【試乗記】ホンダ・フィットe:HEVクロスター(FF)
- ホンダ・フィットe:HEVクロスター(FF)
心地よいミニマル
スペック至上主義から脱却し、乗る人、使う人の“心地よさ”を重視したという新型「ホンダ・フィット」。ライバルにはないそうした開発テーマは、車両のどのような部分に表れ、またどの程度達成されているのか? SUVスタイルの「クロスター」に試乗し、確かめた。
あくまで“SUV風”
『webCG』には2020年2月に発売された新型フィットの試乗記が何度も掲載されていて、このタイミングで記事を書くのはいささか気が引ける。でも、仕方がない。フィットには5タイプのモデルがラインナップされていて、それぞれにガソリン車とハイブリッド車があるのだ。掛け合わせると10タイプ、さらにFFと4WDの違いまで考慮すれば、20タイプということになる。
さすがにすべてを網羅するのは無理だし必要もないが、それでも今回の試乗車は取り上げるべきだろう。「クロスター」と名付けられたモデルで、SUV風味のスタイルが特徴になっている。ただし、悪路走破性能を高める機構が採用されているわけではないので、いわゆる“なんちゃってSUV”だ。しかも試乗車の駆動方式はFF。他モデルと明確に異なるのは最低地上高である。FF車では他のモデルより25mm高い。でも4WD車だと5mm差なので、微妙な違いだ。
エクステリアにはアウトドア感を高める演出が施されている。前後バンパーやグリル、ホイールアーチやサイドシルなどは、ブラックのパーツでタフなイメージに。ルーフレールは、クロスター専用のオプションだ。インテリアでは、シートとインパネのソフトパッドに水をはじく素材が使われている。あとはほかのタイプと変わらない。“街にもアウトドアにも似合う”とうたわれているとおり、あくまでSUV風なのだ。
フィットのフロントマスクは柴犬がコンセプトなのだそうだが、クロスターはグリルのせいでかわいらしさが消えてしまった。柴犬というより紀州犬といったところか。ただ、前に茨城県にある犬のテーマパークに「フィット ホーム」を持ち込んだ時、職員の方に「これは柴犬がモチーフなんですよ」と説明してもピンときていない様子だった。そもそも似ていないのかもしれない。
さすがにすべてを網羅するのは無理だし必要もないが、それでも今回の試乗車は取り上げるべきだろう。「クロスター」と名付けられたモデルで、SUV風味のスタイルが特徴になっている。ただし、悪路走破性能を高める機構が採用されているわけではないので、いわゆる“なんちゃってSUV”だ。しかも試乗車の駆動方式はFF。他モデルと明確に異なるのは最低地上高である。FF車では他のモデルより25mm高い。でも4WD車だと5mm差なので、微妙な違いだ。
エクステリアにはアウトドア感を高める演出が施されている。前後バンパーやグリル、ホイールアーチやサイドシルなどは、ブラックのパーツでタフなイメージに。ルーフレールは、クロスター専用のオプションだ。インテリアでは、シートとインパネのソフトパッドに水をはじく素材が使われている。あとはほかのタイプと変わらない。“街にもアウトドアにも似合う”とうたわれているとおり、あくまでSUV風なのだ。
フィットのフロントマスクは柴犬がコンセプトなのだそうだが、クロスターはグリルのせいでかわいらしさが消えてしまった。柴犬というより紀州犬といったところか。ただ、前に茨城県にある犬のテーマパークに「フィット ホーム」を持ち込んだ時、職員の方に「これは柴犬がモチーフなんですよ」と説明してもピンときていない様子だった。そもそも似ていないのかもしれない。
北欧家具のテイスト
乗り込んですぐに感じるのが、並外れた開放感である。見晴らしのよさをアピールするクルマは多いが、ちょっと次元が違う。あけっぴろげ感のレベルが尋常ではないのだ。極細Aピラーの効果はもちろん大きいが、それだけではない。ダッシュボードのつくりがシンプルで、上面のペロンとした平べったさがクリアな印象をもたらしている。無印良品的な引き算デザイン、あるいはIKEAのような北欧家具のテイストだ。2本スポークのステアリングホイールも、ミニマルな雰囲気を高めている。
新型フィットのコンセプトは“心地よさ”なのだという。ゴージャスを目指すことなく上質な空間をつくり出そうとしているのだろう。メーターパネルのシンプルなフォルムに既視感があると思ったら、昔乗っていた「ダフ44」と似ていることに気づいた。Aピラーの細さも共通で、どちらも軽みを感じさせる。まさか1960年代のミケロッティデザインから着想しているということはないだろうが、“心地よさ”を追求した結果が時を超えた類似を生み出したのかもしれない。
フィットに限らず、「N-WGN」や「ホンダe」にはホンダのデザインが方向性を変えつつあることが明確に表れている。先代フィットや「シビック」などとは異なる考え方を採用していることは、素人目にもわかりやすい。軽トールワゴンやミニバンのオラオラ顔が飽きられつつあると言われているのを察知し、早めに改革を進めているということなのか。好みはいろいろだが、選択の幅が広がるのはいいことだろう。
走りだしてみると、内外装のイメージは走行感覚にもつながっていることを理解した。最初のタイヤの転がりから、軽さと柔らかさを感じる。発進に力強さはないが、それがナチュラルさをもたらしている。わざとらしさや嫌みがないのだ。
新型フィットのコンセプトは“心地よさ”なのだという。ゴージャスを目指すことなく上質な空間をつくり出そうとしているのだろう。メーターパネルのシンプルなフォルムに既視感があると思ったら、昔乗っていた「ダフ44」と似ていることに気づいた。Aピラーの細さも共通で、どちらも軽みを感じさせる。まさか1960年代のミケロッティデザインから着想しているということはないだろうが、“心地よさ”を追求した結果が時を超えた類似を生み出したのかもしれない。
フィットに限らず、「N-WGN」や「ホンダe」にはホンダのデザインが方向性を変えつつあることが明確に表れている。先代フィットや「シビック」などとは異なる考え方を採用していることは、素人目にもわかりやすい。軽トールワゴンやミニバンのオラオラ顔が飽きられつつあると言われているのを察知し、早めに改革を進めているということなのか。好みはいろいろだが、選択の幅が広がるのはいいことだろう。
走りだしてみると、内外装のイメージは走行感覚にもつながっていることを理解した。最初のタイヤの転がりから、軽さと柔らかさを感じる。発進に力強さはないが、それがナチュラルさをもたらしている。わざとらしさや嫌みがないのだ。
運転支援システムは安全優先
自然な振る舞いは、街なかでも高速道路でも変わらない。やはり加速はほどほどだが、スピードが乗ってくれば朗らかな走りをみせる。一方で、無理やり急加速をしようとしても、発電を担うエンジンの音が高まるだけで、たいしたことは起きない。
しばらくアダプティブクルーズコントロール(ACC)にまかせて走行していたら、渋滞に出くわした。全車速対応だからそのまま問題なく作動しているが、完全に停止してしまうとボタンを押すかペダルを踏むかしないと再び走りだすことはできない。
新型フィットでは、安全運転支援システムの「ホンダセンシング」は全車標準装備なので、以前のようにグレード名にいちいち“Honda SENSING”と明記するのはやめたようだ。センサーをワイドビューカメラに変更したことが注目されているが、ACCの作動状況でそのことを意識することはない。ちょっと驚いたのは、試乗車を受け取って編集部の機械式駐車場から出ようとした時だ。いきなりアラートが鳴り、衝突軽減ブレーキが作動したのである。どうやら、出口を挟む左右の壁を障害物と認識して、誤発進抑制機能が働いたらしい。
高速道路以外ではACCは解除するが、何度か「ハンドル操作アシストアラート」が出たことがあった。車線を守っているかどうか、クルマは常に監視しているようだ。車線がないところで逸脱警報が鳴らされたこともあった。安全優先で、万が一の危険も避けるような設定になっているのだろう。前後のソナーも敏感で、駐車時には他車や壁にそれほど接近していなくてもよくブザーが鳴った。
新しく採用されたハイブリッドシステムのe:HEVはモーターのみでの走行が基本になっていて、少しでも下っている道では100m/hでもEV走行が続く。山道の上りでは電力消費量が多くなるためメーターに表示される残量が目盛り3つほどになってしまうが、3kmも下りが続けばフルまで回復した。
しばらくアダプティブクルーズコントロール(ACC)にまかせて走行していたら、渋滞に出くわした。全車速対応だからそのまま問題なく作動しているが、完全に停止してしまうとボタンを押すかペダルを踏むかしないと再び走りだすことはできない。
新型フィットでは、安全運転支援システムの「ホンダセンシング」は全車標準装備なので、以前のようにグレード名にいちいち“Honda SENSING”と明記するのはやめたようだ。センサーをワイドビューカメラに変更したことが注目されているが、ACCの作動状況でそのことを意識することはない。ちょっと驚いたのは、試乗車を受け取って編集部の機械式駐車場から出ようとした時だ。いきなりアラートが鳴り、衝突軽減ブレーキが作動したのである。どうやら、出口を挟む左右の壁を障害物と認識して、誤発進抑制機能が働いたらしい。
高速道路以外ではACCは解除するが、何度か「ハンドル操作アシストアラート」が出たことがあった。車線を守っているかどうか、クルマは常に監視しているようだ。車線がないところで逸脱警報が鳴らされたこともあった。安全優先で、万が一の危険も避けるような設定になっているのだろう。前後のソナーも敏感で、駐車時には他車や壁にそれほど接近していなくてもよくブザーが鳴った。
新しく採用されたハイブリッドシステムのe:HEVはモーターのみでの走行が基本になっていて、少しでも下っている道では100m/hでもEV走行が続く。山道の上りでは電力消費量が多くなるためメーターに表示される残量が目盛り3つほどになってしまうが、3kmも下りが続けばフルまで回復した。
軽やかさを楽しむ
“心地よさ”を追求したコンパクトカーなのだから、ワインディングロードでの活発な走りを期待するのはないものねだりだ。実際、中高速コーナーが主体の箱根ターンパイクのような道では、走っていてあまり楽しくはない。スポーツ走行とは無縁の穏やかなファミリーカーなのだ。タイトなコーナーでは、特に急加速しなくてもステアリングを切りすぎるとすぐにタイヤが鳴いた。限界は高くなさそうだが、普通に乗っていれば安心して思ったようにコーナリングできる。
山の中でも、アップダウンが少なくて緩やかなコーナーが続く道に入ると、印象が一変した。適度なスピードで右へ左へステアリングを切っていると、軽やかにドライバーの意思に応じてくれる感覚が心地よい。リラックスして乗ることを想定しているクルマなのだ。
ただし、乗り心地に関しては満点ではない。路面の状態が悪いことを、忠実に乗員に伝えてくる。コツンッという衝撃がきた後に、揺れが追いかけてくる感覚もあった。前に乗ったホームは、もう少しクリアな走りだったように覚えている。地上高25mmの差だが、乗り心地には影響があるのかもしれない。
フィットは2001年にデビューして大ヒットし、翌年には「トヨタ・カローラ」が33年間守ってきた登録車年間販売台数トップの座を奪った。今や日本のコンパクトカーを代表する存在だ。一方で、このジャンルにはライバルが多く、走行性能や実用性、燃費や価格などでシビアに競い合ってきた。
今度のフィットは、数字的な要素ではなく“心地よさ”というワードでアピールしているところに新しさがある。だから、わかりやすいインパクトはない。それでも好調な売れ行きを示しているのは、市場が健全な成熟を見せていることを物語っているように思う。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
山の中でも、アップダウンが少なくて緩やかなコーナーが続く道に入ると、印象が一変した。適度なスピードで右へ左へステアリングを切っていると、軽やかにドライバーの意思に応じてくれる感覚が心地よい。リラックスして乗ることを想定しているクルマなのだ。
ただし、乗り心地に関しては満点ではない。路面の状態が悪いことを、忠実に乗員に伝えてくる。コツンッという衝撃がきた後に、揺れが追いかけてくる感覚もあった。前に乗ったホームは、もう少しクリアな走りだったように覚えている。地上高25mmの差だが、乗り心地には影響があるのかもしれない。
フィットは2001年にデビューして大ヒットし、翌年には「トヨタ・カローラ」が33年間守ってきた登録車年間販売台数トップの座を奪った。今や日本のコンパクトカーを代表する存在だ。一方で、このジャンルにはライバルが多く、走行性能や実用性、燃費や価格などでシビアに競い合ってきた。
今度のフィットは、数字的な要素ではなく“心地よさ”というワードでアピールしているところに新しさがある。だから、わかりやすいインパクトはない。それでも好調な売れ行きを示しているのは、市場が健全な成熟を見せていることを物語っているように思う。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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