【試乗記】ホンダ・ヴェゼル モデューロX

ホンダ・ヴェゼル モデューロX【試乗記】
ホンダ・ヴェゼル モデューロX

名機は晩成す

「どんな道でも、誰もが楽しく運転できるコンプリートカー」を目指して開発される「モデューロX」シリーズ。コンパクトSUV「ホンダ・ヴェゼル」をベースとする最新型は、その理想を実現するクルマに仕上がっているか?

人気車種を素材に開発

「ヴェゼル モデューロX」はホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」をベースに、トータルバランスを追求しつつ専用のカスタマイズパーツを組み込んだコンプリートカー。2019年11月末に発売された。モデューロXシリーズとしては「N-BOX」「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」「S660」に続く6車種目となる。
「ヴェゼル モデューロX」はホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」をベースに、トータルバランスを追求しつつ専用のカスタマイズパーツを組み込んだコンプリートカー。2019年11月末に発売された。モデューロXシリーズとしては「N-BOX」「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」「S660」に続く6車種目となる。
フロントまわりは、ブラックをアクセントカラーとしたグリルとエアロバンパーが特徴。専用のLED式フォグランプも備わる。
フロントまわりは、ブラックをアクセントカラーとしたグリルとエアロバンパーが特徴。専用のLED式フォグランプも備わる。
リアエンドには、ブラックの大型テールゲートスポイラーが装着される。
リアエンドには、ブラックの大型テールゲートスポイラーが装着される。
インテリアカラーはブラックのみ。デザインについてはベースの「ホンダ・ヴェゼル」のものと変わらない。
インテリアカラーはブラックのみ。デザインについてはベースの「ホンダ・ヴェゼル」のものと変わらない。
軽自動車の好調ぶりばかりクローズアップされてしまう、昨今のホンダの四輪モデル。ただし、そんな状況にも間もなく変化がおとずれるかもしれない。ご存じの通り、新型「フィット」のデビューが秒読み段階にあるからだ。

そんなニューカマーの登場は、もちろん待ち遠しい限り。一方、取りあえず現時点で「軽自動車以外では孤軍奮闘状態」となっているのが、2013年末にブランニューモデルとして発売されるやクリーンヒットを記録したヴェゼルだ。

日本市場を強く意識したことが明らかな「大き過ぎないサイズ」や、200万円+αからというスターティングプライス、ハイブリッドバージョンや4WD仕様といった充実のラインナップ等々、「日本でのヒットも当然」と納得できる理由は数々存在する。

もっとも、そんな新たな鉱脈として発掘された“身の丈SUV”のポジションをライバルも放っておくはずはない。「マツダCX-3」や「トヨタC-HR」を筆頭に、全長が4m台前半のいわゆる“コンパクトSUV”は、アッと言う間に増殖した欧州勢の作品も含め、百花繚乱(りょうらん)の状況だ。

そんな混戦模様の中、“普通のSUV”から一歩抜け出し、走りの質感に一家言あるモデルとして存在をアピールすることになりそうなのが、ここに紹介する「ヴェゼル モデューロX」である。純正パーツメーカーであるホンダアクセスが手がけるコンプリートモデル、モデューロXは、2013年1月に発売された「N-BOXモデューロX」が第1弾で、今回のヴェゼルは6番目となる。

「ヴェゼル モデューロX」はホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」をベースに、トータルバランスを追求しつつ専用のカスタマイズパーツを組み込んだコンプリートカー。2019年11月末に発売された。モデューロXシリーズとしては「N-BOX」「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」「S660」に続く6車種目となる。
「ヴェゼル モデューロX」はホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」をベースに、トータルバランスを追求しつつ専用のカスタマイズパーツを組み込んだコンプリートカー。2019年11月末に発売された。モデューロXシリーズとしては「N-BOX」「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」「S660」に続く6車種目となる。
フロントまわりは、ブラックをアクセントカラーとしたグリルとエアロバンパーが特徴。専用のLED式フォグランプも備わる。
フロントまわりは、ブラックをアクセントカラーとしたグリルとエアロバンパーが特徴。専用のLED式フォグランプも備わる。
リアエンドには、ブラックの大型テールゲートスポイラーが装着される。
リアエンドには、ブラックの大型テールゲートスポイラーが装着される。
インテリアカラーはブラックのみ。デザインについてはベースの「ホンダ・ヴェゼル」のものと変わらない。
インテリアカラーはブラックのみ。デザインについてはベースの「ホンダ・ヴェゼル」のものと変わらない。

過去5モデルの流儀は継承

ブラックのホイールアーチモールやサイドガーニッシュも「ヴェゼル モデューロX」の特徴のひとつ。
ブラックのホイールアーチモールやサイドガーニッシュも「ヴェゼル モデューロX」の特徴のひとつ。
「ヴェゼル モデューロX」のサスペンション(左がリアで右がフロント)。ラインナップされる全3グレードそれぞれに対して、「上質でしなやかな走り」が実現できるよう個別にセッティングが施されている。
「ヴェゼル モデューロX」のサスペンション(左がリアで右がフロント)。ラインナップされる全3グレードそれぞれに対して、「上質でしなやかな走り」が実現できるよう個別にセッティングが施されている。
完成品のリアバンパー(写真上)と、その開発段階(下)の比較展示。発泡ウレタン製の試作品を削っては試走を重ね、理想の形状を追求したという。
完成品のリアバンパー(写真上)と、その開発段階(下)の比較展示。発泡ウレタン製の試作品を削っては試走を重ね、理想の形状を追求したという。
今回試乗した2台の「ヴェゼル モデューロX」。左がガソリンターボのFF車で、右はハイブリッドの4WD車。
今回試乗した2台の「ヴェゼル モデューロX」。左がガソリンターボのFF車で、右はハイブリッドの4WD車。
ベースとなるモデルが発売されてからすでに丸6年が経過していることを考えると、「ずいぶん待たされたナ」という印象は拭えないのが、ヴェゼルのモデューロX。どうやら、そんな発売タイミングの決定や、使用パーツのサプライヤー選択といったポイントに関しては、「親会社の意向も反映させながら子会社が手がけている」がゆえの難しさもあるようだ。

そんなハードルを乗り越えつつ(?)、ようやく日の目を見ることとなったヴェゼル モデューロXの内容は、これまでの歴代各モデルに採用されたものと同様の、このスペシャルブランドならではの流儀にのっとったものだ。

前後バンパーやルーフスポイラー、ディフューザー状のロアガーニッシュなどの専用ボディーキットは、より個性的でスポーティーなアピアランスを演出すると同時に、「実走行による作り込みによる、最適な空力バランスの実現」がうたわれるもの。吟味されたスプリングやダンパーで構成される専用のサスペンションは、路面の不整や横風などによる外乱の影響を抑え、連続した段差でのおさまりのよさやフラットライド感の向上などが主な目標。それもまた、「モデューロXのいつもの狙い通り」といえる。

ベース車として選択されたのは、2019年に追加設定されたシリーズ初のターボエンジン搭載車「ツーリング」と、モーターを組み込んだ7段DCTを1.5リッター自然吸気エンジンと組み合わせた独創のシステムを搭載する「ハイブリッド」の2タイプ。後者にモデューロXとしては初となる4WD仕様が設定されているのもトピックだ。

ブラックのホイールアーチモールやサイドガーニッシュも「ヴェゼル モデューロX」の特徴のひとつ。
ブラックのホイールアーチモールやサイドガーニッシュも「ヴェゼル モデューロX」の特徴のひとつ。
「ヴェゼル モデューロX」のサスペンション(左がリアで右がフロント)。ラインナップされる全3グレードそれぞれに対して、「上質でしなやかな走り」が実現できるよう個別にセッティングが施されている。
「ヴェゼル モデューロX」のサスペンション(左がリアで右がフロント)。ラインナップされる全3グレードそれぞれに対して、「上質でしなやかな走り」が実現できるよう個別にセッティングが施されている。
完成品のリアバンパー(写真上)と、その開発段階(下)の比較展示。発泡ウレタン製の試作品を削っては試走を重ね、理想の形状を追求したという。
完成品のリアバンパー(写真上)と、その開発段階(下)の比較展示。発泡ウレタン製の試作品を削っては試走を重ね、理想の形状を追求したという。
今回試乗した2台の「ヴェゼル モデューロX」。左がガソリンターボのFF車で、右はハイブリッドの4WD車。
今回試乗した2台の「ヴェゼル モデューロX」。左がガソリンターボのFF車で、右はハイブリッドの4WD車。

インテリアにもこだわりが

「モデューロX」のチューニングでは、さまざまな走行環境でクルマが思い通りのラインを描き、より楽しく快適に走れることが理想とされている。
「モデューロX」のチューニングでは、さまざまな走行環境でクルマが思い通りのラインを描き、より楽しく快適に走れることが理想とされている。
専用デザインのアルミホイール。4WD車には17インチのもの(写真)が、FF車には同じデザインの18インチのものが組み合わされる。
専用デザインのアルミホイール。4WD車には17インチのもの(写真)が、FF車には同じデザインの18インチのものが組み合わされる。
「ヴェゼル モデューロX」には、フレームから新規開発した専用フロントスポーツシートが装着される。表皮は「プライムスムース」および「ラックススエード」で、シートヒーターも備わる。
「ヴェゼル モデューロX」には、フレームから新規開発した専用フロントスポーツシートが装着される。表皮は「プライムスムース」および「ラックススエード」で、シートヒーターも備わる。
後席も専用仕立て。表皮は「ウルトラスエード」と合成皮革のコンピとなる。
後席も専用仕立て。表皮は「ウルトラスエード」と合成皮革のコンピとなる。
テストドライブを行ったのは、そんなハイブリッドの4WD車と、FF車のみ用意されるツーリングの2台。ちなみに、前述のように基本的な狙いどころとされた走りのテイストは両者で共通とされながらも、「ツーリングはよりスポーティーなセッティングを目指し、ハイブリッドはコンフォート寄りを狙った」という開発陣からのコメントが聞かれたのは、ヴェゼルならではの特徴といえる。

ところでハイブリッドが履くシューズのサイズは、FF車が18インチで4WD車は17インチと違いがある。前述のように、搭載されるパワーパックの違いで走りの狙いどころを微妙に変えた2つのタイプに、さらなるテイストの差異化を図ったのかと思いきや、実はこちらは「ベース車の仕様の違いがそのまま反映された結果」という。

既存のヴェゼルのラインナップで18インチホイールが設定されるのは「RS」グレード。そしてこれはFF車のみであるがゆえに、4WDシステムの持ち主に対しては、「18インチを履かせたくてもかなわなかった」というのが真相のようだ。

ドアを開き、ドライバーズシートへと乗り込もうとすると、他のモデューロXよりもベース車との雰囲気が大きく異なることに気がついた。理由はすぐに判明。このモデルには、他のヴェゼルとは全く異なるデザインのフロントシートが、モデューロXとして初めて採用されているのだ。実は、リアのシートもフロントに合わせてコーディネートされたデザイン。それゆえ雰囲気が異なるのも当然。モデューロXならではのこだわりは、このモデルでまた新たなステージへと踏み出すことになったのだ。

「モデューロX」のチューニングでは、さまざまな走行環境でクルマが思い通りのラインを描き、より楽しく快適に走れることが理想とされている。
「モデューロX」のチューニングでは、さまざまな走行環境でクルマが思い通りのラインを描き、より楽しく快適に走れることが理想とされている。
専用デザインのアルミホイール。4WD車には17インチのもの(写真)が、FF車には同じデザインの18インチのものが組み合わされる。
専用デザインのアルミホイール。4WD車には17インチのもの(写真)が、FF車には同じデザインの18インチのものが組み合わされる。
「ヴェゼル モデューロX」には、フレームから新規開発した専用フロントスポーツシートが装着される。表皮は「プライムスムース」および「ラックススエード」で、シートヒーターも備わる。
「ヴェゼル モデューロX」には、フレームから新規開発した専用フロントスポーツシートが装着される。表皮は「プライムスムース」および「ラックススエード」で、シートヒーターも備わる。
後席も専用仕立て。表皮は「ウルトラスエード」と合成皮革のコンピとなる。
後席も専用仕立て。表皮は「ウルトラスエード」と合成皮革のコンピとなる。

「あれれ?」なポイントも

「モデューロX」でSUVがラインナップされるのは初。4WD車(写真)も初めて選べるようになった。
「モデューロX」でSUVがラインナップされるのは初。4WD車(写真)も初めて選べるようになった。
1.5リッターエンジンをベースとするハイブリッドユニット。トランスミッションは7段ATが組み合わされる。
1.5リッターエンジンをベースとするハイブリッドユニット。トランスミッションは7段ATが組み合わされる。
専用アルミホイールの裏面。スポーク部には肉抜き加工が施されている。ちなみにモデューロは、1994年にホイールのブランドとしてスタートした。
専用アルミホイールの裏面。スポーク部には肉抜き加工が施されている。ちなみにモデューロは、1994年にホイールのブランドとしてスタートした。
ラゲッジスペースはオリジナルの「ヴェゼル」と同様。後席の背もたれを前方に倒して長尺物を積載したり、後席の座面をチップアップして背の高い荷物を積んだりできる。
ラゲッジスペースはオリジナルの「ヴェゼル」と同様。後席の背もたれを前方に倒して長尺物を積載したり、後席の座面をチップアップして背の高い荷物を積んだりできる。
ボディーカラーは(写真手前から)「プラチナホワイト・パール」「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」「プレミアムクリスタルブルー・メタリック」のほか、写真にない「クリスタルブラック・パール」を加えた4色が選べる。
ボディーカラーは(写真手前から)「プラチナホワイト・パール」「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」「プレミアムクリスタルブルー・メタリック」のほか、写真にない「クリスタルブラック・パール」を加えた4色が選べる。
まずはツーリングでスタート。と、すぐに実感できるのはモデューロXの名を冠するモデルに共通する、納得の操縦安定性だ。直進性はすこぶる高く、狙ったライン上をきっちり踏んでいけるトレース性もバッチリ。「そうそう、モデューロXはこうでなくちゃ」という思いは、ハイブリッドに乗り換えても同様。今回は、横浜基点で首都高がメインのテストドライブとなったが、前述のような直進性の高さは、そんな“2桁スピード”のシチュエーションでも、計算された空力性能がしっかり効果を発揮していることを実感できるものでもあった。

一方で、率直なところ「あれれ?」と思ったのは、いつものモデューロXであればそんな操安性の向上よりもむしろ感動させられる快適性が、今回に限っては必ずしも手放しで褒めたくなる水準には達していなかったことだった。

登場以来すでに幾度かのリファインが実施され、そのたびに「より上質な走り」がうたわれつつも、筆者が失望し続けてきたベース車に比べれば、今回のモデューロXがそれをしのぐ仕上がりの持ち主であることは間違いない。それでも、内臓と共振するがごとく揺すられ感が強めに感じられたことは、ちょっと不満に思えたポイントだ。加えて言うなら、それはツーリングの方がより強めの傾向にあったが、そこのところは前述サスセッティングの方向性や装着シューズのサイズ違いを踏まえれば、「額面通りの差」と受け取ってよさそうだ。

そうした快適性に関する“違和感”について開発陣にハナシを聞いてみると、どうもこのモデルでは、ダンパーに特有の“構造に関する課題”が残されているように感じられた。そしてもちろん、開発陣もそうしたポイントを「問題ナシ」としているわけでは決してない。

となれば、今回確認できた秀でた操安性をキープしながら、さらに上質なテイストが実現されるのも時間の問題とみえる。彼ら“走りのオタク集団”の追究に、終着点などあろうはずがないのだから。

(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)

「モデューロX」でSUVがラインナップされるのは初。4WD車(写真)も初めて選べるようになった。
「モデューロX」でSUVがラインナップされるのは初。4WD車(写真)も初めて選べるようになった。
1.5リッターエンジンをベースとするハイブリッドユニット。トランスミッションは7段ATが組み合わされる。
1.5リッターエンジンをベースとするハイブリッドユニット。トランスミッションは7段ATが組み合わされる。
専用アルミホイールの裏面。スポーク部には肉抜き加工が施されている。ちなみにモデューロは、1994年にホイールのブランドとしてスタートした。
専用アルミホイールの裏面。スポーク部には肉抜き加工が施されている。ちなみにモデューロは、1994年にホイールのブランドとしてスタートした。
ラゲッジスペースはオリジナルの「ヴェゼル」と同様。後席の背もたれを前方に倒して長尺物を積載したり、後席の座面をチップアップして背の高い荷物を積んだりできる。
ラゲッジスペースはオリジナルの「ヴェゼル」と同様。後席の背もたれを前方に倒して長尺物を積載したり、後席の座面をチップアップして背の高い荷物を積んだりできる。
ボディーカラーは(写真手前から)「プラチナホワイト・パール」「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」「プレミアムクリスタルブルー・メタリック」のほか、写真にない「クリスタルブラック・パール」を加えた4色が選べる。
ボディーカラーは(写真手前から)「プラチナホワイト・パール」「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」「プレミアムクリスタルブルー・メタリック」のほか、写真にない「クリスタルブラック・パール」を加えた4色が選べる。

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