【試乗記】マツダCX-5 25T Lパッケージ(4WD/6AT)
- マツダCX-5 25T Lパッケージ(4WD/6AT)
熟成とはこういうことだ
近年のマツダは、年次改良どころか、いいものが仕上がれば最良のタイミングでモデルに反映するという方針を打ち出している。今回の2.5リッター直4ターボエンジンが搭載される「CX-5」もそんな一台。最新モデルの進化はいかなるものだったのか。
北米では人気をキープ
何年か前に、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムで有名な米コロラド州を訪問した。風光明媚(めいび)で落ち着ける場所なのだが、バケーションではなく取材だったため州都デンバーに3日間滞在し、その間ヒルクライムの舞台となる標高約4300mのパイクスピークや周辺の観光地に出向いた。その取材をアテンドしてくれた現地観光協会の担当者は20代の女性で、愛車が当時発売されて間もないCX-5だった。
シボレーのコンパクトカーからの乗り換えということで、CX-5のどこが気に入ったのかを聞くと「スタイリッシュなデザインと質感」という回答。「日本のクルマはクオリティーが高いので仕方がないのだけれど、もう少しリーズナブルな価格だったらさらにいいのに」と付け加えた。なるほど、米国では若い女性がSUVを選ぶのがトレンドらしく、それは2020年の今でも同様と聞く。かつて働く女性に愛されてきたセクレタリーカーと呼ばれたクーペやコンパクトカーは、いつしかSUVにその座を譲ったのだ。
2020年1月に同社が発表したデータによれば、CX-5は2019年にその米国市場でこそ前年比プラスの販売台数を確保したが、グローバルでの販売台数は44万4262台と、前年比マイナス5.4%の実績に終わった。日本市場を見ると、2019年のCX-5販売台数は3万1536台と前年比マイナス17.6%。つまり、CX-5にかつてほどの勢いがなくなってきている。
そうした背景もあるのだろう、2019年12月12日に発表され、2020年1月17日に発売されたCX-5の年次改良モデルは、失礼を承知で言えばいわゆるテコ入れの役割を担っている。変更内容はwebCGのニュースにも明るいが、ここであらためて紹介すれば、プラットフォームを共用する3列シートクロスオーバーSUV「CX-8」に続き、4WD車に悪路からのスムーズな脱出をサポートする「オフロードトラクションアシスト(OTA)」を搭載したというのがトピックだ。
シボレーのコンパクトカーからの乗り換えということで、CX-5のどこが気に入ったのかを聞くと「スタイリッシュなデザインと質感」という回答。「日本のクルマはクオリティーが高いので仕方がないのだけれど、もう少しリーズナブルな価格だったらさらにいいのに」と付け加えた。なるほど、米国では若い女性がSUVを選ぶのがトレンドらしく、それは2020年の今でも同様と聞く。かつて働く女性に愛されてきたセクレタリーカーと呼ばれたクーペやコンパクトカーは、いつしかSUVにその座を譲ったのだ。
2020年1月に同社が発表したデータによれば、CX-5は2019年にその米国市場でこそ前年比プラスの販売台数を確保したが、グローバルでの販売台数は44万4262台と、前年比マイナス5.4%の実績に終わった。日本市場を見ると、2019年のCX-5販売台数は3万1536台と前年比マイナス17.6%。つまり、CX-5にかつてほどの勢いがなくなってきている。
そうした背景もあるのだろう、2019年12月12日に発表され、2020年1月17日に発売されたCX-5の年次改良モデルは、失礼を承知で言えばいわゆるテコ入れの役割を担っている。変更内容はwebCGのニュースにも明るいが、ここであらためて紹介すれば、プラットフォームを共用する3列シートクロスオーバーSUV「CX-8」に続き、4WD車に悪路からのスムーズな脱出をサポートする「オフロードトラクションアシスト(OTA)」を搭載したというのがトピックだ。
“運転への意識高い系”ポジション
- 2018年10月のマイナーチェンジを機に、今回の試乗車である2.5リッターターボエンジン搭載車が追加設定された。2リッター/2.5リッター直4ガソリン自然吸気、2.5リッター直4ガソリンターボ、そして2.2リッター直4ディーゼルターボという4つのエンジンをラインナップする。
そのOTAを搭載しオフロード性能を引き上げたCX-5の走りはすでに報告済みなのでそちらをご覧いただきたいが、標準装着のサマータイヤのまま急坂のぼりや林道走行も難なくこなす実力が確認できている。ちなみにOTAは、4輪独立ブレーキ制御の応用技術で、横滑り防止装置やマツダ独自の「G-ベクタリングコントロール/G-ベクタリングコントロールプラス」にも使われている。悪路などでタイヤが空転してしまった場合そのタイヤにのみブレーキをかけ、グリップしているタイヤにエンジントルクを配分。低ミュー路や悪路でのグリップ力を確保するというものである。
そうしたメカニカルパート以外にも、今回の年次改良でいくつか変更が加えられている。インテリアを眺めれば、センターディスプレイのサイズが従来の7インチから8インチへと大型化されたことが分かる。目に見えない部分では、トップシーリング材と呼ばれるいわゆるルーフの内装部分を構成するパーツを変更。フィルム材質の見直しによってロードノイズを素早く吸収し静粛性を向上させるなどしたという。試乗当日は晴天だったので確認できなかったが、雨がルーフを打つ音の減少にも効果があるとマツダでは説明している。
SUVとはいえシティー派といえそうなCX-5は、乗り込みも楽に行える。背の高いSUVにありがちな「ヨイショ」という掛け声も必要ない。乗り込んだ先のコックピットは、広くはないが狭くもないという絶妙な空間。相変わらずシートポジションがピタリと決まる“運転への意識高い系”である。
試乗車はガソリンエンジン。完全停止状態からブレーキを放し、クリープと同時にスッとアクセルを踏む。最初のひと転がりが丸く自然で、もうこの瞬間に「マツダ車だよなぁ」と感心する。動きだしからドライバーはクルマとのシンクロ率が高まる……と言うと大げさかもしれないが、一体感ある運転が味わえる。それは車内空間だけやたらと広くしつらえたようなミニバンなどでは到底感じることのできない、いいクルマらしさでもある。
そうしたメカニカルパート以外にも、今回の年次改良でいくつか変更が加えられている。インテリアを眺めれば、センターディスプレイのサイズが従来の7インチから8インチへと大型化されたことが分かる。目に見えない部分では、トップシーリング材と呼ばれるいわゆるルーフの内装部分を構成するパーツを変更。フィルム材質の見直しによってロードノイズを素早く吸収し静粛性を向上させるなどしたという。試乗当日は晴天だったので確認できなかったが、雨がルーフを打つ音の減少にも効果があるとマツダでは説明している。
SUVとはいえシティー派といえそうなCX-5は、乗り込みも楽に行える。背の高いSUVにありがちな「ヨイショ」という掛け声も必要ない。乗り込んだ先のコックピットは、広くはないが狭くもないという絶妙な空間。相変わらずシートポジションがピタリと決まる“運転への意識高い系”である。
試乗車はガソリンエンジン。完全停止状態からブレーキを放し、クリープと同時にスッとアクセルを踏む。最初のひと転がりが丸く自然で、もうこの瞬間に「マツダ車だよなぁ」と感心する。動きだしからドライバーはクルマとのシンクロ率が高まる……と言うと大げさかもしれないが、一体感ある運転が味わえる。それは車内空間だけやたらと広くしつらえたようなミニバンなどでは到底感じることのできない、いいクルマらしさでもある。
SUVという感覚が希薄
CX-5には、2.2リッター直4ディーゼルターボと2リッターおよび2.5リッター直4ガソリン自然吸気、2.5リッター直4ガソリンターボという4つのエンジンバリエーションがある。2リッター自然吸気を除くそれぞれにFFと4WDがラインナップされている。そのうち今回の試乗車は、最もパワフルな2.5リッター直4ガソリンターボの4WD。最高出力230PS/4250rpm、最大トルク420N・m/2000rpmという実力である。トランスミッションは、従来と変わらず6段ATだ。
多段化著しい昨今、6段ATと聞けばどこか物足りないようにも感じるが、このエンジンとの相性は申し分なし。もっとも今回の試乗は横浜市内と首都高速道路に限られたので、遠出の際などにはもう一段上の超オーバードライブで燃費を稼ぎたいという場面があるかもしれないし、山道ではもっとシンクロしたギアでガンガン走りたいと思うのかもしれないが、それはあくまでも想像の中でのこと。街中主体の移動では“いいカンジ”に終始した。
タイヤはCX-5をはじめ、マツダの各SUVでおなじみの「トーヨー・プロクセス」。サイズは225/55R19。静かで乗り心地のいいタイヤだ。静粛性を向上させたというボディーの改良もあってかキャビンは快適そのもので、SUVをドライブしているという感覚が希薄である。ゴツゴツした乗り味やタフな性能と引き換えに、何かを我慢するということはないといういい意味での感想だ。
4WDモデルに標準装備されたOTAは、作動スイッチがダッシュボード右下に配置されている。当然、街中で効果を確認するようなものではないが、いざとなればオフロードでも雪道でもどこでもちゅうちょなく走れるという安心感がまずは心強い。一般的なユーザーであれば、舗装路でSUVに乗ることのほうが圧倒的に多いだろうから、そうした走行デバイスは保険だと思っていればいいのかもしれない。
多段化著しい昨今、6段ATと聞けばどこか物足りないようにも感じるが、このエンジンとの相性は申し分なし。もっとも今回の試乗は横浜市内と首都高速道路に限られたので、遠出の際などにはもう一段上の超オーバードライブで燃費を稼ぎたいという場面があるかもしれないし、山道ではもっとシンクロしたギアでガンガン走りたいと思うのかもしれないが、それはあくまでも想像の中でのこと。街中主体の移動では“いいカンジ”に終始した。
タイヤはCX-5をはじめ、マツダの各SUVでおなじみの「トーヨー・プロクセス」。サイズは225/55R19。静かで乗り心地のいいタイヤだ。静粛性を向上させたというボディーの改良もあってかキャビンは快適そのもので、SUVをドライブしているという感覚が希薄である。ゴツゴツした乗り味やタフな性能と引き換えに、何かを我慢するということはないといういい意味での感想だ。
4WDモデルに標準装備されたOTAは、作動スイッチがダッシュボード右下に配置されている。当然、街中で効果を確認するようなものではないが、いざとなればオフロードでも雪道でもどこでもちゅうちょなく走れるという安心感がまずは心強い。一般的なユーザーであれば、舗装路でSUVに乗ることのほうが圧倒的に多いだろうから、そうした走行デバイスは保険だと思っていればいいのかもしれない。
実はなかなかの名機
- 試乗車には、前後225/55R19サイズの「トーヨー・プロクセスR46」タイヤが装着されていた。19インチサイズのホイールは切削加工が施されたガンメタリックカラーで、「25T Lパッケージ」専用アイテムとなる。
420N・mというディーゼル車並みのトルクをアイドリングより少し上の回転数で発生させるこのエンジンは、実にトルクフルで走りやすい。ちょっとだけ加速したいという瞬間に、レスポンスよく車両を前に進めてくれる。しかもエンジン回転の上昇やその“吹け感”もシャープである。愛車にディーゼルエンジン搭載車を選んだトルクにうるさい者にも(私だ)、「いやこりゃ速いわ」と言わせるものだ。トルクが厚く、パワーの伸びもいい。6000rpmまでストレスなく回る。
販売されるCX-5のエンジン構成比率はディーゼルが70%近くで、残りがガソリン。そのうちターボ車は数%にすぎないという。2代目CX-5のデビューから約1年半後に追加され、認知度もイマイチなのだろうが、これはどうしてなかなかの名機ではないかと同乗したカメラマン氏に賛同を求めた。
身の丈に合わないプレミアム路線を進むとか、車名に社名を入れて数字と組み合わせるとかわけが分からん、と一部誤解を受けているような気配のマツダだが、半面クルマづくりは実直である。少々フォローすれば、前者に関しては別にメルセデスやBMWのようになりたいと言っているワケではないし、後者はバブル期の車名乱立が引き起こした混乱を忘れたのか? と賛同するものの、クルマの大中小やカテゴライズが分かりやすくもある。
CX-5に話を戻すと、マツダの開発担当者によれば今回試乗したガソリンエンジン車にもディーゼル車同様にダイナミックダンパーを追加しNVH性能を上げ、さらにステアリングホイールに組み込まれるエアバッグの接合部分の構造を改良するなど、表にはあまり出ないいくつかの変更ポイントも加えられているという。こまごまとした改良を休むことなく行うとかねて明言しているように、上市して終わりにしないのが今のマツダ。その姿勢にはクルマ好きとして、やはりシンパシーを感じるのである。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
販売されるCX-5のエンジン構成比率はディーゼルが70%近くで、残りがガソリン。そのうちターボ車は数%にすぎないという。2代目CX-5のデビューから約1年半後に追加され、認知度もイマイチなのだろうが、これはどうしてなかなかの名機ではないかと同乗したカメラマン氏に賛同を求めた。
身の丈に合わないプレミアム路線を進むとか、車名に社名を入れて数字と組み合わせるとかわけが分からん、と一部誤解を受けているような気配のマツダだが、半面クルマづくりは実直である。少々フォローすれば、前者に関しては別にメルセデスやBMWのようになりたいと言っているワケではないし、後者はバブル期の車名乱立が引き起こした混乱を忘れたのか? と賛同するものの、クルマの大中小やカテゴライズが分かりやすくもある。
CX-5に話を戻すと、マツダの開発担当者によれば今回試乗したガソリンエンジン車にもディーゼル車同様にダイナミックダンパーを追加しNVH性能を上げ、さらにステアリングホイールに組み込まれるエアバッグの接合部分の構造を改良するなど、表にはあまり出ないいくつかの変更ポイントも加えられているという。こまごまとした改良を休むことなく行うとかねて明言しているように、上市して終わりにしないのが今のマツダ。その姿勢にはクルマ好きとして、やはりシンパシーを感じるのである。
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