回は2013年モデルのR35 GT-Rを試乗車として用意していた。
R35におけるCRSのチューニングメニューは、エンジンから足まわり、そしてエアロシステムまですべてに手が及んでいるのだが、しかしNISMOが一番注力したのは、取り付け工賃込みで150万円(!)というサスペンションシステムだった。
これはオーリンズ製の4WAYダンパーをベースにNISMOがセッティングを施したもので、「NISMO Nアタックパッケージ」と基本的に同じ内容になっているのが、信頼と、そしてステータスになっている。
通常、ダンパーは伸び・縮みを同時に調整するのが普通(1WAY)だが、このシステムでは伸びと縮みを個別に調整できる(2WAY)だけでなく、そのピストンスピードが遅い領域(ロースピード)と速い領域(ハイスピード)でも、それぞれ別々に伸縮を調節できる(つまり4WAY)。まさにレーシングスペックのプロユースダンパーである。
R35におけるCRSのチューニングメニューは、エンジンから足まわり、そしてエアロシステムまですべてに手が及んでいるのだが、しかしNISMOが一番注力したのは、取り付け工賃込みで150万円(!)というサスペンションシステムだった。
これはオーリンズ製の4WAYダンパーをベースにNISMOがセッティングを施したもので、「NISMO Nアタックパッケージ」と基本的に同じ内容になっているのが、信頼と、そしてステータスになっている。
通常、ダンパーは伸び・縮みを同時に調整するのが普通(1WAY)だが、このシステムでは伸びと縮みを個別に調整できる(2WAY)だけでなく、そのピストンスピードが遅い領域(ロースピード)と速い領域(ハイスピード)でも、それぞれ別々に伸縮を調節できる(つまり4WAY)。まさにレーシングスペックのプロユースダンパーである。
より“FRライク”なコーナリング特性を実現
こんな複雑なダンパーを、アマチュアがセッティングしきれるのだろうか? という質問に対しては、NISMO開発陣からも「たぶん無理でしょう」と苦笑いが漏れた。だからこそ、NISMOでは推奨セットを用意している。最近ではレーシングサービスを雇ってサーキットに赴くジェントルマンドライバーも多いが、こんがらがってしまうくらいなら、走るたびにNISMOファクトリーに状況を伝えて、小変更していくのもよいだろう。こうした趣味は、焦らずコツコツと楽しむ方がよいと筆者も考えている。
さてそんなCRSの乗り味だが、なかなかに興味深かった。GT-Rは走りの基調はFRとしながらも、速く走るなら4WDの特性を生かすのが定石。コーナリング時のコントロール性を高めるというよりは、重たいフロントを無理やりにでも曲げて、クリップからアクセルをいち早く全開にする走りが求められる。その基本特性は変わらなかったが、CRSはこのタイトなコースで実によく曲がった。さらにセットを進めていけば、速さは別にしてもFRライクなR35がつくれるのではないか? と思えるほど、柔軟な足さばきを見せたのだ。
聞けばそのスプリングは、よりフラットな路面を持つ日本のサーキット用に、Nアタックパッケージよりもレートを高めたのだという。それにしてはしなやかな動きだと思ったが、それはダンパー精度の高さがまずひとつ、そしてGT-Rの重さと、それを押しのける速さが、高いサスペンション剛性をもしなやかに感じさせたのだと思えた。
さてそんなCRSの乗り味だが、なかなかに興味深かった。GT-Rは走りの基調はFRとしながらも、速く走るなら4WDの特性を生かすのが定石。コーナリング時のコントロール性を高めるというよりは、重たいフロントを無理やりにでも曲げて、クリップからアクセルをいち早く全開にする走りが求められる。その基本特性は変わらなかったが、CRSはこのタイトなコースで実によく曲がった。さらにセットを進めていけば、速さは別にしてもFRライクなR35がつくれるのではないか? と思えるほど、柔軟な足さばきを見せたのだ。
聞けばそのスプリングは、よりフラットな路面を持つ日本のサーキット用に、Nアタックパッケージよりもレートを高めたのだという。それにしてはしなやかな動きだと思ったが、それはダンパー精度の高さがまずひとつ、そしてGT-Rの重さと、それを押しのける速さが、高いサスペンション剛性をもしなやかに感じさせたのだと思えた。
クルマに表れるチューニングへの真摯な姿勢
また、オーバーホールした上でNISMOのS1チューニングを施したエンジンが、高回転まできれいに回るのも印象的だった。タービンには2011年仕様のものを用い、カムはレース車両「GT-R GT3」と同じものとした狙いを、エンジニアは「低中速トルクの向上」と語ったが、トップエンドでも詰まるような感覚がなく、とても気持ちよく吹け上がる。むしろその加速になれてくると、もっと細かくターボラグを消していきたい気持ちになった。まさにこれが、チューニングへの第一歩なのだろう。
第2世代のGT-Rに対し、R35 GT-Rは、その車両価格をグンと跳ね上げた。これをチューニングするなどとは、私のような庶民には夢物語のように思われる話なのだが、それでも純粋なまでに速さと操縦性を磨き上げるNISMOの姿勢には、心引かれるものがあった。
そういう意味でも、NISMOがベースに2013年モデルを使っていることには共感を覚える。夢のGT-Rを手に入れ、6年の歳月を経てもまだその魅力に夢中になっているオーナーにとってこの仕様は、ひとつのゴールとなるだろう。またユーズドカーを手に入れて、トータルコストで新車以上のスペックを得たいユーザーにとってもひとつの目標となる。
それに、いかに高額とはいえ、世界のスーパースポーツと比べればまだまだGT-Rはリーズナブルだ。やはりGT-Rは、常に最速を目指して世界と戦っていくべきスポーツカーなのだ。
第2世代のGT-Rに対し、R35 GT-Rは、その車両価格をグンと跳ね上げた。これをチューニングするなどとは、私のような庶民には夢物語のように思われる話なのだが、それでも純粋なまでに速さと操縦性を磨き上げるNISMOの姿勢には、心引かれるものがあった。
そういう意味でも、NISMOがベースに2013年モデルを使っていることには共感を覚える。夢のGT-Rを手に入れ、6年の歳月を経てもまだその魅力に夢中になっているオーナーにとってこの仕様は、ひとつのゴールとなるだろう。またユーズドカーを手に入れて、トータルコストで新車以上のスペックを得たいユーザーにとってもひとつの目標となる。
それに、いかに高額とはいえ、世界のスーパースポーツと比べればまだまだGT-Rはリーズナブルだ。やはりGT-Rは、常に最速を目指して世界と戦っていくべきスポーツカーなのだ。
もともと高性能なタイプRをどう改良するか? ――ホンダ・シビック タイプR 無限パーツ装着車
ホンダのワークスである無限は、「More R(モア・アール)」というコンセプトを掲げて、シビック タイプRのチューニングを提案した。
無限でシビックといえば、FD2型で瞬殺完売した“赤い彗星”こと「無限RR(ダブルアール)」を思い出すが、今回のタイプRはコンプリートカーではなく、あくまで用品装着車である。当初はエンジンに関しても「ポート研磨やってみる?」なんて言いながらさまざまなことを試してみたようだが、結局はやらないことにしたという。
なぜなら、すでにノーマル車のエンジンがかなりのポテンシャルを持っていたからだ。タービン交換などのヘビーチューンでもしない限り、大きく馬力を上げることはできない。しかし、それをやるなら大幅に全体のスタビリティーを上げる必要があり、まだその時期ではない。ワークスの立場としては、このオリジナルのポテンシャルを引き出すチューニングをまずやるべきだ、という判断なのである。
これはサスペンションにも同じことが言えた。シビック タイプRには純正で可変ダンパーがついている。車両のドライビングモードと連動するこの可変システムは、当然ながら純正スプリングのレートとマッチングが図られており、それを変更すると車両側のパラメーターが狂ってしまう。これだけ高性能なダンパーを外してしまうのは確かにもったいない。だから今回の無限シビック タイプRは、エンジンも足まわりも純正のままなのである。
それでは一体何が「More R」なのか? それは空力解析を通してつくられたエアロパーツがもたらす走りだった。
無限でシビックといえば、FD2型で瞬殺完売した“赤い彗星”こと「無限RR(ダブルアール)」を思い出すが、今回のタイプRはコンプリートカーではなく、あくまで用品装着車である。当初はエンジンに関しても「ポート研磨やってみる?」なんて言いながらさまざまなことを試してみたようだが、結局はやらないことにしたという。
なぜなら、すでにノーマル車のエンジンがかなりのポテンシャルを持っていたからだ。タービン交換などのヘビーチューンでもしない限り、大きく馬力を上げることはできない。しかし、それをやるなら大幅に全体のスタビリティーを上げる必要があり、まだその時期ではない。ワークスの立場としては、このオリジナルのポテンシャルを引き出すチューニングをまずやるべきだ、という判断なのである。
これはサスペンションにも同じことが言えた。シビック タイプRには純正で可変ダンパーがついている。車両のドライビングモードと連動するこの可変システムは、当然ながら純正スプリングのレートとマッチングが図られており、それを変更すると車両側のパラメーターが狂ってしまう。これだけ高性能なダンパーを外してしまうのは確かにもったいない。だから今回の無限シビック タイプRは、エンジンも足まわりも純正のままなのである。
それでは一体何が「More R」なのか? それは空力解析を通してつくられたエアロパーツがもたらす走りだった。
空力と軽量化が実現した“曲がりやすさ”
タイプRはその圧倒的な剛性感がひとつのキャラクターになっているが、これが一種独特な威厳というか、威圧感を持っていると筆者は以前から感じていた。しかし、無限仕様はそこに軽やかさが加わっており、スッと“モード”に入っていける感じがしたのである。
その足下には、サーキット走行を想定したハイグリップな「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」が履かされている。にも関わらず、ターンインは実に軽快だった。純正サスペンションがこのグリップを持て余すことなく使い切っていることに、まず驚いた。
そして、この軽やかなノーズの入りを武器にしてブレーキングを追い込んでいくほどに、“曲がりやすさ”の子細が見えてくる。リアがきれいに追従し、ニュートラルステア方向に姿勢を整えていく感触がある。これを実現したのは、フロントバンパーの空力がもたらす接地性の高さと、約30kgの軽量化だろう。無限で初のオールチタン製となるエキゾーストシステム(プロトタイプ)は、純正比でー8.5kg。前後に履かれた切削鍛造のアルミホイールは、4本で-10kg。さらにカーボン製となるリアウイングを組み合わせることによって、これだけの軽量化を実現しているのだ。
もちろん、今回のようなショートコースでは、無限タイプRが持つ空力性能のほんの一部しか体感していないと思う。それでも感心したのは、主にリアセクションを軽量化しながらも、そのバランスを上手に保っていたことだ。それこそが調整式リアウイングの利点であり、トータルに空力をバランスさせたエアロシステムの効果なのだと思う。
その足下には、サーキット走行を想定したハイグリップな「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」が履かされている。にも関わらず、ターンインは実に軽快だった。純正サスペンションがこのグリップを持て余すことなく使い切っていることに、まず驚いた。
そして、この軽やかなノーズの入りを武器にしてブレーキングを追い込んでいくほどに、“曲がりやすさ”の子細が見えてくる。リアがきれいに追従し、ニュートラルステア方向に姿勢を整えていく感触がある。これを実現したのは、フロントバンパーの空力がもたらす接地性の高さと、約30kgの軽量化だろう。無限で初のオールチタン製となるエキゾーストシステム(プロトタイプ)は、純正比でー8.5kg。前後に履かれた切削鍛造のアルミホイールは、4本で-10kg。さらにカーボン製となるリアウイングを組み合わせることによって、これだけの軽量化を実現しているのだ。
もちろん、今回のようなショートコースでは、無限タイプRが持つ空力性能のほんの一部しか体感していないと思う。それでも感心したのは、主にリアセクションを軽量化しながらも、そのバランスを上手に保っていたことだ。それこそが調整式リアウイングの利点であり、トータルに空力をバランスさせたエアロシステムの効果なのだと思う。
細部に宿る無限のこだわり
鍛造アルミホイールも、前後でオフセットを変更するという細かい技を光らせていた。具体的には、前が53mm、後ろが45mmと、より曲がりやすい仕様になっている。もちろん、ローテーションを考えて前後53mmで購入することも可能である。
また、細かい部分だがシフトノブの扱いやすさは特筆ものだった。いや、扱いやすいというよりも、その存在を意識させないよさがある。聞けば純正のシフトノブは「日本人の体形に合わない部分があったんです」とのことで、無限はこれをリファインしたのだ。
具体的には、ドライバー寄りに14mm位置をオフセットさせ、6%ショートストローク化。さらに取り付け部をリジッド化して剛性を上げ、リターンスプリングも17%ほどレートアップしたのだという。実に細かい作業だが、その効果は確かにあった。これだけ操作性が素直なら、重量増加とコスト高騰を招くDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を搭載しなくても、速さと楽しさを両立できる気がする。
とにもかくにも、無限シビック タイプRは、今度はきっちりサーキットで走らせてみたいと感じる一台だった。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
また、細かい部分だがシフトノブの扱いやすさは特筆ものだった。いや、扱いやすいというよりも、その存在を意識させないよさがある。聞けば純正のシフトノブは「日本人の体形に合わない部分があったんです」とのことで、無限はこれをリファインしたのだ。
具体的には、ドライバー寄りに14mm位置をオフセットさせ、6%ショートストローク化。さらに取り付け部をリジッド化して剛性を上げ、リターンスプリングも17%ほどレートアップしたのだという。実に細かい作業だが、その効果は確かにあった。これだけ操作性が素直なら、重量増加とコスト高騰を招くDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を搭載しなくても、速さと楽しさを両立できる気がする。
とにもかくにも、無限シビック タイプRは、今度はきっちりサーキットで走らせてみたいと感じる一台だった。
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