【試乗記】MINIジョンクーパーワークス クロスオーバー(4WD/8AT)
- MINIジョンクーパーワークス クロスオーバー(4WD/8AT)
万能型ホットハッチ
最高出力を231PSから306PSへと大幅にパワーアップした「MINIクロスオーバー」のハイパフォーマンスバージョン「ジョンクーパーワークス」に試乗。背の高いマルチパーパスのキャラクターと高性能エンジンの組み合わせは、どんな進化を遂げたのか?
MINIのなかでも特別な存在
ここであらためて紹介するまでもなくジョンクーパーワークス(JCW)といえば、MINIのハイパフォーマンスバージョンとして知られたモデル名である。JCWは、新旧ミニの販売とチューニングを行う英国のプロショップで、2008年にBMWが同社を買収するまでは独立した組織だった。さらにそのルーツはというと、「Miniクーパー」を生み出したクーパー親子に行き着く。
父チャールズ・クーパーと息子ジョン・クーパーは1946年にクーパー・カー・カンパニーを設立。レーシングコンストラクターとしてF1などのレース活動を通じてその名を世界にとどろかせた。同時にMiniでのレースも行い、並行してチューニングマシンも市販化。後にチューニングマシンはMiniのスポーツグレードとしてメーカーのラインナップに加わり──と、このあたりは、ざっくり言えばメルセデスとAMGの関係や歴史にも似ている。BMC時代のMiniを見ると、ついうっかり反射的に「Miniクーパーだ」と言ってしまう中高年がいまだにいるほど、ミニといえばクーパーなのだ。
ハナシをもとに戻すと、クーパーとその上の「クーパーS」は現行モデルの高性能グレードとして健在で、JCWはそれらを超えた位置づけとなる。BMWを例に出して言えば、Mスポーツの上にMパフォーマンスモデルがあり、そのさらに上にBMW M社が手がけたMモデルがある。BMW M社はBMW本体とも別組織になっており、同時にM系スポーツモデルは層も厚いのでこの法則がMINIにそのまま当てはまらないのは承知だが、レジェンドの名をフルネームで冠したJCWが輝かしくも特別な存在であることは間違いない。
今回、導入されたJCWは「クラブマン」と「クロスオーバー」の2モデルで、従来型よりもパワートレインを大幅に強化。発表時には“MINI史上最速”であることがうたわれている。2018年5月に導入された「3ドア」と「コンバーチブル」のJCWを合わせて、これで4モデルが最新版にアップデートされたことになる。
父チャールズ・クーパーと息子ジョン・クーパーは1946年にクーパー・カー・カンパニーを設立。レーシングコンストラクターとしてF1などのレース活動を通じてその名を世界にとどろかせた。同時にMiniでのレースも行い、並行してチューニングマシンも市販化。後にチューニングマシンはMiniのスポーツグレードとしてメーカーのラインナップに加わり──と、このあたりは、ざっくり言えばメルセデスとAMGの関係や歴史にも似ている。BMC時代のMiniを見ると、ついうっかり反射的に「Miniクーパーだ」と言ってしまう中高年がいまだにいるほど、ミニといえばクーパーなのだ。
ハナシをもとに戻すと、クーパーとその上の「クーパーS」は現行モデルの高性能グレードとして健在で、JCWはそれらを超えた位置づけとなる。BMWを例に出して言えば、Mスポーツの上にMパフォーマンスモデルがあり、そのさらに上にBMW M社が手がけたMモデルがある。BMW M社はBMW本体とも別組織になっており、同時にM系スポーツモデルは層も厚いのでこの法則がMINIにそのまま当てはまらないのは承知だが、レジェンドの名をフルネームで冠したJCWが輝かしくも特別な存在であることは間違いない。
今回、導入されたJCWは「クラブマン」と「クロスオーバー」の2モデルで、従来型よりもパワートレインを大幅に強化。発表時には“MINI史上最速”であることがうたわれている。2018年5月に導入された「3ドア」と「コンバーチブル」のJCWを合わせて、これで4モデルが最新版にアップデートされたことになる。
ハイパフォーマンスモデルの感触
最新のJCWクロスオーバーに搭載される2リッター直4ターボエンジンは、従来モデルおよび現行JCWの3ドアとコンバーチブルを75PSと100N・m上回る最高出力306PS/5000rpm、最大トルク450N・m/1750-4500rpmを発生する。これは、強化クランクシャフトや専用ピストン、新しいターボチャージャー、直径85mmのツインエキゾーストパイプなどの採用によって達成されたものだという。駆動方式はもちろん4WDである。
さらに、出力向上に合わせてフロントのラジエーターはリザーバータンクを大型化したうえで2基搭載とし、冷却性能をアップ。8段ATのプログラムを専用開発し、フロントアクスルには機械式ディファレンシャルロックがダイナミックスタビリティーコントロールとの組み合わせで採用された。こうした走行性能向上に対応すべく、ストッピングパワーも強化。従来モデルよりも25mm拡大された360mmのブレーキローターを装備している。
そのパフォーマンスはといえば、最高速が250km/h、0-100km/h加速のタイムは5.1秒と公表されている。最高出力も含め、数値的には2019年末に欧州で発表された最新の「メルセデスAMG GLA35 4MATIC」とがっぷり四つ。そう聞けば、JCWクロスオーバーがどの辺をターゲットにしているのかがわかろうというものである。
コンパクトクラスのSUVともいうべきボディーサイズのJCWクロスオーバーは、しかし車重が1670kgと若干重めで、エクステリアデザインにも軽快感はない。ただ、そうした印象はアクセルひと踏みで後方へとちぎれ飛ぶ。右足に力を込めた瞬間にこそ、もぞもぞっとした感触が伝わるものの、車両はすぐさま加速態勢に入り背中がシートバックに押し付けられる。乾いたエキゾーストノートがキャビンに心地良く響き、ハイパフォーマンスモデルのステアリングを握っていることを意識させられる。
さらに、出力向上に合わせてフロントのラジエーターはリザーバータンクを大型化したうえで2基搭載とし、冷却性能をアップ。8段ATのプログラムを専用開発し、フロントアクスルには機械式ディファレンシャルロックがダイナミックスタビリティーコントロールとの組み合わせで採用された。こうした走行性能向上に対応すべく、ストッピングパワーも強化。従来モデルよりも25mm拡大された360mmのブレーキローターを装備している。
そのパフォーマンスはといえば、最高速が250km/h、0-100km/h加速のタイムは5.1秒と公表されている。最高出力も含め、数値的には2019年末に欧州で発表された最新の「メルセデスAMG GLA35 4MATIC」とがっぷり四つ。そう聞けば、JCWクロスオーバーがどの辺をターゲットにしているのかがわかろうというものである。
コンパクトクラスのSUVともいうべきボディーサイズのJCWクロスオーバーは、しかし車重が1670kgと若干重めで、エクステリアデザインにも軽快感はない。ただ、そうした印象はアクセルひと踏みで後方へとちぎれ飛ぶ。右足に力を込めた瞬間にこそ、もぞもぞっとした感触が伝わるものの、車両はすぐさま加速態勢に入り背中がシートバックに押し付けられる。乾いたエキゾーストノートがキャビンに心地良く響き、ハイパフォーマンスモデルのステアリングを握っていることを意識させられる。
走りでもMINIであることを表現
勾配の急な山道をいとも簡単に上り切るそのトルクには舌を巻く。最大トルク450N・mという数値は、やはり飾りではない。今回は山越えの幹線道路から外れ、ちょっと大柄なスポーツモデルでは躊躇(ちゅうちょ)してしまうタイトなワインディングロードにノーズを向ける。このサイズ感であれば、道幅に余裕のないコースでもストレスなく走れそうだ。
JCWクロスオーバーが披露するステアリング操作に対する反応は、先達(せんだつ)が表現しているように“ゴーカート感覚”といえる。車高が高いクロスオーバーがベースであってもMINI全シリーズに共通するこのフィーリングは──車高の低いモデルほど顕著ではないものの──同様で、ボディー形状やディテールだけでなく走りでもMINIであることを印象付ける。
そうしたJCWクロスオーバーのコーナリングでの味付けは、方向性こそ同じだが遠い記憶の中にある先代のJCWクロスオーバーよりもずいぶんとマイルドに仕上げられた。ステアリングへの反応やノーズの動きにゴーカート感覚というキーワードを見いだすことはできても、矛盾しているようだがサスペンションがよく動き、ハイパフォーマンスモデルという言葉から想像するよりもハードではない。
だが、グリップのいいタイヤにまかせてスピードを上げながらコーナーをクリアし続けると、今度は視覚とボディーの動きに違和感を覚えるようになる。三半規管が弱い者(私だ)にとって、これは確実に好ましからぬ状況である。クロスオーバーというSUVライクな車名とフォルムから想像するよりも恐らくは重心が低く鼻先がグングン入り込むコーナリングフォームと想像を超える旋回スピード、そのいっぽうで視線が高いというズレに情報処理がついていかなくなるのだ。
JCWクロスオーバーが披露するステアリング操作に対する反応は、先達(せんだつ)が表現しているように“ゴーカート感覚”といえる。車高が高いクロスオーバーがベースであってもMINI全シリーズに共通するこのフィーリングは──車高の低いモデルほど顕著ではないものの──同様で、ボディー形状やディテールだけでなく走りでもMINIであることを印象付ける。
そうしたJCWクロスオーバーのコーナリングでの味付けは、方向性こそ同じだが遠い記憶の中にある先代のJCWクロスオーバーよりもずいぶんとマイルドに仕上げられた。ステアリングへの反応やノーズの動きにゴーカート感覚というキーワードを見いだすことはできても、矛盾しているようだがサスペンションがよく動き、ハイパフォーマンスモデルという言葉から想像するよりもハードではない。
だが、グリップのいいタイヤにまかせてスピードを上げながらコーナーをクリアし続けると、今度は視覚とボディーの動きに違和感を覚えるようになる。三半規管が弱い者(私だ)にとって、これは確実に好ましからぬ状況である。クロスオーバーというSUVライクな車名とフォルムから想像するよりも恐らくは重心が低く鼻先がグングン入り込むコーナリングフォームと想像を超える旋回スピード、そのいっぽうで視線が高いというズレに情報処理がついていかなくなるのだ。
これ1台で何でもできる
そうした状況を緩和してくれたのがスポーツモードだった。もちろん車高が下がるわけではないのでドライバーの頭の位置に変更はないが、足が締まりボディーとの一体感が増すだけでその印象は大きく改善する。ショックアブソーバーの減衰力がスポーツ走行にふさわしいセッティングになり、ロールをきっちり抑え横移動するような感覚が強まる。ただそれは、歴代モデルのようなイケイケなゴーカート感覚とは違い、固めではあるが決して過剰な演出ではない。ひとことで言えば質感の高いテイストである。
内外装における演出面で言えば、標準装備のシートにはヘッドレスト下に「John Cooper Works」バッジが備わるほか、グレーの縁取りが施されオシャレである。インパネやドアパネルのデザインもあいかわらずMINIワールド全開で、好きな人にとってはたまらない空間だ。しかも大人4人がちゃんと乗れて荷室容量も十分確保されているとくれば、これ1台で何でもできるといえるだろう。
リクエストが許されるとすれば、ステアリングとシートの調整機能はもっと細かいほうがいい。今回の試乗では最後までしっくりくるポジションが得られなかった。高級だから電動シートにしろとは言わないが、現状のレバー式では微妙な調整が難しい。ハイパフォーマンスをうたうホットハッチであればあるほど、シートポジションは重要だと考える。
3ボックスのセダンこそないが、MINIはオープンモデルからSUVまで今どきのニーズをカバーする一大ブランドに成長した。新世代MINIの発売を待たずして生涯を閉じた英国のレジェンド、ジョン・クーパーは、クロスオーバーを含む4車種に自身の名が冠されたJCWというモデルがラインナップするという事実をどう思うのだろう。チャレンジ精神旺盛だったと聞くだけに、SUVがスポーツカーの代わりになる現代を当時と同じように楽しんでくれるといいのだが。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
内外装における演出面で言えば、標準装備のシートにはヘッドレスト下に「John Cooper Works」バッジが備わるほか、グレーの縁取りが施されオシャレである。インパネやドアパネルのデザインもあいかわらずMINIワールド全開で、好きな人にとってはたまらない空間だ。しかも大人4人がちゃんと乗れて荷室容量も十分確保されているとくれば、これ1台で何でもできるといえるだろう。
リクエストが許されるとすれば、ステアリングとシートの調整機能はもっと細かいほうがいい。今回の試乗では最後までしっくりくるポジションが得られなかった。高級だから電動シートにしろとは言わないが、現状のレバー式では微妙な調整が難しい。ハイパフォーマンスをうたうホットハッチであればあるほど、シートポジションは重要だと考える。
3ボックスのセダンこそないが、MINIはオープンモデルからSUVまで今どきのニーズをカバーする一大ブランドに成長した。新世代MINIの発売を待たずして生涯を閉じた英国のレジェンド、ジョン・クーパーは、クロスオーバーを含む4車種に自身の名が冠されたJCWというモデルがラインナップするという事実をどう思うのだろう。チャレンジ精神旺盛だったと聞くだけに、SUVがスポーツカーの代わりになる現代を当時と同じように楽しんでくれるといいのだが。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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