【試乗記】ホンダ・フィット プロトタイプ
- ホンダ・フィット プロトタイプ
ニャンコのようなワンコ
2020年2月の発売が予告されている、4代目「ホンダ・フィット」。メーカーの期待を背負うコンパクトカーは、ユーザーを満足させるクルマに仕上がっているか? 開発用のテストコースで、その実力を確かめた。
重視したのは“感性性能”
新型フィットに初めて乗ったのは、北海道・鷹栖のテストコースで行われた先行試乗会である。発表・発売前だから、価格はもちろんのこと、細かなスペックも公表されていなかった。
ボディーが5ナンバーサイズを守ったことはわかったが、具体的なボディーサイズの発表はなかった。パワートレインは1.5リッター4気筒の2モーターハイブリッドと1.3リッター4気筒の2本立てだが、出力、トルクなどのスペックは明らかにされなかった。
だが、新型フィットの大きなテーマはいみじくも「数値だけじゃないこと」である。先代モデルが登場したのは2013年9月。最初からハイブリッドが品揃えされた初のフィットでもあり、話題は「トヨタ・アクア」と覇を競うハイブリッドモデルのカタログ燃費に集中した。それに対する後悔の弁(?)は開発責任者、田中健樹氏のインタビューをお読みいただきたいが、そこからスタートした4代目フィットは、必ずしも数値では測れない“感性性能”を重視したという。
細いAピラーと動物の目のようなヘッドランプが特徴の5ドアボディーは、歴代フィットのなかで一番柔らかいデザインだと思う。チーフデザイナーによれば、デザインの裏テーマは「柴犬」だったそうだ。HOME(ホーム)、NESS(ネス)、LUXE(リュクス)といった女性誌受けしそうなグレード名も新しい。人柄ならぬ、車柄みたいなことで言うと、「テクノ、やめました」という感じである。
ボディーが5ナンバーサイズを守ったことはわかったが、具体的なボディーサイズの発表はなかった。パワートレインは1.5リッター4気筒の2モーターハイブリッドと1.3リッター4気筒の2本立てだが、出力、トルクなどのスペックは明らかにされなかった。
だが、新型フィットの大きなテーマはいみじくも「数値だけじゃないこと」である。先代モデルが登場したのは2013年9月。最初からハイブリッドが品揃えされた初のフィットでもあり、話題は「トヨタ・アクア」と覇を競うハイブリッドモデルのカタログ燃費に集中した。それに対する後悔の弁(?)は開発責任者、田中健樹氏のインタビューをお読みいただきたいが、そこからスタートした4代目フィットは、必ずしも数値では測れない“感性性能”を重視したという。
細いAピラーと動物の目のようなヘッドランプが特徴の5ドアボディーは、歴代フィットのなかで一番柔らかいデザインだと思う。チーフデザイナーによれば、デザインの裏テーマは「柴犬」だったそうだ。HOME(ホーム)、NESS(ネス)、LUXE(リュクス)といった女性誌受けしそうなグレード名も新しい。人柄ならぬ、車柄みたいなことで言うと、「テクノ、やめました」という感じである。
新築のような変わりよう
あたりまえだが、フィットの新型は旧型のモデルチェンジ版である。モーターショーの習作を市販化したようなオールニューの新型車ではない。それを思うと、乗り込んだとたん、その様変わりにはちょっとびっくりだ。最初の試乗車はハイブリッドのリュクス。クラス初の本革シートがもたらすシックな雰囲気にも面食らったが、それよりも前席から見える部屋の“つくり”がすっかり新しい。
先代も前席両サイドに小さな三角ガラスがあったが、今度はその三角形の面積を広げ、フロントピラーがはっきり2本立てになった。前方のAピラーは面相筆で描いたように細い。前面衝突時は衝撃を太いほうのBピラーに逃がす構造で、Aピラーはフロントガラスを支えるだけの存在だという。
低い位置にあるダッシュボードにメーターフードの隆起はない。上面はテーブルのように平らだ。ワイパーはガラス越しにはまったく見えない。それらのおかげで、前席からの視野は上下にも左右にも広く、そしてクリーンである。「気持ちのいい視界」が新型フィットの大きなテーマだったという。たしかにこれまでのコンパクトハッチにはなかった新鮮な居住まいだ。
メーターは小さくてシンプルな液晶パネル。一方、ダッシュボード中央にはタブレット型PCのようなモニターが備え付けられる。先代ハイブリッドのシフトセレクターはゲーム機のコントローラー的だったが、新型は通常のI型パターンに変わった。駐車ブレーキは電気式に変更され、レバーは小さなスイッチにとって代わった。おかげでセンターフロアまわりもすっきりした。クルマが「走る家」だとすると、新型フィットは家の新築感がハンパないのである。ちなみに、シリーズを代表する内装は、ホームに備わる白のシートと白磁のような加飾パネルの組み合わせで、これが開発当初からのイメージカラーならぬイメージインテリアだったという。
先代も前席両サイドに小さな三角ガラスがあったが、今度はその三角形の面積を広げ、フロントピラーがはっきり2本立てになった。前方のAピラーは面相筆で描いたように細い。前面衝突時は衝撃を太いほうのBピラーに逃がす構造で、Aピラーはフロントガラスを支えるだけの存在だという。
低い位置にあるダッシュボードにメーターフードの隆起はない。上面はテーブルのように平らだ。ワイパーはガラス越しにはまったく見えない。それらのおかげで、前席からの視野は上下にも左右にも広く、そしてクリーンである。「気持ちのいい視界」が新型フィットの大きなテーマだったという。たしかにこれまでのコンパクトハッチにはなかった新鮮な居住まいだ。
メーターは小さくてシンプルな液晶パネル。一方、ダッシュボード中央にはタブレット型PCのようなモニターが備え付けられる。先代ハイブリッドのシフトセレクターはゲーム機のコントローラー的だったが、新型は通常のI型パターンに変わった。駐車ブレーキは電気式に変更され、レバーは小さなスイッチにとって代わった。おかげでセンターフロアまわりもすっきりした。クルマが「走る家」だとすると、新型フィットは家の新築感がハンパないのである。ちなみに、シリーズを代表する内装は、ホームに備わる白のシートと白磁のような加飾パネルの組み合わせで、これが開発当初からのイメージカラーならぬイメージインテリアだったという。
フランス車を思わせる足さばき
新しい1.5リッターハイブリッドは、新生インサイト用のパワートレインを小型化したものである。発電用と駆動用を独立させた2モーター式で、先代よりもEV走行領域が増えている。今後この2モーターハイブリッド系は「e:HEV」と名乗り、新型フィットでもテールゲートに付くロゴがハイブリッドの目印になる。
走りだすと、しかしまず最初に感じたのは、乗り心地の新しさだった。ひとくちにアシの動きがしなやかになった。ステアリングをきると、ボディーが傾く。フロントガラスの下縁が線を引いたようにまっすぐなので、傾きがよけい強調されるのだが、そのロール感が上質で気持ちいい。猫足のフレンチコンパクトを思わせる。
サスペンションの開発テーマは、低フリクション化だったという。サスペンションの動き始めが渋く、初期搖動(ようどう)についていけない。フロントが沈まないから、リアも沈められない。という理屈で硬くせざるを得なかったスパイラルを断ち切るために、フロントを中心にダンパーやブッシュなどを低フリクション化して、サスペンションの初期応答向上を図った。そんな説明を聞いたのは試乗後だったが、たしかにその成果は体感できた。
「インサイト」で好印象だった1.5リッターハイブリッドは、テストコースで乗る限り、なんら不満なしである。旧型のワンモーターユニットは7段DCT(デュアルクラッチ変速機)だったが、今度は電気式無段変速機。といっても、フル加速すると有段ステップで自然にシフトアップしてゆく。パドルシフトを用意してもいいのではと思った。
走りだすと、しかしまず最初に感じたのは、乗り心地の新しさだった。ひとくちにアシの動きがしなやかになった。ステアリングをきると、ボディーが傾く。フロントガラスの下縁が線を引いたようにまっすぐなので、傾きがよけい強調されるのだが、そのロール感が上質で気持ちいい。猫足のフレンチコンパクトを思わせる。
サスペンションの開発テーマは、低フリクション化だったという。サスペンションの動き始めが渋く、初期搖動(ようどう)についていけない。フロントが沈まないから、リアも沈められない。という理屈で硬くせざるを得なかったスパイラルを断ち切るために、フロントを中心にダンパーやブッシュなどを低フリクション化して、サスペンションの初期応答向上を図った。そんな説明を聞いたのは試乗後だったが、たしかにその成果は体感できた。
「インサイト」で好印象だった1.5リッターハイブリッドは、テストコースで乗る限り、なんら不満なしである。旧型のワンモーターユニットは7段DCT(デュアルクラッチ変速機)だったが、今度は電気式無段変速機。といっても、フル加速すると有段ステップで自然にシフトアップしてゆく。パドルシフトを用意してもいいのではと思った。
単なる進化にとどまらない
もう1台、1.3リッターのネスにも乗ることができた。フィットネスのシャレから生まれたこのグレードは、スポーティーなイメージの内装トリムをまとうが、ハードの味つけがスポーツというわけではない。どのグレードでも、基本、同じ乗り味にしてあるというのが、田中LPLの説明だ。
編集部Sさんは、1.3リッターのほうがノーズが軽くて、ハイブリッドより好印象だったと言った。筆者はそれほど大きな違いを感じなかった。というか、今度のフィットはパワートレインによる印象の差が小さいと思った。なぜなら、前方視界の新鮮さや、しなやかさを増した足まわりのほうがパワートレインよりもニュースだからである。
フィットは世界の10拠点で生産されるグローバルカーだが、「シビック」や「アコード」と違って、最大のマーケットは日本である。ハイブリッドはこれまで国内専用だった。しかし、電動化、風雲急を告げる欧州市場は、今後、ハイブリッドのみで勝負するという。
「シトロエンC3」をベンチマークのひとつにあげた新型フィットは、たしかに日本車としては珍しくフレンチコンパクトのテイストを漂わせるクルマである。単なる正常進化ではない、フィットの新境地を感じさせる。
それだけに、電動パーキングブレーキの不具合とされるつまずきで発売が遅れたのは残念だ。発売後でなかったのは不幸中の幸いかもしれないが、2019年末のカー・オブ・ザ・イヤーまつりにはエントリーできなかった。開発スタッフの情熱や意欲を思うと、ますます残念だ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)
編集部Sさんは、1.3リッターのほうがノーズが軽くて、ハイブリッドより好印象だったと言った。筆者はそれほど大きな違いを感じなかった。というか、今度のフィットはパワートレインによる印象の差が小さいと思った。なぜなら、前方視界の新鮮さや、しなやかさを増した足まわりのほうがパワートレインよりもニュースだからである。
フィットは世界の10拠点で生産されるグローバルカーだが、「シビック」や「アコード」と違って、最大のマーケットは日本である。ハイブリッドはこれまで国内専用だった。しかし、電動化、風雲急を告げる欧州市場は、今後、ハイブリッドのみで勝負するという。
「シトロエンC3」をベンチマークのひとつにあげた新型フィットは、たしかに日本車としては珍しくフレンチコンパクトのテイストを漂わせるクルマである。単なる正常進化ではない、フィットの新境地を感じさせる。
それだけに、電動パーキングブレーキの不具合とされるつまずきで発売が遅れたのは残念だ。発売後でなかったのは不幸中の幸いかもしれないが、2019年末のカー・オブ・ザ・イヤーまつりにはエントリーできなかった。開発スタッフの情熱や意欲を思うと、ますます残念だ。
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