【試乗記】日産スカイラインGT Type P(V6ターボ)(FR/7AT)

日産スカイラインGT Type P(V6ターボ)(FR/7AT)
日産スカイラインGT Type P(V6ターボ)(FR/7AT)

民草の声に傾聴せよ

「日産スカイライン」のマイナーチェンジで追加されたV6ツインターボモデルはなかなかの意欲作だ。その出来栄えは概して素晴らしい。しかし、いっぽうでは日産の国内市場軽視が透けて見える部分も少々……。中年カーマニアの筆者にとっては寂しさを覚えつつの試乗となった。

手放し運転ができるのはハイブリッドのみ

2019年9月17日に発売された「日産スカイライン」のマイナーチェンジモデル。同年7月16日の受注開始から9月4日までで1760台のオーダーがあったそうだ(月販目標は200台)。フロントマスクは他の日産車と共通の「Vモーショングリル」に変更された。
2019年9月17日に発売された「日産スカイライン」のマイナーチェンジモデル。同年7月16日の受注開始から9月4日までで1760台のオーダーがあったそうだ(月販目標は200台)。フロントマスクは他の日産車と共通の「Vモーショングリル」に変更された。
リアコンビランプは「スカイライン」伝統の丸目4灯タイプに変更された。
リアコンビランプは「スカイライン」伝統の丸目4灯タイプに変更された。
フロント、リア(写真)ともインフィニティエンブレムを捨てて日産エンブレムに。ガーニッシュ内には「SKYLINE」ロゴも加えられた。
フロント、リア(写真)ともインフィニティエンブレムを捨てて日産エンブレムに。ガーニッシュ内には「SKYLINE」ロゴも加えられた。
グレード構成はガソリン、ハイブリッド共通の「GT」「GT Type P」「GT Type SP」に加えて、ガソリンにはさらに高性能モデル「400R」もラインナップされる。テスト車はガソリンモデルのGT Type Pだった。
グレード構成はガソリン、ハイブリッド共通の「GT」「GT Type P」「GT Type SP」に加えて、ガソリンにはさらに高性能モデル「400R」もラインナップされる。テスト車はガソリンモデルのGT Type Pだった。
スカイラインの新しいポイントは大きく4つある。そのうち“エクステリアデザインの変更”と“新コネクテッドサービスの導入”という2つは全モデルに共通する。残る2つは「プロパイロット2.0」と“走行性能の向上”だが、これはハイブリッドとターボというパワートレインごとに、きれいに振り分けられている。

話題のプロパイロット2.0はハイブリッドのみに標準搭載となる。しかし、逆にいうと、今回のスカイライン ハイブリッドではプロパイロット2.0以外に、走りやメカニズムにまつわる変更はとくにない。

これとは対照的に、走行性能にかかわる新機軸はすべてターボに集中する。この3リッターV6ターボ自体が本邦初導入となる新型エンジンであるだけでなく、同じく国内向け日産車では初となる電子制御可変ダンパー「インテリジェントダイナミックサスペンション(IDS)」が用意されるのもターボのみ。いっぽうで、ターボにはプロパイロットの“プ”の字もないどころか、その他のADAS(先進運転支援システム)装備もこれまでと変更なしだそうである。

今回はインテリアにもさしたる変更はない。現行スカイラインは年明け(2020年)にデビュー6年目を迎えるが、当時鳴り物入りで採用されたセンターのタッチパネルは今となってはやけに仰々しく、逆に古さを感じさせつつあるし、位置や角度のせいか指紋も目立ちやすい。そして最上段のナビ画面もサイズ、解像度ともに明らかに旧式感が漂いつつある。

ただ、内装調度の基本的な質感には以前から定評があり、さらに2017年12月のマイナーチェンジでブラッシュアップされたこともあって、仮想敵とするドイツ系Dセグメントセダンに大きく引けを取ることもない。もともとクラスでは大柄なタイプなので、室内も広い。なので、海外で「インフィニティ」を名乗る高級ブランド車らしく、細部だけでもこまめにアップデートしてくれれば、まだまだ古びないのに……とは思う。

2019年9月17日に発売された「日産スカイライン」のマイナーチェンジモデル。同年7月16日の受注開始から9月4日までで1760台のオーダーがあったそうだ(月販目標は200台)。フロントマスクは他の日産車と共通の「Vモーショングリル」に変更された。
2019年9月17日に発売された「日産スカイライン」のマイナーチェンジモデル。同年7月16日の受注開始から9月4日までで1760台のオーダーがあったそうだ(月販目標は200台)。フロントマスクは他の日産車と共通の「Vモーショングリル」に変更された。
リアコンビランプは「スカイライン」伝統の丸目4灯タイプに変更された。
リアコンビランプは「スカイライン」伝統の丸目4灯タイプに変更された。
フロント、リア(写真)ともインフィニティエンブレムを捨てて日産エンブレムに。ガーニッシュ内には「SKYLINE」ロゴも加えられた。
フロント、リア(写真)ともインフィニティエンブレムを捨てて日産エンブレムに。ガーニッシュ内には「SKYLINE」ロゴも加えられた。
グレード構成はガソリン、ハイブリッド共通の「GT」「GT Type P」「GT Type SP」に加えて、ガソリンにはさらに高性能モデル「400R」もラインナップされる。テスト車はガソリンモデルのGT Type Pだった。
グレード構成はガソリン、ハイブリッド共通の「GT」「GT Type P」「GT Type SP」に加えて、ガソリンにはさらに高性能モデル「400R」もラインナップされる。テスト車はガソリンモデルのGT Type Pだった。

V6エンジンは出色の出来栄え

これまでガソリンモデルにはダイムラーから供給を受ける2リッターターボエンジンが搭載されていたが、すべて自社製の3リッターV6ツインターボエンジンに置き換えられた。
これまでガソリンモデルにはダイムラーから供給を受ける2リッターターボエンジンが搭載されていたが、すべて自社製の3リッターV6ツインターボエンジンに置き換えられた。
「GT Type P」に搭載されるVR30DDTT型3リッターV6ツインターボエンジンは最高出力304PS、最大トルク400N・mを発生する。
「GT Type P」に搭載されるVR30DDTT型3リッターV6ツインターボエンジンは最高出力304PS、最大トルク400N・mを発生する。
「GT Type P」では18インチのタイヤ&ホイールがスタンダード。テスト車には「ブリヂストン・ポテンザS001」のランフラットタイヤが装着されていた。
「GT Type P」では18インチのタイヤ&ホイールがスタンダード。テスト車には「ブリヂストン・ポテンザS001」のランフラットタイヤが装着されていた。
VR30DDTTユニットは低回転域から豊かなトルクを発生しながら、7000rpm強のリミットまでスパッと回りきる気持ちのいいエンジンだった。
VR30DDTTユニットは低回転域から豊かなトルクを発生しながら、7000rpm強のリミットまでスパッと回りきる気持ちのいいエンジンだった。
注目の新エンジンVR30DDTT型は、バンク角やボアピッチは前身にあたるVQ型のそれを踏襲しつつも、すべてが新開発という。

末尾の「DDTT」という文字列から日産ファンが読み解くとおり、直噴のツインターボである。シリンダーの「ミラーボアコーティング」やバルブリフターの「水素フリーDLCコーティング」、0W-20という低粘度指定オイルなど、いかにも現代的なフリクション低減の工夫も多い。しかし、同時に「400R」では400PS超の大台も想定するほど、素直な高出力エンジンでもある。

今回はいわば標準スペックとなる304PS版だったが、それでも今どきめずらしい“回しがい”のあるエンジンだ。もちろん下から図太いトルクを供出する柔軟性をもちつつ、トルク特性は最近よくある“どフラット型”ではない。4000rpmくらいから明確に活気づいて、さらに5000rpm、6000rpm……とレスポンスとサウンドが少しずつ変化しながら吹け上がっていく。さすがに6000rpm付近でトルクはアタマ打ちになるようだが、7000rpm強のリミットまでスパッときれいに回りきる。

さらにいうと、リミット付近でのヒステリックでカン高い排気音は、同じVRを名乗る「GT-R」の3.8リッターを思い出させもする。そのVR38DETTと今回のV6ターボとではさすがに設計も別物だが、バンク角やボアピッチがVQ由来であることや、福島いわき工場で組み立てられる点は一致する。

この新しいスカイラインターボでもうひとつ印象的なのは、いわゆるターボラグの小ささだ。それには小径タービンを使えるツインターボレイアウトのほか、エキマニ一体ヘッド(=吸気経路が短い)や水冷インタークーラー(=吸気系容量が縮小できる)といった今回導入された新技術の効果も大きいという。

これまでガソリンモデルにはダイムラーから供給を受ける2リッターターボエンジンが搭載されていたが、すべて自社製の3リッターV6ツインターボエンジンに置き換えられた。
これまでガソリンモデルにはダイムラーから供給を受ける2リッターターボエンジンが搭載されていたが、すべて自社製の3リッターV6ツインターボエンジンに置き換えられた。
「GT Type P」に搭載されるVR30DDTT型3リッターV6ツインターボエンジンは最高出力304PS、最大トルク400N・mを発生する。
「GT Type P」に搭載されるVR30DDTT型3リッターV6ツインターボエンジンは最高出力304PS、最大トルク400N・mを発生する。
「GT Type P」では18インチのタイヤ&ホイールがスタンダード。テスト車には「ブリヂストン・ポテンザS001」のランフラットタイヤが装着されていた。
「GT Type P」では18インチのタイヤ&ホイールがスタンダード。テスト車には「ブリヂストン・ポテンザS001」のランフラットタイヤが装着されていた。
VR30DDTTユニットは低回転域から豊かなトルクを発生しながら、7000rpm強のリミットまでスパッと回りきる気持ちのいいエンジンだった。
VR30DDTTユニットは低回転域から豊かなトルクを発生しながら、7000rpm強のリミットまでスパッと回りきる気持ちのいいエンジンだった。

FR車の魅力が詰まっている

ガソリン車にこれまでオプションとして設定されていたステアリングバイワイヤ機構「ダイレクトアダプティブステアリング」は全車に標準装備となった。
ガソリン車にこれまでオプションとして設定されていたステアリングバイワイヤ機構「ダイレクトアダプティブステアリング」は全車に標準装備となった。
インテリアデザインは基本的に従来型と共通。つながる機能を強化したインフォテインメントシステムが新しい。
インテリアデザインは基本的に従来型と共通。つながる機能を強化したインフォテインメントシステムが新しい。
無線通信による地図の自動更新機能やスマートフォンと連携したナビゲーション機能などからなる「Nissan Connect」機能を搭載。
無線通信による地図の自動更新機能やスマートフォンと連携したナビゲーション機能などからなる「Nissan Connect」機能を搭載。
トランスミッションは7段のトルコン式AT。マニュアル変速も可能だが、シフトパドルは備わっていない。
トランスミッションは7段のトルコン式AT。マニュアル変速も可能だが、シフトパドルは備わっていない。
これまでの2リッターターボではオプションだったバイワイヤの「ダイレクトアダプティブステアリング(DAS)」が標準装備となったのも今回のスカイラインのニュースで、試乗車も当然ながらDAS付きだった。しかし、可変ダンパーのIDSは上級グレード専用装備(400Rに標準、「GT Type SP」にオプション)であり、中間グレード「GT Type P」(=テスト車)には備わらない。

その走りには素直に感心する。低速でランフラット特有のコツコツはあるものの、サスペンションそのものの作動は滑らかで、高速や山坂道でカツが入ると、喜々として路面に吸いつく。最新鋭のライバルと比較しても、ロールやピッチングなどの上屋の動きがことさら小さいわけではないが、すべてが人間の感覚にピタリとあった調律なのが快感だ。

また、最大トルクで400N・mという怪力系エンジンにもかかわらず、ごく普通のFRレイアウトにしてトラクション性能やリアの安定性になんら不足を感じさせないのも素晴らしい。少なくともドライであれば、いかなるコーナーでも思い切って踏める。

このクルマにはDAS以外に特筆すべきシャシー関連のハイテクは備わらない。こういう好印象の背景には、今回はとくに手が入っていないという車体の剛性感がいまだ印象的なほど高いことや、過給ラグをまるで感じさせないV6ターボのリニアなレスポンスもかなり効いている。いわゆる“基本フィジカル”の能力が高いのだ。

この最新のスカイラインGTではコーナリングが決まったときの、お尻をわずかに沈めながら蹴り出す最後の脱出姿勢にも「この瞬間がFRだね」と思わずヒザをたたきたくなる。

ガソリン車にこれまでオプションとして設定されていたステアリングバイワイヤ機構「ダイレクトアダプティブステアリング」は全車に標準装備となった。
ガソリン車にこれまでオプションとして設定されていたステアリングバイワイヤ機構「ダイレクトアダプティブステアリング」は全車に標準装備となった。
インテリアデザインは基本的に従来型と共通。つながる機能を強化したインフォテインメントシステムが新しい。
インテリアデザインは基本的に従来型と共通。つながる機能を強化したインフォテインメントシステムが新しい。
無線通信による地図の自動更新機能やスマートフォンと連携したナビゲーション機能などからなる「Nissan Connect」機能を搭載。
無線通信による地図の自動更新機能やスマートフォンと連携したナビゲーション機能などからなる「Nissan Connect」機能を搭載。
トランスミッションは7段のトルコン式AT。マニュアル変速も可能だが、シフトパドルは備わっていない。
トランスミッションは7段のトルコン式AT。マニュアル変速も可能だが、シフトパドルは備わっていない。

日産にとっての宝物

ガソリンモデルはFR車のみのラインナップ。4WD車はハイブリッドのみに設定されている。
ガソリンモデルはFR車のみのラインナップ。4WD車はハイブリッドのみに設定されている。
メーターパネルはシンプルな2眼式。センターのマルチインフォメーションディスプレイにはADASの作動状況などを表示できる。
メーターパネルはシンプルな2眼式。センターのマルチインフォメーションディスプレイにはADASの作動状況などを表示できる。
前席の電動調整機構は全車に標準装備。「GT Type P」ではシート表皮に本革を採用する。
前席の電動調整機構は全車に標準装備。「GT Type P」ではシート表皮に本革を採用する。
リアシートにトランクスルー機構が備わるのはガソリンモデルのみとなっている。
リアシートにトランクスルー機構が備わるのはガソリンモデルのみとなっている。
いまだに世界でも希少なステアバイワイヤのDASも年次改良の積み重ねによって、今では5年前のような違和感はほぼ解消している。連続可変レシオ制御によって、人間の操作量を減らすのがDASの大きな目的のひとつだが、トータルでは「交差点もワインディングも手首ひとつでグリングリン……」みたいな極端に敏感な設定にはなっていない。

実際の制御はかなり複雑だとしても、体感的には中立付近の切りはじめで鋭く速やかにヨーが立ち上がりながら、その先が意外にマイルドな反応に調律されているのが特徴である。だから、他社の可変レシオのように徹頭徹尾ステアリングに頼るより、いったんヨーが立ち上がったら、運転の主体をスロットル操作による荷重移動に移すのが、このクルマで気持ちよく曲がるコツでもある。そのあたりの味わいは、名車だった(と私は思っている)先代スカイライン(V36)を彷彿とさせて、個人的にはツボだ。

古典テイストを残しつつも、路面からのキックバックが皆無で、その感触はとことん滑らか、高速では前輪がレールにハマったかのような安定感がある。どんな場合でも介入遅れのようなクセがなく、それでいて“旋回途中の切り増し”といった特定のシーンでのみ再びシャープに反応する……といったところに、フロントタイヤとステアリングを機械的に切り離せるDASならではの利点がうかがえる。

DAS最大の効能はおそらく、プロパイロット2.0、あるいは今後の3.0や4.0……のような自動運転技術との親和性だろう。しかし、DASというハイテクのメリットを、こういう昔ながらのファン・トゥ・ドライブに昇華させている点もまた、なかなか見事である。

最近はネガティブに取り上げられることも多い日産だが、現場の開発力、とくに実験部隊の能力は日産の宝。そして、この種のほどほどスポーツテイストのFRの経験も深い。このクルマに乗ると、それがよく分かる。

ガソリンモデルはFR車のみのラインナップ。4WD車はハイブリッドのみに設定されている。
ガソリンモデルはFR車のみのラインナップ。4WD車はハイブリッドのみに設定されている。
メーターパネルはシンプルな2眼式。センターのマルチインフォメーションディスプレイにはADASの作動状況などを表示できる。
メーターパネルはシンプルな2眼式。センターのマルチインフォメーションディスプレイにはADASの作動状況などを表示できる。
前席の電動調整機構は全車に標準装備。「GT Type P」ではシート表皮に本革を採用する。
前席の電動調整機構は全車に標準装備。「GT Type P」ではシート表皮に本革を採用する。
リアシートにトランクスルー機構が備わるのはガソリンモデルのみとなっている。
リアシートにトランクスルー機構が備わるのはガソリンモデルのみとなっている。

車線維持支援機能はおまけ程度

高速道路でのハンズオフ機能を備えた「プロパイロット2.0」はハイブリッド車の専用装備となっている。
高速道路でのハンズオフ機能を備えた「プロパイロット2.0」はハイブリッド車の専用装備となっている。
ガソリンモデルにもACCは全車に標準装備されている。起動/設定はステアリングスポーク上のスイッチで行う。
ガソリンモデルにもACCは全車に標準装備されている。起動/設定はステアリングスポーク上のスイッチで行う。
センターコンソールに備わるドライブモードセレクター。モードはスタンダードとスポーツ、エコ、スノー、そして各種項目を個別設定できるパーソナルの全5種類。
センターコンソールに備わるドライブモードセレクター。モードはスタンダードとスポーツ、エコ、スノー、そして各種項目を個別設定できるパーソナルの全5種類。
ステアリング支援機構として「アクティブレーンコントロール」が備わるが、現代的なLKAなどと比べるとごく控えめなアシストにすぎない。
ステアリング支援機構として「アクティブレーンコントロール」が備わるが、現代的なLKAなどと比べるとごく控えめなアシストにすぎない。
冒頭にも書いたように、ハイブリッドのプロパイロット2.0とは対照的に、このクルマのADAS関連にはまったく変更がない。ただ、2014年2月のデビュー時点では最先端だったことも事実で、とくに前後方向の運転支援はいまだに独自性が光る。

前方を監視するレーダーは常に2台前の前走車までモニターしており、ごく普通に車間距離が詰まったようなケースでは、なんの警告もないままに、リアクティブ機構が備わったアクセルペダルを強制的に押し戻しながらスムーズにブレーキをかける。もちろん、アダプティブクルーズコントロール(ACC)を作動させなければ加速側の制御をしてくれないが、前にクルマがいる日常の市街地走行では、信号で停止し続けるとき以外はほとんどブレーキ操作不要?……と思ってしまうほど、自然で精密にブレーキをかけてくれる。

それでいて、緊急自動ブレーキがいまだに歩行者を検知しなかったり、ACCは全車速対応なのに、電動パーキングブレーキ(EPB)が備わらないために渋滞追従はできなかったり……と、2014年という時代の過渡期感が残念ながら否めない。

また、このように前後方向=加減速制御ではけっこう高度なのに、左右方向の支援システムが意外なほど簡素な点も、いかにも時代を感じさせる。このクルマにも当時最先端だった「アクティブレーンコントロール」がついているものの、あくまでドライバーの積極的なステアリング操作を前提とした補助システムでしかない。クルマまかせだと、日本の高速でもごくごく緩いカーブ(体感的には600R以上)しか車線は維持できない。クルマが主体的に車線をキープして走る最新のレーンキープアシスト(LKA)とは別物である。

高速道路でのハンズオフ機能を備えた「プロパイロット2.0」はハイブリッド車の専用装備となっている。
高速道路でのハンズオフ機能を備えた「プロパイロット2.0」はハイブリッド車の専用装備となっている。
ガソリンモデルにもACCは全車に標準装備されている。起動/設定はステアリングスポーク上のスイッチで行う。
ガソリンモデルにもACCは全車に標準装備されている。起動/設定はステアリングスポーク上のスイッチで行う。
センターコンソールに備わるドライブモードセレクター。モードはスタンダードとスポーツ、エコ、スノー、そして各種項目を個別設定できるパーソナルの全5種類。
センターコンソールに備わるドライブモードセレクター。モードはスタンダードとスポーツ、エコ、スノー、そして各種項目を個別設定できるパーソナルの全5種類。
ステアリング支援機構として「アクティブレーンコントロール」が備わるが、現代的なLKAなどと比べるとごく控えめなアシストにすぎない。
ステアリング支援機構として「アクティブレーンコントロール」が備わるが、現代的なLKAなどと比べるとごく控えめなアシストにすぎない。

“お家事情”丸出しの商品企画

「プロパイロット2.0」が備わるハイブリッド車には7個のカメラと5個のレーダー、そして12個のソナーが搭載される。これらセンサーとハイブリッド機構を合わせて、同名のグレードでもガソリン車より120万円ほど高価になっている。
「プロパイロット2.0」が備わるハイブリッド車には7個のカメラと5個のレーダー、そして12個のソナーが搭載される。これらセンサーとハイブリッド機構を合わせて、同名のグレードでもガソリン車より120万円ほど高価になっている。
テスト車には全16スピーカーからなるBOSEのサウンドシステムがオプション装着されていた。
テスト車には全16スピーカーからなるBOSEのサウンドシステムがオプション装着されていた。
ガソリンモデルのトランクルームの容量は510リッター。奥のほうは横幅が狭く、凸字形状となっている。
ガソリンモデルのトランクルームの容量は510リッター。奥のほうは横幅が狭く、凸字形状となっている。
ボディー前方と後方からそれぞれ高さの違うプレスラインが伸びており、リアドアの部分で「S」字を形成する。
ボディー前方と後方からそれぞれ高さの違うプレスラインが伸びており、リアドアの部分で「S」字を形成する。
ガソリンモデルのカタログ燃費は10.0km/リッター(WLTCモード)。今回のテストにおける満タン法燃費は7.6km/リッターだった。
ガソリンモデルのカタログ燃費は10.0km/リッター(WLTCモード)。今回のテストにおける満タン法燃費は7.6km/リッターだった。
繰り返しになるが、新スカイラインのハイブリッドには、現時点で世界最先端のADAS(=プロパイロット2.0)が備わる。それは歩行者や二輪車も検知して、ハンズオフで車線のど真ん中を走り、道路標識認識機能で制限速度も自分で守って、EPBによって渋滞でのストップ&ゴーも自在だ。いっぽう、このターボのADAS機能は、このクラスとしては“貧弱”といわざるをえない。

事情は理解できないでもない。膨大なセンサーを必要とするプロパイロット2.0はまだまだ高価だし、緻密な技術なので、パワートレインが変われば個別の適合作業だけでも時間がかかる。だから、まずは1車種に集中せざるをえなかった……ということだろう。

それでも、ターボにもせめてハイブリッドと同じEPB、そしてLKA、歩行者検知機能、道路標識認識機能くらいは備えてほしい。最新のスカイラインのADASが軽自動車にも劣るとは、どうにも締まらないではないか。そうするにはカメラやレーダーもすべて変える必要があり、コストがかかるのは理解できるが、そういう裏事情をお客に如実に分からせてしまうのは、このクラスには似つかわしくない。

多くの好事家が嘆くように、最近の日産の国内戦略は割り切りがすさまじい。せっかくデキはいいのに改良内容がなんかチグハグな今回のスカイラインにしても、放置状態の「フーガ」や「フェアレディZ」よりはマシだが、そもそも日産の国内商品企画はそうした“お家事情”が丸出しのケースが多すぎる。

それでいて、e-POWER効果で「ノート」や「セレナ」の販売が好調で、国内販売の半分を占めようかという軽自動車の自社開発にもついに乗り出した。日産経営陣は「国内市場はこれでよし」との判断なのだろうか。

ご承知のように、日産のスカイラインは海外では「インフィニティQ50」として売られており、「Vモーション」は日産ブランドの象徴である。つまり、Vモーショングリルをもつ新スカイラインは日本専用デザインなのだ。まあ、グリルとテールランプ、トランクガーニッシュとバッジのちがいだけだが、これまでがインフィニティバッジのまま売られていたことを考えると、ファンは素直に嬉しい。こういう些細なことでも喜ぶ日本のファンの気持ちを、日産経営陣はもっと汲み取ってほしい……と中年マニアのひとりとして思う。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

「プロパイロット2.0」が備わるハイブリッド車には7個のカメラと5個のレーダー、そして12個のソナーが搭載される。これらセンサーとハイブリッド機構を合わせて、同名のグレードでもガソリン車より120万円ほど高価になっている。
「プロパイロット2.0」が備わるハイブリッド車には7個のカメラと5個のレーダー、そして12個のソナーが搭載される。これらセンサーとハイブリッド機構を合わせて、同名のグレードでもガソリン車より120万円ほど高価になっている。
テスト車には全16スピーカーからなるBOSEのサウンドシステムがオプション装着されていた。
テスト車には全16スピーカーからなるBOSEのサウンドシステムがオプション装着されていた。
ガソリンモデルのトランクルームの容量は510リッター。奥のほうは横幅が狭く、凸字形状となっている。
ガソリンモデルのトランクルームの容量は510リッター。奥のほうは横幅が狭く、凸字形状となっている。
ボディー前方と後方からそれぞれ高さの違うプレスラインが伸びており、リアドアの部分で「S」字を形成する。
ボディー前方と後方からそれぞれ高さの違うプレスラインが伸びており、リアドアの部分で「S」字を形成する。
ガソリンモデルのカタログ燃費は10.0km/リッター(WLTCモード)。今回のテストにおける満タン法燃費は7.6km/リッターだった。
ガソリンモデルのカタログ燃費は10.0km/リッター(WLTCモード)。今回のテストにおける満タン法燃費は7.6km/リッターだった。

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