【試乗記】アウディe-tronスポーツバック55クワトロ ファーストエディション(4WD)

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    アウディe-tronスポーツバック55クワトロ ファーストエディション(4WD)

洗練のコクとうま味

日本初登場となるアウディの電気自動車(EV)「e-tron(イートロン)スポーツバック」に試乗。システム最高出力408PSの電動パワーユニットと、前後モーターによる電動4WDとなった「クワトロ」が織りなす走りの印象を報告する。

新生e-tron登場

このところ、SUVと電動化の話題で盛り上がりをみせる日本の輸入車市場に、待望のニューモデルが登場した。アウディが満を持して投入したSUVクーペスタイルのピュアEV「e-tronスポーツバック」である。

アウディ ジャパンがピュアEVの「e-tronシリーズ」を日本に導入するのはこれが初めて。「でも、以前『A3スポーツバックe-tron』っていうクルマがあったよね?」という人は、なかなかのアウディ通(ツウ)で、確かに2015年10月から販売を行っていた。ただ、あの時代は電気で走れるクルマはすべて「e-tron」と呼ばれ、プラグインハイブリッド車のA3スポーツバックe-tronもひとくくりにされていた。

しかし、2018年9月に量産タイプのピュアEV「アウディe-tron」が登場したのを機に、アウディではピュアEVだけをe-tronと呼ぶようになり、プラグインハイブリッドには「TFSI e」という別の名前が与えられたのだ。

今回日本に導入されたe-tronスポーツバックは、SUVスタイルのe-tronに次ぐ、シリーズの第2弾。生産などの関係から日本ではe-tronスポーツバックが先行して販売され、遅れてe-tronが登場する予定だという。いずれにせよ、ピュアEVという意味の“新生e-tron”が、ようやく日本でも走りだしたのである。

アウディが独自に開発したEV

e-tronやこのe-tronスポーツバックは、「アウディQ8」などに用いられる「MLB evo」プラットフォームをもとにつくられている。サスペンションなどの主要パーツをQ8と共用する一方、ホイールベース間のフロア部分に駆動用バッテリーを配置したり、前後アクスルにそれぞれ1基の電気モーターを搭載するなどして、アウディ独自のピュアEVをつくり上げた。

今回試乗する「e-tronスポーツバック55クワトロ ファーストエディション」は、2基の電気モーターを合わせたシステム最高出力が408PS(300kW)、システム最大トルクは664N・m(67.7kgf・m)で、前後の電気モーターの出力をコントロールすることでクワトロ、すなわち、4WDを成立させている。駆動用バッテリーの容量は95kWhで、WLTCモードでの航続距離は405kmに達するというから、なんとも頼もしい。

頼もしいといえば、e-tronスポーツバックの外観も、全長×全幅×全高=4900×1935×1615mmのたっぷりしたボディーサイズのおかげで、とても力強い印象だ。

ただ、実車を見て予想と違っていたのは、あまりSUVらしくないところ。「Qシリーズ」と呼ばれるアウディのSUV同様、八角形のシングルフレームグリルを採用するe-tronスポーツバックだが、SUVクーペというよりも、「アウディA7スポーツバック」のような4ドアクーペに近く、SUVっぽさが感じられなかったというのが私の第一印象である。

エクステリアで気になるのが、小型カメラを用いた「バーチャルエクステリアミラー」。空気抵抗が少なそうな細身のデザインだが、折りたたみが手動というのが難点……と思っていたら、バーチャルエクステリアミラーを格納しない状態の車幅は2043mmで、これは、ドアミラー仕様でミラーを格納した場合の2071mmよりも狭いそうだ。

すべてが磨き上げられている

早速運転席に座ると、最新のアウディの上級モデルらしい眺めが目に入る。例えば、センタークラスターに上下2つのタッチパネルを備えた「MMIタッチレスポンス」や、フルデジタルメーターの「アウディバーチャルコックピット」である。

一方、目新しいのが前述のバーチャルエクステリアミラーで、Aピラーの付け根にあたるフロントドア上部に、7インチのOLEDタッチパネルが備わっている。タッチ操作で画角の調整が可能で、想像以上にクリアな画像に驚く。走行中はついバーチャルエクステリアミラー本体を見てしまうことがあったが、慣れればこれまでのドアミラーより見やすいかもしれない。

もうひとつ、目新しいのがシフトスイッチ。センターコンソールには宙に浮いているように見えるハンドレストがあり、その横の水平プッシュ機構を使ってシフト操作をするのだ。これが手にしっくりとなじみ、親指で前に、人さし指で後ろにスライドさせる操作もしやすく、その際の感触も実に洗練されている。この手のシフト機構としてはベストといえる仕上がりだ。

まずはDレンジを選んでクルマをスタートさせる。e-tronスポーツバックの場合、オートマチック車のような“クリープ”はなく、動き出すにはアクセルペダルを操作する必要がある。そこで軽く踏んでやると、e-tronスポーツバックは、滑らかにかつ軽々と発進した。

想像以上にスポーティー

車検証を見ると、このクルマの車両重量は2560kgとあるが、動き出しの軽さは、低回転から強大なトルクを発生させられる電気モーターの成せるワザ。アクセルペダルを控えめに踏むだけで、素早くスピードを上げていくのが実に頼もしい。その際のパワートレインの滑らかさ、そして室内の静かさは、フラッグシップモデルの「アウディA8」を凌(しの)ぐもので、わずか100m走っただけでも、新しい時代のプレミアムを体感することができる。

高速道路を含めて、アクセルペダルをさほど深く踏み込まなくてもe-tronスポーツバックはストレスなく走る。メーターパネル左側のパワーメーターによれば、30%以下の領域でほぼ事足りてしまうのだ。

一方、首都高速の流入など、助走区間の短い場面では、アクセルペダルを大きく踏み込むことで、強力な加速が手に入る。その際、強大なトルクを4つのタイヤでしっかり受け止め、姿勢を乱すことなくスピードを上げていくのはクワトロの面目躍如で、安心して右足に力を込めることができる。Sレンジを選び、アクセルペダルを奥深く踏み込めば、“ブースト機能”が起動し、Dレンジに輪をかけて強く、伸びのある加速が味わえるが、そこまでしなくても、Dレンジで十分すぎる加速が楽しめる。

ブレーキは、電気モーターによる回生ブレーキと機械式ブレーキが協調して働き、急ブレーキになる場合以外は、ほぼ回生ブレーキでカバーするそうだ。ブレーキペダルを踏む感覚は実に自然で、違和感がないのがうれしいところ。車両設定により、アクセルペダルの操作だけで加速と減速をコントロールできる“ワンペダルドライブ”も可能。最終的に停止するまでの減速は行わないが、走行中はアクセルペダルだけでスピードコントロールができるので、慣れるとやめられない機能といえる。

走りのクオリティーは高い

スムーズで力強いパワートレインに加えて、乗り味の良さも、e-tronスポーツバックの魅力である。大容量のリチウムイオンバッテリーは、システム全体で約700kgという重量になるというが、これをホイールベース間の床下に配置することで低重心化を実現したことに加えて、エアサスペンションを標準装着としたe-tronスポーツバックは、速度を問わずマイルドで落ち着いた乗り心地とフラットライドを示す。見た目はSUVクーペのスタイルだが、SUVのような縦揺れや横揺れもうまく抑え込まれている。

この日は箱根の山道を走る機会もあったが、いざ走りだしてしまえばボディーサイズを感じさせない軽快さや、クルマとの一体感が味わえた。コーナリング時のアンダーステアは軽め。コーナーの後半でアクセルペダルを踏んでいくと、前輪が出口をめがけてクルマを引っ張り、狙いどおりにコーナーを抜けていく動きは、いつものクワトロの感覚であった。

慣れないバーチャルエクステリアミラーに比較的大きなボディーということで、狭い駐車場に入れる場面などでは気を使うこともあった。そのぶん、キャビンには余裕があり、また、クーペスタイルであっても後席のヘッドルーム、ニールームは十分なスペースが確保され、ラゲッジスペースも実用的な広さである。

ということで、短時間の試乗でも、e-tronスポーツバックが洗練された仕上がりであり、同時にスポーティーな走りを兼ね備えたアウディのプレミアムモデルであることが実感できた。1300万円を超える価格は“お手ごろ”とはいえないが、同クラスのハイパフォーマンスモデル「アウディS6」や「アウディS7スポーツバック」とほぼ同じ価格帯ということを考えると、それに代わる選択としては十分“あり”だと思った。

(文=生方 聡/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)

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