【試乗記】トヨタGRヤリス プロトタイプ

トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”プロトタイプ(4WD/6MT)/GRヤリスRZプロトタイプ(4WD/6MT)/GRヤリスRSプロトタイプ(FF/CVT)
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”プロトタイプ(4WD/6MT)/GRヤリスRZプロトタイプ(4WD/6MT)/GRヤリスRSプロトタイプ(FF/CVT)

モータースポーツが匂い立つ

世界ラリー選手権(WRC)への投入を念頭に、トヨタが開発した「GRヤリス」。公道デビューを間近に控えたそのカタログモデル3グレードに、富士のクローズドコースで試乗。トヨタ久々のコンパクトスポーツは、モータースポーツ直系マシンならではの“本気度”と、操る楽しさを併せ持つ一台に仕上がっていた。

エンジニアの苦労がしのばれる

「GRヤリス」のカタログモデルは、2020年9月ごろに発売される予定。「RS」「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」、そして競技用ベース車である「RC」の、4つのモデルが用意される。
「GRヤリス」のカタログモデルは、2020年9月ごろに発売される予定。「RS」「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」、そして競技用ベース車である「RC」の、4つのモデルが用意される。
最上級モデルに相当する「RZ“ハイパフォーマンス”」のインテリア。同車には上級オーディオの「8スピーカー(JBLサウンドシステム)+アクティブノイズコントロール」が標準装備される。
最上級モデルに相当する「RZ“ハイパフォーマンス”」のインテリア。同車には上級オーディオの「8スピーカー(JBLサウンドシステム)+アクティブノイズコントロール」が標準装備される。
「RZ“ハイパフォーマンス”」に装備される、ウルトラスエードと合成皮革を用いたプレミアムスポーツシート。
「RZ“ハイパフォーマンス”」に装備される、ウルトラスエードと合成皮革を用いたプレミアムスポーツシート。
標準車の「ヤリス」とは設計が大きく異なる「GRヤリス」。生産は愛知県・元町工場内の「GRファクトリー」で行われる。
標準車の「ヤリス」とは設計が大きく異なる「GRヤリス」。生産は愛知県・元町工場内の「GRファクトリー」で行われる。
2020年1月の東京オートサロンで発表されたGRヤリス。その企画の出発点は、トヨタがWRCへの再参戦を発表した2015年にさかのぼるという。

その最大のテーマはレースに勝つことであり、そのホモロゲーション内で最善の車両を用意することだ。ベースとなるBセグメントカー、すなわち「ヤリス」の遠くない先に迎えるフルモデルチェンジに歩を合わせて、GAZOO Racingの開発陣はWRC参戦を全面サポートするトミ・マキネンレーシングの協力のもと、レース車両化にあたっての要件をピックアップ。それをヤリスの開発とも協調させてきた。

一方で、GRヤリスはれっきとしたトヨタのプロダクションカーであり、ビジネスを度外視するような形態は許されないという側面もある。そこで品質や価格を一定水準に乗せるために、多品種少量生産を実現する「GRファクトリー」を愛知の元町工場内に敷設。コンベヤーレスのラインでは、複数の生産セルを無人搬送車や手押し車でつないで、生産性とつくり込みの精度や緻密度を両立させた。オリジナルシェイプのホワイトボディーも含め、GRヤリスはヤリスの工場を流れることなく全量このラインで生産される。

トヨタのあまたの工場にあって元町は、GRだけでなくレクサスも「LC」用の少量生産ラインを配しており、品質と効率の両立を多様なアプローチで追求する、そのマザー工場の役割を果たしつつある。それに並行して、つくり手の方々の特別な技能育成とその継承の場としても機能しているわけだ。逆に言えばそういう大義名分があったからこそGRヤリスは成立したわけで、生産関連のエンジニアの苦労も相当なものだっただろう。

「GRヤリス」のカタログモデルは、2020年9月ごろに発売される予定。「RS」「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」、そして競技用ベース車である「RC」の、4つのモデルが用意される。
「GRヤリス」のカタログモデルは、2020年9月ごろに発売される予定。「RS」「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」、そして競技用ベース車である「RC」の、4つのモデルが用意される。
最上級モデルに相当する「RZ“ハイパフォーマンス”」のインテリア。同車には上級オーディオの「8スピーカー(JBLサウンドシステム)+アクティブノイズコントロール」が標準装備される。
最上級モデルに相当する「RZ“ハイパフォーマンス”」のインテリア。同車には上級オーディオの「8スピーカー(JBLサウンドシステム)+アクティブノイズコントロール」が標準装備される。
「RZ“ハイパフォーマンス”」に装備される、ウルトラスエードと合成皮革を用いたプレミアムスポーツシート。
「RZ“ハイパフォーマンス”」に装備される、ウルトラスエードと合成皮革を用いたプレミアムスポーツシート。
標準車の「ヤリス」とは設計が大きく異なる「GRヤリス」。生産は愛知県・元町工場内の「GRファクトリー」で行われる。
標準車の「ヤリス」とは設計が大きく異なる「GRヤリス」。生産は愛知県・元町工場内の「GRファクトリー」で行われる。

開発のモットーは「小さく軽くシンプルに」

「GRヤリス」のドライブトレイン。「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」「RC」には、アクティブトルクスプリット式の4WDシステム「GR-FOUR」が採用される。
「GRヤリス」のドライブトレイン。「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」「RC」には、アクティブトルクスプリット式の4WDシステム「GR-FOUR」が採用される。
後軸への駆動力伝達を担う、電子制御多板クラッチ。トヨタがスポーツカー向けの4WDシステムを開発したのは、実に20年ぶりのこととなる。
後軸への駆動力伝達を担う、電子制御多板クラッチ。トヨタがスポーツカー向けの4WDシステムを開発したのは、実に20年ぶりのこととなる。
リアサスペンションは、標準車の「ヤリス」とはまったく異なるダブルウイッシュボーン式。「RZ“ハイパフォーマンス”」では、前後軸の両方にトルセンLSDが装備される。
リアサスペンションは、標準車の「ヤリス」とはまったく異なるダブルウイッシュボーン式。「RZ“ハイパフォーマンス”」では、前後軸の両方にトルセンLSDが装備される。
最高出力272PS、最大トルク370N・mを発生する1.6リッター直3直噴ターボエンジン。高出力に耐える精緻で高強度なつくりに加え、軽量コンパクトな設計も特徴となっている。
最高出力272PS、最大トルク370N・mを発生する1.6リッター直3直噴ターボエンジン。高出力に耐える精緻で高強度なつくりに加え、軽量コンパクトな設計も特徴となっている。
「RS」のエンジンは、標準車の「ヤリス」のMT仕様と同じ自然吸気の1.5リッター直3 DOHC。最高出力120PS、最大トルク145N・mを発生する。
「RS」のエンジンは、標準車の「ヤリス」のMT仕様と同じ自然吸気の1.5リッター直3 DOHC。最高出力120PS、最大トルク145N・mを発生する。
GRヤリスのラインナップは、主に「RZ」と「RC」「RS」の3つで構成される。うち、RSはRZ系と同じエクステリアながら搭載されるエンジンは自然吸気の1.5リッター3気筒、つまり「ダイナミックフォース」のM15A-FKSとなり、120PSのアウトプットを10段の“疑似段”を設けたダイレクトシフトCVTを介して操るFFとなる。このパフォーマンスに合わせてサスセットやブレーキなども専用にキャリブレーションしたものになるが、タイヤサイズはRZと同様の18インチとなっている。

RZは新たに起こされたメカニズムが満載だ。1.6リッター3気筒ターボはG16E-GTSと銘打った専用設計となり、ボア×ストロークは限りなくスクエアに近い、燃料供給は直噴とポート噴射を併用。カムシャフトには高回転化に強い高精度の組み立て式を、シングルスクロールのタービンはボールベアリング式を採用と、高性能化へのアプローチは至極シンプルなところからもその本気度がうかがえる。骨格レベルからの小型軽量化を徹底した一方で、ターボをして10.5という高圧縮比から推するに各部の強度は十分に保たれているはずだ。現状でも最高出力は272PS、最大トルクは370N・mと、従来の2リッターターボ級のスペックを有しているが、さらなるパワーアップのためのマージンは残されていると思われる。

アイシンやジェイテクト、アドヴィックスなどトヨタ系サプライヤーが主要パーツの供給元に名を連ねるドライブトレイン&シャシーまわり。とりわけ特徴的なのは「GR−FOUR」と銘打たれた新しい四駆システムだろう。基本骨格は多板クラッチを電子制御するコンベンショナルなオンデマンド式だが、駆動配分の自在性が高い方式でありながら、ユニークなのはそのパターンを3つに限定していることだ。ダイヤル型のセレクターで選択できるそれは、「ノーマル」が前軸:後軸=60:40、「スポーツ」が30:70、「トラック」が50:50に設定されている。その値が示す狙いは、スポーツが後軸側を積極的に使いオーバーステアを引き出すこと、トラックはガチでタイムを削り取ることを目指したということだ。

このようなセットを採った背景には、開発に参加したレーシングドライバーたちからの「駆動特性をリジッド化した方が予期せぬ挙動に構える必要がなく結果的に運転しやすい」という助言があったという。ブレーキやデフを電子制御化することで左右輪の差動を引き出す、今日びポピュラーなトルクベクタリングをあえて採用しなかった理由もそこにある。とにかく小さく軽くシンプルにというポリシーはここでも貫かれている。

「GRヤリス」のドライブトレイン。「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」「RC」には、アクティブトルクスプリット式の4WDシステム「GR-FOUR」が採用される。
「GRヤリス」のドライブトレイン。「RZ」「RZ“ハイパフォーマンス”」「RC」には、アクティブトルクスプリット式の4WDシステム「GR-FOUR」が採用される。
後軸への駆動力伝達を担う、電子制御多板クラッチ。トヨタがスポーツカー向けの4WDシステムを開発したのは、実に20年ぶりのこととなる。
後軸への駆動力伝達を担う、電子制御多板クラッチ。トヨタがスポーツカー向けの4WDシステムを開発したのは、実に20年ぶりのこととなる。
リアサスペンションは、標準車の「ヤリス」とはまったく異なるダブルウイッシュボーン式。「RZ“ハイパフォーマンス”」では、前後軸の両方にトルセンLSDが装備される。
リアサスペンションは、標準車の「ヤリス」とはまったく異なるダブルウイッシュボーン式。「RZ“ハイパフォーマンス”」では、前後軸の両方にトルセンLSDが装備される。
最高出力272PS、最大トルク370N・mを発生する1.6リッター直3直噴ターボエンジン。高出力に耐える精緻で高強度なつくりに加え、軽量コンパクトな設計も特徴となっている。
最高出力272PS、最大トルク370N・mを発生する1.6リッター直3直噴ターボエンジン。高出力に耐える精緻で高強度なつくりに加え、軽量コンパクトな設計も特徴となっている。
「RS」のエンジンは、標準車の「ヤリス」のMT仕様と同じ自然吸気の1.5リッター直3 DOHC。最高出力120PS、最大トルク145N・mを発生する。
「RS」のエンジンは、標準車の「ヤリス」のMT仕様と同じ自然吸気の1.5リッター直3 DOHC。最高出力120PS、最大トルク145N・mを発生する。

モータースポーツをより身近にするために

「RZ“ハイパフォーマンス”」のBBS製鍛造アルミホイール。RZ系のグレードはブレーキも強化されており、前が18インチアルミ対向4ポットキャリパーとスリット入りスパイラルフィン式ベンチレーテッド2ピースディスク、後ろが16インチアルミ対向2ポットキャリパーとスリット入りベンチレーテッドディスクの組み合わせとなる。
「RZ“ハイパフォーマンス”」のBBS製鍛造アルミホイール。RZ系のグレードはブレーキも強化されており、前が18インチアルミ対向4ポットキャリパーとスリット入りスパイラルフィン式ベンチレーテッド2ピースディスク、後ろが16インチアルミ対向2ポットキャリパーとスリット入りベンチレーテッドディスクの組み合わせとなる。
競技での使用および改造を想定した、簡素な仕様の「RC」。簡素とはいえアルミホイールやフォグランプを採用するなど、意外や装備は充実している。
競技での使用および改造を想定した、簡素な仕様の「RC」。簡素とはいえアルミホイールやフォグランプを採用するなど、意外や装備は充実している。
「RC」にはオーディオの設定はなく、エアコンもオプション扱い。シフトノブやサイドブレーキのグリップはウレタン製だが、ステアリングホイールは革巻きである。
「RC」にはオーディオの設定はなく、エアコンもオプション扱い。シフトノブやサイドブレーキのグリップはウレタン製だが、ステアリングホイールは革巻きである。
RZにはベーシックと“ハイパフォーマンス”、2つの仕様が用意される。運動性能面での差異は、“ハイパフォーマンス”では前後軸にトルセンLSDが組み込まれ、タイヤ&ホイールにBBS鍛造+「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」が装着され、それに合わせてサスチューニングも変更されている点にあるという。内外装面ではグリルやディフューザーなどのブラックパーツがグロスフィニッシュとなり、ブレーキキャリパーが赤塗装されるほか、ベルトハーネスを通せるプレミアムスポーツシートを採用するなどの差別化が図られる。

RCは競技車両のベースを想定したグレードで、ボディーまわりの遮音装備を省いたほか、ダート競技などで用いられる15インチホイールに合わせたディスク径のブレーキシステムの採用、エアコンレス&オーディオレス化などでベーシックなRZと比較して30kgの軽量化が図られる。エンジンやドライブトレイン、サス等は同等。ちなみにエアコンはオプションで装着が可能とのことだ。なおボルトオンロールケージやアンダーガード類、前後機械式LSDなど、用意される機能パーツは販売網となる「GRガレージ」で購入・装着が可能。クラスにもよるが、ユーザーの競技参戦を前後の整備でもサポートできるようサービスを用意するなど、モータースポーツのハードルを下げようという配慮もうかがえる。

試乗は主として富士スピードウェイのショートサーキットで行われた。まず振り当てられたのはRZの2モデルだ。

「RZ“ハイパフォーマンス”」のBBS製鍛造アルミホイール。RZ系のグレードはブレーキも強化されており、前が18インチアルミ対向4ポットキャリパーとスリット入りスパイラルフィン式ベンチレーテッド2ピースディスク、後ろが16インチアルミ対向2ポットキャリパーとスリット入りベンチレーテッドディスクの組み合わせとなる。
「RZ“ハイパフォーマンス”」のBBS製鍛造アルミホイール。RZ系のグレードはブレーキも強化されており、前が18インチアルミ対向4ポットキャリパーとスリット入りスパイラルフィン式ベンチレーテッド2ピースディスク、後ろが16インチアルミ対向2ポットキャリパーとスリット入りベンチレーテッドディスクの組み合わせとなる。
競技での使用および改造を想定した、簡素な仕様の「RC」。簡素とはいえアルミホイールやフォグランプを採用するなど、意外や装備は充実している。
競技での使用および改造を想定した、簡素な仕様の「RC」。簡素とはいえアルミホイールやフォグランプを採用するなど、意外や装備は充実している。
「RC」にはオーディオの設定はなく、エアコンもオプション扱い。シフトノブやサイドブレーキのグリップはウレタン製だが、ステアリングホイールは革巻きである。
「RC」にはオーディオの設定はなく、エアコンもオプション扱い。シフトノブやサイドブレーキのグリップはウレタン製だが、ステアリングホイールは革巻きである。

1.6リッターターボは出色の出来栄え

センターコンソールに配されたシフトノブと、ダイヤル式の4WDモード切り替えスイッチ。前後駆動力配分は「ノーマル」モードで6:4、「スポーツ」モードで3:7、「トラック」モードで5:5だ。
センターコンソールに配されたシフトノブと、ダイヤル式の4WDモード切り替えスイッチ。前後駆動力配分は「ノーマル」モードで6:4、「スポーツ」モードで3:7、「トラック」モードで5:5だ。
4WD車のVSCにはオン/オフに加え、「エキスパート」と呼ばれる専用モードを設定。4WDモードが「スポーツ」もしくは「トラック」の状態で、VSCオフのスイッチを長押しすると起動する。
4WD車のVSCにはオン/オフに加え、「エキスパート」と呼ばれる専用モードを設定。4WDモードが「スポーツ」もしくは「トラック」の状態で、VSCオフのスイッチを長押しすると起動する。
荷室の床下に搭載されるウオータータンク(写真右)。「RZ“ハイパフォーマンス”」のインタークーラーには、水を吹き付けて吸気温度を下げる冷却スプレー機能が装備されている。
荷室の床下に搭載されるウオータータンク(写真右)。「RZ“ハイパフォーマンス”」のインタークーラーには、水を吹き付けて吸気温度を下げる冷却スプレー機能が装備されている。
4WDシステム「GR-FOUR」には、コーナー手前でのブレーキング時にわずかにリアに駆動力を伝え、リアのコントロール性を高める制御が備わっている。4WDモードが「スポーツ」「トラック」の場合に作動する。
4WDシステム「GR-FOUR」には、コーナー手前でのブレーキング時にわずかにリアに駆動力を伝え、リアのコントロール性を高める制御が備わっている。4WDモードが「スポーツ」「トラック」の場合に作動する。
クラッチのつながり感はクセがなくスムーズ。シフトも節度感に渋さはなく適度なストロークで作動するなど、インターフェイスに特段の不満はない。意外だったのはアイドリング+αのごく低回転域からトルクがきっちり立ち上がっていることで、そのスペックから想像していた扱いにくさとはまったく無縁だったことだ。もちろん1280kgという車重も効いてはいるだろうが、これなら普段遣いでも頻繁にギアチェンジを強いられることはないはず。最大トルクの発生回転域はまだ公表されていないが、相応に戦闘的なチューニングが施されていることを鑑みれば、異例にフレキシブルなエンジンだと思う。

そこから中高回転域に至るまで、パワーの盛り上がりに谷らしきものは一切ない。3気筒の振動はバランサーがきれいに相殺し、7000rpmのレッドゾーンに至る過程ではバラつくどころか芯を食ったような精度感さえ覚える。高回転域のサウンドは3気筒っぽいというよりは、不等長エキマニを使っていた時代のスバルの水平対向エンジンを思い出すような、独特の音色を響かせる。パワー自体は7000rpm付近までしっかり伸び感があり、直噴ターボユニットにありがちな高回転域の頭打ちは感じられない。どころか、「さらに回せるようにもできそう」という余力も感じさせる上々のフィーリングだ。

ハンドリングについてはベーシックと“ハイパフォーマンス”の間で相応の違いがあるが、その大半はLSDによる効果だろう。それを持つ“ハイパフォーマンス”は当然ながらタイトターンをキビキビと曲がり、切り返しの連続でもアクセルオンでも積極的に向きを変える。対すればオープンデフのベーシックは四駆のセオリー通りにアンダー傾向がやや強く表れるが、そのぶんスポーツやトラックといった駆動モードの効果もわかりやすく感じられる。いずれにせよ車格や車重から想像する通りの軽快感を備えつつも安定性は抜群で、特にリアサスのどしっとした踏ん張り具合は競技レベルの走りでも大きな安心材料となるはずだ。

センターコンソールに配されたシフトノブと、ダイヤル式の4WDモード切り替えスイッチ。前後駆動力配分は「ノーマル」モードで6:4、「スポーツ」モードで3:7、「トラック」モードで5:5だ。
センターコンソールに配されたシフトノブと、ダイヤル式の4WDモード切り替えスイッチ。前後駆動力配分は「ノーマル」モードで6:4、「スポーツ」モードで3:7、「トラック」モードで5:5だ。
4WD車のVSCにはオン/オフに加え、「エキスパート」と呼ばれる専用モードを設定。4WDモードが「スポーツ」もしくは「トラック」の状態で、VSCオフのスイッチを長押しすると起動する。
4WD車のVSCにはオン/オフに加え、「エキスパート」と呼ばれる専用モードを設定。4WDモードが「スポーツ」もしくは「トラック」の状態で、VSCオフのスイッチを長押しすると起動する。
荷室の床下に搭載されるウオータータンク(写真右)。「RZ“ハイパフォーマンス”」のインタークーラーには、水を吹き付けて吸気温度を下げる冷却スプレー機能が装備されている。
荷室の床下に搭載されるウオータータンク(写真右)。「RZ“ハイパフォーマンス”」のインタークーラーには、水を吹き付けて吸気温度を下げる冷却スプレー機能が装備されている。
4WDシステム「GR-FOUR」には、コーナー手前でのブレーキング時にわずかにリアに駆動力を伝え、リアのコントロール性を高める制御が備わっている。4WDモードが「スポーツ」「トラック」の場合に作動する。
4WDシステム「GR-FOUR」には、コーナー手前でのブレーキング時にわずかにリアに駆動力を伝え、リアのコントロール性を高める制御が備わっている。4WDモードが「スポーツ」「トラック」の場合に作動する。

「RS」は“カッコだけ”のクルマではない

エントリーモデルの「RS」も、4WDモデルより大幅に軽い車重によってスポーティーな走りを披露。コーナーではスロットル操作で向きが変えられる。
エントリーモデルの「RS」も、4WDモデルより大幅に軽い車重によってスポーティーな走りを披露。コーナーではスロットル操作で向きが変えられる。
「RS」のトランスミッションには、10段の疑似ステップ変速機構付きCVTを採用。CVTでありながら、スポーツ走行でも有効に使えるほどにダイレクトな特性を備えている。
「RS」のトランスミッションには、10段の疑似ステップ変速機構付きCVTを採用。CVTでありながら、スポーツ走行でも有効に使えるほどにダイレクトな特性を備えている。
グラベルでの試乗車には、これから発売される予定の等速トランスファー、強化クラッチ、機械式LSD、エンジンガード、ロールバー、現在開発中のラリー車用サスペンションが装備されていた。
グラベルでの試乗車には、これから発売される予定の等速トランスファー、強化クラッチ、機械式LSD、エンジンガード、ロールバー、現在開発中のラリー車用サスペンションが装備されていた。
本格的な競技用パーツもラインナップされる予定の「GRヤリス」。モータースポーツへのハードルを下げたいというトヨタの意思が、随所に感じられるモデルとなっていた。
本格的な競技用パーツもラインナップされる予定の「GRヤリス」。モータースポーツへのハードルを下げたいというトヨタの意思が、随所に感じられるモデルとなっていた。
意外だったのは、「なんちゃってコスメグレード」と見られがちなRSが、意外なスポーティネスを感じさせてくれたことだ。搭載されるCVTは“疑似段”も加減速に有用に使えるなど、望外にダイレクトな駆動伝達力を備えており、120PSのパワーを大胆にも繊細にも路面に伝えてくれる。そこに見た目通りの好戦的なディメンションと、RZに対して150kg軽量という優位が加わるわけで、FFをしてスロットル操作だけでも向きを思うがままに変えてくれるといった仕上がりになっている。トヨタはスポーツCVTを搭載した「ヴィッツ」で全日本ラリー参戦を続けているが、そのフィードバックがあったことも想像に難くない。

試乗のトリに走ったのは、駆動配分による挙動変化がより明確に感じられるグラベル路だ。市販予定のダートラ(ダートトライアル)向けパーツを組み込んだRZで走るそれは、GRヤリスがアクセル操作ひとつでいかようにも“曲がり”のゲインやキャラクターを引き出せること、この素性を完璧に生かし切るために、どこからでもレスポンスする素直なエンジン特性が追求されたことを実感させてくれた。

このGRヤリスをベースとしたWRC車両は、レギュレーション改変の雲行きに加えてコロナ禍での開発ストップといった不運もあり、2021年シーズンでは見ることができないことが決まっている。が、既に日本レベルではラリーやダートラだけでなくスーパー耐久などにもフィールドを広げ、おのおのの現場で進化の可能性を模索し始めている。久しぶりにモータースポーツと直結した素材能力を持つクルマでありながら、一方でクルマを趣味とする好事家のお眼鏡にもかなう内容を備えたものとなっているのは何よりの朗報だ。もうトヨタは運動音痴とは言わせない。中身の内製率をみるにつけ、そういう気概さえ感じられる。

(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

エントリーモデルの「RS」も、4WDモデルより大幅に軽い車重によってスポーティーな走りを披露。コーナーではスロットル操作で向きが変えられる。
エントリーモデルの「RS」も、4WDモデルより大幅に軽い車重によってスポーティーな走りを披露。コーナーではスロットル操作で向きが変えられる。
「RS」のトランスミッションには、10段の疑似ステップ変速機構付きCVTを採用。CVTでありながら、スポーツ走行でも有効に使えるほどにダイレクトな特性を備えている。
「RS」のトランスミッションには、10段の疑似ステップ変速機構付きCVTを採用。CVTでありながら、スポーツ走行でも有効に使えるほどにダイレクトな特性を備えている。
グラベルでの試乗車には、これから発売される予定の等速トランスファー、強化クラッチ、機械式LSD、エンジンガード、ロールバー、現在開発中のラリー車用サスペンションが装備されていた。
グラベルでの試乗車には、これから発売される予定の等速トランスファー、強化クラッチ、機械式LSD、エンジンガード、ロールバー、現在開発中のラリー車用サスペンションが装備されていた。
本格的な競技用パーツもラインナップされる予定の「GRヤリス」。モータースポーツへのハードルを下げたいというトヨタの意思が、随所に感じられるモデルとなっていた。
本格的な競技用パーツもラインナップされる予定の「GRヤリス」。モータースポーツへのハードルを下げたいというトヨタの意思が、随所に感じられるモデルとなっていた。

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