【試乗記】フォルクスワーゲンTクロスTSI 1stプラス(FF/7AT)

フォルクスワーゲンTクロスTSI 1stプラス(FF/7AT)【試乗記】
フォルクスワーゲンTクロスTSI 1stプラス(FF/7AT)

伊達を気取るのも楽じゃない

自動車販売の最激戦区であるコンパクトSUVカテゴリーに、フォルクスワーゲンは「Tクロス」を送り込んできた。「ゴルフ」や「ポロ」と同様、同社はこのクラスにも“ベンチマーク”を打ち立てることができるのだろうか。導入記念の特別仕様車に試乗した。

久しぶりのニューフェイス

2019年11月末に国内導入が発表された「フォルクスワーゲン・Tクロス」。今回は導入記念特別仕様車「TクロスTSI 1stプラス」に試乗した。
2019年11月末に国内導入が発表された「フォルクスワーゲン・Tクロス」。今回は導入記念特別仕様車「TクロスTSI 1stプラス」に試乗した。
フロントマスクでは、ボディーサイドにまで回り込んだヘッドランプでワイドさを表現している。
フロントマスクでは、ボディーサイドにまで回り込んだヘッドランプでワイドさを表現している。
左右のコンビランプをリフレクターで結ぶことで、リアまわりでもボディーのワイドさを主張。ライセンスプレートの下部には「T-CROSS」バッジが貼られている。
左右のコンビランプをリフレクターで結ぶことで、リアまわりでもボディーのワイドさを主張。ライセンスプレートの下部には「T-CROSS」バッジが貼られている。
2018年3月のポロ以降、1年半以上もニューモデルの発表がなかったフォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)が、久しぶりに日本市場に導入するニューフェイスがTクロスだ。

Tクロスは、フォルクスワーゲンのSUVラインナップの中では最も小さなモデル。「小さい、小さい」と言うと、中も狭いんじゃないかと思われるのではということで、VGJでは「Tさい」SUVと呼ぶことにしたらしい……というのはさておき、ドイツ本国では、小さい順にTクロス、「Tロック」「ティグアン」「トゥアレグ」という布陣でSUVブームに対応しているところ。一方、日本では、ここしばらくティグアンが唯一の選択肢だったが、このTクロスに続き、2020年半ばにはTロックをラインナップに加えることで、日本でも人気のSUV市場でシェア拡大を狙っている。

そういう意味で重要な使命を与えられたTクロスは、成長著しいコンパクトSUVセグメントに属するモデル。4115mmという全長は、コンパクトカーのポロに近いサイズで、ポロ同様、フォルクスワーゲン グループの生産モジュール「MQB」を採用している。とはいっても、エクステリアを見るかぎりポロとの関連性は皆無なうえに、ボディーサイズの数字以上に存在感があり、堂々としたたたずまいも印象的だ。

2019年11月末に国内導入が発表された「フォルクスワーゲン・Tクロス」。今回は導入記念特別仕様車「TクロスTSI 1stプラス」に試乗した。
2019年11月末に国内導入が発表された「フォルクスワーゲン・Tクロス」。今回は導入記念特別仕様車「TクロスTSI 1stプラス」に試乗した。
フロントマスクでは、ボディーサイドにまで回り込んだヘッドランプでワイドさを表現している。
フロントマスクでは、ボディーサイドにまで回り込んだヘッドランプでワイドさを表現している。
左右のコンビランプをリフレクターで結ぶことで、リアまわりでもボディーのワイドさを主張。ライセンスプレートの下部には「T-CROSS」バッジが貼られている。
左右のコンビランプをリフレクターで結ぶことで、リアまわりでもボディーのワイドさを主張。ライセンスプレートの下部には「T-CROSS」バッジが貼られている。

室内も余裕たっぷり

ボディーサイズは全長×全幅×全高=4115×1760×1580mmで、ホイールベースは2550mm。「ポロ」よりも55mm長く、10mm幅広く、130mm高いスタイリングとなっている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4115×1760×1580mmで、ホイールベースは2550mm。「ポロ」よりも55mm長く、10mm幅広く、130mm高いスタイリングとなっている。
「TSI 1stプラス」には内外装の随所を「オレンジ」「グリーン」「ブラック」のいずれかでコーディネートできる「デザインパッケージ」が標準装備。テスト車にはオレンジがチョイスされていた。
「TSI 1stプラス」には内外装の随所を「オレンジ」「グリーン」「ブラック」のいずれかでコーディネートできる「デザインパッケージ」が標準装備。テスト車にはオレンジがチョイスされていた。
荷室の容量はリアシートを最も後ろにした場合が385リッターで、前にした場合が455リッター。シートの背もたれをすべて倒せば1281リッターにまで拡大できる。
荷室の容量はリアシートを最も後ろにした場合が385リッターで、前にした場合が455リッター。シートの背もたれをすべて倒せば1281リッターにまで拡大できる。
SUVを選ぶ理由として、その見た目の立派さに加えて、セダンやハッチバックよりも高い機能性を挙げる人は多い。このTクロスも、コンパクトなボディーサイズのわりに広い室内が大きな魅力といえる。

ポロよりも100mm高いアイポイントのおかげで、運転席からの眺めはとても開放的。横方向の余裕もあり、ひとクラス上のクルマに収まるような感覚である。身長168cmの私が、そのまま運転席の後ろの席に移ると、さらにゆったりとした空間が広がっていた。全高が1580mmあるTクロスは、拳2個分のヘッドルームが確保され、さらにニールームもおよそ拳3個分、20cmを超える広さを誇る。

Tクロスの後席には前後14cmのスライド機構が備わり、荷物が多いときなどにはシートを前に出すことになるが、一番前のポジションでも膝と前席との間には拳1個分以上のスペースが残る。一方、ラゲッジスペースは、後席のポジションによって広さが変わるが、奥行きは約60~75cmと十分なうえ、高さと幅に余裕があるぶん、見た目以上に荷物を詰め込めるのがうれしい。もちろん、いざというときには後席を倒して、さらに荷室を拡大することも可能で、この室内の余裕だけでも、Tクロスを選ぶ理由としては十分かもしれない。

ボディーサイズは全長×全幅×全高=4115×1760×1580mmで、ホイールベースは2550mm。「ポロ」よりも55mm長く、10mm幅広く、130mm高いスタイリングとなっている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4115×1760×1580mmで、ホイールベースは2550mm。「ポロ」よりも55mm長く、10mm幅広く、130mm高いスタイリングとなっている。
「TSI 1stプラス」には内外装の随所を「オレンジ」「グリーン」「ブラック」のいずれかでコーディネートできる「デザインパッケージ」が標準装備。テスト車にはオレンジがチョイスされていた。
「TSI 1stプラス」には内外装の随所を「オレンジ」「グリーン」「ブラック」のいずれかでコーディネートできる「デザインパッケージ」が標準装備。テスト車にはオレンジがチョイスされていた。
荷室の容量はリアシートを最も後ろにした場合が385リッターで、前にした場合が455リッター。シートの背もたれをすべて倒せば1281リッターにまで拡大できる。
荷室の容量はリアシートを最も後ろにした場合が385リッターで、前にした場合が455リッター。シートの背もたれをすべて倒せば1281リッターにまで拡大できる。

1リッターエンジンのFWD仕様のみ

日本導入時のパワートレインは1リッター直3ターボエンジンと7段のデュアルクラッチ式ATの組み合わせのみ。駆動方式もFWDのみとなっている。
日本導入時のパワートレインは1リッター直3ターボエンジンと7段のデュアルクラッチ式ATの組み合わせのみ。駆動方式もFWDのみとなっている。
フロントに横置きされる1リッター直3ターボエンジンは最高出力116PS/5000-5500rpmと最大トルク200N・m/2000-3500rpmを発生。ガソリン粒子フィルターを備えている。
フロントに横置きされる1リッター直3ターボエンジンは最高出力116PS/5000-5500rpmと最大トルク200N・m/2000-3500rpmを発生。ガソリン粒子フィルターを備えている。
シフトセレクターの前方には、置くだけでスマートフォンを充電できるエリアと、2基のUSBポートが備わる。
シフトセレクターの前方には、置くだけでスマートフォンを充電できるエリアと、2基のUSBポートが備わる。
一方、Tクロスの場合、駆動方式はFWD(前輪駆動)のみで、高い走破性を求める人には不十分といえる内容だ。ただ、SUVであっても4WDを必要としない人が少なくないのも事実で、ライトなSUVユーザーにとって、4WDが用意されないのはあまり気にならないのだろう。

燃費の点でも4WDよりもFWDのほうが有利といえ、さらに、このTクロスは、1リッターの直列3気筒直噴ターボとデュアルクラッチギアボックスの7段DSGを搭載することで、低燃費が期待できる。

そうなると、気になるのはその動力性能。Tクロスの「1.0 TSI」エンジンは、ポロに搭載される仕様に比べて出力で21PS、トルクで25N・m上回る最高出力116PSと最大トルク200N・mの実力の持ち主。早速走りだすと、動き出しはやや緩慢で、2000rpm以下では、もう少しトルクがほしいところ。また、常用することの多いこの回転域では、3気筒エンジン特有のノイズや振動が気になる場面もあった。

一方、高速道路の本線に合流するような場面でアクセルペダルを踏み込むと、十分な加速が得られ、高速巡航時の静粛性もまずまず。欲をいえば、さらに余裕ある1.4リッターの直列4気筒ターボを用意してほしいところだが、この1.0 TSIでも必要十分な性能を持つのは確かだ。

日本導入時のパワートレインは1リッター直3ターボエンジンと7段のデュアルクラッチ式ATの組み合わせのみ。駆動方式もFWDのみとなっている。
日本導入時のパワートレインは1リッター直3ターボエンジンと7段のデュアルクラッチ式ATの組み合わせのみ。駆動方式もFWDのみとなっている。
フロントに横置きされる1リッター直3ターボエンジンは最高出力116PS/5000-5500rpmと最大トルク200N・m/2000-3500rpmを発生。ガソリン粒子フィルターを備えている。
フロントに横置きされる1リッター直3ターボエンジンは最高出力116PS/5000-5500rpmと最大トルク200N・m/2000-3500rpmを発生。ガソリン粒子フィルターを備えている。
シフトセレクターの前方には、置くだけでスマートフォンを充電できるエリアと、2基のUSBポートが備わる。
シフトセレクターの前方には、置くだけでスマートフォンを充電できるエリアと、2基のUSBポートが備わる。

スタイリッシュな18インチホイールだが

ボディーカラーはテスト車の「エナジェティックオレンジメタリック」を含めて全8色展開。「デザインパッケージ」を組み合わせると、カラーバリエーションは全21種類にまで拡大する。
ボディーカラーはテスト車の「エナジェティックオレンジメタリック」を含めて全8色展開。「デザインパッケージ」を組み合わせると、カラーバリエーションは全21種類にまで拡大する。
オレンジの「カラーパッケージ」をチョイスしていたテスト車は、ホイールもオレンジにペイントされていた。
オレンジの「カラーパッケージ」をチョイスしていたテスト車は、ホイールもオレンジにペイントされていた。
シート表皮はチタンブラックをベースに、「カラーパッケージ」の種類によってサイドサポート内側の色味が変わる。テスト車はオレンジ。
シート表皮はチタンブラックをベースに、「カラーパッケージ」の種類によってサイドサポート内側の色味が変わる。テスト車はオレンジ。
リアシートは左右一体で前後14cmのスライドが可能。センターコンソールの後端に2基のUSBポートが備わるのも便利だ。
リアシートは左右一体で前後14cmのスライドが可能。センターコンソールの後端に2基のUSBポートが備わるのも便利だ。
ところで、Tクロスには日本導入にあわせて「TクロスTSI 1st」と「TクロスTSI 1stプラス」の、2つの特別仕様車が用意されている。発売の時点ではそのベースとなる標準的なグレードが設定されておらず、しばらくはこの2モデルだけの展開というのが不思議である。

それはさておき、今回試乗したTクロスTSI 1stプラスは、2種類のうちデザインや装備が充実した上級モデル。例えば、TSI 1stが205/60R16サイズのタイヤを装着するのに対し、TSI 1stプラスではサイズが215/45R18に2インチアップするとともに、シルバーとオレンジ、グリーンのホイールが用意されるなど、見栄えが良くなるのがウリである。

ただ、全高、最低地上高ともに高いSUVのボディーを支えるためにやや硬めにしつけられたサスペンションとの組み合わせでは、路面の荒れをコツコツと伝えてきたり、目地段差を越えたときのショックを遮断しきれなかったりと、乗り心地には不満を抱くことに。一方、ピッチングやロールといったSUVに見られがちな不快な動きはよく抑えられており、見た目から想像する以上に走りは軽快だ。

快適性という点では、一般的なハッチバック車に一歩及ばない部分もあるが、アクティブな印象のエクステリアや広く使いやすい室内など見どころも多いTクロス。流行のコンパクトSUVだけに、フォルクスワーゲンの新しいエントリーモデルとして、いい仕事をしてくれそうだ。

(文=生方 聡/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

ボディーカラーはテスト車の「エナジェティックオレンジメタリック」を含めて全8色展開。「デザインパッケージ」を組み合わせると、カラーバリエーションは全21種類にまで拡大する。
ボディーカラーはテスト車の「エナジェティックオレンジメタリック」を含めて全8色展開。「デザインパッケージ」を組み合わせると、カラーバリエーションは全21種類にまで拡大する。
オレンジの「カラーパッケージ」をチョイスしていたテスト車は、ホイールもオレンジにペイントされていた。
オレンジの「カラーパッケージ」をチョイスしていたテスト車は、ホイールもオレンジにペイントされていた。
シート表皮はチタンブラックをベースに、「カラーパッケージ」の種類によってサイドサポート内側の色味が変わる。テスト車はオレンジ。
シート表皮はチタンブラックをベースに、「カラーパッケージ」の種類によってサイドサポート内側の色味が変わる。テスト車はオレンジ。
リアシートは左右一体で前後14cmのスライドが可能。センターコンソールの後端に2基のUSBポートが備わるのも便利だ。
リアシートは左右一体で前後14cmのスライドが可能。センターコンソールの後端に2基のUSBポートが備わるのも便利だ。

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