【試乗記】トヨタC-HR“GRスポーツ”
- トヨタC-HR S“GRスポーツ”(FF/CVT)/トヨタC-HR S-T“GRスポーツ”(FF/6MT)
方針にブレなし
トヨタのクロスオーバーSUV「C-HR」に、スポーツコンバージョンモデル“GRスポーツ”が追加された。パワートレインには手をつけないライトなチューニングが特徴のGRスポーツだが、コースと時間がかぎられた試乗でも、標準車とのちがいがはっきりくっきりと感じ取れたのだった。
標準モデルも足まわりを変更
今回GRスポーツがC-HRに追加されたのは、C-HRそのもののマイナーチェンジを機にしたものである。
最近でこそ国内販売が失速気味となっていたC-HRだが、基本的にはグローバルでの成功商品だけに、今回のマイナーチェンジも細部のデザインと装備類のアップデートがメインの正攻法。ただ、国内月販目標が3600台(発売当時は6000台)と控えめに修正されたのは残念といえば残念だが、今では同門内に「RAV4」が復活するなどの市場環境の変化もあり、いたしかたない面もあろう。
1.2リッターターボ車にマニアックな6段MTが追加されたこと以外、走行メカニズムについての変更点は資料その他には明記されない。ただ、担当氏によると、日本仕様のショックアブソーバーがすべて、従来のドイツ由来SACHS(ザックス)製から日本の日立オートモティブシステムズ(以下、日立)製に変更されたそうだ。
日立のショックといえば、もともとは2015年に買収した旧トキコの製品である。今回の変更は性能や味つけの改良というより、安定した部品供給(とおそらくコストダウン)のためという理由が大きいという。これまでのザックスは全数が輸入品だったが、日立はご想像のとおり日本製だ。
GRスポーツに乗る前に、そのマイナーチェンジ版C-HRの標準モデルも、特設コースで“お試し”することができた。新旧ショックの減衰力に大きな差はないというが、部品自体が別物になったわけだから、最適化=再セッティングは施されている。
あくまで特設パイロンコースでの印象だけでいうと、新しい日立のアシは動き出しが柔らかく滑らかだ。そこから想像するに、市街地などの低速域ではザックスよりわずかに乗り心地が快適になっていると思われる。もっとも、実際に街中で走ってもそうなのか、あるいは高速での安定性や大入力の吸収力は犠牲になっていないのか……はまた別の機会にゆずりたい。
最近でこそ国内販売が失速気味となっていたC-HRだが、基本的にはグローバルでの成功商品だけに、今回のマイナーチェンジも細部のデザインと装備類のアップデートがメインの正攻法。ただ、国内月販目標が3600台(発売当時は6000台)と控えめに修正されたのは残念といえば残念だが、今では同門内に「RAV4」が復活するなどの市場環境の変化もあり、いたしかたない面もあろう。
1.2リッターターボ車にマニアックな6段MTが追加されたこと以外、走行メカニズムについての変更点は資料その他には明記されない。ただ、担当氏によると、日本仕様のショックアブソーバーがすべて、従来のドイツ由来SACHS(ザックス)製から日本の日立オートモティブシステムズ(以下、日立)製に変更されたそうだ。
日立のショックといえば、もともとは2015年に買収した旧トキコの製品である。今回の変更は性能や味つけの改良というより、安定した部品供給(とおそらくコストダウン)のためという理由が大きいという。これまでのザックスは全数が輸入品だったが、日立はご想像のとおり日本製だ。
GRスポーツに乗る前に、そのマイナーチェンジ版C-HRの標準モデルも、特設コースで“お試し”することができた。新旧ショックの減衰力に大きな差はないというが、部品自体が別物になったわけだから、最適化=再セッティングは施されている。
あくまで特設パイロンコースでの印象だけでいうと、新しい日立のアシは動き出しが柔らかく滑らかだ。そこから想像するに、市街地などの低速域ではザックスよりわずかに乗り心地が快適になっていると思われる。もっとも、実際に街中で走ってもそうなのか、あるいは高速での安定性や大入力の吸収力は犠牲になっていないのか……はまた別の機会にゆずりたい。
“型式指定”のメリット
というわけで、GRスポーツである。C-HRのGRスポーツは1.2リッターターボとハイブリッドという両パワーユニットに設定されるが、本格スポーツモデルらしく、1.2リッターターボのほうは6段MTのみの用意となる。そして、ほかのGRスポーツと同じくパワートレインに手は入らず、専用部分は基本的にはシャシーと内外装備品だけである。
それはともかく、C-HRのGRスポーツは登録が“型式指定”となることもじつは大きな特徴である。これまでのGRスポーツは「アクア」や「ヴィッツ」などの一部車種を除いて、1台ずつの持ち込み登録となっていたからだ。
この点はユーザー側に直接のデメリットはないが、販売店にはそれなりに負担である。よって、最初からGRスポーツ決め打ちのアツい支持層はともかく、通常グレードと迷っているライトな潜在顧客に対して、販売現場ではGRスポーツが積極的に薦められにくい……という現実があったのも容易に想像できる。そういうこともあって、今後出てくるGRスポーツは“全車型式指定”を目指すんだとか。
型式指定かどうかが、われわれ末端ユーザーに直接的な影響がないといっても、今回のクルマの仕立てにまったく影響がなかったわけではない。型式指定を取得するために極端なローダウンはせず、今回の地上高は通常モデルと同じ140mmをキープ。19インチのホイール径は専用だが、タイヤ幅はあえて通常の「G」グレードと共通の225とされている。
GRスポーツ専用となるタイヤはヨコハマの「アドバン フレバ」である。GRスポーツでは初採用銘柄となるが、それはコネや忖度を排除して虚心坦懐に選択した結果という。開発陣によると「そもそも225/45R19サイズでは選択肢が少ないこともあり、フレバが一番良かったというより、履いた瞬間にほぼ満場一致で“これだ!”でした」というくらい、今回の開発では圧倒的な性能を示したという。
それはともかく、C-HRのGRスポーツは登録が“型式指定”となることもじつは大きな特徴である。これまでのGRスポーツは「アクア」や「ヴィッツ」などの一部車種を除いて、1台ずつの持ち込み登録となっていたからだ。
この点はユーザー側に直接のデメリットはないが、販売店にはそれなりに負担である。よって、最初からGRスポーツ決め打ちのアツい支持層はともかく、通常グレードと迷っているライトな潜在顧客に対して、販売現場ではGRスポーツが積極的に薦められにくい……という現実があったのも容易に想像できる。そういうこともあって、今後出てくるGRスポーツは“全車型式指定”を目指すんだとか。
型式指定かどうかが、われわれ末端ユーザーに直接的な影響がないといっても、今回のクルマの仕立てにまったく影響がなかったわけではない。型式指定を取得するために極端なローダウンはせず、今回の地上高は通常モデルと同じ140mmをキープ。19インチのホイール径は専用だが、タイヤ幅はあえて通常の「G」グレードと共通の225とされている。
GRスポーツ専用となるタイヤはヨコハマの「アドバン フレバ」である。GRスポーツでは初採用銘柄となるが、それはコネや忖度を排除して虚心坦懐に選択した結果という。開発陣によると「そもそも225/45R19サイズでは選択肢が少ないこともあり、フレバが一番良かったというより、履いた瞬間にほぼ満場一致で“これだ!”でした」というくらい、今回の開発では圧倒的な性能を示したという。
タイヤの性能を最大限に
試乗会が同時開催となった「コペンGRスポーツ」と同様に、まずは特設のパイロンコースで走ったが、乗った瞬間にクルマとの一体感が、標準モデルより明確に高い。
ステアリングやスロットル操作に対する反応の遅れがはっきりと減り、クルマの動き全体があからさまに正確になっている。C-HRの標準モデルも単独で乗るかぎりは、反応遅れや不正確さなどはいっさい気にならないのだが、GRスポーツと比較すると、それを実感せざるをえない。それは単純に敏感になったのとはちがう。動き全体が硬質に、そして走行軌跡が明らかにタイトになり、結果的にクルマが軽くなったように感じるのだ。
「その感覚は主にタイヤによるところが大きいと思います」と担当氏。今回のGRスポーツは車体方面ではフロアトンネルに補強部材を追加して、バネ類やショックが専用チューンとなっている。ただ、それは「まずはタイヤを決めて、そのタイヤ性能を最大限に引き出す」という手順と思想で開発されたという。
実際、バネレートやショック減衰力は専用設定となるが、部品自体は基本的に同じもので、グレードアップしているわけではない。さらにコイルスプリングやショックは標準モデルより引き締められているものの、スタビライザーは逆に標準より柔らかいのだそうだ。
「硬くしたコイルスプリングにスタビライザーがそのままだと、ロール剛性が高くなりすぎて、ツッパリ感が出てしまいます。サスペンションは動かしてナンボなので……」と担当氏も語るように、GRスポーツの期するところはC-HRでも変わりない。ガチガチのサーキットマシンではなく、あくまで公道で気持ちよく走るための寸止めの味つけだ。
ステアリングやスロットル操作に対する反応の遅れがはっきりと減り、クルマの動き全体があからさまに正確になっている。C-HRの標準モデルも単独で乗るかぎりは、反応遅れや不正確さなどはいっさい気にならないのだが、GRスポーツと比較すると、それを実感せざるをえない。それは単純に敏感になったのとはちがう。動き全体が硬質に、そして走行軌跡が明らかにタイトになり、結果的にクルマが軽くなったように感じるのだ。
「その感覚は主にタイヤによるところが大きいと思います」と担当氏。今回のGRスポーツは車体方面ではフロアトンネルに補強部材を追加して、バネ類やショックが専用チューンとなっている。ただ、それは「まずはタイヤを決めて、そのタイヤ性能を最大限に引き出す」という手順と思想で開発されたという。
実際、バネレートやショック減衰力は専用設定となるが、部品自体は基本的に同じもので、グレードアップしているわけではない。さらにコイルスプリングやショックは標準モデルより引き締められているものの、スタビライザーは逆に標準より柔らかいのだそうだ。
「硬くしたコイルスプリングにスタビライザーがそのままだと、ロール剛性が高くなりすぎて、ツッパリ感が出てしまいます。サスペンションは動かしてナンボなので……」と担当氏も語るように、GRスポーツの期するところはC-HRでも変わりない。ガチガチのサーキットマシンではなく、あくまで公道で気持ちよく走るための寸止めの味つけだ。
“分かってる感”をアピールできる6段MT
試乗は特設パイロンコースと会場近くの西湘バイパスのみの短時間なものにかぎられたが、その乗り心地は標準モデルより明らかに引き締まっているものの、なるほど「できれば全グレードでこれくらいの硬さでもいいのでは?」と思える程度のほどほど感である。高速ICなどによくある深めのカーブやレーンチェンジなどでは、アドバンが提供するハイグリップでシャープなレスポンスを、ほどよいロールと濃厚な接地感で受け止める。その効能は、チョイ乗りでも気づくくらい鮮明だ。
今回はMTのC-HRも初体験だったが、「カローラ」などでの印象と同様に、パワートレイン単体は薄味というほかない。ただ、普通のエンジンにあえてのMT、ひと手間かかったスポーツシャシー、そしてSUVクーペルック……というその内容は“クルマ分かってる感”をアピールできる興味深い商品性である。
こういうシャシーの微妙な味わいを売りとするクルマに、今回のようなパッと乗りで即座に好印象を抱いたもうひとつの背景には、シートやステアリングホイールといったインターフェイスの心地よさもあるように思えた。
シートは「プリウスPHV“GRスポーツ”」のものをベースとする。フレームはノーマルのままで、サイドサポートをノーマルより硬くしつつ、座面はあえてノーマルより柔らかくしているのが面白い。なるほどホールド性と乗り心地のバランスがとてもいい。
ステアリングホイールはもともとは「86」の後期型用にトヨタのスポーツ車両統括部(現GRカンパニー)が開発したものの流れにある。太すぎず握りやすいグリップや慣性マスを感じさせない操作性は、個人的に絶品と思う。ちなみに、このステアリングホイールは「GRステアリング」として、ノーマルのC-HRに単品でのオプション装着も可能だそうなので、これだけでも選ぶ価値はあると思う。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
今回はMTのC-HRも初体験だったが、「カローラ」などでの印象と同様に、パワートレイン単体は薄味というほかない。ただ、普通のエンジンにあえてのMT、ひと手間かかったスポーツシャシー、そしてSUVクーペルック……というその内容は“クルマ分かってる感”をアピールできる興味深い商品性である。
こういうシャシーの微妙な味わいを売りとするクルマに、今回のようなパッと乗りで即座に好印象を抱いたもうひとつの背景には、シートやステアリングホイールといったインターフェイスの心地よさもあるように思えた。
シートは「プリウスPHV“GRスポーツ”」のものをベースとする。フレームはノーマルのままで、サイドサポートをノーマルより硬くしつつ、座面はあえてノーマルより柔らかくしているのが面白い。なるほどホールド性と乗り心地のバランスがとてもいい。
ステアリングホイールはもともとは「86」の後期型用にトヨタのスポーツ車両統括部(現GRカンパニー)が開発したものの流れにある。太すぎず握りやすいグリップや慣性マスを感じさせない操作性は、個人的に絶品と思う。ちなみに、このステアリングホイールは「GRステアリング」として、ノーマルのC-HRに単品でのオプション装着も可能だそうなので、これだけでも選ぶ価値はあると思う。
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